ノンテクニカルサマリー

地域資源活用企業による地域活性化に関する政策的考察

執筆者 中西 穂高 (上席研究員)
坂田 淳一 (東京工業大学)
鈴木 勝博 (早稲田大学)
細矢 淳 (早稲田大学)
研究プロジェクト 地域活性化システムの研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「地域活性化システムの研究」プロジェクト

2007年の中小企業地域資源活用法の制定にみられるように、近年は、地域資源の活用が地域活性化政策の重要な柱の1つとなっており、各地で地域資源活用事例を見ることができる。しかしながら、地域資源を活用した事業は規模の小さなものが多く、その地域経済活性化効果を十分に実感できないのが現状である。

本論文では、地域資源を活用した企業が、地域活性化に貢献する規模に成長するプロセスをあるべき姿として示すとともに、このあるべき姿が実現するための方策を提案する。

分析対象としたのは、経済規模の似ている東北地方(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)と瀬戸内地方(岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県)に立地する製造業企業のうち、東京商工リサーチ2011年データによる各県の売上額上位50社である。これらの企業を、原材料調達先および製品販売先との地理的位置関係により「地産地消型」(原材料:県内/販売:県内)、「地域企業成長型」(原材料:県内/販売:県外)、「消費地立地型」(原材料:県外/販売:県内)、「県際活動型」(原材料:県外/販売:県外)の4つのタイプに分類し、東北地方と瀬戸内地方で、どのタイプの企業が多く立地しているかを分析するとともに、両地域に立地する企業の特徴を比較した。

本論文では、原材料の調達が主として地元(県内)で行われている企業を、地域資源を活用している企業とする。また、製品を県外に販売している企業は「県外貨」を稼ぐことにより地域経済の発展に寄与していると考え、地産地消型の企業が、製品の主要販売先が県外である企業、すなわち、地域企業成長型もしくは県際活動型に成長することをあるべき姿とする。

地域資源を活用した取り組みの多くは、はじめのうちは小規模で、地域内で製品を販売するにとどまっており、「地産地消型」である。こうした「地産地消型」企業が、生産規模を拡大して地域外の市場に進出するようになると「地域企業成長型」企業となり地域活性化に貢献する。一方、「県際活動型」企業には2通りのタイプが考えられる。1つは「地域企業成長型」がさらに成長し、原材料を地元で調達することが困難になった結果、県外から原材料を移入するようになったタイプ(地域企業発展タイプ)である。発展経緯から見て地域企業発展タイプの企業は地元資本であると考えられる。もう1つは県外からの誘致企業が、原材料を県外から移入し、県外に出荷しているタイプ(誘致企業タイプ)である。誘致企業タイプの企業は、県外資本であって取引関係も県外が中心で、地域経済への影響は、雇用を通じたものに限定されると考えられる。

東北地方と瀬戸内地方に立地する企業を比較すると、売上高が県内50位以内に入るような規模の大きな企業は、いずれの地方でも「県際活動型」企業が多いが、その中では、東北地方は県外資本の「企業誘致タイプ」が多いのに対し、瀬戸内地方は県内資本の「地域企業発展タイプ」が多い。すなわち、東北地方の製造業をリードしているのは県外からの誘致企業であるのに対し、瀬戸内地方では地元資本の企業が売上高の上位を占めている。このことは、東北地方が1970年代から80年代にかけて企業誘致に成功してきたことを示すものであるが、地元企業が育っていないともいえる結果となっている。一方瀬戸内地方は1950年代から60年代以降に設立した地元企業が成長して地域経済を支えている。そして、東北地方と瀬戸内地方を直近の事業所あたりの出荷額や付加価値、従業者あたりの出荷額や付加価値で比較すると、いずれのデータも瀬戸内地方の方が大きくなっている。

特許出願状況(出願件数、共同出願相手先等)を比較しても瀬戸内地方と東北地方の企業の傾向は異なる。瀬戸内地方では地元資本の企業が独自に研究開発を行い特許出願しているのに対し、東北地方では県外から進出した企業が県外の企業と共同で特許を出願しており、東北地方の企業の方がイノベーション活動において従属的になっている。また、出願件数の年推移をみると、東北地方は景気動向に従う形で年による変化が大きいのに対し、瀬戸内地方は安定的に推移しており、やはり東北地方の方が従属的である。

こうした企業活動をもとに東北地方と瀬戸内地方を比較すると、東北地方はこれまでの企業誘致策の結果、県外からの誘致企業が地域経済の中心となっているが、イノベーション活動は活発ではなく、近年の経済状況はあまりよくない。一方、瀬戸内地方は、誘致企業は少ないが、地元企業が「県外貨」を獲得しており地域経済の中心となっている。イノベーション活動が活発で、経済活動・雇用環境も良好である。こうした瀬戸内地方の企業は、地域資源の取り組みが成長した姿として「あるべき姿」を実現しているといえる。

これまでの地域活性化対策の中心は企業誘致対策であり、政府や自治体によって工業団地の造成や誘致企業に対する補助金といった施策が整備されてきた。しかし、誘致企業は、本社の方針によってその経営方針が決まるために、イノベーション活動は活発でなく、技術の蓄積による地域への貢献が乏しい。さらに本社の経営環境の悪化に伴う撤退の恐れもある。今後の地域活性化の方向は地域資源の活用であり、地域資源を活用した取り組みが地域経済活性化に結び付いていくためには、地元企業による地域資源活用の取り組みを、県外市場を販売先とするまでの規模に発展させていくことが必要である。

東北地方の今後の活性化を考えたとき、従来型の地域活性化対策である企業誘致よりも、地元の企業による地域資源を活用した取り組みを選択的に支援していくことが求められる。地元企業に限定した助成措置はともすれば不公平な政策であるとして問題視されがちであるが、本研究成果は、こうした措置には地域活性化の点で一定の効果のあることを示唆している。中長期的視野から東北地方の発展を考えるのであれば、地元の小規模な地産地消型企業のイノベーションを選択的に支援することで地域外への活動拡大を促進し、地域企業成長型企業、県際活動型企業へと成長させていくことが重要であろう。

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