第3回RIETIハイライトセミナー

企業の新たなグローバル展開と日本経済 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2013年3月8日(金)16:00-18:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

議事概要

講演1「海外事業活動の拡大と国内雇用」

伊藤 恵子 (RIETIファカルティフェロー / 専修大学経済学部教授)

1. 製造業企業数と雇用者数の推移

経済産業省の企業活動基本調査によると、日本の製造業における雇用者数は、1998年から2007年までの間で、従業員50人未満の国内企業(3人以下は未集計)で96.3万人、従業員50人以上で海外に拠点を持っていない企業で40.1万人、合計すると国内全体で130~140万人減少している。一方、従業員50人以上で海外に現地法人を持つ企業は、若干だが国内外で雇用を増やしている。

図1:日本の製造業企業による国内外の雇用者数
図1:日本の製造業企業による国内外の雇用者数

同様に、企業数の推移を見ると、従業員49人以下の企業は10万社以上、50人以上で海外に拠点がない企業も1600社減っている。

2. 海外事業活動と国内の事業活動は補完的か代替的か?

1970年代末頃から、アメリカとスウェーデンの多国籍企業を中心に、海外事業と国内事業の補完性・代替性に関する実証研究が進められてきたが、そうした研究からは、海外雇用を増やしたことが国内雇用を大きく減らすという結果は得られていない。一部、海外雇用を増やすと国内雇用が減る傾向にあるという分析結果も存在するが、それほど大きなインパクトを持ったマイナスにはなっていない。2000年代に入ってからの研究では、むしろ正の相関を示す研究結果が多くなっている。

日本においても同様な研究が幾つかあり、同じような傾向を示している。特に多国籍企業化後、少なくとも短期的には国内雇用を減らすという結果は得られないとの研究もある。一方、アジアへ進出した企業では国内雇用が減る傾向が見られるとする研究もあり、まだ議論を要する部分はある。

多国籍企業において、海外生産(雇用)と国内雇用とが代替的であるとの強い実証的証拠は得られていないわけだが、小規模な企業を中心に国内雇用が減っていることは紛れもない事実である。その観点から多国籍企業ではない国内企業に対する影響を見た研究では、産業全体としての輸入増や海外(特にアジア)生産増と、産業内の平均的企業における雇用には、負の相関が見られるとした研究が多い。つまり、海外事業活動によって負の影響を受けるのは、多国籍企業自身ではなく国内企業なのではないかと思われる。

3. 主要販売先企業の海外生産拡大と国内企業の雇用

そこで、私はRIETIで田中鮎夢Fとともに、多国籍企業の海外生産の拡大が、そのサプライヤーである国内企業の雇用に与える影響についての研究を始めている。

従業員数50人以上の国内の製造業で海外の生産拠点を持たない企業を対象に、主な販売先企業が海外の生産を増やした場合の国内雇用の動向を分析すると、暫定的な結果ではあるが、負の関係は得られない。もちろん取引関係のセレクションやマッチングをより詳細に分析する必要はあるし、深刻な影響を受けているのはさらに小規模な企業である可能性は残るが、元気のいい多国籍企業が海外で販売を伸ばして海外生産を拡大すれば、国内サプライヤーへの注文が増え、その結果、国内の雇用も上向くということなのかもしれない。

4. まとめ

これまでの研究から、海外生産・雇用の拡大がすべての国内企業に負の影響をもたらすわけではなく、取引先の海外活動がうまくいけば、国内のサプライヤー企業も正の影響を受ける可能性があると考えられる。その中で、今後は生き残りを賭けた選別のプロセスが強化されていく可能性もあるが、それは必ずしも悪いこととはいえないのではないか。

旧来の取引関係にとらわれずに元気のいい会社と組む。やむを得ない場合には事業転換や、M&Aへの嫌悪感を払拭して新しい関係の構築にも積極的に挑んでいくという考え方が必要なのではないだろうか。

講演2「日本経済はグローバル化で成長する」

戸堂 康之 (RIETI ファカルティフェロー / 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)

1. 長期的な経済成長の源泉

日本経済の20年にわたる長期停滞に、財政政策と金融政策のみで対処するのは不可能に近い。そのため、今は第3の矢といわれる成長戦略に期待が集まっている。

長期的な経済成長の源泉である技術進歩(知恵の創造)には、産業集積によって地域内でつながり、知識を共有する「密度の濃いネットワーク」と、グローバル化して海外とつながり、新しい知識の伝播を行う「世界は狭い的ネットワーク」の、2つのつながりが有効とされている。社会ネットワーク論では、両方を持った研究者・組織が最も生産性が高いといわれており、RIETIが収集した東日本大震災後の被災地企業データによる分析でも、被災地内の密な取引ネットワークは震災後の売上の復旧に、被災地外とのネットワークは早期の操業再開に役に立ったことが、はっきりと見いだされている。

2. 3人寄れば文殊の知恵

グローバル化と成長の関係については、RIETIで数多くの研究がなされている。グローバル化により規模の経済が働き、国内は知識集約的な生産工程に特化するようになる。それによって日本企業の生産性が上昇することは明らかだが、一番重要なのは、海外とつながることによって「3人寄れば文殊の知恵」の効果が出て、国内でイノベーションが起こることではないだろうか。

海外進出で国内雇用は減らないとする根拠の1つに、iPadの例が挙げられる。iPadは生産のほとんどが中国その他で行われているが、利益の3割は研究開発やマーケティング、デザインなど、知恵が必要な部分を持つApple本社に残っている。日本国内に技術があれば、グローバル化しても利益や雇用を国内に残すことは可能なのである。

しかし、残念ながら日本経済のグローバル化は、他の先進国のみならず新興国と比べても非常に見劣りがする。その中にあって、世界で競争する潜在力を持ちながら国内にとどまっている多くの「臥龍企業」の存在は、日本の希望であり、経済復活のキーといえる。

図2:日本の臥龍企業
図2:日本の臥龍企業
※中小企業庁「国際化と企業活動に関するアンケート調査」
(2009年12月実施/製造・非製造中小企業3513社)による分析
3. 臥龍企業から世界的サプライヤーへ

臥龍企業が海外に出ない理由の1つは、海外になじみがなく、規模が小さいため海外の情報収集に人手が割けないことである。ここは国による情報提供が望まれるところである。

また、海外進出のリスクを取ることを躊躇する企業が多く存在するのも事実である。しかし、人口減少や国内需要の縮小に加えて、東日本大震災やタイの洪水以後、部品の共通化の流れも急速に進んでおり、これまでとは明らかに潮目が変わってきている。今はむしろ、技術力のある企業にとっては世界的なサプライヤーになる絶好のチャンスなのである。

4. EPA(経済連携協定)の効果

TPPをはじめとするEPAの効果には、もちろん輸出入の拡大によるGDPの上昇が挙げられるが、私はむしろ重要なのは、貿易や投資の拡大が「3人寄れば文殊の知恵」の効果をもたらし、国内にイノベーションが起こってGDP成長率を押し上げることだと考えている。

ブランダイス大学のペトリ教授の効果分析によると、TPPによって日本のGDPは約955億ドル(9兆円)増えるとされている。これに対日投資の拡大による成長率の引き上げも加味すると、成長に対する効果は、考えられているよりもはるかに大きい可能性がある。新しい高度成長へと続くグローバル化への第一歩として、私はTPPに大いに期待している。

講演3『レジリエンス』と『経済成長』について

藤井 聡 (RIETIファカルティフェロー / 京都大学大学院工学研究科教授 / 内閣官房参与)

1. ナショナル・レジリエンスとは

ナショナル・レジリエンスとは、一国の経済・産業・社会の強靱性を指す。

米国では、国家・地域社会・企業が想定すべき、すべてのリスクに対応でき、速やかに回復する能力と定義されている。

わが国では、内閣官房に新たに立ち上がった「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」(国土強靱化有識者会議)において、レジリエンスを柳の木のような粘り強さ(致命傷を回避し、被害を最小化する)としなやかさ(機能の迅速な回復)の複合概念ととらえているが、この概念自体はRIETIの「強靱な経済(resilient economy)の構築のための基礎的研究」プロジェクトにおいて整理したものである。

2. 強靱な経済の構築のための基礎的研究

このプロジェクトは3.11より以前に開始されており、今年で3年目を迎えている。リーマンショックの後、各国の名目GDPは大きく落ちた後で急激に回復しているが、日本だけがずっと成長率が低いままであることから、日本もレジリエンスを獲得しなければいけないと考えたのである。

落ち込みの強弱を従属変数にして主要先進国を分析したところ、非常に大きな被害を受けたのは1997年から2007年にかけて急激に輸出を増やした国、エネルギー自給率の低い国、工業製品輸出国でデフレ傾向にあった国だった。日本はそのすべてに該当してしまっている。リーマンショックからの回復のスピードは、ギリシャが最悪で日本は後ろから3番目だった。

また、リーマンショック後に公共投資を拡大した国は回復が早かったことも明らかになっている。金融緩和も含め、複数の指標を取って失業率などすべての尺度について分析したが、公共投資以外、明確な効果は確認できなかった。

3. 「国土強靱化」は「成長」を導く

リーマンショックを契機に、世界経済の中枢を担う人々の間で、グローバル化の進展により、一部の国家の経済危機が世界各国に伝搬するという危機意識が共有されるようになった。このことは、今年のダボス会議のメインテーマが「レジリエント・ダイナミクス」であったことからも確認できる。グローバル化によって生じた予期せぬリスクに対する強靱性を持ち得た国家・企業・地域だけが成長の恩恵にあずかることができるとして、グローバル・経済リスクに対する「強靱性」を構築することが、今、強く求められていると結論づけられた。

図3:「国土強靭化」が「成長」を導く3つの理由
図3:「国土強靭化」が「成長」を導く3つの理由

ダボス会議中に紹介されたWEF(World Economic Forum)のグラフでは、政府の危機管理能力と国際競争力がきれいに正の相関を示し、レジリエンスのある国家は競争力が高いことを示している。その中で、現在の日本は、政府の危機管理能力が低いにもかかわらず、国際競争力は高いといういびつな状態にあることを象徴的に表していた。これは逆に、日本がレジリエンスを身につければ、より高い国際競争力を持ち得るポテンシャルを有しているともとらえることができる。

4. 危機はまた来る

100年に1度といわれるような危機がそうそう起こることはないと見る向きもある。しかし、残念ながら今はギリシャ危機が叫ばれており、中国もまだまだ不安定な状態にある。韓国経済にもリスクがある。さらにアメリカの中東におけるプレゼンスの低下により、ホルムズ海峡が封鎖される危険性がかつてより高まっていて、エネルギーの安定供給に懸念が生じている。

その中で、わが国は脆弱極まりない状況にあるということが統計分析から暗示されているということを、あくまで一研究者の立場から報告させていただいた。

パネルディスカッション

モデレータ 中島 厚志 (RIETI理事長)

グローバル化の功罪

中島: 日本企業のグローバル化と経済強靭化についてご説明いただいた。それぞれ大いに意義があるが、互いに相反しているのかそれとも補完的なのかが一番大きな視点として挙げられる。そこで、グローバル化は強靱化にとって果たしてプラスなのか、最終的にプラスにするために国内でしておくべきことがあるのではないかという点から議論を始めたい。

伊藤: 一概に結論づけるのは難しいが、現状のまま国際化が進んでいくと、立ち行かなくなる企業は多いだろう。海外展開を進める中でビジネスや産業構造自体を変え、制度も見直していく柔軟性を身につけることが、悪影響を最小限に抑える意味で重要だと思う。

戸堂: グローバル化に伴い、高度な人材に対する需要は確実に伸びる。したがって、グローバル化と人材の高度化は必ずセットにして考えていかなければ、必ず空洞化は起こる。逆説的にいうと、人材の高度化はグローバル化によって進み、多様にグローバル化することが強靱化につながると考えている。

藤井: エネルギーや食糧を考えれば、諸外国と無縁では日本は立ち行かないことは自明だ。しかし、個々の分野ごと状況によっては、グローバル化を進めるべき分野もあれば、もっと国を閉じなければならない分野もあるはず。グローバル化を一括りにして良いとか悪いとかいうことではなく、議論の精度を高めていく必要があるのではないか。

戸堂: 私はグローバル化であれば何でもいいと思っている。グローバル化のポイントはつながりで、そこから日本の成長力を高める「文殊の知恵」が出てくると考えられるからだ。

藤井: グローバル化を高めた国は、外国の需要の縮小に対して大きな被害を受けている。グローバル化が全て良い結果につながるわけではない。

戸堂: 紹介されたデータは、輸出の成長率を示している。リーマンショック前、日本の輸出は成長率は高かったが、レベル的には諸外国に比べて高くはなかった。したがって、輸出のレベルを見れば復元力との相関は見られないのではないか。

レジリエンスが包含するもの

中島: 個別に伺いたい。経済強靭化だが、藤井FFが示された、政府の危機管理能力と国際競争力の相関を表すグラフが大変興味深い。リスクマネジメント力が高いとされる国では、どのような日本よりも強化された枠組みや仕組みがあるのか。

藤井: 英国は今、国家レジリエンス計画を作ろうとしているし、米国は米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)や国土安全保障省などを設置している。安全保障というと、日本人は軍事的な面を思いがちだが、米国や英国で議論されている安全保障には、軍事面と経済・社会・生活面の2種類がある。

その意味で、日本の国際競争力の高さは、民間の努力によるものとも解釈できる。

中島: 私も若干誤解があった。今後は社会インフラの整備といっても、日本全体を土手や堤防で覆うということではなく、いかに危機管理の仕組みを高めて経済活動をサポートするかという議論ということか。

藤井: 「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」では、ハードインフラだけでなく、ソフトインフラや法制度、有事立法まで議論をするつもりだ。

臥龍企業の背中を押す

中島: 次に、グローバル化について伺いたい。臥龍企業の海外展開を促進するにはどうしていけばよいか。

伊藤: 情報不足については国による支援の余地があると思う。また、海外進出は失敗する確率も高い。再チャレンジできる仕組みを政策的に整備していくとよいのではないか。

戸堂: 一番重要なのは情報支援である。人材面では、「臥龍人材」ともいうべき留学生や青年海外協力隊のOB・OGの活用、大学のグローバル教育の充実、留学支援を挙げたい。また、ODAを日本企業の国際化支援に活用することも重要だろう。

グローバル化の中でのTPP の位置づけ

中島: TPPについてはどのように考えているのか。

藤井: TPPへの加入は、日本国家に対して経済的な影響のほか、法制度の変更や風土、地域社会や文化のありよう、安全保障面など、多面的な影響をおよぼす。

需給バランスに対する影響に絞っていうと、デフレの状況でTPPに入ると、輸出が増えて輸入が増えない状況であれば、デフレは緩和するだろう。逆に輸入が増えて輸出が増えない場合は、デフレは悪化すると考えられる。外国の需要が旺盛な場合には前者が起こる可能性が大きいが、リーマンショック後のような、外国においてすら需要が縮小している状況だと、後者が起こる可能性が大きい。少なくとも現在のような状況では、デフレがさらに悪化するという言説にはそれなりの説得力があるのではないだろうか。

戸堂: TPPだけでなくグローバル化全般に対して、需給という観点からは見ていない。ただ、現在の日本のデフレは、所得が低く抑えられているために需要が少ないことが最大の原因だと考えているので、「3人寄れば文殊の知恵」の視点で、国内で技術革新を起こしていくためにもTPPは必要だと思う。

伊藤: たしかに、日本がデフレで海外も景気が良くないという現状で、いきなり自由貿易を促進すると、経済に良い影響を与えない可能性がある。しかし、TPPは基本的に10年後までに自由化するという話であり、いつ話がまとまるかも定かでない。また、製造業に限れば既にほとんど関税は撤廃されていて、TPP加入によって外国製品が大量に日本に入ってくる状況でもない。

そう考えると、TPPの議論はネットワークや、日本がいかにグローバル化を国内の成長に取り込んでいくかという長期の議論ではないかと考える。

Q&A

Q1: 国際競争力を高めるために一番重要なことは何か。

伊藤: 意図的に一生懸命海外とのネットワークを築くことだろう。

戸堂: 海外だけでなく、国内の地域内・地域間のつながりを大事にすることだと思う。

藤井: 日本が経済大国になれたのは、内需をめぐる熾烈な競争で切磋琢磨して、財やサービスの質を高めてきたからだと聞いたことがある。良いヒントになるのではないか。

Q2: Appleなど米国の製造業では、国内回帰が起こっているとの報道がある。グローバル化の揺り戻し的なものととらえるべきなのか。

藤井: 定義にもよるが、海外生産や輸出をグローバル化ととらえるなら、明確に反グローバル化だろう。

戸堂: 新興国での賃金上昇がAppleの国内回帰の一番大きな要因なので、中国に代わる低賃金の国が現れれば、またそこへ流れるかもしれない。それらも全部ひっくるめてグローバル化の流れだと理解している。