保育所等の整備が出生率に与える影響

執筆者 宇南山 卓(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年9月  23-J-030
研究プロジェクト 経済主体の異質性と日本経済の持続可能性
ダウンロード/関連リンク

概要

本研究の目的は、保育所整備が出生率に与える影響である。少子化対策として、2000年代以降に保育所・こども園等が急速に整備されてきた。2000年代前半まで200万人前後を推移していた保育所等の定員は、2020年には約300万人になるほどに拡大している。保育所等の利用可能性が高まれば、女性が出産後も仕事を継続しやすくなり、結婚・出産を選択する女性が増加すると考えられる。しかし、この近年の急速な保育所整備の効果は十分に分析されてこなかった。出生の意思決定は生涯を通じたライフコースの選択であるため、一生を終えた時点でなければ行動の変化が起きたかは観察できなかったためである。本稿では出生に関するライフコース選択の代理変数として「結婚」の意思決定を分析し、保育所整備が与えた影響を検証した。国勢調査の都道府県別・出生年別のデータを用いて分析の結果、2005年以降の保育所整備は生涯未婚率をおおむね5.5パーセントポイント引下げ、合計特殊出生率を0.1引き上げる効果を持ったことが示された。