ノンテクニカルサマリー

事業所・企業統計と特許データベースの接続データを用いたイノベーションと企業ダイナミクスの実証研究

執筆者 元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト オープンイノベーションに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本稿は事業所企業統計と特許データベースを接続して、日本におけるイノベーション活動の実態を包括的に分析するための初めての試みの結果を示したものである。2006年時点で日本のすべての企業約450万社のうち、1.4%の企業が特許出願を行っており、特許活動は製造業だけでなく金融・保険業や事業所向けサービス業などの幅広い分野で見られることが分かった。また、特許データの共同出願の状況から、イノベーションに関する企業間連携や産学連携などのオープンイノベーションの状況についても把握を行った。たとえば企業規模との関係でいうと、企業間連携を行っている企業の割合は企業規模とともに大きくなるが、産学連携割合については、小企業と大企業で大きいU字型の関係にあることが分かった。

2001年と2006年の2時点のパネルデータによる企業のダイナミクス(参入、退出)とイノベーションの関係については、規模の大きい企業においては存続企業における割合が高いが、小企業においてはむしろ参入、退出企業の割合が高くなっている(表)。これは、特許出願を行っている企業はその他の企業と比べてリスクの高い投資を行っており、規模の小さい企業においてはリスク吸収能力が小さいことからイノベーティブであっても倒産に追い込まれるケースがあることを示唆している。

表:企業規模別に見た参入、存続、退出企業の特許出願割合
表:企業規模別に見た参入、存続、退出企業の特許出願割合

この点については、企業の生存確率と特許に関する計量分析においても、特許と生存確率の関係は特に大企業において見られ、上記の仮説と整合的な結果が得られた。また、存続企業の企業成長と特許の関係については、規模の小さい企業においてより大きくなる。つまり、リスクの高い研究開発投資を行っている中小企業に対して、金融面などでリスク吸収能力を高める政策によって、経済全体としての成長のポテンシャルを高めることにつながることを示唆している。

また、オープンイノベーションと企業成長については、特に企業間連携について、規模が小さく若い企業ほど両者に強い関係が見られることが分かった。企業間連携に関する指標は特許の複数企業による共同出願の状況から作成しているが、共同出願を行うことで技術的リスクを軽減する効果が見られたと解釈できる。中小企業のイノベーション政策においては、個々の企業のリスク吸収力を高める政策が大事であると同時に、企業間ネットワーク(中小企業間、あるいは中小企業と大企業)を促進するための制度的な取り組み(たとえば、中小企業に対する「新連携」支援政策)も重要である。