国際化する日本企業の実像-企業レベルデータに基づく分析-

執筆者 若杉 隆平  (研究主幹) /戸堂 康之  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-027
研究プロジェクト 「国際貿易と企業」研究
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概要

本稿は、経済産業研究所「国際貿易と企業」研究会において行われた、日本企業の国際化(輸出、海外直接投資、海外生産委託など)に関する研究の内容を紹介するものである。この研究会においては、欧米企業の国際化と日本企業の国際化との類似点、相違点を比較することによって、これまでの日本企業の国際化に関する研究をさらに深めることを目的しており、主要な結論は以下のように要約できる。

1.日本においても、他の欧米諸国と同様に、国際化企業は非国際化企業にくらべて高い生産性を有しており、国際化企業の中でも、輸出企業、FDIによる海外生産企業の順に生産性が高くなっている。

2.また、国際化した後には、国際化企業と非国際化企業との生産性の差異は拡大する傾向にある。

3.ただし、生産性だけが国際化を決める要因ではなく、海外市場に関する情報不足、資金制約などは企業の国際化の阻害要因となる。したがって、そのような阻害要因を政策的に除去することが望まれる。

4.さらに、中小企業については経営者のリスク性向や海外経験の有無が国際化の重要な要因となっている。したがって、国際化に伴うリスクを軽減するための政策や海外とのネットワークを構築するための政策が、企業の国際化のために必要である。

5.なお、これまでの理論モデルによって定型化された事実は、異なる所得水準、賃金水準にあるアジア諸国での現地生産が多い日本企業にそのまま当てはめることが適切でない。国際化企業となるときに求められる生産性の水準は市場の条件によっても影響を受けるため、日本企業の国際化を分析するためのフレームワークには、企業の異質性とともに市場の特殊性を考察することが必要である。