新春特別コラム:2024年の日本経済を読む~日本復活の処方箋

生成AI活用による物流業界のDX推進

松本 秀之
コンサルティングフェロー

2025年の崖を回避する生成AIの活用

本年(2023年)公表された最新版の生成AIには画像のアップロード機能が追加されている。それにより、紙ベースの書類をデジタルデータに変換する、手書きの図表をデジタルフォーマットに変換する、画像に記された事象を解読し説明する、そして画像に記された商品の背後にあるプログラムを可視化するなど優れた機能を装備している。2018年9月7日に経済産業省のデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会により公表されたDXデジタルトランスフォーメーションレポート「ITシステム『2025年の崖』の克服、DXの本格的な展開」で指摘されている期限まで残り1年となった2024年新春、日本の物流業界におけるDXを力強く推進するための方策として2023年に大きく飛躍を遂げた生成AI活用の具体的な取り組みを提案する。

紙ベースの事務処理からの脱却

まず初めに書面に記載されている情報をデジタルデータに変換する生成AIの機能を活用することができる。日本の貿易実務の分野においてはいまだ紙ベースの事務処理が数多く残っている。スムーズな資金決済を実現するために銀行が発行する支払確約書としての信用状(Letter of Credit, L/C)、輸出する事業者から貨物を受け取った際に船会社が発行する証明書類としての船荷証券(Bill of Lading、B/L)、商品の情報および輸出入事業者間の取引条件が記されている証明書類としてのインボイス(Invoice、I/V)、輸出貨物の梱包状況を記した証明書類としてのパッキングリスト(Packing List)、保険会社から保険申請者に発行される貨物保険の条件が記載されている保険証券(Insurance Policy、I/P)、そして特恵関税制度の下関税の免税が行われる国および地域から商品を輸入する際に原産性を証明する原産地証明書(Certificate of Origin、C/O)などの複数の証明書類が国境を越えてやり取りされている。

通関業者はこの多岐にわたる紙ベースのオペレーション業務に対して書類の倉庫保管などを含めて多くのコストを支払っている。2022年1月1日の電子帳簿保存法施行を見据えて、数年前から物流業界ではAI-OCR技術を活用し紙上の情報をデジタルデータに変換して保存する取り組みを推進してきたものの、そのテクノロジーの限界から変換の正確率が半分以下であるといった事例もある。これに対して2023年に公表された生成AIの最新版には高度な画像認識機能が搭載されているため英語のみならず日本語を含む紙上の情報のデータ変換を正確に行うことが可能である。システム導入費用が安価なオープン型の生成AIのこの機能を広く活用することにより、貿易実務の現場でDX推進の基礎となる紙ベースのオペレーションからの脱却を大きく進めることができる。

HSコードの特定

次にHSコード(Harmonized Commodity Description and Coding System)の特定の分野にオープン型AIを活用することができる。日本で輸出入統計品目番号、関税番号あるいは税番と呼ばれている国際条約に基づいて定められているHSコードは5年ごとに見直しが行われることから最新では2022年1月1日に改正されており、現在、世界税関機構(WCO)非加盟国を含めて200以上の国および地域に使用されている。このHSコードはあらゆる貿易対象となる品目を第1部の「動物(生きているものに限る。)及び動物性生産品」から、第21部の「美術品、収集品及び骨董」まで21のSection(部)に大分類し数字で表している。6桁の初めの2桁をChapter(類)、その後の4桁をHeading(項)と定め、さらに各国が貿易統計を算出するために、その下に2桁もしくは3桁の数字を追記した合計8桁もしくは9桁をStatistical code(統計番号)と定め、その数字を通称フル桁HSコードと呼んでいる。

各国の税関による判断が同じ物品に対しても異なる場合がある。また、このフル桁HSコードの下2桁もしくは3桁は各国で異なることから、輸出事業者が輸入国側のフル桁HSコードを判断することは困難である。輸入業者が行う輸入申告の際に輸入申告書に記載する関税の金額は、このフル桁のHSコードごとに定義されている関税率に基づいて算出される。仮に輸入事業者が記載するフル桁のHSコードに間違いがあった場合には輸入事業者は輸入国の税関から罰金や修正申告を求められることがある。そのため、輸入事業者は関税分類事前教示制度などを活用して正確なHSコードの記載に取り組む必要がある。

取扱品目数が数万に及ぶ輸入事業者も数多く存在することから、この分野にここ数年AIを活用した品目分類システムを導入した事例があったものの、そのAIは社内の品番や原材料、色、形状、重さなどを表した文字をベースとして品目を判定するシステムが主流であった。これに対して2023年公表の生成AIの最新版は画像認証機能が搭載されているため、物品の画像をビッグデータとして保存し、それを元にHSコードを正確に判定するシステム構築が可能となった。

原産性判定とEPA活用

さらに原産性の判定の分野に生成AIを活用することができる。WTO加盟国である日本はWTO加盟国に適応されるMFN(最恵国待遇)レートを定めている。加えて開発途上国および地域を原産地とする鉱工業農水産品の輸入に対して一般的な関税率よりも低い税率を適用しその国々の経済発展、輸出所得の増大、工業化促進を支援するGSP(一般特恵関税制度)レートが存在する。

日本は20年以上にわたり各国とのFTA(自由貿易協定)そしてEPA(経済連携協定)の拡大を推進してきた。発効順にシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、EU、米国、英国とのEPAが既にあり、加えて地域協定としてASEAN EPA、CPTPP、RCEPが存在する。今後、トルコ、コロンビアに加えて日中韓とGCC湾岸協力理事会との協定の交渉が行われている。

これにより輸出入を行う場合に活用できるEPAが重層的に複数存在する状況が生まれている。各協定には品目毎に付加価値基準(Value Added、VA)、関税分類番号変更基準(Change in Tariff Classification、CTC)、加工工程基準(Specific Processing、SP)などの原産性の判定基準が定められている。この原産地規則の中には複数の基準を全て満たすこと、もしくは複数の基準のいずれかを満たすことといったケースもある。結果、貿易実務の現場では、どの協定を活用すると最も関税額が少なくなるのかという最適解を見いだすために、HSコードの正確な特定、各協定で品目ごとに異なりさらに年ごとに変化する将来関税率の確認、そして原産性判定基準を満たしているのか否かの確認をするという全てのプロセスを実施する必要がある。

本年公表の生成AIの最新版にはドキュメントから直接デジタルデータを作成する機能が搭載されているため、各協定の公表ファイルから原産地規則などをデジタルデータへ変換すること、そして最新のMFNレートおよびGSPレートをタイムリーに取得することにより、複数発効の結果として重層的となったEPA活用の最適解を見いだす統合データベースを作成することが可能となる。

参考文献

2023年12月22日掲載

この著者の記事