競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第20回「新技術の活用」

〈技術マーケティング〉
今回は主にハイテク産業が競争力を維持するために力を入れている技術マーケティングという手法を紹介する。具体的には、前回取り上げたモジュール(かたまり)部品を供給する企業も含め、さまざまな分野においてどの企業が最先端の技術を持ち、どの企業がこれを追っているのか、常に目配りすることだ。
すでにみたようにモジュール化の普及によって、情報技術(IT)関連を中心に先端技術の開発を競うベンチャー企業が相次ぎ誕生している。こうした外部の最新技術をいかに活用するかが企業の競争力を決める。
技術マーケティングを駆使して急成長した企業の代表格が米IT企業のシスコシステムズだ。シリコンバレーのベンチャー企業の1つだった同社はインターネットのルーター(経路制御装置)生産を中心に業績を大きく伸ばしてきた。

〈A&Dで成長〉
シスコが独自に開発する技術は少ない。それでも成長を続けることができたのは、先端技術を外部から購入してきたためだ。ルーターなどに関する技術革新の競争に勝ち抜いたベンチャー企業などを買収し、この会社が持つ技術を開発チームごと取り込むのだ。こうして先端分野で常にトップの地位を維持する。
シスコは九三年以降、70社以上を対象に活発な企業買収を実行した。こうした買収(アクイジション)による開発(デベロップメント)をA&Dと呼ぶ。
買収先の企業を選ぶ際に重要な役割を果たすのが技術マーケティングだ。シスコは新たな技術の獲得を目指す場合、10社以上の候補企業の内容を比べるといわれる。ベンチャーキャピタルなどとの非公式なネットワークも使い、新技術を得るにはどの企業の買収が最良なのかを検討する。
シスコは企業を買収する際、自社と買収先企業の株式を一定比率で交換する手法を用いることが多い。シスコの企業買収は新技術の獲得を意味するので、シスコ株の価値は上がることが多い。すると、株式交換でシスコ株を得た買収先企業の株主の資産も増える。
主な買収対象であるベンチャー企業の株式の多くは創業者が持つので、シスコが獲得を目指す魅力的な先端技術の開発は各社の大きな目標になる。シスコはハイテク業界における「技術の目利き」の1つとして認知されている。

〈日本企業の対応遅れる〉
日本の半導体メーカーの対応 このようにハイテク産業が代表する激しいイノベーション(技術革新)競争を勝ち抜くには、最高の技術を最小のコストと最短の時間でつなぎ合わせるビジネスモデルの確立が必要になる。このカギを握るのが技術マーケティングだ。
米国を中心にこうした認識を強める企業が増えているが、日本ではまだ十分に浸透していないようだ。経済産業研究所が昨年1月、日本の大手半導体メーカー8社を対象に実施した調査ではグラフのような結果が出た。各社は技術マーケティングが重要だと認めているが、それを活用するための具体的な体制作りは遅れていると考えられる。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

ページトップへ