男女の政治家に対するステレオタイプ

尾野 嘉邦
ファカルティフェロー

政治における男女格差

日本は先進諸国の中で政治における男女格差が最も大きい国の1つである。衆議院における女性政治家の比率は9.7%で、世界193カ国の平均である25.9%を大きく下回っている(注1)。なぜ女性議員の数がこれほどまでに少ないのだろうか 。議員の割合において、このような男女格差が生じる理由の1つとして、有権者が性別に基づいて一定のステレオタイプを持ち、選挙で女性候補者を不利にしている可能性が挙げられる。

ジェンダーステレオタイプ

ステレオタイプというのは、人々が人種や性別などに基づいて抱く固定観念のことで、男性・女性というのはこういうものであるという性別による固定観念のことをジェンダーステレオタイプという。社会心理学の研究などで、そうしたステレオタイプは偏見や差別的行動にも結び付くとされてきた。それでは、日本の有権者は、男女の政治家に対して、それぞれいったいどのようなステレオタイプを抱いているのだろうか。

日本人有権者への調査

日本人有権者の間に見られるジェンダーステレオタイプを明らかにするため、2019年3月に約3,000人の有権者を対象として、インターネットによる調査を実施した。この調査では、かつて米国で行われた研究(注2)と同じ質問と質問形式を用いることで、米国人有権者の間に見られる傾向との比較も試みている。具体的な調査デザイン等については、ディスカッション・ペーパー(注3)に譲るが、ここでは政策領域と個人特性に関して明らかになった日本人有権者のジェンダーステレオタイプについて簡単に紹介する。

政策領域に関するジェンダーステレオタイプ

政策領域に関しては、11の政策領域を提示し、それぞれの政策を扱うのが一般的により得意なのは男女の政治家のうちどちらかであると思うかを質問した。回答は、男性の方、女性の方、男女で差がない、の3つを選択肢の中から1つを選ぶという形式である。その結果をまとめたものが図1で、日本人有権者も米国人有権者と非常によく似たステレオタイプを抱いていることが明らかになった。具体的には、犯罪と治安、経済と雇用、安全保障、移民、財政赤字といった政策領域については、男性政治家の得意分野だと考える人の割合が高かった。一方、教育、医療、保育・児童福祉、少子化問題、年金・社会福祉といった政策領域については、女性政治家の方が得意な領域だと考える人の割合が高かった。

図1
図1

個人特性に関するジェンダーステレオタイプ

個人的特性についても同様に、10の個人特性を提示し、それぞれの特性について一般的により当てはまるのは男女の政治家のうちどちらであると思うかを質問した。その結果をまとめたものが図2で、米国とほぼ同様の傾向が見られた。日本人有権者は、男性政治家の方が、合意形成がうまく、決断力やリーダーシップ、政治的経験があり、支配的であるととらえる一方、女性政治家の方が、思いやりがあり、誠実で、知性的であると認識している。ただ、信頼できるかどうかについては、男性と女性の政治家の間でほとんど違いは見られなかった。

図2
図2

ジェンダーステレオタイプの影響

こうしたジェンダーステレオタイプは、有権者の投票行動にどのような影響を及ぼすだろうか。ジェンダーステレオタイプがあることによって、男性政治家、女性政治家が、それぞれ得意分野と考えられる領域以外の政策について何らかの見解を明らかにしたときに、有権者の反応や評価がネガティブになる可能性がある。例えば女性政治家が、「男性的領域」とされる安全保障の分野で積極的に発言したり見解を示したりしても、有権者はそれを信用したり評価したりしないかもしれない。

筆者が2015年に約2700名の日本人有権者を被験者として行ったサーベイ実験の結果によると、全般的に男性候補者の方が女性候補者よりも好まれる傾向にあるというだけでなく、女性候補者がステレオタイプから逸脱した場合、選挙で票を失う可能性があることが示された(注4)。つまり、女性候補者の場合、女性であることを強調すると選挙で不利になる一方で、「女性らしく」振る舞わないことでも有権者からネガティブな評価が下されてしまうという可能性があり、選挙戦略を考える上で男性候補者に比べて難しい選択を迫られるということが予想される。

ただ、ジェンダーステレオタイプが政治家の評価や行動に及ぼす影響については、日本でも海外でも研究が始まったばかりであり、まだ十分に解明されてはいない。これらの解明が進むことで、政治における男女格差を縮小するための方策について手がかりを得ることが期待できることから、今後のさらなる研究が待たれる。

脚注
  1. ^ https://data.ipu.org/women-averages
  2. ^ Dolan, Kathleen A. (2014). When Does Gender Matter?: Women Candidates and Gender Stereotypes in American Elections. Oxford University Press, USA.
  3. ^ https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/21070019.html
  4. ^ https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/18060006.html

2022年5月24日掲載

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