特別コラム:東日本大震災ー経済復興に向けた課題と政策

復興のなかで構築すべき新しい社会システムを考える

後 房雄
ファカルティフェロー

原発をめぐる緊急事態から依然として脱却できないままだが、それへの対処と並行して、東日本大震災の甚大な被害からの復興への戦略的な取り組みもまた緊急に開始されなければならない。

その復興は、単なる復旧ではなく、新しい社会システムの構築であるべきだということには異論がないだろう。被災から救援にかけて露わになった日本社会の問題点は多いし、限定された地域の復旧という枠に収まりようがないほど被災地域は広く、復興に必要とされる期間も長期に渡ると予想されるからである。日本における21世紀型の社会システムの模索は、東日本の復興を中心課題の1つとして進めていかざるをえない。

それだけに、救援や原発事故に取り組む政治行政をはじめとする社会システムの機能が国民の期待を大きく下回るものだったことは出発点として確認せざるをえない。しかしながら、3・11からのこの1カ月においては、多くの人はそのことを声高に批判せずに見守っていたと思われる。

「被災地の惨状について、避難所で暮らす人たちの苦労について、暴れる原発を鎮めようと(文字どおり)懸命に働いている人々の努力について、いったい何がいえるだろう。(中略)
政府や東電に対してみんな言いたいことはたくさんあるだろう。しかし現場にいるのは彼らであるし、不器用で混乱しているように見えても今は彼らに任せておくしかない。事前に彼らを選んでおいたのは我々だから。」(池澤夏樹「春を恨んだりはしない」、『朝日新聞』4月7日付け夕刊)

1カ月を経て、現在の社会システムの問題点について語る声はだんだんと大きくなっているし、それは当然のことである。しかし、それは単なる責任追及や為にする批判ではなく、復興のなかで構築すべき、そして復興過程を支えるべき新しい社会ステムの模索のためのものであるべきだろう。

与党、野党それぞれの成熟を

最初に取り上げるべき論点は、いうまでもなく、政治行政のあり方である。「政権交代のある民主主義」をめざす第一歩としての政権交代以後の新政権の混乱状態が収まらないまま、ほとんど誰も想定しなかったほどの規模の災害に直面したことを考えれば、不幸なことだがやむをえない部分はあるかもしれない。しかし、政府、与党、野党の政治家たちの動きのなかに、事態が要請するものと比べてはるかに低次元の思惑が透けて見えるのにはやはり深く失望させられた。

もともと、政権交代メカニズムが機能する成熟した民主主義へと移行するのは与野党の共同事業であるが、それを基礎に中長期に渡って復興を担えるような政治行政システムの構築は今やまったなしの課題である。

私の見るところ、民主党の政権運営能力の著しい未熟さはもはや明らかである。また、日本政治の移行期を野党としても支えようという志が、長い与党経験を持つ自民党にほとんど見られないということも明らかとなった。

衆参二院制の矛盾が顕在化した「ねじれ国会」が最低でも3年前後は続く以上、当面の解決策は何らかの形での「大連立」しかないだろう。問題は、権力欲と権力欲の妥協としての低次元の大連立か、民主党、自民党がともに「政権交代のある民主主義」を担える政党、つまり与党も野党も勤まる政党へと成熟し、そのためのインフラやルールも整備する過程としての大連立か、である。後者のような(せめて後者の要素が優位な)大連立でなければ、国民に支持されないし、復興においても機能しないだろう。

そのための最低限の条件は、次の総選挙(または衆参同日選挙)までという期限を限定し、取り組む主要課題を明確にすることである。さらに、仮に政界再編をするのであれば次の総選挙の(直後ではなく)直前に行うこと、新しい政党として民意の審判を受けたうえで次の4年間はそれぞれ与党と野党の役割を果たすという合意を形成することも不可欠である。政権は衆議院多数派が担うという原則さえ無視した権力争いを繰り返すことは許されない。

政府行政セクター、企業セクター、サードセクター

もう1つの重要な論点は、市民、住民の多様なニーズに対応したサービスが提供できるようなシステムを、政府行政セクター、企業セクター、サードセクター(NPO、各種公益法人、協同組合、地縁組織、社会的企業などを広く包括する)の新しい連携分業のなかでいかに構築していくかという問題である。

かつての「大きな政府」ないし福祉国家の時代のように、公的資金を投入するだけでなくサービス提供も政府行政セクター(および外郭的団体)が中心となるシステムは、新自由主義のインパクトを受けて根本的な転換を迫られた。しかし、公的資金を投入しないでサービス提供を民間に委ねる狭義の「民営化」を強引に進めようとした初期の「粗野な新自由主義」が有効な分野は限定的である。

フルコストを賄う公的資金を投入したうえで、サービス提供を民間(企業とサードセクター組織)に委ねるための制度設計の工夫が不可欠である。事業委託契約、指定管理者制度、バウチャー(準市場)制度などである。

顕著な問題点を1つ指摘すれば、特別養護老人ホーム、保育所、病院、学校などの運営を、特定の公益法人にしか認めないなどというシステムで時代のニーズに対応できるとは思われない。現に、老人ホームや保育所の待機者数が減らない状態が続いている。

また、いくつかの被災自治体では、自治体機構そのものの再建が必要となるが、その際には、シティマネジャーとその補佐数人だけを雇用して、行政活動はすべて民間企業に委託する形で新しい自治体を立ち上げたサンディスプリングス市(ジョージア州)の事例が参考になるだろう。

最後に、地域コミュニティについても、単なる現状維持、復旧ではなく、今後数十年機能しうるような新しいあり方を大胆に模索すべきである。たしかに、町内会、自治体などの地縁組織が今回もまた重要な役割を果たしたが、全戸加入の建前、行政との曖昧な関係を維持したままで、長期的な衰退傾向を脱し、復興における重要な主体になりえるだろうか。

東北6都市の町内会の最新の研究によれば、90%以上の世帯が加入している町内会は80%前後にまで減っており、多くの町内会長が、「役員のなり手不足」、「会員の少子高齢化」、「行事への不参加」という問題点を指摘している(吉原直樹編著『防災コミュニティの基層 東北6都市の町内会分析』御茶の水書房、2011年3月)。

一世帯一票という原則は維持するとしても、任意加入と透明な意思決定を前提に、「公共的団体」などという曖昧な性格に安住せず、最も地域に根ざした民間の非営利組織としての新しいあり方を目指すべきだろう。その際には、従来のような共益組織から公益組織(非会員も含む地域全体への貢献)へと転換することが決定的に重要になる。また、福岡県大野城市の事例のように、有給職員を核にした事務局を確立することが望ましい。行政との関係もまた、不透明な委嘱、補助の関係から、フルコストに基づく事業委託契約へと基調を転換させることが必要だろう。

最後に、復興初期においては、外部から入るボランティアやサードセクター組織の役割も重要だが、被災地住民に雇用を提供するような企業やサードセクター組織が再建され、無数に起業されることが今後の復興において不可欠であることを確認しておきたい。

2011年4月21日

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2011年4月21日掲載

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