中国独占禁止法の運用動向―「外資たたき」及び「産業政策の道具」批判について―

執筆者 川島 富士雄  (名古屋大学)
発行日/NO. 2015年7月  15-J-042
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
ダウンロード/関連リンク

概要

2008年8月1日施行の中国独占禁止法(以下「中国独禁法」という)が施行6周年を迎えた2014年8月、中国発展改革委員会は日本の自動車部品製造業者8社およびベアリング製造業者4社による2つの価格カルテル事件に対する処分を公表した。当該公表前後から、日本における報道では中国独禁法の運用が「外資たたき」「外資狙い撃ち」ではないかと紹介するものが目立つようになった。他方、米国商工会議所は2014年9月、中国独禁法に関する報告書を公表し、同法が競争政策でなく産業政策の道具として用いられていると厳しく批判した。

上記の背景に照らし、本稿は中国独禁法による公式処分の統計を紹介し、かつ、これら処分の具体的内容を検討することを通じて、その運用動向を把握し、かつ「外資たたき」および「産業政策の道具」といった批判が妥当するのかどうか検討する。統計によれば、必ずしも「外資たたき」と断ずることはできない一方で、処分の具体的内容を精査すると、一部には「産業政策」「資源又は食糧確保政策」といった競争政策とは異なる政策が反映していると考えられるものが見受けられる。「世界の工場」としてのみならず、「世界の市場」として存在感を高めている中国の独禁法運用は、世界市場全体での競争を大きく左右しかねず、その運用動向には今後も注視を続けるとともに、「独禁法濫用」に対処するための国際経済法上の規律の発展を志向すべきである。