競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第1回「様々な指標」

〈IMDの競争力ランキング〉
日本経済はバブル崩壊後の1990年代から低迷を続けている。国際競争力が低下したとの指摘も目立つが、実情は必ずしも明確でない。このシリーズでは外国との比較も交えて日本の競争力の現状を探り、成長が期待される産業別に今後の課題も検証する。
競争力の計測方法はさまざまだ。たとえば、ほかの国に比べて輸出額の多い品目や、より高度な技術水準を持つ産業は競争力が高いと表現することが多い。国全体の経済規模を表す国内総生産(GDP)や、その成長率で比べることもできる。
世界の民間研究機関などは各国の競争力を示す指標を開発し、測定結果を公表する。用いられる機会が多い指標の1つがスイスのビジネススクールであるIMD(経営開発国際研究所)が毎年発表する世界競争力ランキングだ。

〈世界26位に後退〉
国際競争力の総合順位 IMDは各国の経済規模、技術開発投資、労働者の教育水準、金融市場の規模などの各種データと世界三千社以上の企業経営者に対するアンケート調査の結果を総合評価して競争力を算出する。対象国・地域の数は2000年まで先進国中心の47だったが、昨年は49に増えた。同時に算出基準も変えたのでグラフでは2000年までの順位を示した。
日本の総合順位は93年まで5年連続1位だったが、その後急低下した。昨年は26位だ。実質GDP成長率など各種経済指標が悪化し、順位算出で約半分の重みがあるとされる経営者調査の結果も芳しくなかったためとされる。 中国を中心とする東アジアの製造業が成長して日本国内でも市場を奪い、日本企業の製造拠点が海外に流出する現状では、この評価も納得できる部分がある。
ダボス会議と呼ばれる年次総会の開催で有名な世界経済フォーラムも毎年、70五カ国について、計測時点での競争力を示す現状指数と、先行き五年程度の競争力を示す成長指数を公表する。昨年の日本は現状指数が15位、成長指数は21位だった。経済の構造的な問題の解決が遅れているとの見方から将来の予測順位が下がった。

〈技術分野は高水準〉
一方、研究開発投資や特許取得数などの技術分野の指標をみると日本の順位は高い。米ハーバード大のマイケル・ポーター教授らが参加する同国の競争力評価会議が発表した九五年時点のイノベーション(技術革新)指数は米国、スイスに次ぐ3位だった。
同会議はその後の順位を公表していない。だが、昨年のIMD指標でも、日本は技術開発に関する指数で米国に次ぐ2位だ。一人当たり特許取得件数などの技術関連指標はいまでも日米欧の主要7カ国で最高水準を維持しており、技術開発に熱心な国だといえる。
不良債権処理をはじめとする構造的課題の解決が進まず、マクロ経済に明るい兆しがみえない日本に対する評価は総じて厳しい。だが、長期的な経済成長の源泉である技術開発に取り組む姿勢は、将来の競争力向上に期待を抱かせる。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

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