ノンテクニカルサマリー

TPP交渉のなかでの国有企業改革:ベトナムにとってWin Winか

執筆者 LE Thi Anh Nguyet (ホーチミン市法科大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)」プロジェクト

国有企業に対する政府補助金、低金利融資、および規制上の優遇に由来する潜在的な市場の歪みの排除が環太平洋パートナーシップ(TPP)会合における協議の焦点となっている。政府補助金は、TPP加盟国にとってすべての事業セクターでの公平な競争の場を脅かす一方で、自由市場の環境では自動的には実現されない一定の社会的目標について国有企業が達成することを後押しする上で比較的有効である。

とりわけ、ベトナムは経済発展の遅れた非市場経済の交渉参加国であり、行政のガバナンスの透明性が十分ではない。したがって、ベトナムの国有企業およびそれに対する政府補助金は他のTPPパートナー諸国にとって悪影響を引き起こすと思われる。それゆえ、ベトナムはコーポレート・ガバナンスの透明性および有効性を高める国有企業改革の実行を強く求められている。その一方で、国有企業改革はベトナム政府が実行するには難しいものになってきている。本論文は(1)TPP交渉における国有企業管理の原則を検討し、(2)ベトナムの国有企業の株式化を無差別かつ商業ベースの原則の観点から分析し、(3)TPP交渉におけるベトナムの非市場経済地位の潜在的な費用便益を評価する。

ベトナムでは国有企業改革は国有企業の株式化といわれるが、ここでの株式化は民営化を意味するものではない。株式化は国内外の株主、従業員、あるいは政府を含む国有企業の真の所有者の多角化を後押しするもので、国有企業の資産をある特定のプライベートエクイティに譲渡することを意味しない。国有企業の株式化は1992年に開始され、その規則は大幅に変更されている。国有企業の株式化は現在、透明性が増しており、国有企業の資産評価や土地使用権は商業ベースで実施されている。ベトナムの国有企業の数は過去25年間で大幅に減少しており、1995年には7000社近くあったが、2010年には1000社をわずかに上回る程度になっている。

図:ベトナムの100%保有の国有企業数(注1
図:ベトナムの100%保有の国有企業数

2014年2月、ベトナム政府は国有企業再編会合で、2015年12月31日までに542社の国有企業の株式化を実行することを確認した。この急速な株式化はTPP交渉の積極的な経済開発政策に沿っている。実際には、Vinaconex、Vietcombank、それに Vietnam Airlinesといった多くの大規模国有企業が株式化されているが、国有企業株の投資家は限られており競争力が低いことから、株式の売却は困難である。

脚注
  • ^ Vo Tri Thanh, Viet nam economy: State-owned enterprise (SOE) Reform & Market structure, Asia-Pacific Economic Cooperation, 2011/SOM/WKSP/006.