競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第5回「生産性(下)」

〈小規模企業が林立〉
日本のサービス部門で電力、航空運輸、通信、金融の四分野は規制改革の遅れが健全な競争を妨げ、非効率性の主因になったことがわかった。一方、小規模企業の林立で効率が上がらない業界もある。この傾向が顕著な小売業を中心に日米の生産性格差を検証する。
従業員一人当たりの生産量を示す労働生産性を比べてみる。米経営コンサルタント大手マッキンゼーは米国の1995年、日本の97年のデータを用いて両国間の小売業の労働生産性の格差を業態ごとに解明した。結果はグラフに示した。
米国の小売業全体の生産性を100とした場合の日本の小売業全体の水準は50に過ぎない。六業態のうちスーパーなど四業態は米国全体の水準を下回るが、ディスカウントストア、専門店チェーンの二業態はこれをわずかに上回る。こうした一部の大型店に限れば日本も大きく水をあけられているわけではない。

〈55%が個人商店で働く〉
日本の小売業の労働生産性 日本の小売業全体の生産性を下げている主因は小規模な個人商店が多いことである。個人商店の生産性を示す指数は米国でも57に過ぎないが、日本ではこれを下回る19に落ち込む。小売業の全従業員数のうち個人商店に従事するのは米国で19%だが、日本では55%に達する。グラフ上で各業態が占める面積は付加価値の規模を示す。
マッキンゼーは食品加工、住宅建設、ヘルスケア(健康管理)の各業種でも90年代後半の日本の労働生産性が米国よりも低いとする。小売業と同じく、比較的規模が小さい企業が多いためだと分析している。
製造業も同様だ。日米の政府統計によると、製造業の年生産額は米国が日本のほぼ二倍だが、事業所数は米国が約65万(97年)、日本が約60万(2000年)で差は小さい。
日本のさまざまな業種で小規模な企業や事業所が多い理由は何か。消費者が製品やサービスの質に敏感で、多品種で少量の生産が中心なためという見方がある。
一方、法規制や商慣行が小規模な企業や事業所を守り、市場競争が不十分だったとの指摘もある。本来は市場から退出すべき非効率な企業が保護され、成長性の高い企業の新規参入が難しい状況だというわけだ。

〈安全ネット〉
最近では流通業界で大規模店の参入を規制する法律の緩和が進み、欧米企業の進出が相次いでいる。製造業や金融でも外資参入や企業間の国際的な提携に伴う対日直接投資額が急増しており、日本経済全体の構造改革を促しつつある。
こうした変革はサービス部門における国際競争も促し、長期的には日本経済の競争力を強化すると考えられる。だが、短期的には倒産増などの痛みをもたらす。総務省が発表した昨年11月の完全失業率は5.5%となり、3カ月連続で過去最悪を更新した。
厳しい状況に直面する中小企業や失業者を保護する安全ネットの充実は重要な政策だ。だが、必要な範囲を超えて生産性の低い企業の延命措置となれば日本経済にはマイナスになる。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

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