ノンテクニカルサマリー

店舗混雑やサービスの質を考慮した顧客の再来店確率の推定

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

企業は顧客が固定客や優良顧客になるように、さらに新規需要も拡大するために、日々さまざまなサービスを提供するよう努めている。店舗、企業、国レベルでも需要を刺激するための効果がある方法や政策を見つけることは難しい。特に近年わが国では景気低迷が続き、消費者が消極的になっていることからも、市場を拡大するのは容易ではない。一方、顧客と企業の関係は、情報産業やIT技術の発達により、多くの顧客を一様に扱うマスマーケティングから、属性や購入履歴などからセグメントに分ける方法、さらには個人を対象としたone to oneマーケティングへと移行している。個人を対象としきめ細やかなサービスが顧客のロイヤリティを高めると考えられているものの、ダイレクトメール(emailも含む)1つをとっても、各個人に最適なタイミングと内容のものを送付するのは非常に難しい。

本分析では、医学、薬学分野で生存率や病気の発症率、経済分野では企業の倒産確率の予測 などに用いられる存続時間分析を応用して、美容院顧客の来店行動をモデリングする。それにより、顧客の購買履歴から各顧客の次回のサービス購入パターンと来店時期を予測することが可能となる。具体的には、顧客の満足度は再来店するか否か、どれくらいの期間で再来店するかに反映されていると考え、どのような要因が再来店を促し、早めるのかを探る。その際、現状1回のみ来店している顧客と、すでに複数回来店している顧客では来店行動が異なると考え、来店回数によって顧客を5つのセグメントに分けた。説明変数は、顧客の属性と購買履歴、受けたサービス・技術のクオリティ、店が静かだったか、混雑していたかなど顧客が体験した状況を再現する変数を加えている。属性以外の6つの変数として、(1)前回来店時に購入したサービスの種類、(2)施術担当者、(3)担当者の指名の有無を、顧客の購買履歴や担当者への選好を表す変数としモデルに組み込んだ。次に本研究のオリジナリティは、顧客の店での体験や経験を表すものとして店側(供給側)の状態を説明変数として加えたことである。具体的には、(4)来店時の店の混雑状況、(5)担当者の混雑状況、(6)担当者の技術レベルである。さらに、この(4)、(5)、(6)について顧客の年齢別の反応の違いも観察した。

分析結果は以下の通りである。

  1. 顧客のロイヤリティの高低によって異なったモデルが選択された。
  2. 優良顧客は一般客と比べて平均来店間隔が1カ月短かった。(図1参照)
  3. 優良顧客は、高い技術の担当者から施術を受けると次回来店時期が早まる。
  4. 優良顧客の中では、10代、20代は店の混雑を好み、30代以降は混雑が次回来店時期を遅くする。

本分析では、顧客のロイヤリティの高低や年齢層により、混雑や担当者の技術レベルの影響が来店確率に与える影響が異なることが観察された。来店行動を特定化することにより、いつ、誰が、何をしにくるのか予測することが可能となる。これらはレストラン、ホテル、各種小売業など他の業種にも応用可能であり、効果的なダイレクトメールの送付やプロモーション、売り上げ予測に利用できる。さらに日々、個人ベースで予測可能なことより、サービス業の重要な経営判断である出店、営業時間、人員配置などの決定に必要な情報も提供することになるだろう。さらにこの情報を活用することによって、産業レベルでもサービス業の需要拡大に必要な政策提言に寄与することが期待される。

図1:非来店確率の推定
図1:非来店確率の推定