通勤の疲労費用の効用関数を特定しない測定

執筆者 八田達夫  (ファカルティフェロー / 国際基督教大学国際関係学科) /山鹿久木  (筑波大学)
発行日/NO. 2006年3月  06-J-011
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概要

1人の乗客が混雑した列車に乗車した時に他の乗客の疲労を増大させる外部不経済効果を引き起こす。本稿は、この外部不経済効果の金銭換算を効用関数の特定化に依存しない方法で行う。

山鹿・八田(2000)では、JR中央線を対象に、沿線通勤者の時間・疲労費用を金銭換算している。すなわち、通勤者は混雑した鉄道での通勤によって生じる疲労を回復するために、一定の時間(休憩時間)が必要であると仮定することにより、疲労という非金銭的費用を時間に換算した。そして、その疲労を含めた通勤時間を、特定化した効用関数に組み入れ、その効用関数から導かれる家賃関数(ヘドニック価格関数)をJR中央線沿線の賃貸マンションの賃貸料のデータを用いて推定することによって、疲労を示す変数が組みこまれた効用関数の各パラメータを推定した。具体的には、山鹿・八田(2000)では、効用関数をコブ=ダグラス型と特定し、通勤の疲労コストを測定した。

本稿の分析の枠組みは、山鹿・八田(2000)を発展させたものだが、分析において重要な位置を占める賃料関数を対数線形近似して測定し、こうして求めた家賃関数を混雑率で偏微分したものとして混雑増加の疲労費用を測定した。効用関数を特定化していない分、それだけ一般的な効用関数に対応した疲労コストの計測を行っている。この計測結果を利用して通勤者1人が及ぼす外部不経済を駅区間ごとに求めることができる。その結果、通勤ラッシュのピーク時のJR中央線では、通勤ラッシュ時には現行の通勤定期料金の0.7から2.94倍の料金設定にする必要があるという結論を得ることができた。