日本政策金融公庫との取引関係が企業パフォーマンスに与える効果の検証

執筆者 植杉 威一郎  (ファカルティフェロー) /内田 浩史  (神戸大学) /水杉 裕太  (株式会社 SHIFT)
発行日/NO. 2014年9月  14-J-045
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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概要

本稿では、日本政策金融公庫中小企業事業本部から貸出先企業に関する契約レベル・企業レベルデータの提供を受け、他の企業レベルデータと接合した上で、日本における中小企業向け政府系金融機関の貸出決定要因とその効果、公庫による情報生産機能を、初めて定量的・包括的に検証した。得られた知見は以下の通りである。

第1に貸し出しの決定要因についてみると、(1)公庫は、財務指標や独自に生産した情報を加えた内部格付に基づき、creditworthinessの高い企業に資金を供給している。(2)1990年代末や2008年のリーマンショック後など日本経済の低迷期においては、公庫は新規貸出先数を増やすのみならず、creditworthinessの高い企業に対して貸し出しをする傾向を弱め、counter-cyclicalな貸出行動をとっている。(3)それまで正の相関を有していた土地保有比率と公庫利用確率の関係は、2000年代後半に負に転じており、公庫貸出では土地を担保として重視しなくなる傾向にある。

第2に公庫貸出の効果についてみると、(1)公庫利用企業では借入増加と利子支払負担低下を通じて資金アベイラビリティが改善しており、設備投資と雇用が増加している。(2)公庫貸出が他の金融機関による貸し出しを促進するいわゆるカウベル効果と整合的な現象は、一部の時期だけで観察される。特にリーマンショック後には、他の金融機関の貸し出しは一時的に減少する。(3)利益率の変化や財務危機に陥る確率などを貸出開始後の3年間でみる限りにおいては、公庫貸出により企業パフォーマンスが改善するとの明確な結果は得られない。

第3に公庫による情報生産機能についてみると、独自の内部格付情報を用いて貸し出しを行うことで、公庫は、デフォルトなどの財務危機に陥りにくい企業への資金供給を実現している。