日中経済討論会2005

イベント概要

  • 日時:2005年10月25日(火)/26日(水)
  • 会場:大阪国際会議場
  • 第2分科会「日本の金融危機の分析と中国にとっての含意」概要

    まず、モデレーターの植村修一経済産業研究所上席研究員からセッションの趣旨の説明があった。

    ドル高是正を行った1985年9月のプラザ合意、2年後のドル相場安定を目的としたルーブル合意を経て、80年代の日本経済は資産価格が上昇するバブル経済に突入した。90年代に入ると、状況が一転して、バブルが崩壊し、その後日本経済は長い停滞期に入った。景気が低迷、物価が下落するといういわゆるデフレ経済に突入し、不良債権問題を抱えた日本の金融システムは大きく動揺した。一方海外に目を向けると、90年代後半に入り、2つの大きな国が高い成長を遂げた。1つがIT革命をきっかけとして持続的な高成長を遂げたアメリカであり、もう一方が改革開放政策路線の恩恵をこうむった中国である。このような世界の情勢と日本の歩みを踏まえて、中国の経済政策運営にとっての示唆を得るのが本セッションの趣旨である。

    続いて、東京大学社会科学研究所の王京濱氏から日本の80年代のバブル経済について、バブルの発生とその特徴、バブル発生の原因、バブルの弊害、バブルの崩壊の影響、についてプレゼンテーションがなされた。

    バブルの発生とその特徴として、地価の上昇については過去(60年代、70年代)の事例との比較を通してその特徴が1)商業地価格の上昇、2)地価の暴沸の地域格差、3)地価の上昇が東京、大阪、名古屋と推移して行ったことが挙げられた。株価の上昇の特徴については、1)85年から89年という短期間で日経平均株価指数は3倍、TOPIXは2-3倍に上昇するなど、短期間に上昇したこと、2)競争力の高い製造業における株価はサービス業に比べて早い時期に上昇し、上昇幅は小さく、下落の時期が遅く、下落幅が小さいことが紹介された。

    バブルが発生した原因としては、1)円高に対応するための低金利政策、金融自由化、企業の財テクから来る資金循環、金融構造の変化、2)日本経済の成長期待の強化、3)土地評価価格の不明確さ、低い実質土地税率、土地資産の税テク化、土地の短期保有に対する差別課税などを含む土地政策における総合性の欠如から来る土地の供給の阻害と超過需要の深刻化、が列挙された。

    これら資産価格バブルのもたらした悪影響として、1)キャピタルゲインの利益が低所得者に行き届かず、2)富める人がますます富み、3)勤労者世帯の住宅取得困難を引き起こし、4)外資、および新興企業の業務展開難、の4点が示された。

    1990年に大蔵省が銀行に対して出した融資規模の規制指令に伴い日本のバブルが崩壊し、その影響として1)企業の過剰設備と過剰雇用(現在の中国の現在と同じような状況)、2)不良債権の大量発生(GDPの10から17%)3)金融システムの長期不安定化、4)「失われた10年」と呼ばれることになる長期にわたる経済低迷、が明示された。

    最後にこの一連の歩みから得られる教訓として、1)バブルを発生させない、2)一旦バブルが発生したら、秩序あるソフトランディングの実現、3)政府がバブルの悪影響を認識し、早急に措置をとる、4)金融政策上、物価だけではなく資産価格の変化の変動にも注目、5)銀行融資の部門別配分に注意、の5つの点が挙げられた。

    続いて、経済産業研究所の小林慶一郎研究員がバブル崩壊後の一連の経済動向を概説した後、日本の長期不況について、主にマクロ経済の変数にどのような影響を与えたかについて、景気循環会計(注) という手法を使った分析を発表した。

    この分析では、1)財政支出の変化の効果、2)生産性の変化の効果、3)設備投資のゆがみの効果、4)労働投入のゆがみの効果についてそれぞれ、それ以外のゆがみが無かった場合、経済はどのようになっていたかについてシミュレーションを行った。その結果、1)の財政支出については、景気を拡大させる効果があった、2)の生産性の変化は98年以前は経済を上に持ち上げるような効果があった、3)の設備投資の効果は景気を押し下げる効果はなかった、4)の労働投入のゆがみが、90年代以降深く景気を下に押していることが挙げられた。

    以上の結果から、労働投入のゆがみ、生産性の低下が不況の大きな原因であり、設備投資のゆがみは見られなく、財政政策の失敗が必ずしも不況を悪化させた訳ではないことが確認された。

    次いで、労働投入のゆがみがなぜ拡大したかについて、80年代以降の長期的な傾向である可能性、90年代初頭の土地融資に対する引き締め、金融引き締めなどのデフレショックが実質賃金を上昇させた、不良債権の重圧と資産価格の下落による担保制約の強まりからくる運転資金の調達難が雇用を圧縮させた点が挙げられた。

    以上の分析を基に、日本の経験からの教訓として、迅速な不良債権処理(先送りは経済停滞を起こす可能性)、担保制約に対しては財政金融政策の果たせる役割が少ない、適切な銀行規制による経済全体の信用秩序の保持、の3点が提示された。

    注) 景気循環会計とは経済のゆがみを、労働や投資などに対する仮想的な「税」と仮定して、その税の大きさをデータから推計し、その「税」があった場合と無かった場合で経済パフォーマンスがどのように違うかをシミュレートする手法。