〈財務分析では不十分〉
情報技術(IT)の普及や世界的な貿易・投資の自由化の進展は、企業に環境変化への素早い対応を強いる。これまで日本の主な産業の現状を点検したが、勢いのない業種はおおむね事業の新たな立ち上げや廃止の決断が遅い。
企業の実力は通常、決算の財務分析で測るが、これでは比較的長い期間を経ての事後評価になる。
これを補うためにスタンフォード大を中心とするチームが一九90年代半ばに開発した新指標が「組織IQ(知能指数)」だ。外部環境の変化に対応する企業の機敏さを測定する。企業の情報力と組織力を顕在化させ、現時点での組織の状態を評価する手段だ。
〈米IT企業と比較〉
組織IQは企業に対する数十の質問で割り出す。対象企業の回答を、変化への対応速度が世界で最も高い水準にあるとされる米シリコンバレーのIT関連企業の回答と比べ、5つの条件の水準を数値化する。
五条件とは(1)外部情報(顧客、ライバル企業、技術などに関する情報の感度)(2)内部知識(組織内の知識共有と組織学習水準)(3)意思決定(迅速に決断する仕組みと決断の速さ)(4)組織フォーカス(決まった方針に組織全体が経営資源と努力を集中するレベル)(5)知識創造(創造に向けた支援策など)――を指す。
経済産業研究所は昨年、米チームが調べたシリコンバレーの二十八社の平均と比べ、日本の大手ハイテク企業17社(半導体、パソコン、情報家電、携帯電話などの事業部門)の組織IQを算出した。日本が米国に劣ると数値はマイナスになり、最高はプラス1、最低はマイナス1だ。
〈情報軽視の傾向〉
日本全体を代表するわけではないが、17社平均の内部知識はマイナス0.167で米企業に劣り、外部情報(0.071)、意思決定(0.006)は大差なかった。情報軽視の傾向がみえる。組織フォーカスは0.216、知識創造は0.326で日本が大きく上回った。組織の一体性は高い。
組織階層をトップ(経営者)、ミドル(中間管理職)、ボトム(現場)の三段階に分けてみる。外部情報で経営者は0.477と優れるが、現場はマイナス0.142。内部知識では経営者が0.077だが、現場はマイナス0.189だ。日本企業では情報が階層や縦割りの部署ごとに分断し、資源配分が不十分だ。
米企業は世界中に技術者を配置する場合、最新知識をデータベースに収め、インターネットを通じた共有や学習を実施している。こうした知識共有は知識創造の前提でもある。一方、日本企業は現場の知識やノウハウを系統立ててデータベース化する雰囲気が乏しい。職人的な技術はデジタル化を通じて機械の内部に取り込むが、トラブルを解決するための知識やノウハウを共有して応用する意識は低い。
逆にいえば、IT活用と知識共有を進めれば企業経営を大幅に改善できる可能性がある。組織IQを使えば、改革の途中でも部門ごとの変化を点検できる。
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