対日投資の新時代へ-「対日M&A活用に関する事例集」と海外PEファンドによる投資事例の紹介

開催日 2023年5月17日
スピーカー 宮島 英昭(RIETIファカルティフェロー / 早稲田大学商学学術院教授 / 経済産業省「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」座長)
スピーカー 大塚 博行(カーライル・ジャパン・エルエルシー副代表兼マネージング・ディレクター / 経済産業省「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」委員)
スピーカー 谷田川 英治(株式会社KKRジャパン パートナー / 経済産業省「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」委員)
スピーカー 垣見 直彦(経済産業省 貿易経済協力局 投資促進課長)
モデレータ 天野 富士子(経済産業省 貿易経済協力局 投資促進課 投資交流企画官)
ダウンロード/関連リンク
開催案内/講演概要

対日直接投資は、内外資源の融合によるイノベーションや地域での投資拡大・雇用創出を通じ、日本経済の成長力強化や地域の活性化に貢献すると期待されている。このため日本政府は、2014年に「対日投資推進会議」を内閣府に設置、2021年6月には「対日直接投資促進戦略」を閣議決定するなど、対日投資の拡大を促してきた。経済産業省も、対日M&A(合併・買収)の参考となる「対日M&A活用に関する事例集」を4月19日に公表している。本セミナーでは、経済産業省の「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」の座長である宮島英昭早稲田大学教授から、外国企業による日本企業のM&Aについての最新研究を報告いただくとともに、経済産業省からは政府の方針を、大手プライベートエクイティファンドであるカーライルとKKRからはM&Aの現状や課題を共有いただき、企業経営の高度化に寄与するM&Aとは何かについて議論した。

参考URL:
「対日投資促進戦略」(2021年6月2日閣議決定)
「対日M&A活用に関する事例集」掲載サイト(経済産業省)

議事録

対日M&Aの重要性

宮島:
日本企業は、2000年代からの低いROE(Return on Equity:自己資本利益率)、また最近ではPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)の1倍割れ(会社の純資産よりも株価の時価総額が低い=会社を解散した方が株主の利益になる状態)など、利益率の低さや株式市場からの評価の低さに苦しんでいますが、その一因には、日本企業の事業ポートフォリオあるいは経営の在り方の問題があります。

これには、多角化事業の再編成において、主力事業とシナジーのない低収益事業部門を抱えていることによる「コングロマリットディスカウント」(それぞれの事業を単体で持つよりも企業価値が低い状態)を生み、低収益につながっているという側面と、もう1つは、比較的専業的である企業群でも、国内市場の飽和や成長の鈍化に伴って企業の収益も低下しているという側面があります。こうした企業群が、外部環境の急激な変化に対応して、成長を実現していくためには、海外企業を買い手とする対日M&Aは重要な意味を持っているのです。

日本でのM&Aの歴史は1980年台に始まり、国内企業間のM&Aを中心に2000年代に本格化して、2010年代にはクロスボーダー(対外・対内)M&Aが増加、2015年頃からは対日M&Aが急増しています。当初は海外事業法人が買い手でしたが、最近はプライベート・エクイティ(PE:Private Equity)ファンド(未上場企業に投資し、経営支援などで企業価値を高め、株式上場や売却によって利益を得ることを目的としたファンド)が買い手の中心となっています。

PEを中心とした対日M&Aが増加している要因には、日本に進出してきた投資会社の活動が定着したことに加えて、コーポレートガバナンス・コード(会社の意思決定に関する原則:2015年に金融庁と東京証券取引所によって公開され2018年、2021年に改訂)の浸透、またコロナ禍による経営環境の変化や、最近では為替水準の低下といったマクロ環境の変化があります。2015年以降の急速な対日M&A案件の増加は、主にPEによるカーブアウト(親会社が戦略的に小会社や自社の事業の一部を切り出すもの)案件によるものです。並行して、金額は小さいものの、事業継承案件も増加傾向にあります。

M&Aを進める上で、誰がベストオーナー(当該事業の企業価値を中長期的に最大化できる経営主体) かについて考えると、国内事業体、海外事業体、PEの三者それぞれに強みがあることが分かります。国内事業体は、会社規模が大きい方が有利になる「規模の経済性」や他の自社事業との「補完性」がある場合には有利ですが、事業のグローバル展開や新たな経営手法を注入するという面ではやや劣る部分があります。海外事業体に関しては、日本市場の拡大あるいは投資対象の企業が持つ独自の技術の獲得が狙いであるため、事業のベストオーナーとしては少し限界があります。

そういう意味で、経営のノウハウの注入、グローバルネットワークの利用、さらには新しい人事評価による意欲向上といった一連の経営の質の向上の施策を提示できることから、PEがベストオーナーに選ばれているのだと思います。

今後の対日M&Aの課題としては、日本でカーブアウト案件がさらに拡大していくためにはどんなところに障害があるのかを把握すること、また、必要がありながらも、多くの主体が株式を分散して所有するため交渉が困難なタイプの企業の対日M&Aをどう促進するかがあり、このあたりの今後の進展が日本の改革の1つの焦点になるのではないかと考えています。

「対日M&Aの活用に関する事例集」の意義

垣見:
近年、外国企業や海外PEファンドによる日本企業へのM&Aが増加傾向にある中、日本政府としても、日本企業の経営課題解決や成長加速に向けた選択肢の1つとして対日M&Aの活用を促すべく、対日M&Aを受け入れて業績改善した日本企業の事例集を作成し、その普及に取り組んでいます。

事例集では20事例を選定し、出資後の成長過程や経営改善の取り組み、従業員の生の声、企業が直面していた課題、経済安全保障の観点を含めた留意事項などを記載しています。経営基盤、人材・従業員、事業展開の観点から複数事例に共通する6項目のメリットを抽出するとともに、企業・事業戦略、人材・体制、資金・ノウハウといった課題について整理しました。

海外資本の活用によって成長を遂げた企業のポイントとして、まずはビジョンの共有・信頼関係の構築があります。経営ビジョンが一致している買い手を探すことに加えて、M&A後にも議論し合える信頼関係の構築が重要です。

また、従業員・取引先の方々の不安を払拭するには丁寧なコミュニケーションも欠かせませんし、戦略面、資金面、手続き面における事前準備を徹底することが肝心です。併せて、留意点として、外為法を含む各種法令の遵守、安全保障上の視点も踏まえた取り組みの重要性についても指摘しています。

対日M&Aの主なメリットとしては、グローバルな知見・経営ノウハウ獲得による経営/財務管理の高度化、海外資本が有する豊富なネットワークを通じた人的支援による組織体制の強化が主に挙げられています。他に従業員や事業展開の面においても、複数案件で共通するさまざまなメリットが確認できました。

海外からの人材、資金を積極的に呼び込むことでわが国全体の投資を拡大させ、イノベーション力を高めて、日本のさらなる経済成長につなげていくため、2023年4月の「対日直接投資推進会議」において、具体的なアクションプランが決定されました。1つは、対日M&Aの活用に不慣れな地域企業に対する普及啓発とともに、JETROを通じて専門家による事業メンタリング支援を行う取り組みです。そしてもう1つが、対日M&Aによる経営改善・改革の効果を分析し、その結果の普及に努めるというものです。

経済産業省としては、本事例集の周知・普及を進めるとともに、オンラインセミナーや説明会の実施、英語での情報発信、さらには海外企業と日本企業とのマッチングの機会を拡充していきます。

M&Aの成功の鍵となる「what(何をするか)」と「how(どうやるか)」

大塚:
カーライルは2000年に日本に進出し、早い時期から日本企業特化型のファンドを作ってきました。グローバルでの預かり資産としては約51兆円、これまで日本で38社の投資を行い、うち8社が上場しています。

日本企業の全体的な共通項として、利益率が低く、海外での成長が出ていないという課題があります。ROEやPBRが低い原因は、既存事業のブラッシュアップ、コア事業の拡大、新規事業・新ビジネスモデルへの取り組みといった3つのイニシアチブがバランスよく運営できていないためで、これを今後実行できるかが日本企業が現在問われていると思います。

課題に対して何をしなければならないかという “what”は非常に分かりやすいのですが、多くの会社が直面しているのがどうやるかという“how”の部分です。“how”は「ヒト」「モノ」「カネ」のリソースの活用ですが、一般的に言ってそこが十分に機能していません。

カーライルが提供する付加価値というのは、このリソースの提供です。人材の補強、M&A戦略、相手を口説く技術、かつM&Aを実行した後のPMI(Post Merger Integration:経営統合プロセス)のスキルといった成長ノウハウを提供していきます。リソースの中で重要なものの中にお金もありですが、コングロマリット企業は本業にお金を回してしまい、副業にはお金が十分に回らないことがあります。その副業事業の競争相手はもしかしたら専業の会社かもしれないので、リソース不足の中での経営は、その専業企業に対し2周、3周遅れになってしまうことがあります。このような状況の中、カーブアウトでスポンサーとして、われわれは絶対的な資本家としてリソースの提供をしていきます。さらに、その企業の過去の成功体験にとらわれない客観的な立場からやるべきことをお話しし、経営陣と並走していくことで、スピード感を持った経営イニシアチブを実行していきます。

センクシア(旧日立機材)は耐震向け建設構造部材を扱う企業で、日立金属の上場子会社でした。投資当時も営業利益が約10%超の優良会社でしたが、多くの売り上げが日本の新築建設需要に連動していたこと(新築建設マクロ需要が長続きするかのリスク)、副業で行っていた産業用チェーン事業が本業とシナジーがなかったこと、長期的な成長を支える資本政策が成立していなかったこと(東証2部の親子上場)から、2015年に弊社がスポンサーとなり日立グループからの独立を実行しました。

会社プロパーの方々のオントップに外部経営人材を登用することで、経営体制の強化を図り、プライシング戦略などで得た利益を新たな投資に向けることで中長期的に既存事業のブラッシュアップを行いました。

並行して、本業とかけ離れていた産業用チェーン事業を同業に譲ることで、より建材の付加価値を追求する専業メーカーとして脱皮を果たし、新規事業として既存物件の耐震化に対するプロダクト・オファリングも広げることができました。

こういった取り組みを通して、対象会社の人々が主人公となり、自分たちの会社のステージを大きく上げていくという能動性の文化を作り上げることを、われわれは非常に重視しています。株主、従業員、あるいはお客様から期待感を得ることで企業の存在感を示し、結果的に、収益力があり、リスペクトを受ける会社に成長していけたと思います。

企業の成長を加速させるカーブアウト投資

谷田川:
KKRは1976年に設立された、世界に23拠点有するグローバルの総合資産運用会社で、いわゆるレバレッジド・バイアウト(LBO)という投資手法を生み出した業界の先駆者として知られております。現在約60兆円の預かり資産残高を有しており、2006年に日本に進出して大企業グループにおけるカーブアウト投資にフォーカスをして投資活動を行っています。

KKRがコーポレート・カーブアウト投資に注目する理由としては、大企業グループの中にはまだ数多くの優良なノンコア事業が存在しており、グループ内での制約を取り払うことで潜在力を開花し、企業価値を高めることができると考えているからです。

日本ではどうしても「ノンコア=良くない事業」と考えられがちではありますが、グループ内のノンコアであっても本源的に強い競争力を有している事業も多々ありますので、そこにスポットライトを当てて、成長を支援することができればと考えています。

こちらから事例を2つほどご紹介させていただきます。まずはPHC(旧パナソニックヘルスケア)の事例です。もともとはパナソニックグループにおけるヘルスケア子会社で、パナソニックの診断薬事業、三洋電機のライフサイエンス機器事業、電子カルテ事業という、3つの事業が統合されて設立されました。

カーブアウトのきっかけとしては、親会社の事業ポートフォリオ見直しの一環ですが、対象会社であるPHCとしても独立を志向され、ヘルスケアの専業企業として第二の創業を行いたいというところでした。事業パートナーであったバイエル社の糖尿病ケア事業を買収して、開発、生産、販売までのバリューチェーンの垂直統合を実現するため、M&Aをお手伝いさせていただきました。

まず初年度に、さまざまな業務改善の活動によって8割ほどEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前・税引き前・減価償却前利益のこと:イービットディーエー)が伸び、その後には複数のM&A案件を通じて4.4倍ほどのEBITDAまで成長しています。それ以外にも合計7件ほどの追加買収を行い、総額で3,000億円に上る資本を投下しています。並行して11件のノンコア事業の整理も実施することで、競争力の高いポートフォリオを築いてきました。買収先の選定、案件の実行、そして買収後のPMIまで、全てのフェーズにおいてKKRのグローバルリソースを投入して支援させていただきました。

次の事例は、Kokusai Electric(旧日立国際電気)で、2000年にグループ内3社が合併してできた会社です。先ほどと同様、それぞれが独立会社として成長を目指すべく、半導体製造装置事業と映像通信事業という2つの事業を分離して専業会社を作りました。

一度非公開化した後に事業を2つに分けて、それぞれが違う株主の下へ行くといったストラクチャリングを含めてお手伝いをさせていただきました。投資におけるグループ内での制約がなくなったことで、KKRによる投資前と足元を比較すると、R&D投資は2倍規模、従業員の数は1.3倍増加、売上高は1.5倍もの成長を遂げています。

PEによる投資は、次の4つの点においてユニークだと思います。①グループ内の過去の制約やしがらみにとらわれず何を行うべきかを改めて定義する、②ゴールに向かうための迅速な意思決定体制を構築する、③必要なスキル・リソースを獲得する、④インセンティブや賞与等の制度改革を行う、です。この4点を確実にすることで、PE資本の下で企業価値向上が実現できると考えています。

質疑応答

Q:

売り手側企業として、対日M&A取引がスムーズにできた事例を教えてください。

大塚:

現在日本で発生しているカーブアウト案件の多くは子会社形態ですが、今後は親会社が事業部を切り離す選択と集中が起こると思います。それには独立に必要な単独の機能を創る必要があり、実現には1年から1年半ほどかかることが多いです。先んじてこのような準備に取り組むことが大事です。事業継承系のところであれば従業員は創業者に従順という構図が多いので、経営層に対して能動性の文化を先行して醸成していくと、創業者が引退する際にもスムーズに進むでしょう。

谷田川:

デューデリジェンス(DD)に耐えるカーブアウト・ファイナンシャルを作るのには時間を要するため、前もって進めておく必要があります。また、対象会社としても企業戦略や目指すべき方向性を明確にして事業エバリュエーションをしておくことで、資本移動が発生した場合でも主体的に新たな資本を見つけることができると思います。

Q:

外国企業や投資家にとって日本企業の魅力は何でしょうか。円安が魅力なのでしょうか。PEファンドを含め、海外投資家の間で日本に対する関心が高まっているのはなぜですか。

大塚:

日本の会社はテクノロジーや質の高い人材といった成長できる要素は多くあるものの、経営力が弱いために結果をうまく引き出せていません。非常にポテンシャルは高く、目に見える形で潜在力を顕在化させやすいと、われわれは感じています。

今は世界の中で、消去法で日本の資本市場にお金が入っている部分もあるので、日経平均が3万円を超えて余裕がある間に日本の上場企業が経営力をブラッシュアップしていく必要があると思います。

谷田川:

やはりまだ潜在力の高い優良な企業が多くのグループの中に眠っていると思うので、日本でのカーブアウト投資は世界の中でも最も魅力的な投資機会の1つとして注目しています。

上場株投資家やPE投資家が日本のマーケットに注目をしている理由としては、コーポレートガバナンス改革がもう一段上のステージに上がるという期待感があるのではないかと見ています。円安の影響に関しては、長期投資を行うPEファンドにとっては、さほど大きな要因にはなっていないと思います。

Q:

旧来的な外国企業が日本に進出して事業を始める事例はどうなっているのでしょうか。紹介いただいた事例集に失敗事例やネガティブケースも掲載されているとよいと思います。

垣見:

経済産業省はJETROと連携して対日投資促進を進めており、そうした事例に関してはJETROのホームページでご紹介しています。令和4年度補正予算で「対日投資喚起事業」を行っており、日本に進出している外国企業の方々に取材し、彼らの活躍・活動をPRすることで海外勢による投資のきっかけ作りを進めています。

失敗事例については、事例集全体をホームページに掲載しておりますが、事例集65ページに「期待した効果が出なかった事例」と要因をコラムという形で取り上げています。

Q:

わが国において、対日M&Aのみならず、再編全般において障害となっている法制などはありますか。

宮島:

企業結合法制などの法制面では基本的な点は整備されていると考えています。実質的に対日M&Aを進めていく意識改革が今後の課題だと思います。対日M&Aは日本企業のコーポレートガバナンス改革と並行して進展しているため、アベノミクス以降に急速に進展した改革を今後も進めていくことが制度的なインフラストラクチャーの形成の意味を持つと思います。

Q:

投資先の要求に対して、どのように折り合いをつけていますか。投資先のDDで重視されている点とディールブレークになるポイントを教えてください。また、PEファンドと対象会社間の利害の整合性をどのように図るのでしょうか。

大塚:

われわれは10年後を見据えながら、やるべきことを2、3年でやって、持続的成長を遂げることが目的ですので、その大義のためには本質論で語ることでご理解いただいています。

DDにおいては、企業が潜在力を発揮できていない要因を見極め、それらをわれわれの付加価値提供で取りのぞけるのかというところを重視します。産業構造上、経営力だけで成長できない状況の会社という場合には、残念ながらお断りするケースもあります。

われわれの付加価値提供は徐々に減っていきます、その時にイグジット(株式や事業を譲渡し投資を回収すること)が起こるわけですが、弊社の真価が問われるのは、投資先からわれわれの資本がなくなった後、数年後にその会社(元投資先)が隆々とできるかという、常に10年目線での投資をしています。

谷田川:

DDというのは投資先が事業を精査する場面でもありますが、対象会社としても投資先がどういったビジョンを描いているのかを精査していただいて、どこを目指すかというゴールの明確化が必要ですので、合意できなければ投資自体を行わないという判断もあります。

Q:

売り手側にアプローチする際に、いまだに外資に買われることに対する不安や抵抗感はありますか。また、投資の出口時に日本企業を希望するなど、売り先の制限等がかかるケースはありますでしょうか。

宮島:

確かに、銀行、生命保険会社の株式売却による資本移動が急速に進んだ2000年代には伝統的な事業法人が外資のアプローチに抵抗感をもったケースもあったと思います。また、海外投資家も日本市場に慣れていなかったため摩擦が生じたケ-スもありました。しかし、10年を経て、海外企業側も日本企業を学習し、日本企業も海外PEとの連携がもたらすメリットを理解し始めたので、そうした抵抗感は小さくなりました。最近は国内M&Aと対日M&Aの割合は金額的にほぼ拮抗、あるいは対日M&Aが増加傾向にあると思います。

大塚:

ナショナルセキュリティーの問題が起こることもあるので、慎重にアセスメントします。対象会社が海外成長戦略をテーマに掲げていることもあり、必ずしも売却先として日本企業を希望するわけでもありません。弊社が投資した企業は経営力が強くなっているので、M&Aにより資本が移動しても、M&A先との合算でより経営/事業の幅を広げたところで、経営力を発揮してほしいという思考でM&Aを提案する買い手候補が多い印象です。

谷田川:

海外での成長戦略を助けてもらえるという観点で、外資系のPEに絞ってパートナー選定をするケースも出てきていますし、外資系のPEが提供できる価値に関しても一定の認知が出てきていると感じます。

Q:

日本政府への要望事項がございましたら、よろしくお願いいたします。

宮島:

対日M&Aの促進がクロスボーダーM&Aを促進していくので、日本政府にも積極的に政策を進めていただければと思います。

大塚:

日本企業の経営者のみならず、従業員も含め、日本企業の競争力が低下していることに問題意識を持ち、国全体として課題にアタックしていく能動性文化を醸成する必要があります。そのためにも政府にも有効なイニシアチブを取っていただきたいと思います。

谷田川:

対日M&Aを推奨、奨励、促進する企業に対して、より前向きに取り組めるようなモチベーションを促進する施策やインセンティブ制度をご検討いただけると、大変ありがたいです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。