ノンテクニカルサマリー

多国籍企業の輸出と海外現地法人売上高:同時方程式による分析

執筆者 伊藤 公二 (コンサルティングフェロー)/朱 連明 (早稲田大学)/行本 雅 (京都大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.金融危機発生後、日本の輸出はなぜ伸び悩んだか?:重力方程式による分析

2008年に発生した世界金融危機以降、日本の輸出額は大幅に落ち込み、2010年にはやや回復したもののその後も伸び悩みの状態が続いた。この傾向は平均的に規模が大きく生産性も高い輸出継続事業所(intensive margin)の輸出動向を大きく反映していることが明らかになっている(伊藤・平野・行本(2015))。この時期、輸出継続事業所の輸出が順調に回復しなかった理由として、外需の低迷、海外生産・販売の拡大、為替レート等さまざまな要因が考えられる。

2.なぜ輸出とFDIの重力方程式を同時に推計?

こうした複数の要因が輸出に及ぼす影響を特定化する上で広範に利用されているのが輸出の重力方程式(輸出を従属変数とし、輸出に影響を及ぼすと予想される変数(外国のGDP、外国との距離など)を説明変数とする式)の推計であるが、その推計に当たりFDIを説明変数に加える場合は注意が必要である。日本の輸出が海外現地法人の生産・販売によって代替されている可能性はさまざまな分析が示唆しており、企業の輸出額に対して海外現地法人売上高(FDIの代理指標)は重要な決定要因であるが、企業がFDIを決定する上でも輸出を参考にするはずであり、企業は輸出とFDI互いに参考としながら同時に決定しているのである。この点を無視して、海外現地法人売上高を説明変数に含む輸出の重力方程式を推計すると、同時決定バイアスが生じるおそれがある。

そこで、このバイアスを回避するため、本稿では輸出と海外現地法人売上高について、一方を他方の説明変数とする二本の重力方程式を同時推計することとした。

3.推計結果

重力方程式の推計に当たっては、2000〜2012年の経済産業省『企業活動基本調査』と『海外事業活動基本調査』の製造業の企業データを接合して作成したパネルデータを利用し、二段階最小二乗法により推計した。推計に当たっては、操作変数として内外価格差(消費者物価指数の比)の加重平均と外国の関税の加重平均を利用した場合と、1期前の先決内生変数を利用した場合の2通りの推計を行っている。

推計の結果、輸出については、いずれの推計でも、海外現地法人売上高は正、海外のGDPは負、為替レートは負の影響を及ぼすことが明らかになった。海外現地法人に対しても、良好な結果が得られた先決内生変数を利用した場合輸出は有意に正の影響を及ぼしている他、為替レートはいずれの推計でも負の影響を及ぼし、外需は企業の固定効果を含む場合には有意に正の影響を及ぼしていることが明らかになった。

4.結論

推計結果を踏まえて、改めて金融危機後の2010年代において日本の輸出継続企業の輸出が回復しなかった理由について考える。まず、この時期の実質実効為替レートの上昇は輸出額を引き下げる方向に作用している。この事実は為替レートの安定性が輸出促進に重要な意味を持つことを示唆している。金融危機から回復する過程で外需は若干増加しており、輸出を押し下げる方向に作用した。さらに、当時伸び悩んでいた海外現地法人売上高も、現地法人売上高と補完関係にある輸出の回復を妨げる影響を及ぼしたと考えられる。

ところで、海外現地法人売上高が輸出に対して正の影響を及ぼすという本稿の結果は、FDIの進展により輸出の代替が進展したとする主張と一見矛盾するような印象を与えるが、実は両者は整合的である。企業の海外進出は、本稿の分析期間中に着実に進展し、その結果として海外の現地法人売上高と輸出の連動性が向上した。この関係を裏付けるのが、輸出に占める関係会社向け輸出の割合である。図は分析期間における輸出額と関係会社向け輸出額の推移を見たものであるが、輸出が上下変動を伴って推移している一方で、関係会社向け輸出は比較的安定して増加する傾向にあり、特に輸出額が大幅に減少した2009年以降関係会社向け輸出の割合が大きく上昇し、海外現地法人の活動と輸出の連動性が高まった。推計結果はこうした動向を反映したものと考えられる。

図:輸出額と関係会社向け輸出額の推移(製造業)
図:輸出額と関係会社向け輸出額の推移(製造業)
参考文献