令和5年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書

開催日 2023年9月15日
スピーカー 東岡 礼治(環境省 大臣官房総合政策課 計画官)
スピーカー 大井 泰人(環境省 環境再生・資源循環局総務課循環型社会推進室 室長補佐)
スピーカー 松永 曉道(環境省 自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 室長補佐)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI上席研究員 / 経済産業省大臣官房参事)
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開催案内/講演概要

気候変動や生物多様性の損失等の地球環境の悪化は環境問題の枠にとどまらず、経済・社会にも大きな影響を与える問題である。6月9日に閣議決定された令和5年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書では、環境変化に起因する数々の社会課題に対し、地域循環共生圏の構築やGX等の取組を加速させ、炭素中立(ネットゼロ)・循環経済・自然再興(ネイチャーポジティブ)の同時達成を実現させることで、環境・経済・社会の統合的向上につなげることを紹介している。本講演では、環境白書、循環型社会白書、生物多様性白書を担当された、東岡礼治氏、大井泰人氏、松永曉道氏に、三白書の概要、循環型社会形成に向けた取組、支援措置についてご解説いただいた。

議事録

気候変動問題と生物多様性

東岡:
近年、異常な高温や大雨などの異常気象が世界的に観測されています。気候変動は生物多様性と相互に関連していて、生態系の保全が気候変動の緩和や適応に相乗効果をもたらす一方、再生可能エネルギー導入に伴う森林伐採等のトレードオフもあることから、影響を最小化させることも重要になっています。さらには気候変動は、自然災害の多発・激甚化等により、食糧問題の深刻化といった、安全保障にも重大な影響を及ぼします。

UNEP(国連環境計画)が公表した報告書によれば、追加的な対策を講じない場合は、2050年に2.8℃に上昇すると予測され、国際的な協力をしてネットゼロを達成したとしても2050年に1.8℃上昇する等、パリ協定で目指している1.5℃目標の達成は難しい状況になっています。IPCC第6次評価報告書では継続的な温室効果ガスの排出はさらなる地球温暖化をもたらし、短期間のうち約1.5℃に達するとしています。そして、この10年間に行う選択や実施する対策が、現在から数千年先まで影響を持つとされ、今すぐ対策を取ることが必要だと指摘されています。

人間活動による地球システムへの影響を評価する手法に、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界、生物学的上限)という考え方があります。これにソーシャル・バウンダリー(社会の境界、社会的基礎)を組み合わせることで、人間活動が地球の限界を超えず、社会的ニーズも満たせるという、二つの境界線の間の「ドーナツ内での生活」を目指すことがわれわれに求められていると考えられます。

2022年に開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、気候変動の緩和や適応、気候資金などの分野で全締約国の気候変動対策強化を求める内容が盛り込まれるとともに、気候変動の悪影響に伴う損失と損害(ロス&ダメージ)に対する支援措置、そのための基金の設置も合意されました。

2023年4月にわが国が議長国として開催したG7札幌気候・エネルギー環境大臣会合では、脱炭素、循環経済、ネイチャーポジティブ経済を統合的に推進していくことで、エネルギー危機、食糧安全保障、経済影響に対処すること、そして追加的なプラスチック汚染をゼロとする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を2050年目標から10年前倒しすることが合意されました。

持続可能な経済社会システムの実現

日本は、2050年カーボンニュートラルと2030年度46%削減目標の実現に向けて、2030年までの期間を「勝負の10年」と位置付け、今後10年間で150兆円超とされる巨額のGX投資を官民協調で実現するために、「成長志向型カーボンプライシング構想」を実行していきます。

今年2023年5月に成立したGX推進法に基づき、7月に成立したGX推進戦略の下、「GX経済移行債」の活用によって今後10年間で20兆円規模の先行投資支援を実施し、排出量取引については、2023年度からGXリーグの下、企業の自主的な取組を試行し、知見やノウハウを蓄積しながら2026年度から本格的に実施していく予定です。また、炭素に対する賦課金に対しても2028年度から実施する等、GX投資先行インセンティブなどの措置を講じていきます。

さらに、2030年度までにカーボンニュートラルを実現する脱炭素先行地域を2025年度までに少なくとも100カ所選定するとともに、地域における重点対策も交付金で支援をしています。2022年に設立された株式会社脱炭素化支援機構(JICN)では、企業の技術的支援など、8月末までに7件の支援を進めているところです。

政府としても企業の脱炭素への取組支援として、専門的アドバイスを行う「脱炭素アドバイザー資格制度認定ガイドライン」を公表するほか、新たに環境ビジネスに先駆的に取り組むスタートアップの研究開発の支援、さらに洋上風力発電の導入の円滑化・加速化のための新たなアセスメント制度の検討を進めています。加えて、2カ国間クレジット制度(JCM)におけるパートナー国を2022年には25カ国までに拡大し、世界の脱炭素化に貢献するとともに、日本企業の海外展開を促進しています。

持続可能な地域と暮らしの実現

環境省では、地域資源を活用しながら自立・分散型社会を形成し、地域同士が支え合うネットワークを形成するために、地域循環共生圏づくりを進めています。
また、日本の温室効果ガスの排出量を消費ベースでみた場合家計からの排出は全体の約6割であり、カーボンニュートラルの達成には一人ひとりのライフスタイルを変えていく必要があります。

食品や農林水産物の持続的な生産消費を推進する「あふの環プロジェクト」を通した情報発信を行っています。さらに、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動を「デコ活」として、取組を推進しています。また、環境省、経済産業省、国土交通省の連携事業である、住宅省エネリフォームに関する新たな補助制度支援も進めています。

人の命と環境を守る基盤的な取組として、熱中症特別警戒情報の発表や市町村が民間施設をクーリングシェルターとして指定できる制度を設けました。加えて、化学物質対策に関しても、対象化学物質について環境リスク評価の実施、PFOS等の水質暫定目標値の検討を含め、専門家会議において総合戦略の検討を進めています。

循環型社会への移行

大井:
平成13年に「循環型社会形成推進基本法」が完全施行されましたが、その中で循環型社会は、「廃棄物の発生抑制と適正な循環的利用・処分により、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」として定義され、「Reduce」「Reuse」「Recycle」の「3R」に関しても5段階の優先順位が定められています。

現行の第4次循環基本計画では、環境、経済、社会的な側面との統合を含めた「持続可能な社会づくりとの統合的取組」について示した上で、多種多様な地域循環共生圏形成による地域の活性化、適正処理と環境再生、国際的な資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進、ライフサイクル全体での徹底的な資源循環、災害廃棄物処理体制の構築といった観点に加え、循環分野の基盤整備を進めています。

気候変動、生物多様性の損失、汚染という世界の三大環境危機に対しても循環経済の取組は有効であり、欧州では早い段階から取り組まれていました。われわれとしても、大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済から循環経済への移行が重要であると考えて推進しています。

循環経済の方向性

可能な限り天然資源を採取せず、環境配慮設計であったり、リサイクルしやすい素材を使用することで効率的に回すといった取組や動静脈連携の観点がこの循環経済を進めていく上では必要です。その循環経済への移行に向けた取組がひいてはGHG(温室効果ガス)の排出抑制、生物多様性の損失、汚染の削減にも貢献していくと言われています。

環境省は2022年9月に循環経済工程表を策定しました。その中で今後の方向性のポイントとして、プラスチック・金属資源、太陽光パネル、ファッションを挙げています。プラスチック資源循環促進法の施行、金属資源の処理量の倍増、3R+ Renewableの概念、バイオマス素材への切り替え等を通じて循環経済への移行に向けてアプローチしています。

この循環経済関連ビジネスは現状50兆円と言われていますが、80兆円超を目指して、経済産業省では産官学のパートナーシップに向けた会員募集を行っていますし、環境省でも経済産業省と経団連と共同でJ4CEと呼ばれるプラットフォームを構築していますので、ぜひ企業の皆様にもご参加いただければと思っています。

そういった環境価値の高いものを利活用いただくためには消費者の行動変容も必要ですし、地域の活性化をはじめ、産官学が連携して国際競争力を高めていくためにも循環経済への移行の推進が重要です。2023年4月に行われたG7のサミットでも「循環経済及び資源効率性原則(CEREP)」が採択されたところです。民間企業の循環経済及び資源効率性に関する行動指針として、今後の経営指針、経営方針の中にも組み込んでいっていただければ幸いです。

2000年度に約5,600万トンあった廃棄物の最終処分量は現状約1,300万トンとなり、循環型社会の取組が進むことでこういった成果も出てきています。今後とも3Rに努めるとともに、循環経済の取組を各省庁、また企業の皆様とも連携して進めていきたいと思っておりますので、ご協力をお願いできればと思います。

ネイチャーポジティブの実現に向けて

松永:
昨年2022年は、生物多様性に関して大きなモーメントとなった年になりました。12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」と呼ばれる新しい世界目標が生物多様性条約COP15で採択をされたのを受け、国内では「生物多様性国家戦略」が今年3月に閣議決定されました。

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、自然と共生する世界を2050年ビジョンとして掲げて、23のターゲットを2030年ミッションに置いています。それを踏まえて世界に先駆けて日本が策定をした生物多様性国家戦略は、5つの基本戦略を柱に、ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現を2030年に向けた目標として掲げています。

ネイチャーポジティブとは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」と定義されています。自然保護だけではその損失傾向は止まらないので、ゼロカーボンやサーキュラーエコノミーといった社会全体の変革を伴う他分野の連携を統合的に行うこと、そしてその重要性をこの新しい国家戦略の中で位置付けています。

生物多様性国家戦略

5つの柱からなる生物多様性国家戦略について、いくつか簡単にご紹介したいと思います。まず、基本戦略1の生態系の健全性の回復に関して、「30 by 30」という目標があります。生物多様性の損失を止めるためには少なくとも世界の陸と海の30%以上を保全しようという世界目標になります。今、日本の保護地域は陸域が20%程度、海域が13%程度なので、まだまだ積み上げる必要があります。

ここで重要なポイントになってくるのがOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)です。OECMと保護地域をネットワークで結ぶことで社会全体の生物多様性の向上にポジティブに貢献していこうという取組を進めています。その中でも民間等の所有地、緑地、企業の社有林や緑地、里山等を「自然共生サイト」として認定しています。

次に基本戦略2ですが、自然を活用した課題解決ということで、例えば森林保全による斜面崩壊の防止、湿地や水田を活用した流域治水、浸水被害の緩和など、生態系を活用した防災・減災、Eco-DRRという考え方を地域に普及、実装させていくことを1つの柱としています。

生物多様性の保全のためにもカーボンニュートラルの取組は必要です。しかし、再エネのために地域の生物多様性を損失してしまっては元も子もありませんので、いかにバランスを取りながらシナジーを図っていくかというところも大きなポイントとして掲げています。

続いて、基本戦略3のネイチャーポジティブ経済に向けて、生物多様性を経済に組み込んでいく視点が重要になります。私たちの社会は経済も含めて自然資本を土台にして成り立っています。これに関して、いかに負荷を軽減してポジティブな状況を作っていくかという動きが世界の企業から出てきています。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に続く形で、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の取組が大企業では始まっていまして、国内ではキリンホールディングス株式会社がTNFDの枠組みに沿った情報開示を世界で初めて試行しています。

最後に、少し毛色が違いますが、外来生物対策についてもご紹介したいと思います。2022年度、外来生物法の改正が行われ、ヒアリ対策を強化するとともに、アメリカザリガニやアカミミガメの規制手法を整備しました。YouTubeでも外来種生物との適切な付き合い方を発信していますので、ご興味があれば検索していただけると幸いです。

質疑応答

Q:
環境問題として新規化学物質や窒素とリンの負荷などが目につきますが、環境省ではどのような対策や取組をされているのでしょうか。

東岡:
科学的知見が集まれば、「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善促進に関する法律」に基づき、必要に応じて規制や管理をしていくことになります。また、影響が未解明な化学物質についてはエコチル調査等で健康と環境に関する調査を進めています。国際的な動きとしては、国際化学物質管理会議で「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)」が採択される等、国際的な動きをフォローしています。

Q:
サーキュラーエコノミーは経済安全保障上も重要かと思いますが、企業が取り組むサーキュラーエコノミー投資に向けて、政府はどのような支援措置をされているのでしょうか。

大井:
資源循環に関してはGXの基本方針の中でも記載があり、製造設備、金属やリチウムイオンバッテリー設備等の導入に関して今後10年間で2兆円超の投資措置を検討しています。

Q:
再生可能エネルギーとネイチャーポジティブを両立するために、自然保護と環境ビジネスのバランス、例えば世界遺産における観光客と経済活動のバランスについてどのようにお考えでしょうか。

松永:
あまり知られてはいませんが、世界自然遺産になることで保全が進んだ部分は非常にあります。また、日本人の場合、どうしても自然はタダで使えて当たり前という感覚があるので、そこで出た収益をしっかりと保全に回していくような仕組みを担保していく必要があると考えています。

再エネに関しては、必ずしも自然を守るためにどんな再エネにも反対するのではなく、守るべき場所と再エネの適地をゾーニングしながら折り合いを見いだしていくというスタンスが大事で、自分事としてそれぞれの関係者がとらえ、地道に取り組んでいく必要があると思っています。

Q:
温暖化も生物多様性も世界での取組が非常に重要かと思いますが、環境省は世界での取組にどのような貢献、あるいは圧力をかけているのでしょうか。

東岡:
COP27では、温室効果ガス排出削減のための緩和策の重要性や、緩和作業計画を採択すべきだという主張を呼び掛けました。また、気候変動の悪影響に伴う損失と損害について技術支援等を包括的に提供する「日本政府のロス&ダメージ支援パッケージ」を発表し、国際的に協調した取組を働きかけています。

Q:
最後に、視聴者の方々に一言ずつメッセージをいただけますでしょうか。

松永:
生物多様性はなかなか取り扱いが難しい言葉でもありますが、まずはネイチャーポジティブというワードを覚えていただき、それぞれが自分事としてとらえて、おのおのの立場で何ができるかを考えて行動していただけるとありがたいと思います。一緒にがんばっていきましょう。

大井:
公害問題も環境省の原点ですが、この廃棄物行政というものも公衆衛生の問題から長らく対策をしてきたところです。廃棄物の適正処分や福島環境再生は、課題解決の上でも、循環型社会を形成していく上でも重要な問題です。わが国の資源の確保、そして国際競争力の強化に向けて、産官学が連携して取り組んでいきたいと思っています。

東岡:
環境省では第6次環境基本計画に向けた検討を進めています。環境の危機感が高まる中、TCFD、TNFD等により、企業の環境配慮の取組が企業価値として評価される時代になってきており、企業の取組も進展しています。今までの日常の暮らしや社会を変えていかなければならない状況に来ているという認識を持って、皆さん一人ひとりができることをぜひ一緒に取り組んでいただければと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。