ポスト京都議定書の枠組み

開催日 2005年3月3日
スピーカー 山口 光恒 (慶応義塾大学経済学部教授)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

京都議定書の目標達成への姿勢

この「ポスト京都議定書の枠組み」というテーマは、考えれば考えるほど解のない問題だと思わざるを得ません。今日は、私が常日頃考えていることを幾つかお話させて頂こうと思います。一般的に新聞紙上等で論議されている内容とは大分異なる点があります。

まず、京都議定書の目標達成の方法についてです。まさに今、政府部内では大綱の改定作業が行われているところですが、予算案を見ると、森林吸収源3.9%を確保するための予算がおよそ4500億円ということですから、温暖化問題の対策は経済への影響が非常に大きいことが予想されます。政府の方針である環境と経済の両立、さらに私自身としてはエネルギー安定供給という項目を加えたいと考えていますが、それを目指していくためには、京都議定書目標をできる限り低コストで達成するということが必要になるのではないかと思います。その意味で、たとえば森林吸収源3.9%の確保はコストに関係なく絶対に達成するのだという姿勢で取り組むのではなく、もしこれよりも効率的な手段があればそちらを優先するなど、政府の計画自体をもう少し経済効率性を考慮したものにすべきではないかと思っているわけです。

日本は京都議定書を批准しておりますが、それに関わる衆議院と参議院の議事録に目を通したところ、当時の国会ではコストについての論議がまったく行われていないのです。日本が京都議定書を批准することによって、どの程度のコストが必要となるのかという論議がゼロの状態で批准を決めたわけです。逆にアメリカの場合は、まずコストが問題にされるという対照的な姿になっています。

日本の限界削減費用は、批准国の中でもっとも高くなっています。また、日本のエネルギー効率は世界でもトップレベルとなっていますが、さらにこれを向上させてなんとか目標を達成しようと取り組んでいる現在でも、基準年比で8%オーバーとなっています。さまざまな対策を続けても、2010年頃で6%オーバーに留まってしまうことが予想されているにもかかわらず、日本の目標値は基準年比-6%ですから、目標を達成するためには予想よりさらに12%も減らさなければならないのです。

欧州では、既に-2.0%を下回っています。そういう中で、あらゆる手段を尽くし最大の努力をしても目標が達成できなかった場合にはどうするのかということについて、是非今から議論しておくべきでしょう。例えるならば、戦う場合に勝つことだけを考えて突き進むのではなく、その裏では、作戦がうまくいかなかった場合の対応策を検討しておくことは、絶対に必要なことです。私は、そうした議論を日本ではほとんど聞いたことがありません。これは非常に危ないことだと思います。

私自身の考えでは、途上国と共同で温室効果ガスを削減するクリーン開発メカニズム(CDM)などあらゆる手段を尽くした上での選択肢は2つしかありません。1つは、ロシアが削減目標を達成した後の余剰分となっているホットエアーを排出権取引によって買い、充当するということです。そしてもう1つは、それを買わずに未達成とするかです。私の主張は後者です。日本が最大限の努力をしてうまくいかない場合は、国際社会に対して「我々はこれだけの努力をしたが、どうしてもできない」ということを言うべきです。もしロシアからホットエアーを買ってお金だけで数値を合わせても、世界の温室効果ガス削減量は変わりません。それでは、排出権取引における本来の目的にはまったく沿わないからです。

欧州では現在、“Stability and Growth Pact(安定成長協定)”が非常に大きな問題となっています。通貨がユーロに統一された際に締結されたこの協定の主旨は、各国とも財政赤字はGDPの3%以内に必ず抑えるというもので、特にドイツが主張したことです。ところが、2004年12月のFinancial Timesには、ドイツとフランスがその協定に違反したことが報じられています。そしてこの2国は、協定を遵守するとドイツとフランスという2大国の経済が悪化し、それがひいては欧州全体のマイナスとなってしまうから、むしろ協定の修正を行うべきだということを提案しています。

つまり、本来の目標は高いところに設定しますが、それがうまくいかなかった場合は目標を変えようではないかというのが欧州の基本的な考え方のようで、環境問題でもこうした例がたくさん見られます。要するに、経済成長が予想通りに推移しなかった場合は、協定を修正するのもやむを得ないだろうという一般的な見方です。これは、ある意味で当然なのです。何が何でも予算を投入するというのはよくありません。もちろん日本が目標を達成できることがベストですが、あらゆる手段を尽くしてうまくいかないときには、世界に説明をすることが必要です。ただその場合の条件として、日本のエネルギー効率が世界最高水準に達している必要があります。EUをはじめどこの国でも、自国の国際競争力を損なってまで京都議定書目標を達成しようという国はない点に留意が必要です。

気候変動と不確実性

いよいよ京都議定書が発効しましたが、今年から政府間で、いわゆるポスト京都の枠組みについての交渉が始まります。私は、これこそ一番大事な問題だと考えています。そして、温暖化問題を考える際に最も重要なのは、現在の地球温暖化の状況を科学的に把握することだと思います。1994年に発効したUNFCCC(気候変動枠組条約)の第2条には「気候系に対して、危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準で温室効果ガスの濃度を安定させる(要旨)」とあります。つまり、危険にならないような時間的範囲内で、危険にならないような濃度に安定化することを目的とするということです。

ところが、どの濃度ならば気候系に対して危険でないのかということに対する世界の科学者の知見は一致していません。そのため、温暖化対策の最終目標も明確には定められていないのです。しかし今の状況から見て、最大限にあらゆる策を講じた上でのベストな水準として考えられるのは、産業革命以前の濃度の2倍程度となる550ppmまでの削減だとされています。そこで、とにかくその水準を目指そうという認識が定着しているわけです。

温暖化問題の構造として、まず経済活動が行われ、それに伴って温室効果ガスあるいはCO2が排出され、濃度が上がり、気温が上昇する。それが損害につながっていくわけです。我々の目的は、その損害を抑えることです。では、損害を抑えるためには、どの段階でどういう目標を設定すべきなのかということになります。

この一連の流れの中で、濃度と気温上昇について考えたいと思います。濃度が産業革命以前の2倍になった場合、気温は1.5~4.5℃上昇するとされています。これだけ幅があるわけですから、具体的な行動として何をすればいいのかということが非常に不確実な状況です。もちろん、不確実だから何もしなくていいということではありません。最近、欧州では2℃上昇に抑えることが目標とされています。では、2℃上昇に抑えるために濃度はどのくらいに抑えるべきなのかという数値の幅が非常に大きいのです。このような状況が、温暖化問題における一番の特徴だと思います。

不確実であったとしても、温暖化が今後ますます進んでいった場合に、不可逆な事態が起こり得るということは想定しておかなければなりません。その典型的な例として、Thermo Haline Circulation(熱塩循環)の停止という究極のリスクが考えられます。現在は暖流と寒流が循環しており、これによってたとえば欧州などは、緯度に相当する温度より最大10℃平均気温が高くなっています。従って、もしこの循環が完全に止まるとヨーロッパの気候は急激な寒冷化に向かうこととなります。これについては世界の科学者がさまざまな研究を行っていますが、現在の知見では、100年後の地球規模における温室効果ガス排出総量を現在のレベル以下に減少させることができれば、熱塩循環の流れは100~200年で元に戻るだろうといわれています。しかし、発展途上国は年々発展していきますから、現在の排出量を100年後もそのまま維持するというのは、不可能に近いと思わざるを得ません。我々は、非常に大きなチャレンジに直面しているのです。

京都議定書では、2012年までに、アメリカも含めた先進国で温室効果ガス排出量を1990年対比5.2%削減することを狙っています。一方途上国がこのままの勢いで経済成長をし、人口が増えると、先進国の努力にも拘わらず世界全体では30%増加してしまいます。では京都議定書は意味がないかというと、そうではありません。この京都議定書を契機に日本でもさまざまな新しい動きが出ていますし、このような国際的な枠組みの中で、世界中が産官学を含めて温暖化の問題について考えています。これも、京都議定書が与える効果の1つだといえるでしょう。

京都議定書体制維持(Cap and trade)の問題点

しかし、京都議定書がカバーする期間は2012年までです。では2013年以降、どうしていけばいいのかというのが今日のテーマです。これについては、色々な考えがあります。まず、現在の京都議定書体制をそのまま維持していくという案です。これは、欧州で最近まで主流となっていた考え方です。京都議定書の特徴は、国ごとに排出絶対量のcapをかぶせ、その目標を世界規模で最小費用で達成するために、削減費用が比較的安い国で削減してもらい、費用の高い国がお金を払うという排出権取引(trade)を取り入れている点です。この考え方は“Cap and trade“と呼ばれていますが、京都議定書以降もこれを続けていくことには幾つかの問題がありますが、現在の京都議定書の最大の問題点はアメリカが不参加であることと、途上国は(議定書に参加していたとしても)削減の義務をまったく負っていないということです。そうした中で、今の体制をさらに厳しくして続けるべきだというのが欧州の意見です。しかし、そうなれば、アメリカが参加することはまず考えられません。世界最大の温室効果ガス排出国のアメリカが参加しなければ、中国やインドといった主要な途上国も参加をしません。これでは意味がありません。

Cap and tradeの良い面としては、環境効果に優れているということやtradeによる経済効率性に優れているということが挙げられます。一方で、今後もCap and tradeを続ける場合、上記のアメリカや途上国の不参加に加えて、幾つかの制度的問題点が考えられます。

まず、絶対値目標、つまり絶対量として国の枠が決まってしまうことです。やはり経済というのは生きものですから、エネルギーと密接に関係する温暖化問題は、経済活動との関係を切り離すことができません。それを解決するためにtradeがあるのですが、capをかぶった国全体の合計量はtradeをするしないにかかわらず変わることはありません。世界経済が削減努力を遙かに超えて成長すれば、capを遵守できず、条約が破綻してしまうといったリスクは必ずあるわけです。逆に、スタグフレーションが続けば、何の努力をしなくても目標が達成されるということもあり得ます。

次に、初期配分についての問題が考えられます。やはり負担の大きい国にとっては、不公平感を拭うことはできません。初期配分が厳しい国は他国から排出権を購入することになりますが、この主たる原因は初期配分が不公平だからです。反面、緩めの配分を受けた国は努力せずに余った排出権を他国に売却することが出来ます(ホットエアーの発生)。つまり資金の国家的移転が発生しますが、これは貿易によるものの移動などとは全く無関係に、人為的な初期配分の差により発生するものです。こうした形で自国の富が海外に流出することを国民が納得するでしょうか。

上記が制度的問題ですが、この他前述のアメリカの不参加という問題があります。アメリカが参加しなければ、中国をはじめとする途上国が参加するはずがありません。中国は今、世界で第2位の排出国ですが、数十年後にはアメリカを抜いて第1位となるでしょう。こうした国がcapを受け入れなければ、環境効果は薄れてしまいます。また、参加国と不参加国の間には競争力の差が生じることになってしまいます。

代替案の検討

そこで、現在の京都議定書体制を維持するのが難しいとなると、代替案として以下のような体制が考えられますが、それぞれに利点と欠点があります。

(1)国際協調炭素税(価格アプローチ)。
利点:効率性(最小コストでの目標達成)、資金移動なし、コストの予見性、ホットエアーなし、コストの不確実性への対処。
欠点:実現可能性(協調税率導入、税率、アメリカの反対、途上国)、Monitoring、主権侵害(EUの共通炭素・エネルギー税導入の失敗)。

(2)共通効率(改善)目標。
利点:経済成長許容、努力を反映、弾力的目標設定が可能、実現可能性。
欠点:環境効果、目標率設定の困難性、効率性。

(3)政策・措置導入のコミットメント。
利点:行動に対する責任、実現可能性、主権確保。
欠点:環境効果不確実、効率性、Monitoringと約束履行確保の困難性。

(4)ハイブリット政策(Safety Valveつき排出権取引)。利点:削減コスト不確実性への対処、実現可能性。
欠点:全参加国が国内排出権取引制度を採用する必要性、上限価格水準。

このように、代表的な案それぞれに利点と欠点があり、あらゆる面において良いというものはありません。そうした中で、何を判断基準とするかを考える必要があります。

判断基準として、まずアメリカおよび途上国の参加というものが、どうしても大事だと思います。そうなると、前述の(3)の代替案しか受け入れられる見込みはありません。そして(3)の場合、数値目標ではありませんので、一般に環境効果の不確実性が欠点として挙げられます。本当にそうでしょうか。

ここに、アメリカが不参加のまま現在の京都体制を維持していった場合の効果についての試算があります。それによると、議定書批准国における2020年の排出量を2010年比20%削減した場合の世界全体の排出量と、全ての国がBAU(Business as Usual:対策をまったく行わない状態を続けた場合の想定排出量)対比7.7%削減した場合の世界全体の排出量が同じ水準となります。これは、2020年に2010年比では13.6%増加に相当します。つまり全ての国が参加すれば遙かに少ない努力で同じ目標を達成できるのです。IEAの資料によると、中国、ロシア、インド、インドネシア、イラン、南アフリカ、ベネズエラ、カザフスタンで環境破壊的エネルギー補助金を廃止するだけで世界の排出量の4.6%を削減できるといわれています。さらに、中国をはじめとする途上国のエネルギー効率を改善することによって、2020年に全世界の排出量をBAU比7.7%削減することは、それほど難しいことではありません。したがって、アメリカが参加するために(3)の案を採用するということは、京都議定書に比べると後退するように見えますが、むしろ議定書締約国だけで歯を食いしばり続けるほうが、実際の環境効果が薄いということが考えられるわけです。

議定書崩壊の可能性とその対策

京都議定書体制をさらに厳しくして続ければ、議定書自体が崩壊してしまうことが予想されます。たとえば、ロシアが京都議定書へ最後に参加することとなったのはWTO加盟に対するEUからの支持と引き替えでした。つまり国益丸出しの批准です。もし仮に2013年以降、ホットエアーの制度が廃止されロシアの負担が大きくなる場合、ロシアがそれを受け入れるとは考えにくい状況です。そこでロシアが離脱することになれば、京都議定書体制が崩壊する可能性は否定できません。

このような状況の中で、先進国によるPledge and Review(政策・措置導入の約束)とエネルギー多消費産業の業種別効率ベンチマークを「はじめの一歩」として導入するということが考えられます。まずは、アメリカと途上国が参加することが肝要ですから、特に途上国の場合、はじめはReviewなしのpledgeのみ(Non binding target)でも構わないと思います。

しかし、世界のさまざまな学者による研究を見ると、やはり長期的には途上国もそれなりのcapを受け入れる必要があるということがわかります。Den Elsen他によるMulti Stage Approachを紹介すると、まず2050年に先進国と途上国の1人あたり排出量の均等化を目指すことを前提とし、550CO2e ppmおよび650CO2e ppmの安定化を目標としています(eとはequivalentの略でCO2換算という意味です)。550CO2e ppmを実現するには、2050年時点において、先進国では1990年比67~80%の削減、BAU比でも70~85%の削減が必要となります。非常に大変なことですが、仮に先進国がこのような削減に成功し、さらに途上国が段階的に参加してくることによって、世界全体では550CO2eppmの安定化が可能になるということです。途上国の参加の仕方ですが、den Elsenはいくつかのパターンを示しています。ここではその1つを紹介します。まず途上国の1人当たりGDP(支払い能力)および1人当たり排出量(CO2排出責任)を組み合わせた指数が一定値に達するまでは、途上国は何の制約もおいません。これが一定値に達すると、GDPあたりの効率改善の義務を負います。次に、1人当たりGDPが世界平均に達した段階で、1人当たり排出量の絶対値削減の義務を負うという考えです。このように客観的な基準を決めて途上国の義務を段階的に強めようというものです。この例ではたとえば中国を含む東アジアの国々は2013年から効率改善の義務を負い、2015年から2025年にかけて1人当たり排出量削減の義務を負うこととなります。

次に、650CO2e ppmの安定化を目標とした場合には、先進国では1990年比36~59%の削減、BAU比49~66%の削減が必要となります。また、100年後の1人あたり排出量均等化(C&C)の下での650CO2e ppm安定化の場合は、14~38%の削減が必要とされています。途上国については上記と同じ考えで段階的に義務を負います。

RITE(地球環境産業技術研究機構)の研究によると、途上国の1人あたり排出量または1人あたりGDPが2000年当時の先進国の水準のそれぞれ50%に達した時点で途上国も排出量削減をしないと550ppm達成は困難との結果が出ています。

Den Elsenの研究或いはRITEの研究にしても、豊かな生活を目指して発展を続けている途上国の立場からすれば納得のいかないことでしょう。しかし、途上国の参加が遅くなるほど先進国の削減割合が大きくなってしまいます。550ppm安定化に向けた100年後の世界全体の排出量の枠が決まっている以上、途上国参加が遅れれば遅れるだけ先進国の削減量が増え、その逆もまた真であるというtrade-offの関係があるのです。このように、現在の科学的知見を前提とすると、先進国と途上国の利害関係が対立してしまうことがわかります。

こうしたジレンマを解決するには革新的な技術の開発以外にありません。革新的な技術なしに政策を論議するには限界があります。2004年8月のSCIENCE Vol.305には、科学者が技術的な観点から見た物理的可能性について考察された論文が掲載されました。そこでは、自動車の燃費効率の向上技術といった具体例を、エネルギー効率・省エネについて4つ、燃料転換について9つ、シンクについて2つ掲げ、それらを組み合わせることによってCO2の排出を70億トン(炭素換算)削減できるということを示しています。この研究はコストを考慮していませんが、RITEでは、コストを加味した可能性について分析しています。このあたりは資料の図をご覧下さい。現状ではコストを考慮すると炭素隔離が有力ですが、これには外界に与えるリスクの克服という難題もあります。今、世界の学者の関心は技術革新に集まっています。

世界の緊急問題

2004年5月、Copenhagen Consensusが合意されました。これは、国連の全出版物を基に世界の緊急問題について資源有効利用の観点から優先順位に関する合意を目指したものです。世界に500億ドルの予算があったら、一番先に何に使うかというCost benefitの観点から順位がつけられました。10の問題について17の提案が出されたうち、1番になったのはエイズ対策でした。2番目は、栄養失調の対策です。そして、気候変動の問題は最下位でした。これについては、今後色々な議論が出てくると思いますが、だからといって、気候変動の問題に取り組まなくていいとは思いません。ただ、気候変動の問題を考えるときに、環境だけ良ければいいというわけにはいかないと思います。日本あるいは世界の貴重な資金や資源を、何に配分していくのが最もいいのかということを常に考えなければいけません。その一環として、環境問題というものを考えていくべきでしょう。

質疑応答

モデレータ:

山口教授のお話にもありましたが、これからはアメリカ、中国、ロシア、そしてEUと日本、それにインドといった国々の動きが鍵となってくるということです。また京都議定書には、EUにおける政治的な動きが世界に広まったという側面もあるようですから、将来的にEU以外の中国や日本、アメリカといった地域がまとまっていくというアプローチが生まれるのも自然な流れではないかと思います。本日は、現在担当されている政府の方、または以前担当されていた方も会場にご参加頂いておりますので、こうした点についてご意見を伺いたいと思います。

A(担当者):

EUがどのような方針を示すかということが今後の交渉の行方を相当左右するのではないかと思います。現行の制度で発生した一種の既得権を放棄する方向に進むとは考えにくいことから、前回と同じような内容を打ち出してくる可能性が大きいという見方もあります。またEUは、新規加盟国10カ国が加わり25カ国に拡大しましたので、経済体制に余裕が生まれ、各国がとてもついていけそうもない数字を出してくると思われます。一方、アメリカには枠組みに参加する姿勢がまったく見られないため、それを巻き込んでいくには、やはりある程度EUと日本とで考えていかざるを得ないというのが現実だと思います。

Q:

山口教授のお話にありましたPledge and Reviewというのは、政府でも三方針等?において基本に据えているわけですが、やはり以前の状況に後退してしまうという感が否めません。また、日本国内の世論は基本的には環境保護の方向へ傾く一方で、政府としてはコスト面の計算ができない短期的な視野で決まっていく政治的な交渉に望まなければいけません。特に、京都議定書において欠陥として感じられるのは、nation stateの枠組みで温暖化対策に取り組んでいくことの限界だと思います。このような状況の中、まさに議論となっているように、国ベースでの政府間の交渉と併催する形で産業界同士での国際的な自主行動計画やPledge and Reviewの導入といった取り組みを誘導していくことの必要性が感じられるのですが、実現するのは非常に難しいのが現状です。こうした国の枠組み以外での方式について、研究者等のレベルで議論する場はできていないのでしょうか。

A:

日本の主要な産業界に向けては、客観的な基準でのエネルギー効率について国際的な場で検討してもらいたいという依頼を私自身もしているところです。鉄鋼やセメント業界は比較的進んでいると思います。言われたとおり、Pledge and Reviewだけではなく、主要なエネルギー多消費産業が協力していくことが必要だと思います。当面は先進国だけであっても、そういったものを組み合わせなければ無理であろうと考えています。
先ほどのEU以外の国々によるアプローチというお話については、別の条約を締結するというのは難しいことだと思いますが、たとえば今アメリカが進めているテクノロジーに関する新しいイニシアティブが幾つかありますが、それには中国、日本、EUのうち幾つかの国が参加しています。そこから京都議定書で決めていないようなものについて新しい枠組みを作っていき、さらに議論を深めていくといったことは可能かもしれません。また、EUがさらに先んじる姿勢を示し仮に東欧のホットエアーを含めてきたときなどには、日本はやはりできないことはできないと言うべきだと思います。そして、少数で歯を食いしばって取り組むよりも実質的に効果の高い技術があるということを、日本からも精力的に発信していかなければならないと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。