ITと生産性に関する実証分析:マクロ・ミクロ両面からの日米比較

執筆者 元橋 一之  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年11月  10-P-008
研究プロジェクト オープンイノベーションに関する実証研究
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概要

本稿においては、ITと生産性についてマクロとミクロの両面から日米比較分析を行うことによって、ITによる生産性向上をより強化するための経営的、政策的なインプリケーションを導出した。

まず、マクロレベルの分析によると、2000年以降の全要素生産性の伸び率は日米両国において大きな差はないことが分かった。両国の経済成長率の違いは主に労働投入と非IT資本の寄与度によるもので、IT資本の寄与度についても大きな違いは見られない。しかし、この内容をITセクターと非ITセクターに分けてみると、生産性の伸び率の違いは非ITセクターで大きい。つまり、IT資本ストックについて量的な面では日米企業で大きな違いはないものの、質的な面(IT利活用の方法)で格差が表れている。これは企業レベルデータを用いた分析を行った結果、ITと生産性の関係は米国企業と比べて日本企業において小さくなっていることとも整合的である。

この点について掘り下げてみるためにIT経営に関する国際比較調査を行ったところ、日本企業は、米国企業と比べてITと経営の融合度が低いこと、専任のCIO(最高情報責任者)を置いている企業の割合が小さいこと、情報系システムに対する投資が遅れていることなどが明らかになった。また、定量分析の結果、ITと経営の融合度が低い企業においては生産性の伸び率が低いという結果が得られ、日米企業のIT経営の違いが生産性格差の原因になっていることが分かった。IT経営の高度化は近年注目を浴びているクラウドコンピューティングを使いこなす上でも重要である。また、政策的には、企業間の情報システム有機的連携を促すための税制措置や政策的にはIT経営のレベルを上げるための自己診断ツールや事例紹介などの情報提供事業を推進することが重要である。