RIETI政策シンポジウム

ブロードバンド時代の制度設計II (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2003年12月4日(木) 13:00~18:00
  • 会場:ARKアカデミーヒルズ(赤坂)
  • 開催言語:日本語・英語(日英同時通訳あり)
  • 実施概要報告書

    去る12月4日、赤坂アークアカデミーヒルズにて、RIETI政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計II」が行われた。これは2001年秋に行われた「制度設計I」に引き続いて開催されたもので、有線、無線それぞれについてのインターネット関連政策について、活発な討論がなされた。

    今回のシンポジウムは、2001年の「ブロードバンド時代の制度設計I 」に引き続き、スタンフォード大学ロースクール教授のローレンス・レッシグ氏を招いた他、米国連邦通信委員会(FCC)政策企画局長の要職にあるロバート・ペッパー氏も参加した。日本側からは、実際に政策決定を行っている当局者として、総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹国際経済課長(第1セッション)、竹田義行電波部長(第2セッション)が参加し、他のパネリストを交え、ブロードバンド普及・推進をめぐる日米のここ1~2年の政策評価に重点を置いて討論が進められた。

    第1セッション「通信の規制改革」

    基調講演(ローレンス・レッシグ教授):情報通信における政府の役割は何か

    第1セッションで基調講演を務めたローレンス・レッシグ教授は、政府が健全な市場環境を構築するために、どのようなスタンスをもって制度設計に臨むべきなのかについて論じた。特に中心的な概念として説明されたのが「レント・シーキング」であり、それは規制行政と表裏一体で、情報通信産業の他、著作権など、さまざまな分野で見つけることが出来るとレッシグ教授は指摘した。ここで問題なのは、既得権益者が規制を隠れ蓑にしてレント・シーキングの旨味を享受し続けてしまう事であり、それによりユーザの利益が減少するという社会的損失であるのだという。
    また、第1セッションに関連して、我が国のここ数年のブロードバンドの普及について高く評価しつつも、その背景には、基幹網へのオープンなアクセスを定める適切な規制政策により、競争的なプラットフォームが提供されていたことを指摘し、一方でFCCの迷走するブロードバンド普及政策を厳しく指弾した。
    さらに、第2セッションに関連して、レッシグ教授はFCCが進めている周波数に所有権の概念を導入するというアイデアに関して、所有権は周波数の最適配分を実現するという側面もあるが、既得権益化しやすいという欠点もあることを指摘し、既得権益者によるレント・シーキングを如何に防止していくかが課題であると述べた。

    各パネリストの意見表明:この数年の日米の状勢をどう見るか

    レッシグ教授の基調講演を受けて各パネリストが見解を表明した。まずFCCのロバート・ペッパー政策企画局長がレッシグ教授に反論し、米国でも最近は急激にブロードバンドの競争環境が整備されてきたことや、VoIP(Voice over IP、所謂IP電話)がキラーアプリケーションとなって、ブロードバンドアクセスの普及が家庭でも進んできていること、さらに無線技術の発達によって、安価にブロードバンドが郊外でも提供可能になっていることなどを挙げて、米国でもブロードバンドの普及は着実に進んでいると論じた。

    次に総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹国際経済課長が、日本のブロードバンドの成功の要因として、インフラ部分には規制をかけて、コンテンツの部分は自由にやらせるという、規制をかける部分とかけない部分をはっきりしたことが奏功したというコメントを述べた。

    一方、前回のシンポジウム でもパネリストを務めた林紘一郎慶應義塾大学教授は、レッシグ教授の基調講演に関して、日米での環境の違いや、レント・シーキングの発見が事前には困難であることから、ある程度の発生はやむをえないのではないかと反論した。また、ネットワークのうち物理的な部分とコンテンツの部分にはまだ管路の開放やコンテンツ産業の規制のあり方などに課題が残っていると指摘した。
    同じく2001年度に続いての登場となったRIETIの中村伊知哉コンサルティングフェローは、日本における状況について、ブロードバンドの普及や通信と放送の融合に向けての法整備などの課題は解決されてきたと指摘し、残る問題はNTTの経営問題のみではないかと述べた。

    ペッパーvsレッシグ論争:インターネット時代の競争政策のあり方

    その後、討論に移り、適切な規制政策のあり方を巡って、ペッパー局長とレッシグ教授は激しい議論を展開した。まず、鈴木課長が提起した技術の進歩にあわせた適切な情報通信政策の必要性という点に関して、ペッパー局長は米国でのブロードバンド普及に関して日本に遅れをとったことを率直に認めつつも、最近ではケーブル業者の激しい値下げ競争や、無線ISPの登場などで急速に状況は改善しつつあり、競争環境も整備されてきたと述べた。
    それに対してレッシグ教授は、それでも光ファイバーの普及が始まっている日本と比べるとまだまだ不十分であると激しく反論した。ペッパー局長は、競争は本格的なもので、その流れはVoIP(Voice Over IP,いわゆるIP電話)がキラーアプリケーションとなって、電話会社の収益構造そのものを崩しつつあり、それは日本でも同じ状況を迎えるであろうと述べた。また、林教授は米国の状況に対して、日本では通信の新規事業がどうしてもNTTの設備に依存せざるをえない構造になっており、その点では米国のほうが競争環境が良いのではないかと問題提起した。
    そこで、次に争点になったのは規制のあり方についてであった。レッシグ教授は、インターネットのEnd-to-Endの原則が、少数の競争により捻じ曲げられてしまう危険性を指摘した。ペッパー局長はFCCは相互接続について厳格なルールを設定しており、消費者自身がそのような業者による囲い込みを拒絶すると指摘し、旨みのあるビジネスモデルとはいえないと述べ、レッシグ教授の反論を退けた。ただし、End-to-Endの原則の重要性についてはペッパー局長も同意し、将来もEnd-to-Endが大原則であるだろうと述べた。

    レッシグ教授は次に、FCCの中立性について問題提起した。日本ではNTTが官僚的であったため、政府の出した(コロケーションに関する)命令にきちんと従ったため、ネットワーク・アーキテクチャの中立性が保たれたのではないかと指摘し、一方、米国では政治的な圧力がFCCの中立性を脅かしていると述べた。
    ペッパー局長は、米国最大のベル系通信会社であるVerizonの幹部の話を引用しながら、囲い込みは彼らのビジネスモデルとしては有望ではないと指摘し、ネットワーク・アーキテクチャは基本的に保たれるという見解を示した。

    ユニバーサル・サービスとNTTの今後

    ここまでの米国の情報通信政策についての討論から、次に日本の状況、中でもNTTの今後の経営問題に議論が移った。郵政省出身でもある中村フェローは、NTTの経営問題はほぼ雇用調整問題に集中するだろうという見解を示し(雇用を維持している理由の1つである)、国から課せられたユニバーサル・サービスの維持というNTTの業務について、それを他の企業に肩代わりさせることが可能か、その場合何を義務付けるべきか等が制度設計の主題に上がってくるだろうと述べた。
    ペッパー局長はFCCでのユニバーサル・サービスについての議論について、AT&Tにユニバーサル・サービスを義務付けることが出来たのは、当時AT&Tが独占に近い勢力を維持していたからでこそで、現在のような競争が激化した環境下ではその義務を強制することが次第に難しくなっていると指摘した。そして、FCCで検討されているユニバーサル・サービスの維持に関しての案として、1つは通信網を維持できない(所得が低い)人々に全体の収益から作るファンドで補助金を直接出してしまうという手法。そして、人口が少なく設備コストがかかる、郊外の過疎地域においては無線ISPのサービスに対して補助金を出して安価な通信網を構築してもらうという両面立ての案である。
    一方レッシグ教授は、ユニバーサル・サービスよりもインターネットに対してのユニバーサル・アクセスの方が重要になってくるだろうと付け加えた。

    一方、日本でのユニバーサル・サービスの今後について、総務省の鈴木課長は、総務省としてもユニバーサル・アクセスのほうに関心を向けており、そちらの実現を重視しているという見解を述べた。つまり(レッシグ教授が指摘するように)、IPネットワークの上に音声もデータもすべて載るようになっている現在、テレフォニーのネットワークだけをもってユニバーサル・サービスとはいえないのではないか、ということだ。
    また、過疎地域におけるサービスについては、住民からの発議でサービスを入札にかけるような手法も欧州では取り入れられていると指摘し、そのような案を導入できるかどうか検討を進めたいという考えを示した。
    1984年に「ユニバーサル・サービス」(中公新書)を著した林教授は、ユニバーサル・サービスという言葉はやや一人歩きしてしまったところがあり、本来はもっとフレキシブルで、電話だろうが、テレビだろうが多様な手段でサービスが到達しさえすればよいという考えであったと補足した。

    NTTの経営問題を考える際にはユニバーサル・サービスのほかにも、政策的に会社の再編を政策当局が考慮すべきではないか、という問題もある。ペッパー局長は、行政当局が積極的に業界再編を仕掛けていくことについては疑問符をつけたものの、通信のレイヤーがIPネットワークにより崩れていく中で、エッセンシャル・ファシリティを維持していくために、ローカル・ループ(市内通信網)を集合させて管理する、いわゆる"loop-co"会社への再編はやり方としてはアリで、そういう会社への投資ニーズは存在しているので可能性は十分あるだろうと述べた。また、過疎地域の通信ニーズについては、過疎地域から都会、またその逆という通信ニーズがあるので、実はそれほど絶望的ではないと論じた。

    レッシグ教授は、補助金を与えるという考え方に懐疑的な見方を示し、貧困対策は別の形で行うべきであり、このような形で行うのは望ましくないと述べた。
    一方鈴木課長は、通信事業者もビジネスをしているのだから、与えられた環境の中で競争していくのが筋であり、以前定額だった通話料がオイルショックを契機に値上げされていった経緯を考えると、IPと電話も十分競争関係を作り出せると論じ、そのような環境を作っていくことが政策面での課題となるだろうと述べた。

    第1セッションでのフロアからの質問としては、ユニバーサル・サービスの歴史的な背景を踏まえ、必ずしもNTTが一元的に担う必要が本当にあるのかという東京大学の岡崎氏からの質問に対して、林教授はユニバーサル・サービスはある種の通信事業の一元化、独占を正当化するスローガンのようなものであったと述べた。レッシグ教授、ペッパー局長もそれに賛同し、歴史的経緯としてAT&Tのスローガンであったこと、当時は相互接続ルールが未整備など、競争環境が整備されていなかったため、独占を認めるかわりにユニバーサル・サービスを義務づけていたのだという。一方、現在の状況は端末レベルでは依然として独占が続いており、独占とユニバーサル・サービスを巡って展開された20世紀初頭の状況に再び回帰しているのではないか、とペッパー局長は述べた。

    第2セッション「電波の開放」

    基調講演(竹田義行電波部長):現在の日本の電波政策の概要

    第2セッションの基調講演は総務省総合通信基盤局の竹田義行電波部長が、現状の日本の周波数解放戦略と、それに向けての政策について解説した。竹田部長によれば、電波政策ビジョン(情報通信審議会で出した答申)、および省庁内の諮問機関である電波有効利用政策研究会の答申(2003年9月第2次答申発表)に基づき、現在具体的な政策案を作っているのだという。その骨幹となるのが周波数の割当ての抜本的な見直し、そしてそのための体制整備であり、具体的には利用効率を周波数帯域別に調査し、効率の低いものや、光ファイバー等の代替手段で解決できる周波数利用については「立退き料」的な制度の創設(給付金制度の導入)で解決するとした。また、将来の免許制度のあり方については、無免許帯の拡大、レッシグ教授がいうコモンズの導入も推進していくことを検討していると述べた他、現在デジタル放送のアナアナ変換などに利用されている電波利用料の体系も、経済的価値を反映したものに改善していく意向を表明した。

    周波数コモンズの拡大とCommand and Control型規制手法の将来

    この基調講演に対して、ペッパー局長が米国での取り組みについて、昨年秋に発表された、FCCのSPTF報告書でも述べられている通り、20年ほど前から、従来のCommand and Control型の行政手法(周波数のエリアから利用用途、利用機器のスペックに至るまで、厳しい監督下に置くというやり方)から徐々に見直しを進め、無免許帯を導入するに至ったこと、さらに、周波数の割当て手法についても、人の手が介在し、既得権益者が有利になりやすい、いわゆる「美人コンテスト方式」から、免許人の柔軟な移動を可能にするPCSオークションなど、マーケット・メカニズムを通して価値をつけていくやり方の導入へと変わりつつあると述べた。
    また、SPTF報告書で導入を勧告された、複数の周波数帯を自動検知して利用する新しい無線技術の登場で、従来の周波数の希少性という概念が根本から見直される可能性があると指摘した。
    レッシグ教授は、日本の無線政策には無免許帯、教授のいうコモンズの導入など、多大な進歩があったことを評価したうえで、重要なのはマーケット・アプローチの是非ではなく、周波数を効率的に利用できるデバイスのための市場(無免許帯の導入)なのだと主張した。その一方で、総務省の考える周波数の割り当て手法が依然としてCommand and Control型の美人コンテスト方式であることには懸念を表明し、具体的には政府が周波数の利用状況を調査して、どのような基準で不効率か効率的かを定めるのかについて疑問を呈した。

    第2セッションには、最近無線技術に対して多大な投資を行っているインテル社のピーター・ピッチ通信政策担当ディレクターもパネリストとして登場した。ピッチ氏は、米国ではまだまだCommand and Control型によって管理されている周波数帯域が全体の80%にも達すると述べ、それは新しい無線技術を普及させ、便利なサービスをユーザーに提供する障害になっていると指摘した。また、電波の再配分について、配分システムと同様の手法(つまり、Command and Control型)で既存事業者から周波数を召し上げるのは危険ではないかと問題提起した。つまり、既得権益者の抵抗により問題が政治化するのではないかということだ。ピッチ氏は、それよりも無免許帯を増やしていったほうが解決は早いのではないかと付け加えた。

    最後に、有限会社風雲友の田中良拓代表取締役がコメントを行った。田中氏は、竹田部長の基調講演について激しく反論した。すなわち、第1に政策決定過程が本当によく公開され、国民に理解されているかどうか。第2に(第1の理由により)電波政策ビジョンにしても電波有効利用政策研究会の答申にしても、従来検討されていたことを並べたものにすぎず、免許制度は新しい無線技術を踏まえてどう変化するべきか、等の作業が見えてこないと指摘し、数年たった段階では日米の周波数対策には大きな差がついているのではないかという危惧を表明した。

    司会を務めた池田上席研究員は、これまでの議論を整理したうえで、これまでのCommand and Control型の行政手法を今後FCCはどうしていくつもりなのかをペッパー局長に質した。ペッパー局長は、もちろん一部ではCommand and Control手法も残るとしながらも、大部分は他の手法に取って代わられるとし、将来的には20%程度にまで縮小するだろうと発言し、会場を驚かせた。
    レッシグ教授は、それに代わる手法として無免許帯(ただし技術基準が存在する)の拡大が有望で、さらにUWBのような既存の利用形態と共存できる新しい無線技術の登場がインパクトを与えると述べた。ペッパー局長もそれに同意し、テレビの空きチャンネル(ガードバンド)を利用すれば、かなりの帯域が再利用できるので、SPTFでも"Smart Radio"として取り上げたと付け加えた。ペッパー局長によれば、これは無線ISPへの道を開く重要な技術になるのだという。

    一方、このような斬新なアイデアが続出した米国の状況に対して、日本はどうであろうか。竹田電波部長は、レッシグ教授の指摘した周波数利用の評価基準について、オープンに意見を求める意向を示した。また、Command and Control型行政の今後については、何割かは残るとしながらも、その具体的数値については明言を避けた。ただし、SPTFは十分研究した上で電波政策ビジョンや電波有効利用研究会の議論をしているので、その結果を見て判断してほしいと述べた。また、池田上席研究員から質問があったオークションの導入の可能性についても、少なくとも否定はしないものの、欧州の第3世代携帯電話(3G)のオークションの失敗を取り上げ、肯定的な評価は下していないという見解を示した。

    これに対してペッパー局長は、以前は慎重であったオークションを実行して成功を収めた米国の事例について、欧州の失敗事例なども考慮に入れて検討を重ねた結果実施している現在のオークションの形式が、周波数の最適配分を実現する方式なのだと自信を示した。さらに、欧州では免許とオークションが密接に結びついていたため、サービス範囲に限界が生じていたが、本来無線技術はサービスと不可分ではなく、第○世代という呼び方は馬鹿げていると指摘した。つまり、第1世代携帯電話の周波数免許を用いて第3世代のサービスを行っても別にかまわないのだ。また、オークションで落札する業者はもっとも高く評価をする故に、投資を積極的に行いサービスを早期に開始する傾向にあることも指摘し、オークションは周波数の有効利用を促進する有力な手段であることを強調した。

    竹田部長は、日本においてオークションを採用しない(という判断を今のところしている)理由について、4.9-5.0Ghzの帯域では、給付金制度で退いてもらったほうがコスト的にも有利だという判断をしていると述べた。

    新しい無線技術の登場と、柔軟性を持った免許制度への転換

    次に、オーバーレイ、アンダーレイ(別名UWB)として知られる新しい無線技術について、インテルのピッチ氏が紹介をした。アンダーレイは電力が弱いために既存の電波利用に影響を与えず、オーバーレイはテレビのガードバンドなどの空いている電波を知覚して通信を行うことだ。この分野の技術革新はかなり進んでおり、インテルの実験によればサンフランシスコでは無免許デバイスがオーバーレイを利用してきちんとしたサービスとして展開できるほどのクオリティを発揮したという。レッシグ教授はUWB技術へ移行するための意思決定をする際に、既存技術との相互接続性が外部経済性を持ってしまい、なかなか普及に至らない可能性があることを指摘した。しかしながら、レッシグ教授はUWBの可能性を高く評価しており、オーバーレイ、アンダーレイ双方の有望性の証左となる可能性を秘めていると述べた。
    ピッチ氏は、レッシグ教授のコメントに全面的に賛同すると述べ、政策的に求められる課題として、政策当局はこれらの技術に対して意味のあるトライアルを許容すること、すなわち無免許帯を拡大する、あるいはオーバーレイ・アンダーレイの可能性を追求していくことが必要だと述べた。

    ペッパー局長は、新しい周波数免許制度について、FCCがやったことは、ある周波数の帯域を高く評価する事業者に、(そこを使っている)低く評価する事業者が免許を売りやすくするようなインセンティブを与えるという、マーケットの力を利用して多くの周波数を効率よく利用してもらうためのものだと指摘し、またオークションを使うことで免許の柔軟性を拡大して、新規参入を図ったり、免許人を整理して大きなブロックとして再編成することも可能になると述べた。
    ただし、オークションは儲けを出すためにやっているのではなく、新しく参入を望む事業者のために機会を与えることを重要視しているのだと付け加えた。

    レッシグ教授は、UWBの普及に関して、国防総省がUWBの普及に対して異議を唱えてくるかもしれないとしながらも、本来国防総省はそのような電波の環境の下で作戦をすることを前提としているので、電波を使っていることが分かりにくいUWBは彼らが使う場合においてもむしろ歓迎すべき技術であると付け加えた。
    ペッパー局長は、アンダーレイの鍵となる干渉の許容範囲について、最近FCCで許容範囲(干渉温度:Interference Temperature)について勧告をまとめたと述べた。また、国防総省との調整については、もともとUWBは国防総省から出てきた技術であり、SPTFのメンバーにDARPAのKolotzy博士が入っているのも、彼が技術の方向性に熟知しているからだと述べた。

    第2セッションのフロアからの質問では、アジアネットワーク研究所の会津泉氏が、日米の情報通信政策のバックグラウンドの違いを指摘し、日本で制度をそのまま取り入れるのは難しいのではないかという問題提起を行った。ペッパー局長は、日米での環境の違いは認めつつも、FCCは免許に対して柔軟な姿勢を取っており、ある事業者が挑戦して駄目だった場合は、その周波数で別のサービスを行いたい事業者がFCCに引継ぎを求めれば、新しい免許を受け取ることが出来ると説明し、柔軟性が高いことの優位性を強調した。たとえば、NexTelという携帯電話の会社は、工業用の特殊な用途に使われていた周波数帯を引き継いでサービスを開始したのだという。
    ピッチ氏もそれに賛同して、市場の力によって適切な柔軟性を持つ周波数配分制度が機能すればさらにその周波数が高い価値を生み出すのだと述べた。また、柔軟性があるということは、その周波数を限定的に利用することはコスト高になるので、新しい収益性の高いサービスを効率的に展開するインセンティブとなるのだと指摘した。

    次に、ルート(株)の真野浩氏が、UWBについて技術的な不安定さと、電波の世界では干渉が起きればすべてその帯域は死んでしまうことを指摘して、UWBを万能のように考えるのは危険ではないかと質した。レッシグ教授は、少なくとも現行の無免許帯は無秩序ではなく、技術基準がきちんと存在しており、決して無秩序を容認しているわけではないと述べた。また、UWBの現状について、UWBに関してのそれほど重大な技術的証明はまだなされていないが、理論的にベストな無線システムだという根拠があるために、自信を持って推しているのだと論じた。またUWBの利用方法は、テレビの放送のような用途に使うことは出来ないけれども、それらの電波をかいくぐって利用するのには適していることから、周波数の有効利用という見地からもぜひ実現されるべきだと主張した。

    まとめ

    今回のシンポジウムでは、ブロードバンドの推進で出遅れた感があった米国が、徹底的な議論を経て、かなり斬新な政策を有線・無線双方で打ち出してきたことが印象深かった。その代表例は、第2セッションにおけるペッパー局長が言明した、Command and Control型周波数行政の割合は20%程度まで削減されるだろう、という発言であるが、それ以外にもオークションや無免許帯の拡大など、興味深い政策案の数々が披露された。
    一方で、日本側の政策担当者のコメントは以前と比べれば、かなり斬新な内容であったが、発言のスケールや広がり、情報通信全体にまで広げた場合の視座について、残念ながらペッパー局長やレッシグ教授のレベルにはまだ達していないことが明らかになったのも事実であった。
    情報通信政策は市場との関連が非常に強い分野であり、また政府の規制が市場に対しても大きな影響を与える分野でもある。それゆえに、政策担当者の一挙手一投足には非常に注目が集まるところである。情報通信政策の方向性は数年前と比べれば我々が2001年のシンポジウムで構想した状況に近づいてきており、今後はそのような明快な討論・討議が民間の知恵を交えたオープンな形で行われることで、我が国の情報通信政策がより市場の成長を促す効果の高いものになっていくことを期待したい。