中国経済新論:中国の経済改革

不良債権比率の低下を目指す貸出の急拡大
―かえって高まる金融危機のリスク―

徐滇慶
ウェスタン・オンタリオ大学教授・北京大学中国経済研究センター

1945年昆明市生まれ。1967年中国東北大学自動制御学部卒業。1981年華中理工大学より経済管理修士、1990年アメリカのピッツバーグ大学より経済学博士を取得。1990-1994年カナダのサスカチェワン大学(University of Saskatchwan)で教鞭をとり、1994年以降、カナダのウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)経済学部で教学し、終身教授を取得。専攻は中国の金融問題。現在、北京大学中国経済研究センターをはじめとする中国の各大学で客員教授を務めながら、西安外国語大学に所属している長城金融研究所において中国の金融問題に関する研究を展開している。

注意深い読者は国家統計局の2003年統計年鑑からある問題に気が付いているかもしれない。金融機関の貸出総額は、ここ3年で急激に増加した。これは異常なことである。

近年、中国の経済成長率は基本的に8%前後で推移している。金融機関の貸出残高は、1999年に7,210億元増え、前年比8.3%、2000年に5,637億元増え、前年比6%伸びた。経済成長率に比べて、貸出の伸び率は比較的正常であった。しかし、2001年に金融機関の貸出残高は1.3兆元増え、伸び率は13%となった。さらに、2002年には、貸出残高が1.9兆元増加し、伸び率は17%に加速した。2003年に入って、金融機関貸出は糸の切れた凧のように舞い上がり、1~9月に2.5兆元増、9月の前年同期比の伸び率は23.5%である[注1]。

表1 金融機関貸出金額
表1 金融機関貸出金額
(出所)国家統計局『中国統計年鑑』2003年版。

銀行貸出の急増の背後には必ず原因がある。もし市場の繁栄が原因でなければ、需要の急増は、必ず銀行の貸出政策に変化があったことによる。2001年から2002年の間、中国市場に大きな変化がなかった。国家統計局によれば、全国の商品はほとんど供給が需要を上回った状況下にある。企業も、良い投資プロジェクトがなかなか見つからないとの意見で、中小企業の借り入れ困難という問題も解消されていない。市場に特に変化がなかったため、国有商業銀行の貸出政策に変化が生じたということになる。

ここ2年間、国有商業銀行は、大企業、大きなプロジェクトに融資したがっている。一つの案件で数億元ないしは数十億元にのぼる。また、四大国有商業銀行の長期貸出の比率は非常に高く、1年以上の貸出の割合は60%に達している。ほかにも3~5年の大型インフラ・プロジェクト向けの貸出がある。あるベテランの銀行家は、大企業や大型プロジェクトへの貸出は自分に時限爆弾をセットしたのと同じだと言ったことがある。いくつかの貸出案件が問題となるだけで、全体を脅かすことになる。長期貸出の高い比率は、銀行家たちを驚かせた。世の中には思いがけないことがあり、2、3年後の国際金融市場がどのように変化するかは誰も知らない。その時、大企業あるいは大型プロジェクトへの貸出が期日通りに返済されなければ、国有商業銀行の命取りになる。民生銀行の董文標頭取の言葉を借りれば、これは「気違いのように預金を吸収し、気違いのように融資し、気違いのように不良債権を作り、気違いのように不良債権を処理する」状況である[注2]。

なぜ国有商業銀行はリスクを無視して気が狂ったように融資しているのだろうか。国有商業銀行の中に大きな潜在的リスクを認識している人は一人もいないのか。無論、国有商業銀行の中にリスクを認識している人が多い。しかし、認識しているか否かにかかわらず、国有商業銀行の役人たちはある目標を最優先しなければならない。これは上場のことである。懸命に貸出すること、特に長期貸出は、問題が発生したとしても将来のことである。その時、役人たちは昇格したり、異動になったり、定年退職したりすることになる。たとえ銀行に残っても、国有企業や大型インフラ・プロジェクトへの融資案件に関しては、責任はみんなで分担するため、個人とはあまり関係ない。

周知のように、四大国有商業銀行は、数年後に上場すると明言している。中国銀行は、2年以内に全体の上場、中国工商銀行は2006年に海外での上場を目指す。建設銀行の張恩照頭取はアジア開発銀行の年会で3~5年の内に国内商業銀行として率先して上場することを目指すと表明した[注3]。中国証券監督管理委員会の規定によれば、銀行の上場基準の一つに不良債権比率が15%未満とある。現在、四大国有商業銀行の不良債権比率は15%を大きく上回っている。上場という目標を早く達成するには、不良債権比率を下げなければならない。

銀行の不良債権比率は、不良債権額を貸出残高で割ったものである。銀行不良債権を減らす方法は2つあり、一つは分子を減らすことで、もう一つは分母を増やすことである。

分子を減らすことは、不良債権の絶対額を減らすことである。これについては3つのポイントがある。第1は、不良債権を回収する。第2は、国有商業銀行の利益で不良債権を償却する。第3は、最も重要なポイントで不良債権を増やさないことである。

まず、不良債権を回収できるかを考える。1999年に、国有商業銀行から4大資産管理会社に1.4兆元の不良債権が移された。数年間の努力を経て、回収可能なものはほとんど回収され、残りはあまり回収の望みがない。国有商業銀行にはまだ多額の不良債権が残っており、その回収の難度はさらに高く、回収比率はさらに低い。四大資産管理会社の発表によれば、2003年9月末まで、処理済不良債権4,153億元のうち回収したものは860億元で全体の5.5%に過ぎない(表2、3)。

表2 資産管理会社4社の資産状況
表2 資産管理会社4社の資産状況
(出所)国家統計局『中国統計年鑑』2003年版。
表3 資産管理会社4社の不良債権回収状況
表3 資産管理会社4社の不良債権回収状況
(出所)China Daily紙(2001年12月2日付)、人民日報(2002年8月3日付、2003年11月2日付)

現在、国有商業銀行の貸出の70%以上が国有企業向けである。一部の国有企業は長年赤字を計上しつづけてきており、返済できない。これらの企業に対してはなすすべがない。

2002年に、中国銀行は経営利益472億元を計上し、そのうち361億元を不良債権の償却に当てた。工商銀行は443億元の利益のうち381億元を不良債権の償却に充てた。農業銀行は経営利益113億元を計上、内84億元を不良債権の償却に充てた。建設銀行は経営利益344億元を計上し、301億元を不良債権の償却に使った。不良債権償却に使った資金はこれら銀行の利益の75%を占める。中国銀行のある責任者は、利益の90%を不良債権の償却に使ったという[注4]。各銀行はもはやこれ以上の力を尽くしてもさらに多くの資源を動員することができなくなっている。

2002年に、国有商業銀行が不良債権の償却に使った金額は合計1,127億元に達したが、不良債権の絶対額は951億元しか減少していない[注5]。これは、2002年に176億元の不良債権が新たに増えたことを意味する。2002年は中国経済がとても好調な年で、輸出が22%も増えた。それにもかかわらず不良債権が増えたのはなぜだろうか。もし経済情勢が悪かったら、不良債権は更に増えていたかもしれない。

ここ2年間、国有商業銀行は不良債権比率を下げるため、分子の部分で様々な努力をしてきたが、満足の行く成果が得られなかった。回収された不良債権はあまり多くない一方、新規の不良債権が増えている。国有商業銀行は利益の大半を不良債権の償却に費やしてきた。不良債権の絶対額を下げようとしても、意余って力足らずという状況である。分子を減らす成果があまりよくないのなら、分母に焦点を移すしかない。

2002年3月24日の中国人民銀行の戴相竜前総裁の発表によれば、国有商業銀行の不良債権比率は25.37%で、不良債権額は2兆2,898億元である。もし不良債権額が変わらなければ、貸出残高が増えれば不良債権比率は下がる。不良債権額が変わらないという前提下で、ここ2年間の貸出急増により、不良債権比率は2002年に3.67%ポイント、2003年1~9月に3.41%ポイント低下することになる。2001年に中央銀行は、国有商業銀行に対し不良債権比率を毎年2%ポイントずつ低下させることを要請したが、たいしたことではない。貸出を増やせば、あっという間に目標達成ができる。

たくさんの長期貸出をすれば、返済期日までは不良債権になることはない。このようにすれば、銀行の不良債権比率は必ず急速に低下する。短期的にすばらしい成績をあげることができ、みんなが喜ぶ。しかし、問題は、このような貸出が満期を迎えた時、どのくらい元本返済ができなくなり、新たな不良債権になるのかという点にある。特に、大型インフラ・プロジェクトの中で、政府役人による無駄な箱モノ建設はたくさんある。全国の46の地下鉄建設プロジェクトのうち、事前の予想通りに黒字に計上できるだろうか。多くの大型国有企業は、完全に輸血に頼って生き残っている。銀行融資があれば、何日かは耐えられ、「困難脱出」ということになる。しかし、経営メカニズムは変わっていないため、融資を使い終わったら、再び苦境に陥る。一部の国有企業は、新規の借り入れで古い借り入れを返済し、負債が増える一方で、荷物をすべて国有銀行に押し付けている。

一部の国有銀行の役人にとって、銀行の上場こそすべてである。国有商業銀行は上場すれば、たくさんの資金を手に入れることができ、自己資本比率を高めるだけでなく、銀行の評判を高めることができる。上場の基準を満たすため、懸命に貸出を増やしているが、このようなことが続けば、上場の日がくる前に、不良債権比率が再度悪化しよう。その時こそ、二重の損失となり、収拾のつかない状況になる。

2003年12月19日掲載

脚注
  1. ^ 2003年10月17日付け『人民日報』海外版。
  2. ^ 2002年9月9日付け『北京青年報』。
  3. ^ 2002年9月9日付け『中国青年報』「不良債権処理の加速、国有銀行上場へのダッシュ」。
  4. ^ 2003年3月25日付け『中国経営報』。
  5. ^ 2003年11月5日付け『人民日報』に掲載された劉延煥の台北での発言。
出所

中評網

2003年12月19日掲載