【ベンチャーシリーズ第9回】クロスカンパニーの地域貢献

開催日 2015年6月24日
スピーカー 石川 康晴 (株式会社クロスカンパニー代表取締役社長)
モデレータ 小島 英里子 (経済産業省経済産業政策局地域経済産業グループ立地環境整備課課長補佐)
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開催案内/講演概要

クロスカンパニーは、earth music&ecologyをはじめとした13のブランドでSPA事業を展開し、2013年度にグループ売上高1000億円を突破。中国への出店戦略や欧米進出ブランドを立ち上げるなどグローバル化を進めています。

その一方で、地域イベントの開催や文化事業などの地域貢献も積極的に展開しています。オカヤマアワードは開始後5年で、知事や県内すべての市町村首長が参加する大イベントとなりました。クロスカンパニーのような新規成長企業が地元の地域の中核企業、名士を巻き込んで、地域の若者を称えるアワードイベントを実施することで、地元財界と若者、起業家との新しい繋がりができています。このモデルはクロスカンパニーが実施する岡山だけでなく、メガネで革新を図るJINSが群馬アワードを実施するなど他の地域でも広がりつつあります。

今回のBBLセミナーでは、クロスカンパニーの石川社長を講師としてお迎えし、成長企業による地域活性化事業の新モデルとその全国への展開可能性についてディスカッションします。

議事録

第一章 地域貢献

石川 康晴写真クロスカンパニーは、創業してようやく20年を過ぎたアパレル企業です。駅ビルや百貨店、ショッピングモールなど、どこかの商業施設へ行けば、当社のブランドがあるという状況になっています。

スタートアップして5年間は倒産をにらみながら、岡山をはじめ西日本エリアでビジネスをしていました。そこを何とか切り抜けて、売上高1000億円を達成したクロスカンパニーが、地元・岡山で、どのように地域貢献していく考えであるかをお話ししたいと思います。

「一社一村運動」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは私が考えた言葉ですが、たとえば東証一部上場の優良企業一社が、過疎地域にある一村をサポートすれば、多額の地方交付金を受けなくても面白いことができると思うのです。

そこで、まずは当社がモデル企業になるべく、岡山にある人口900人の新庄村をサポートしています。ここでは高齢者が一生懸命有機栽培に取り組んでいましたが、せっかく作った野菜を道の駅で売っても、人がほとんど来ないため、月の売り上げはわずか1万円程度だったといいます。私たちは、こうした70歳前後の方々の所得を上げたいと思い、一社一村運動をやろうと決めました。

岡山は75%が中山間地域といわれています。この地域で、有機農法のもち米をはじめ、彼らの農産品を高値で買ってもらうため、地元のレストランと生産者を繋げるイベント(新庄村フェス)を開催しました。私たちは、岡山の高級レストランや料亭をテナントに迎えるために、一軒一軒口説いて回ったものです。

結果として、5000名の都会の人々が遊びに来て、たくさんの食事を楽しんで帰っていただきました。しかし、それが目的ではありません。農家の商材をレストランのオーナーが使って、「これはおいしい」と感じることで、その後もルーティンの食材として仕入れてもらえればいいと考えました。このイベントの後、一部のおばあちゃんたちの所得は、月5万円に上がったと聞いています。こうした活動は、今後も別の村に場所を移しながら、続けていきたいと思っています。

また、岡山では「エコクリーナーズ」という清掃活動をしています。この活動は、2007年に当社と駅ビルのスタッフなど70名規模で始めましたが、今では23支部、約2400名に広がりました。音頭をとったのがアパレル企業ということで、服飾系の学生やアパレル関連の社会人、市職員などが混ざってエコ活動に取り組んでいます。

その様子を地元の高齢者たちが見に来ると、ミニスカートをはいた若者たちが一生懸命ごみを拾っているわけです。そこで、自分たちもやろうということで、家の周辺のごみを集めるようになったといいます。岡山の市街地は、今ではごみが1つもないほどきれいな町になっています。

第二章 財団の取り組み

石川文化振興財団では、昨年11月2日~12月25日、IMAGINEERING オカヤマ アート プロジェクトを開催しました。私は、パトロンとして文化人を応援したいという思いで、4年ほど前から日本をはじめ世界中の現代アートを個人的に収集しています。そのコレクションを貸し出し、岡山城を含めた岡山中心部で現代アートのイベントを行ったのです。

このアートプロジェクトは、後楽館天神校舎跡地(廃校)や柳川ロータリービル(雑居ビル)なども会場となり、テレビをはじめ朝日新聞、産経新聞、山陽新聞といったメディアでも紹介されました。その効果によって全国から約12万名が岡山を訪れましたが、岡山経済研究所の推計によると、メディア露出の換算費は約3億円、経済効果は約17億円に上るということです。

こうしたイベントを実施するにあたって、岡山市からの補助金などはほとんどありませんでした。ただし、岡山城にアートを展示するにあたって、既存のルールを変更して応援してくれました。この12万人を集めた試みに岡山県も注目し、2016年10月には「岡山国際現代芸術祭(仮称)」(主催・協賛:岡山県、岡山市、石川文化振興財団、クロスカンパニー)を開催することが決定しています。

財団では2010年、岡山の経済や文化の向上を促し、岡山を活性化させていくことを目的に、49歳以下の起業家、文化人、研究者を対象としてOKAYAMA AWARD(オカヤマアワード)という表彰制度を創設しました。最近では、各首長や経済界のトップがオシャレをして集まるような表彰式になっています。

私の友人がトップを務める眼鏡店のJINS(ジンズ)を展開する会社は、本社がある群馬県で、群馬イノベーションアワードを始めました。OKAYAMA AWARDをきっかけに、各地域で若い人たちを顕彰するアワードが生み出され、その地域の大賞受賞者が集まってジャパンアワードができればいいと思っています。

こうした表彰制度では、よく賞金が授与されますが、私たちは賞金を出さないと決めており、OKAYAMA AWARD受賞者には、ビジネスサポートを実施しています。アワード塾の開催や取引先の紹介などを通し、ビジネスが回り出すところまで支援します。

事例として、脇木工の脇優太さん(2010年受賞)は、インテリアビジネスに方向性を変え、売上高は2010年の約1.3倍となりました。イールドインテリアプロダクツの渋谷竜司さん(2010年受賞)は、六本木ヒルズへの出店や中国のクライアントからの受注など、受賞後のサポートを経て、売上高は2010年の約2.8倍に伸びています。

総括

地方はソフトの時代を迎えています。もう、橋やビルなどは要らないと思うのです。行政の方はよく「町おこし」だと言いますが、私たちの答えは「ノー」です。町おこしではなく、「人おこし」をしたいと思っています。

どれだけ若い人たちを本気にさせるか。いろいろな人と関わらせてコミュニケーションを豊かにし、ビジネス機会を創出して彼らをクリエイティブにしていくかが、もっとも大事なことです。今後、クロスカンパニーも石川財団も、いろいろな角度で「人おこし」をやっていきたいと考えています。

当社は昨年、創業20周年を記念して、新聞などに「地元を忘れた企業に、あしたはないよ。 100年先まで、岡山カンパニー」という企業広告を掲載しました。売上高が1000億を超えても、本社は東京に移転していません。それは1兆円になっても変わりません。今後も、経済成長と地域貢献の両立を目指していきます。

質疑応答

Q:

なぜ、このような地域貢献をしようと思われたのでしょうか。動機を教えてください。

A:

スタートアップして5年間は、苦しい経営状況が続きました。その大変な時期に、穴が開いたTシャツや、シミのついた服を買ってくれるお客様が、岡山にはたくさんいたのです。その方々に恩を返したいという思いが、まず根っこにあります。

アートに関しては、岡山の先輩企業にベネッセがありますが、その2代目社長を務めた福武總一郎氏が、香川県直島で現代アートのイベントに取り組まれています。また、倉敷で創業したクラレの初代社長である大原孫三郎氏も、事業の利益をドネーションとして世界中の文化人に投資し、大原美術館を設立しました。このように、岡山にはパトロン的な文化が2代続いているわけです。

世界的にみても、数百億円もの資金を文化に投じるという行為が、1つの町で3代続く事例は、岡山以外にないと思います。その3代目を自らの使命と考えているわけですが、私たちが死ぬ前には、OKAYAMA AWARD受賞者を含めた岡山出身者が世界で活躍し、文化のパトロン4代目として継承してくれれば、素晴らしいクリエイティブシティができるという夢を持って取り組んでいます。

要するに、創業時にお世話になった方々を見捨てたくない。そして、岡山に2代続いたアートの文脈を3代目として継いでいきたいという思いでやっています。

Q:

社会貢献は上場企業にとって大事なテーマだと思う一方で、ROEなどコストとのバランスもあると思います。日本の企業には、まだベンチマークがない状況の中で、お考えをうかがいたいと思います。

A:

米国では、営業利益の5%を地域貢献・社会貢献に回すという「5%クラブ」が、一部の優良企業にありますが、そのほとんどは上場企業です。しかし日本で同じことをすれば、株主から袋叩きにあってしまうことでしょう。日本のケーススタディからいくと、純利益の1%程度が標準であり、その範囲でCSRを継続していくことが、株主の理解を得ながら企業価値を上げていけるラインだと思っています。財団の場合は、配当金を使い切ることがミッションになりますので、自由度はより高いといえます。

Q:

最近、日本でもメセナ活動が広がっていると感じることはありますか。また、地域をよく知った企業などが地域振興に携わるために、行政はどのような支援ができるでしょうか。

A:

まだ、メセナやドネーションのムードは感じられません。上場企業の4~6年といった任期の社長では、決まったCSR予算を消化するだけという流れです。たとえば三菱商事やサントリーの財団は、創業に近い人たちによってつくられたものですし、最近のIT系ベンチャーの上場企業がメセナに向かっているかというと、その意識は薄いようです。

当社がオピニオンとして取り組みながらメディアで発信し、1つのモデルケースにならなければ、というプレッシャーもあります。日本はドネーションの意識が低いので、文化人やこれから起業を志す学生などに、もっと企業がドネーションすべきですし、メセナのような文化振興がもっと活発になればいいと思います。

行政の役割として、たとえば岡山城でも市が許可しなければ使えない場所はたくさんあります。そういった許認可の緩和はすごく助かります。一方、マーケティングには、あまり口を出してほしくありません。行政は、あまりユーザーが見えていないと感じるためです。ですから、規制緩和は行政、マーケティングは民間と、役割を分けてハイブリッドで進めていくといいと思います。

Q:

メセナ活動や社会貢献の取り組みが企業のブランドイメージに好影響を与え、本業の収益向上につながることはありますか。

A:

今、メセナやドネーションをしたことで、数年後に商品が売れるとか、企業価値が上がるといった事象については、まだ学説もない状況です。ですから、もう思いだけでやるしかないといったところです。

これから20年間ほどのケーススタディを積み重ねることで、たとえばベネッセによる地域の「人おこし」やドネーションが企業価値の向上にどれだけ寄与したかについて、研究論文が発表される可能性はありますが、今のところ見当たりません。

Q:

多くの若者が地域貢献活動に参加するためには、どうすればよいでしょうか。

A:

とくに現代アートは、ごく一部の人にしか共感してもらえないため、市や国の予算を受けながら、いかに広く公平に進めていくかが財団の課題だと思っています。具体的には今、高校生や大学生を巻き込みながら、募金活動をしようと思っています。

その目的は、2016年に開催予定の岡山国際現代芸術祭(仮称)に向けて、ももちゃり(岡山市コミュニティサイクル)というレンタル自転車を追加購入するためです。小さな子どもたちから、アートにあまり共感していない大人たちまで、1円でも10円でも募金に協力してもらうことで、アートプロジェクトへの関心が高まればいいと考えています。

Q:

日本国内で、クラウドファンディングのような取り組みはお考えでしょうか。

A:

米国でピークを迎えているクラウドファンディングは、日本にとっても重要なことだと思っています。東日本大震災が発生した際、当社はまず100名を雇用支援として採用しました。さらに店舗に募金箱を設置し、お客様を巻き込んで集まったお金を原資として、仮設住宅の横に公民館を作って寄付しました。

現在、最後の東北プロジェクトが進行しており、それが、まさにクラウドファンディングです。その資金を、クラウドファンディングによって集める計画です。

Q:

そもそも、どういう経緯でアパレルの会社を立ち上げられたのでしょうか。クロスカンパニーは、IT業界を除くと、日本では稀にみる急成長を遂げた会社の1つだと思います。その急成長のポイントは、どのようなことでしょうか。

A:

創業しようと思った背景には、2つあります。まずは私自身、小学校6年生の頃から洋服好きだったのです。お年玉をもらった子どもは、ファミコンを買うか、少年漫画雑誌を買うかという時代でしたが、私はそのどちらにもまったく興味がなく、岡山の繁華街にブランドの洋服を買いに行ったものです。

中学2年生の冬のことでした。お年玉を持ってバーゲンに行ったところ、小6から通っていたので目立っていたのでしょう。アパレルの店員さんに「それほど洋服が好きだったら、洋服屋をやったらいい」と言われたのです。それを聞くと、私は「そうだ」とすっかりその気になり、いわゆる“中2病”がそのまま続いている感じです。

私がラッキーだったのは、中高生時代に職業の迷いがなかったことです。「将来、20代で洋服屋を経営するには、どういう勉強をすべきか」というテーマを中2で決められたことが大きかったと思います。

もう1つは、父親の存在が大きいと思います。岡山には世襲の文化が根強かったため、父親から「ナンバー2は駄目だ。ナンバー1になれ」と高校を卒業するまで言い続けられ、「これは社長をやらなければ」と考えるようになりました。つまり、私がアパレルの会社を立ち上げたのは、洋服が好きだったことと、親の“洗脳教育”の2つが大きな理由といえます。

クロスカンパニーが、アパレル産業という斜陽産業で成長した理由については、まず「変革」が挙げられるでしょう。会社を立ち上げた頃、日本のアパレルでは、製造・卸・販売がそれぞれ分かれていましたが、米国では製造と小売を社内で一貫して行うSPAが主流でした。

私たちは創業後10年間、米国のケーススタディに積極的に取り込んでいきました。たとえば百貨店のアパレルが不振になり、ショッピングモールにシフトしていったのも米国のビジネスモデルですが、そのタイミングを逃さずにシフトできたことが、成長のポイントだったと思います。

後半10年間のポイントは、オーナーシップだと思います。社長自らがリスクを背負い、米国の会社に出資したり、中国法人を設立したり、ブランドを閉鎖して新たに創造するプログラムなどを繰り返してきたことが、当社の強みです。販売のチャンネルや領域を変えるなど、イノベーションに近い変革を3~4年周期で続けてきたことが成長につながっていると思います。

Q:

米国のラグジュアリーブランドであるトムブラウンに出資された意図をうかがいたいと思います。

A:

トムブラウンに出資したのは、欧米進出のリソースを即座に手に入れるためです。日本のブランドが米国へ進出するネットワークをつくるには時間がかかりますが、トムブラウンに出資することで、百貨店やメディアのネットワーク、あるいは富裕層の小売ネットワークなどと連携でき、人材調達もしやすくなりました。1、2年後に予定していますが、米国でボリュームゾーンをターゲットにしたブランドを立ち上げる際にも、トムブラウンで獲得したリソースを活用していきたいと思っています。

Q:

地方の企業は人材確保が難しいと聞きますが、クロスカンパニーではいかがでしょうか。

A:

総論的にいえば、地方でできないことはないと思っています。たとえば、スイスのネスレや米国のウォルマートなど、本社が地方に立地する企業はあります。当然、情報の集まるところにマーケティングの部局は必要だと思いますが、なぜ本社を東京に移す必要があるのか、私にはわかりません。SkypeをはじめITの進展で情報が容易に手に入る時代ですから、今後は地方からスタートアップしたベンチャーによる地方創生が進んでいくと思います。経営者がITの使い方をもっと学べば、東京へ出ていく必要性はさらになくなるでしょう。

Q:

地域貢献を志向する企業と自治体がうまくマッチングするためには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。

A:

民間企業のトップたちは、行政の用語やプロセスを知りませんので、エモーショナルに話す傾向があります。その部分のサポートをするだけで、投資のモチベーションは続くと思うのです。地域貢献をやめてしまうリーダーには、その地域への思い入れがなくなるという特徴があります。行政のコミュニケーションには、民間企業の意欲を減退させる局面が要所でみられます。地域貢献はオーナーシップでやることだと思いますので、行政にアプローチしてきたタイミングを逃さないことが大事でしょう。そのときに行政がネガティブな理屈を言い続ければ、民間のやる気も失せてしまいます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。