競争力の研究
第1回 様々な指標
第2回 製品の比較優位
第3回 生産性(上)
第4回 生産性(中)
第5回 生産性(下)
第6回 ITの活用(上)
第7回 ITの活用(下)
第8回 東アジアの発展
第9回 経済政策
第10回 直接投資
第11回 国際ルール
第12回 ミクロ分析
第13回 テレビゲーム
第14回 デジタルカメラ
第15回 半導体
第16回 繊維
第17回 銀行
第18回 組織IQ
第19回 モジュール化
第20回 新技術の活用
第21回 ロードマップ
(日本経済新聞「経済教室」基礎コース/2002年1月3日〜1月31日/全21回)
 
第15回「半導体」

〈世界市場でシェア低下〉
日本の半導体メーカーは1980年代には世界市場で急速にシェアを高め、一時は売上高の上位を独占した。しかし、90年代以降は勢いを失った。
ハイテク調査会社IDCジャパンによると半導体メモリーで主力のDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の2000年のシェアは日本企業で最高のNECでも6%で韓国、米国、ドイツ企業に次ぐ5位だった。
半導体の生産コスト 半導体産業は従業員数19万人、年間付加価値額2兆8000億円(ともに99年度)、設備投資一兆円(2000年度)で、いずれも日本の製造業で最大規模を誇る。だが、グラフに示したようにDRAMを例にした生産コストはライバルの米国、韓国、台湾よりも高く、収益力は低い。
なぜ現在の日本の半導体産業は競争力が低いのか、ポーター教授の手法で検証する。要素条件をみると高い能力を持つ技術者などの処遇が適切でないことがわかる。博士クラスの賃金は台湾などの方が高い。合理化が士気低下につながり、優秀な人材が外資に流出する要因になっている。

〈ベンチャー企業育成に消極的〉
大学など外部の研究機関との連携が乏しく、関連するベンチャー企業の育成にも消極的だ。
日本企業は比較的大きな国内市場を持つが、韓国などのライバル企業が初めから世界市場への供給を念頭に置いていることを考えると、需要条件は相対的に低い。定型品は得意だが新製品の開発力などで劣る。
関連・支援産業としては競争力の高い製造装置や材料のメーカーが日本国内にある。だが、こうした企業は海外の半導体メーカーにも装置や材料を供給しているので、日本の半導体メーカーに限った利点とはいえない。装置メーカーに不利な商慣行が残り、半導体企業と装置企業が互いに注文を出しながら技術を高め合う土壌が乏しい。90年代以降に確立した新技術の多くは米企業が開発した。

〈過大な研究開発費〉
日本は企業の事業戦略も不明確だ。新規事業の立ち上げや廃止の決断が遅いため、過剰在庫を抱える可能性が高い。米国、台湾、韓国の企業とDRAMの生産コストを比べたグラフをみても、人件費だけでなく研究開発費や営業費用(間接費の一部)も過大だ。技術マーケティングも不十分でイノベーション(技術革新)につながらない。
日本の半導体産業がこのような状況に陥った主因は新たな技術とビジネスモデルの開発で海外に後れをとったことだ。80年代に盛んだった工場の操業効率の向上競争では日本企業が優勢だった。だが、半導体の微細化で先端技術の開発競争が激しくなると、米欧企業は韓国や台湾の半導体企業やさまざまな周辺ベンチャー企業との提携で技術力を高める新たなビジネスモデルを取り入れた。
日本企業は事業戦略の転換で遅れた。競争力を再び高めるのに必要なのは、自社の強みを伸ばすため、先進技術を持つ外部の企業や研究機関と柔軟に連携できる体制を構築することだ。

経済産業研究所
この文章は日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日〜1月31日/全21回)より転載されたものです。

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