「トップランナー方式」による省エネルギー法乗用車燃費基準規制の費用便益分析と定量的政策評価について

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2007年3月  07-J-006
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概要

経済産業省においては、エネルギー・環境問題への対応方策の1つとして、省エネルギー法に基づき国内販売されるガソリン乗用車の燃費を目標年度迄の期間内に一定の基準値以上とすることを自動車の製造・輸入販売事業者に義務づける規制措置を実施している。

当該燃費基準規制は1979年から実施され再三の見直しが行われているが、乗用車のエネルギー消費には燃費や車重分布など多くの要因が複合的に寄与するため、規制に伴う費用便益が定量化されておらず省エネルギー量のみの評価に留まるという問題が存在する。

こうした問題を克服する1つの手法として、本稿では家計のガソリン乗用車を事例として、総務省家計調査報告などの統計値を基礎に世代層別の購入・使用行動を分析し、規制による世代層別のガソリン消費量の変化を試算するとともに、乗用車の希望小売価格推移を分析し車重区分別の規制対応のための追加的費用を推計し、結果を2030年度迄外挿して将来推計することによって、1998年度に開始された第1次トップランナー方式乗用車燃費基準規制と2007年度に開始された同第2次規制についての費用便益分析による定量的政策評価を試みた。

当該試算の結果、割引率3%で現在価値換算した第1次規制の費用便益差は便益が費用を上回る正の値となり、年平均約4400億円の費用便益差と約18Mt-CO2のCO2削減効果が同時に得られる極めて優れた政策措置であることが判明した。しかし第2次規制では、第1次規制による燃費改善の飽和や価格効果などの影響で、約6Mt-CO2の削減に対し約1.3万円/t-CO2の費用が掛かり、第1次規制と比べ著しく費用対効果が低下するものと推計された。

当該試算結果の精度と安定性を確認するため、実質経済成長率、ガソリン価格、家計自動車購入価格などについて感度分析を行った結果、第1次規制の結果は安定的であるが、第2次規制は費用と便益が僅差のため結果が大きく変動し不安定であることが判明した。

当該結果に加え、家計の乗用車利用においてガソリン価格に対する有意な価格弾性値が観察されなかったことから、今後の乗用車の省エネルギー対策のあり方として、相対的に燃費の悪い車への重課税や使用期限設定、軽自動車からの除外など、乗用車の保有燃費を改善するための政策措置を費用対効果を見極めながら導入していくことが必要と考えられる。