競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第19回「モジュール化」

〈複数の部品をまとめる〉
米シリコンバレーの情報技術(IT)関連企業が世界最高水準の競争力を実現できた主因はモジュール(かたまり)化の活用だ。モジュール化とは、1つの仕事を遂行するための複雑なシステムをいくつかの小さな単位に分け、後でつなげる方式だ。新たな分業の一形態といえる。
これを積極的に取り入れる欧米の自動車産業の事情をみる。部品メーカーは従来、1つひとつの部品を完成車メーカーに納入していた。だが、新方式により、あらかじめ複数の部品を組み合わせて前面パネルなどの「モジュール部品」を仕上げ、これを組み立てる。こうして完成車メーカーはコストを削減できる。
市場の変化に素早く対応するには独立した小組織による競争と分業の確立が役立つ。デジタル信号を伝えることができれば途中経過は重要でないIT関連企業ではなおさらだ。

〈米IBMが先駆け〉
モジュール化の先駆けは米IBMが1964年に始めた試みだ。初期のコンピューターはほぼ一品生産でソフトや関連機器の互換性もなかった。だが、同社はモジュール部品を作り、これを共有する機種内での互換を可能にした。
技術者はモジュール部品を改良するだけでなく、ベンチャーキャピタルを活用して独立する例も増えた。この動きは半導体、ソフト業界にも及び、多くの新興会社がシリコンバレーを形成した。先進的アイデアの具体化という夢が技術者を引き付け、ストックオプション(自社株購入権)などが努力の誘因となった。
シリコンバレーの企業群をはじめとするモジュール部品会社は独立しており、共通の設計ルールさえ守れば、開発の手段や方法は各社の自主性に任される。
このようにIT、モジュール化、ベンチャーキャピタルが絡み合い、90年代の米経済をけん引した。

〈スマイルカーブ〉
スマイルカーブのイメージ モジュール化が普及するにつれて、パソコン業界などでは「スマイル(U字)カーブ」と呼ばれる興味深い現象が顕在化した。
事業プロセスを試作品開発↓部品生産↓モジュール部品生産↓組み立て↓販売↓アフターサービスという流れでとらえる。各段階でかかわる企業は異なり、各社が得る利益はモジュール部品生産までの前段階と販売以降の後段階で高く、中央の完成品メーカーによる組み立ては最低だ。部品生産で大きな利益が生じるのは中央演算処理装置(CPU)などの重要部品だ。
利益の増減を図にすると中央がへこむ笑顔のようなU字形になる。組み立ては外部からのモジュール部品調達で大きく合理化できるので競争が激しくなる。このため、人件費の安いアジアなどに工程ごと移る。
モジュール化は米国だけでなく台湾、インドなどの企業にも波及した。日本の自動車業界なども本格的に取り組み始めたが、自前で全工程をこなすことに固執する企業はまだ多い。モジュール部品を提供する外部のベンチャー企業を育て、積極的に活用しないと国際競争で優位は得られない。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

ページトップへ