ノンテクニカルサマリー

米中貿易:世界経済のアウトライヤー

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジアの生産ネットワーク、貿易、為替、世界的不均衡」プロジェクト

中国の対米輸出は驚異的に増加している。コンピュータを例にとると、中国の対米輸出額は1996~2013年までの間に38倍になり、米国の輸入全体に占める中国の対米輸出の割合は4%から66%にまで増加した。電話機の場合、中国の対米輸出額は1996~2013年までの間に32倍になり、米国の輸入全体に占める中国の対米輸出の割合は11%から57%にまで増加した。

全品目において中国の対米輸出は急増しており、米国の対中輸出をはるかに上回っている。その結果、米国の対中貿易赤字が増大し、2013年には3200億ドルに達し、中国以外の国に対する米国の貿易赤字の合計に匹敵する額となった。米国の対中輸出額は1200億ドルで、中国以外の国への輸出総額は1.5兆ドルであった。つまり、米国の対中輸出額は中国以外の国への輸出額のほんの12分の1であるにもかかわらず、米国の対中貿易は中国以外の国との貿易と同額程度の赤字を生み出したのである。

以上は、中国の対米輸出が、ある意味で通常ではないことを示唆している。本稿では、中国の対米輸出がアウトライヤーであるのか調査した。過去25年における主要輸出国31カ国間の輸出について、重力モデルを用いた分析の結果、2005年以降、中国の対米輸出は年間1000億ドル以上も予測額を上回っていたことを示した。

また、調査の結果、中国の対米輸出額が予測を上回っていたことのみならず、中国から韓国、台湾などの東アジア諸国への輸出が予測をはるかに下回っていたことが示された。図1は対角線よりも上に位置する値は輸出が予測を上回っていることを示し、対角線よりも下に位置する値は輸出が予測を下回っていることを示す。米国の値は対角線よりはるかに上に、韓国、台湾、日本、シンガポールの値は対角線の下に位置している。

2013年の韓国と台湾の対米輸出は、米国からの輸入を50%上回っていた。さらに、韓国と台湾は中国が輸出するコンピュータ、携帯電話などの電子製品に用いられる部品の主なサプライヤーである。つまり、付加価値で見ると、韓国と台湾の対米黒字はさらに大きい。東アジア諸国は引き続き為替バスケットにおいて大きな比重を米ドルに置いている。東アジア域内各国が米ドル以外の通貨を重視する柔軟な為替相場制に移行すれば、中国、韓国、台湾など東アジア諸国が抱える巨額な対米黒字によって、東アジア諸国通貨がドルに対して全般的に押し上げられる可能性がある。

本稿で示した結果は、このような通貨切り上げは東アジアと米国との貿易の均衡化を促進するとともに、アジアの消費者の購買力の増大を通じて、最終財をアジアの消費者へと向かわせることを示唆している。さらに、東アジア諸国が協調的に通貨を切り上げることによって、アジア地域内における為替レートの安定が維持され、地域の生産ネットワーク内の部品の流れも円滑に進むと考えられる。最後に、このような通過の切り上げは、東アジアでは近隣諸国が主要な貿易相手であるため、東アジア諸国の実効為替レートに対して大きな影響を与えるものではないだろう。

図1:中国から30カ国への輸出(実質額と予測額、2012年)
図1:中国から30カ国への輸出(実質額と予測額、2012年)
注:輸出の予測額は、1988~2012年における3主要輸出国31カ国間で行われた貿易について、重力方程式基づいて算出。
出典:CEPII-CHELEMデータベースをもとに筆者が計算