日本における準市場の起源と展開―医療から福祉へ、さらに教育へ

執筆者 後 房雄  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年5月  15-J-022
研究プロジェクト 官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究
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概要

医療や福祉においては、税により資金を調達して行政直営で供給する公共型、社会保険で資金を調達して民間主体も含めた供給体制をとる社会保険型、主に民間保険と民間供給者によって構成される自由型の3類型が見られる。社会保険型は、公的資金で購買力を補助された利用者が供給者を選択でき、それゆえ供給者間で競争が起こる準市場(quasi-market)を伴う場合が多い(ただし税と準市場の組み合わせもありうる)。

日本では、福祉においては戦後直後に確立した公共型に近い措置制度が主軸となってきたが、1990年代以降の福祉基礎構造改革のなかで、保育所(完全ではない)、高齢者介護、障害者福祉などの分野で次々に準市場が採用されてきている。2015年4月から施行される子ども・子育て支援新制度では保育所と幼稚園に準市場が導入される。

しかし、実は1922年に成立した国民健康保険法において、実質的な準市場が採用されたという事実がある。

小論では、日本において医療分野で準市場が採用され定着するにいたった経過を歴史的に検討すると同時に、1990年代以降に他の各分野で準市場が採用されている経過と背景を検討する。

あわせて、これまで十分に意識的に把握されてこなかった準市場という制度の固有の性格を明らかにし、日本において広く採用されるに至っている準市場の諸事例を横断的に比較検討し、問題点の解決のための制度設計上の改善を提案するための体系的な作業が必要になっていることを指摘する。