中国経済新論:中国の経済改革

生産性の上昇による高成長の持続を目指して

張幼文
上海社会科学院世界経済政治研究院 院長

1951年上海生まれ。1982年上海社会科学院世界経済研究所所長助理、1987年上海社会科学院副研究員を経て、1991年より上海社会科学院研究員。

中国が「平和台頭」を目指す過程において、経済成長を制約しかねない要因が顕在化し世界経済との摩擦をもたらしている。衝突のもとを作らずにこれらの制約要因をなくすことは国際社会との摩擦を緩和していくだけではなく、中国自身の発展のためでもある。したがって中国がとるべき選択は、これまでとってきた発展戦略を調整しながら発展を妨げるような要因を取り除き、持続可能な発展へとつなげていくことである。この方針に沿って中国は世界の国々、とりわけアジア・太平洋地域の各国との調和とウィン-ウィン関係の確立を目指さなければならない。

科学技術の進歩と構造改革を通じた資源制約の克服

中国が「平和台頭」を図る過程においては、まず資源制約を克服しなければならない。資源制約の中には、各種原材料自体の制約、そしてエネルギーおよび環境を考慮するために生じる制約が含まれている。現時点で13億、21世紀半ばには16億に達すると予想される人口を抱える中国は、厳しい資源の制約の下で貧困の問題を解決しなければならないという難問に直面している。このような資源制約は、すでに各種の自然資源や石油の不足として見られており、経済発展を大きく阻害している。

もともと中国は資源の豊かな国ではない。中国が国内で保有する資源だけでは現時点の需要を満たすこともできず、当然のことながら今後必要となる量にも足りない。たとえば石油輸入の増加傾向は対外依存度の高まりを意味している。経済面の安全保障を考える上で、重要な課題となりつつある。工業化の初期段階においては、先進諸国が経験してきたような失敗を免れることができないかもしれない。なぜなら、貧困から脱却したいという強い願望に加え、多国籍企業が伝統産業を中国にシフトさせていることも、環境と資源に大きな圧力をかけている。

IT革命とも呼ばれる、新たな科学技術革命は世界規模で展開している。これまでも世界経済の発展過程においては、産業革命と科学技術革命が飛躍のきっかけになった。第1次産業革命を経験したイギリスの飛躍、第2次技術革命に際してのドイツとアメリカの飛躍、さらには第3次科学技術革命においての日本の飛躍は、すべて生産力における革命的な変革を契機にして産業構造と経済成長モデルを根本的に変えたという特徴があった。

IT革命が始まったことで、製造業主体の産業構造も変貌し、代わって知識集約型産業が経済を主導するようになった。産業の情報化が工業化を越えて重要な地位を占め、サービス業が製造業に代わって産業の主要なプレイヤーの一つとなり、ハイテク産業が重化学工業に代わって経済の主導的地位を占めている。このような産業構造の変革を踏まえて、最適な戦略をとることができれば、中国は歴史上にも稀なチャンスを獲得でき、これまでにない飛躍を実現することができる。これまで、中国は世界全体で起こっている産業調整をチャンスとして利用することのみを重視してきた。しかしこれまでと同じ、産業移転を受け入れるという戦略のままでは、中国は産業発展の初期段階から脱することができず、科学技術革命の恩恵にあずかることはできない。したがって、中国は現在起こっている科学技術革命のチャンスを逃すことなく、資源制約を克服しながら、更なる飛躍を実現しなければならない。

中国は「平和台頭」戦略の一環として、科学技術の進歩と経済発展に対する国民の意識と知識の向上を通じた資源と環境の問題の解決を重要なポイントの一つにおいている。すなわち、新しい工業化モデルに沿って、国民経済および社会の情報化を推進し、産業構造を適応させることで資源の浪費を防ぎ、コストを下げ資源の利用効率を高めて、伝統的な経済構造に対する資源制約を克服することを目指している。工業化を目指す過程においては、産業の情報化を実現することで、これまでの工業化とは異なる道筋を志向することになる。すなわち、伝統的な産業における情報化を促進して、これらの産業のコストを低めるのである。さらに、経済成長の牽引役として、自前の知的所有権を持つハイテク産業を発展させ、経済構造や産業構造を変革することも重要である。

内需拡大による市場の制約の克服

中国の発展によってもたらされた国際社会とのもう一つの対立は市場をめぐる競争である。急速に増加している中国からの輸出(特に労働集約型産業および伝統的製造業の製品)は、発展途上国や新興市場との間に激しい競争をもたらしている。中国の良質かつ安価な労働力が世界の労働力市場に対して圧力となっている。一部の中国製品はすでに世界で第1位の生産高となっていが、このことが外国との貿易摩擦を年々増大させた。中国は他国の利益を侵害する形での発展を望んでいるわけではない。しかしながら、中国と同じような発展パターンを持つ国が他にもあるのが現状であり、適切な対応が「平和台頭」のために必要となっている。

中国は「平和台頭」戦略の一環として、内需と国内市場の拡大によって経済成長を維持しようとしている。政府が提唱している「科学的発展観」はこの戦略目標を実現するための重要な指針となっており、国内の経済構造を変革するに際しても重要な意味を持っている。「科学的発展観」は発展の出発点を自らの力に頼ることである。これにより、急成長によって生じたさまざまな利害衝突を緩和することができ、さらには海外市場における他国との対立をも緩和することもできるのである。

国内資金の活用による資本制約の克服

中国の「平和台頭」の過程において存在する三つ目の制約は、資金調達の問題である。長期間にわたる持続的な発展を実現するためには、巨額な資金をいかに調達するかという問題を無視できない。「平和台頭」戦略においては、中国の莫大な家計貯蓄残高を有効に投資資金へと転化させることで資金面の制約を克服することを目指さなければならない。

改革開放政策が始まって以降、20数年にわたって大量の外国資本が中国へと流入し続けてきた。現在、中国は世界でも屈指の資本流入国となっている。この状況は少なくとも今後数年の間は維持されると見られる。しかしながら、中国が大量の外国資本を受け入れていることで、世界各国は中国が「資本のブラックホール」と化すのではないかと懸念し始めている。特に、周辺にある発展途上国は自国への影響を危惧している。「超大型」発展を維持する上で、資金調達の問題を解決することは中国自身の発展のために必要なことである。さらに、中国の発展によってウィン-ウィン関係が構築できるという意志を国際社会に対して明らかにするという意味でも、この問題の解決に取り組む必要がある。

一方、国内にある貯蓄を有効に活用することで、海外の資本に対する依存度を減らすことは、資金による発展への制約を克服するために求められる基本的な戦略でもある。中国は改革開放政策を変えることも、外国資本による中国への投資を停止させることも、さらには海外市場から撤退することもないだろう。しかし、発展段階が進み、国内でも発展戦略が調整されていくに従って、中国の外国資本に対する需要は変化せざるを得ない。なぜなら、投資を含む経済の市場化の進展によって、国内資金が急成長を支える重要な力になってくるからである。

これまでの25年においては、中国の国内資金が有効に利用されてきたとはいえない。しかし、今後中国において金融改革が加速することで投資メカニズムの改善が促されることになる。それによって、莫大な家計の貯蓄が投資に転化することになる。これまでは、企業制度がさまざまな問題を孕んでいたために、外国資本に比べ、国内資本による投資が不利な立場にあった。たとえば、外国資本であれば各種の優遇措置を享受することができるが、国内資本が同等な待遇を得られないという問題があった。このような措置が国内資本の投資への転化を妨げていた。今後は非合法な資本流出に対する取り締まりの強化と合わせて、増加傾向にある国内の貯蓄の有効利用が、資金制約を緩和させて成長の支えになってくるだろう。その結果、外国資本に対する需要が中国経済の発展にあわせて高まることがなくなるのである。

このように増加しつつある莫大な家計貯蓄を投資資金に転化させることは、「資本のブラックホール化」を回避することにもつながり、国際社会の危惧を解消することにもつながる。したがって、潤沢な国内資金の活用は中国の発展モデルを進化させるだけでなく、国際社会に対して責任を果たし、ウィン-ウィン関係を達成するためでもある。

人的資本の開発による人口の制約の克服

中国が直面する圧力の中では、人口が多いことが最も深刻である。中国は人口が多く、安価な労働力が豊富に存在することは、中国に労働集約型産業における強い競争力をもたらしている。しかし、その一方で、中国自身の産業高度化を遅らせてしまっている。これまで通りの発展モデルを採用し続けた場合、すなわち、世界の22%の人口を有する国が労働集約型産業を通じた輸出主導型発展を目指し続けた場合、国際市場の供給構造が大きく変化し、豊富な労働力に基づく低コストは、国際市場に対しても巨大な競争圧力となってしまう。したがって、国民の知識水準や技術水準の向上および科学技術の進歩によって、さまざまな産業にも参入できるようにすることは、中国が「平和台頭」戦略を採る上で重要な意味を持つ。

開発経済学の言葉で言えば、中国は労働力が「無限に供給される」状況になっている。これは、低技能しか持たない多くの失業者の存在や、労働人口の増加、さらには農村の余剰労働力の都市部への移動を反映している。中国が全面的な小康社会と都市化を実現するまでは、このような状況は変わらないと見られる。安価な中国製品が大量に国際市場に供給される背景には、安価な労働力が供給されつづけていることがある。この状況に対応する中国の戦略は労働力の資質を向上させることである。多くの国民が知識の習得や技能の向上を実現することで、中国はさまざまな技術水準の産業に参入することができるようになる。これによって分業の利益を獲得するとともに、より大きな海外市場の獲得にもつながる。これは、中国が安価な労働力という優位を活用するという戦略を長期間にわたって用いるべきではないということでもある。このような戦略が長期にわたって採用された場合、諸外国との摩擦を強めるばかりか、中国が真の意味での飛躍を実現することもできなくなってしまう。

人的資本の蓄積は中国にとって重要な意義を持つ課題である。それは、巨大な人口圧力による問題を回避し、労働力の国際市場における強大な競争圧力を緩和するだけでなく、国民の知識水準や技術水準を向上させ、産業の高度化を遂げるためにも必要である。

つまり、中国にとって、今後必要なことは、「人材強国戦略」(人材の力によって国力を高める戦略)を実施することで競争力と総合的国力を向上させることである。国民の資質を高めることを通じて、巨大な人口という圧力を豊富な人的資本という優位へと変換させることが求められている。たとえば、先端的なサービス業やIT産業は高い技能を持った労働力を多く雇うことができ、労働集約型産業に比べて高い付加価値を作り出すこともできる。また、これらの産業の市場はますます拡大しているため、人的資本の向上とこのような産業への参入によって発展を進展させることにもつながる。

一方、人材を開発するにあたっては発展段階の進展に伴う多様なニーズに対応することも必要となる。つまり科学技術部門ばかりではなく、経営管理を行う人材、市場戦略を立案するといった人材も育成しなければならない。知識集約型の産業構造および経済構造の下では製品開発や製品のモデルチェンジが頻繁に行われる。したがってマーケティングを担当する人材や経営管理を行う人材も技術開発に携わる人材と同様に重要性を持つようになる。知識集約型の経済は常に新しい商品、新しい産業を作り出すため、創造力を持った人材を育成する必要もある。創造力を持った人材を大量に輩出できるようになれば、中国は知識集約型経済を発展させることを通じて先進諸国へのキャッチアップを実現できる。また、急速な成長を維持するためには、経済発展や技術進歩を戦略的に追求しなくてはならない。つまり、戦略的な発想を持つ人材を育成することも大切になってくる。このように多様な人材を育てるためには、人材育成の受け入れ態勢を整備することと合わせて、人材育成に関して政府と市場の役割分担を明確化することが重要になる。最終的にこのような「人材強国戦略」を採用することで中国の「平和台頭」を支えなくてはならないのである。

2005年2月4日掲載

出所

「中国和平崛起与世界共贏」、解放日報2004年6月21日
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

2005年2月4日掲載

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