競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第10回「直接投資」

〈スピルオーバー効果〉
企業が外国企業の経営権取得や現地法人設立などを目指して実施する直接投資は受け入れ国の経済にさまざまな影響を与える。
代表的なプラス効果は雇用創出、部品を含むすそ野産業の発展、競争促進などだ。これに加え、進出企業の先進技術や経営ノウハウが受け入れ国に移転する拡散(スピルオーバー)効果も指摘できる。
先進技術やノウハウは投資先の企業を通じ、その関連業界に広がる。さまざまな企業の研究開発、経営改革などを刺激し、生産性を高め、国際競争力の上昇につながるというわけだ。
このように外国企業の直接投資の増加には日本経済を活性化させる効果が期待できる。その規模は日本の事業環境がどの程度の競争力を持つのかを測る物差しにもなる。投資額が多ければ多いほど日本経済の魅力が高いと考えられる。
バブル経済が崩壊した1990年代以降、外資は金融、通信を含むさまざまな分野に進出してきた。
日産自動車に対するフランスの自動車大手ルノーの資本参加は外資進出の象徴とされた。ルノーが派遣した経営者の下でいまのところ業績は回復している。
流通分野では規制緩和を受けて米国、フランスから小売りの有力外資が相次ぎ参入。各社の先進的なノウハウが日本の流通業界に大きな刺激を与え、大型専門店ブームに火をつけた。

〈低い受け入れ水準〉
総固定資本形成に占める直接投資の割合 財務省によると、昨年度の対日直接投資額は3兆1254億円で、95年度の8倍以上に増えた。外国企業の直接投資が増える傾向は今後も続くとみられるが、世界の主要国と比べると水準はまだ低い。
国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では、2000年の世界の直接投資総額のうち日本への投資額は0.6%に過ぎない。これは米国の受け入れ額の3%未満だ。
外国企業からの直接投資の水準を国家間で比較する場合、住宅投資、企業の設備投資、社会資本投資などを合計した国内総固定資本形成に対する割合も利用する。同年のUNCTAD資料によると、日本の割合は1.1%で世界平均の16.3%を大きく下回る。
直接投資の水準は受け入れ国の国内総生産(GDP)、産業構造をはじめとするさまざまな要素が左右する。受け入れ国にとっての適正水準がどの程度なのか判断することは難しいが、日本の受け入れ余地が比較的大きいとは推測できる。

〈会計監査を厳格化〉
日本企業が国際競争力を引き上げるには、外国企業の直接投資を妨げるさまざまな規制を見直さなければならない。会計監査を一段と厳格にして企業情報の信頼性を引き上げる必要もある。
外国企業の直接投資がこのまま増え続けると、競争力が相対的に低いサービス部門などで外資のシェアが高まり、一部の国内企業はとうたされる可能性もある。だが、こうしたマイナスの効果よりも、構造改革の進展による多くの国内企業の競争力強化というプラスの効果に期待する時機がきている。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

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