やさしい経済学―市場を創る技術革新

第2回 わが国の現状調査

大橋 弘
ファカルティフェロー

技術革新とは、発明に市場という出口を与え、新製品や新サービスを生み出すことによって、新たな市場を創りだすことを指す。今回は、わが国における技術革新の現状についてデータを用いて俯瞰してみよう。

技術革新の重要な側面を知るには、文部科学省科学技術政策研究所にて行われている「全国イノベーション調査」が参考になる。2006~08年を対象とする2回目の調査が、同研究所の西川浩平研究員を中心にして昨年行われた。本調査はわが国における技術革新の最新の姿を描き出すものとしてその結果が注目されている。以下では、今年3月の国際会議で報告された概要を紹介したい。

「全国イノベーション調査」は、従業員数10人以上の企業を対象に、産業別・企業規模別に層化標本抽出した企業に向けて調査したものだ。この調査の特徴は、オスロ・マニュアルという経済協力開発機構(OECD)のガイドラインに基づいた調査であることから、国際比較が可能であるという点にある。

5000社弱(回収率は30%程度)の回答企業のうち、対象期間である06~08年の3年間に新製品やサービスを市場に投入した企業は31.4%(単純平均)にのぼることが明らかとなった。わが国の特徴として、企業規模別では大企業の割合が高く、産業別では製造業の比率がサービス業よりも1.5倍以上高いことが指摘できる。

さて、企業が生み出す新製品やサービスには2つのタイプがある。ひとつは既存の製品・サービスを改良したものであり、もうひとつはこれまで世の中になかったような、消費者にとって新規性・画期性を有するものである。本稿のテーマである市場を創出するような技術革新とは後者に属する。

市場にとって新規性を持つ新製品・サービスを投入したかを企業にたずねると、わが国における該当企業の占める割合は13.8%であり、新規性を持つ製品・サービスからの売り上げが当該企業全体の売上高に占める割合は中央値でわずかに数%であることが明らかになった。集計の仕方が各国でも異なることから、わが国と海外諸国との正確な国際比較は今後の分析の進展を待つ必要があるものの、わが国において市場を創りだすような技術革新が相対的に少なく収益性も劣っている現状が浮き彫りになった感がある。本連載の後半にて、わが国の技術革新における問題点についても議論したい。

2010年7月30日 日本経済新聞「やさしい経済学―市場を創る技術革新」に掲載

2010年9月6日掲載

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