戦後韓国における高度成長の起動と展開―「漢江の奇跡」―

執筆者 林 采成 (立教大学)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-020
研究プロジェクト 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―
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概要

本稿は1960年代から30年間以上にわたって展開された韓国経済の高度成長を東アジアの文脈から認識し、このような高度成長が可能であった内外要因を分析するものである。冷戦体制の下で北朝鮮の脅威に対抗するため、韓国政府は戦略的資源配分を通じて経済成長の加速化を図った。とりわけ軍事政権の登場後、国内の豊富な労働力を活用しながら、海外からの資本調達を得て高度成長経路へ進入した。経済企画院から定期的に長期開発計画が提示されたため、これを展望として財閥を中心とする企業側は事業計画を立てて設備投資を敢行した。設備投資は短期的収益性を無視することもあったが、それが可能であった背景には政府からの手厚い支援策が講じられており、資金面では「護送船団方式」の金融システムが構築され、内資だけでなく外資も調達されたことがある。成長の中で生じる諸問題については大統領の参加の上、月間経済動向報告会議や輸出振興拡大会議が開かれ、官民間の調整が行われた。さらに、労働賃金も上昇し始め、耐久消費財が普及した。というものの、高度成長という実態と「大衆消費社会」の渡来には時間的なずれが存在し、高度成長に遅れた形で家計の耐久消費財の購入が実現された。これがグローバリゼーションに適した外需依存型経済成長戦略とともに、長期間にわたる高度成長を可能とした要因の1つであった。