競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第9回「経済政策」

〈経営資源の最適配置〉
前回検証した東アジアの発展プロセスで分かるように、世界的な関税引き下げや規制緩和でモノ、カネ、ヒト、情報の移動は以前とは比べられないほど容易になった。企業は資本など経営資源の最適な配置を目指し、経済の国際化は急だ。
日本はほかの先進国と同じく、一九九五年の世界貿易機関(WTO)設立前の関税貿易一般協定(GATT)時代から鉱工業品を中心とした段階的な関税引き下げを進めてきた。
関税引き下げは輸入価格の下落につながる。消費者は割安な外国製品を入手する機会が増え、競争激化で国内企業はコスト削減に取り組まざるを得なくなる。
グラフは政府資料をもとに、主要な貿易品目について九五年の平均関税率と九八年の業界従業員一人当たりの付加価値額の関係を示している。ともに現在入手できる最新のデータだ。

〈関税率と生産性は反比例〉
1人当たり付加価値額と平均関税率 これによると、自動車をはじめとする輸送機械、電気機械、精密機械などの平均関税率がゼロか極めて低い製品の一人当たり付加価値額は最高水準にある。一方、食料品、繊維製品の平均関税率は10%を超え、一人当たり付加価値額はかなり低い水準だ。
平均関税率が低ければ低いほど激しい国際競争に直面し、一人当たりの付加価値額が多ければ多いほど生産性は高い。このグラフをみる限りは、厳しい国際競争にさらされる製品ほど生産性が高いといえる。
このように国内市場を世界と隔てる壁が低くなり、世界中の企業が競い合う大競争時代には、経済政策もボーダーレス化する。
従来は企業の国内事業環境を整えるための国内経済政策と、海外事業環境を整備する対外経済政策は必ずしも連携しなかった。しかし、関税引き下げや非関税障壁の撤廃で国内外の市場の一体化が進むにつれて、国内の経済政策が外国企業の行動に大きく影響するようになった。同時に、国際的な貿易・投資制度の変化が日本国内の企業の動きを左右する例も増えてきた。

〈シンガポールと初のFTA〉
こうなると政府も内外一体の経済政策を実施する必要がある。国内経済政策と対外経済政策を有機的に結びつけ、内外市場の調和を促し、日本経済を活性化させるのだ。
最近の商法改正の主な目的は国内企業の事業再編を進める環境整備だけではない。外国企業の直接投資を呼び込む意図もあった。
日本は今年、初めての自由貿易協定(FTA)をシンガポールとの間で発効させる予定だ。同国を含む東南アジア諸国連合(ASEAN)、韓国などとも同様の協定締結を検討している。これは日本企業が外国市場に参入する機会を広げるとともに、低コストの外国企業との競争を強いる。
国内で新たな制度を構築する際には世界の動きを視野に入れる必要がある。国内ルールを世界標準として広める場合も同様だ。こうして国内外の競争ルールの違いが小さくなれば、異なる国の企業同士が互いに競争力を高め合える健全な競争環境を構築できる。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

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