IoT、AI等の技術革新とグローバル化する電子商取引の課題とあるべき将来像

開催日 2017年6月8日
スピーカー 柴野 相雄 (TMI総合法律事務所弁護士/慶應義塾大学法科大学院非常勤教員)
モデレータ 西川 和見 (経済産業省通商政策局通商戦略室長)
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近年、IoT、AI等の技術の発展により、ビッグデータを収集、解析することで新たな付加価値を産み出すイノベーションの創出が期待されている。これらの技術革新は、従来のEコマース(電子商取引)ビジネスを変容させ、よりグローバルに発展して行くことが予想される。本講演では、TPPの電子商取引章を分析し、見えてきた課題を説明すると共に、あるべき将来像について議論したい。

議事録

Eコマースの潮流

柴野相雄写真私は弁護士になって15年たちますが、その間、知的財産法やEコマース・アプリ関連法、情報の保護に関する法律などの相談を非常に多く扱ってきました。最近は個人情報保護法の改正があったので、データの利活用に関する相談が非常に多くなっています。

Eコマースが始まったのは1990年代後半ごろですが、Eコマースの第1の潮流は、リアルに売っているモノを電子契約で買って、それが家に届くのが基本だったと思います。しかし、最近は物流をドローンで行うような話もあり、今後はドローンに関する大きなビジネスがEコマースに関係するようになっていくと思います。

Eコマースの第2の潮流として出てきたのが、サービスの提供です。小説や映画、音楽といったデジタルコンテンツを配信して楽しむもので、サービスを享受するにはkindleやiPadといったデバイスが必要になります。

著作権法第1条の「目的」を読むと、文化的所産という言葉が出てきます。これがコンテンツといわれるもので、コンテンツを楽しむツールとしてデバイスがあり、デバイスにデジタル情報を配信するのが第2潮流であるといえます。

第2の潮流におけるもう1つのポイントは、有償のサービスと無償のサービスがあることです。これが今後の戦略を考える上で重要になると思います。インターネット上に広告枠を作り、それを見る人を増やすことで広告収入を得て、サービスは無償で提供することによってカスタマーやユーザーを増やす戦略は、GoogleやFacebookなどでも取られています。

デジタルなサービスは、最初の開発段階に大きなコストをかけ、リリースする段階ではしばらく無償にすることがありますが、無償提供が不当廉売に当たるのではないかという議論が生じています。その点からも、有償か無償かという切り口は、Eコマースを考える上で大きなポイントの1つだと思います。

そして、デジタル情報にも所有権の意識が芽生えています。本やDVD、ゲームソフトなど動産といわれるものについては所有権がありますが、Eコマースでデジタル情報が流れてくるようになると、その情報は一体誰のものなのか、利用する権利はあっても所有権はあるのかといった問題が出てきます。

民法上、所有権という概念は、モノにしか認められていません。知的財産やアイデアのような無体財産といわれるものは、特許や特殊な法律がない限りは保護されないのが建前ですが、実際にはデジタル情報を利用する権利を買って、たとえば消去されてしまったら、文句を言えるのかという問題があるわけです。

日本でも、ゲームに関する裁判例が以前ありました。ある人(原告)がネット上でゲームをしていて、チート(不正)行為をしたためにゲーム会社からその後一切利用できなくされました。その人はゲーム内にいろいろな財産を持っていましたが、勝手に使えなくするのは違法ではないかとゲーム会社を訴えたのです。

裁判所は原告の請求を棄却しましたが、これまで考えたことのないような問題が生じていることは確かです。デジタル情報においても、消費者保護法的発想をしなければならないということです。このように、リアルのデジタル化が新たな法的問題を提起しはじめています。

第3の潮流は、ネットの特性を生かしたサービスの提供です。FacebookやGoogleは無償で提供されていますが、セールスフォースのクラウドサービスやオンラインゲームなどは有料です。こういったものによって、また新たな問題が出てくると思われます。

近年、まさに第4の潮流として登場してきたのが、AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)時代のネットサービスです。Amazon EchoというスピーカーにはAlexaというAIが入っていますし、Amazon Goという無人の店では、客が買いたいものをピックアップすると自動的に決済してくれます。これらもインターネットにつながっている点で電子商取引の一環だと思います。

このように、第1の潮流から第4の潮流まで、できることがだんだん変わってきています。それに伴って、新しい法的な問題点がいろいろと出てきているといえます。

AI、IoTとEコマースを掛け合わせることで何が起きるかというと、まずセンサーなどによってデータの吸い上げが簡単になり、データの偏在化が進みます。それから、プライバシーの問題が一層重要になります。

また、従来のEコマースでは、AIが誤作動を起こしたり、人間に危害を加えたりするようなことは想定していませんでしたが、これからはそのようなリアルなトラブルも危惧されます。それに対してあらかじめ予防法的にルールを定めることも求められますし、トラブル発生時の解決策を示すことも重要だと思います。自動運転やコネクテッドカーなどでも、保険でカバーしようという動きが業界内にあります。

それから、情報提供サービスの場合、最近もキュレーションサイトの問題がありましたが、情報のクオリティをどう担保するかという問題が出てくると思います。無償の情報は質が悪いということがだんだん分かってくると、みんなお金を出しても信頼できる情報を得たくなると思いますが、技術革新は待ってくれないので、ルール作りや自然淘汰を待っていてはなかなかビジネスが推進しないと思います。

最後に、電子商取引をもう少し膨らみのある概念として捉えていかないと、見過ごす問題も出てくると思います。

IoTビジネスの構造と法的ポイント

IoTビジネスに関する近時のご相談の中には、どこにチャンスを見いだせばいいかというざっくばらんなものも多くあります。そのとき、ユーザー、デバイス、ネットワーク、プラットフォーム、サービスの5つのフェーズで考えると、自分の強みや弱点が見えてきます。

たとえばFitbitという腕時計は、着けるだけで1日の歩数や心拍数などが全て記録され、アプリ上で見られます。つまり、腕時計をしているユーザーからデバイスを通じていろいろな情報を獲得し、ネットワークを通じてさらにクラウドのプラットフォームに届けられ、アプリ画面を通じて自分のデータが見られるようになるサービスを提供しているわけです。実際にお金がかかるのはモノを買うときだけであり、5つのフェーズが1つの輪になっているというのがIoTビジネスの構造です。

そして、モノとサービスの2つの側面から考える必要があります。日本では、IoTのモノに関してどのような法律が関係しているかというと、民法や製造物責任法、知的財産法(特許法、著作権法、商標法、不正競争防止法など)、電波法などいろいろです。

他方、IoTのサービスに関しては、電子商取引と一緒です。契約の締結や内容については民法の他に電子契約法や消費者契約法が関係しますし、コンテンツの利用については知的財産法やプライバシー権、肖像権、パブリシティ権などの判例があります。他にも表示義務に関する法律やポイント・おまけに関する法律、不法行為の禁止を定めた刑法や不正アクセス禁止法、プロバイダ責任制限法などが関係します。データ保護の観点では個人情報保護法や電気通信保護法の他、プライバシー権についても知っておく必要がありますし、さらには古物営業法や出会い系サイト規制法なども関係します。日本国内でIoTのサービスを提供するには、知らなければならない法律がたくさんあるのです。

IoTビジネスのポイントとして挙げられるのは、7点です。1点目は、IoTビジネスは必然的に業務提携が必要になるので、問題が生じたときに自分の会社がどの部分の責任を負うのか、責任分界を明確にしておかなければなりません。

2点目は、取り扱う情報はどのような情報か。3点目は、情報を誰が取得するのか、誰と共有するかです。情報には所有権はないので、契約の中で集めた情報をどう使うかをきちんと書いておかないとトラブルのもとになります。

4点目は、AIを利用するかどうか、それはどのようなAIかということです。AIといってもいろいろあるので、ビジネスで使うためにはそのAIの機能に着目し、どういう問題が生じるのかを考えなければ問題点は見えてきません。

5点目は、知的財産は既に発生しているのか、これから発生するのかです。これから発生するものについては、業務提携で複数の当事者が出てくるので、権利関係を予めきちんと定めておかないとトラブルのもとになります。

6点目は、ユーザーへのサービス提供は誰が行うか。苦情、窓口対応をどうするかです。カスタマーやユーザーを想定したビジネスでは苦情、対応窓口が必要ですので、特にこれまでB to Bの商売しかしてこなかった企業がIoTビジネスに参加するときにはこれが問題になります。

7点目は、IoTは必ずネットにつながっているので、サイバーセキュリティの問題が欠かせません。サイバーセキュリティのガイドラインを普及させ、それを守っていないと何が起こるかというところまで周知しないと、実効性は上がらないと思います。

グローバルな電子商取引における法的留意点

日本企業がアプリを使ったサービスを海外に展開する際の法的留意点としては、共通して7項目が挙げられます。

1つ目は、業規制です。医師法のような業規制があれば海外でのビジネスは当然できません。2つ目はコンテンツの利用規制があるかどうか、3つ目は消費者保護に関する規制があるかどうか、4つ目は個人情報などのデータの越境移転に関する規制があるかどうか。5つ目に、営業所などの設置が義務付けられるか否かも、海外にビジネス展開するときのポイントになります。

さらに、6つ目として課税に関する規制、7つ目として準拠法(強行法規の有無)や裁判管轄が挙げられます。日本企業が海外に進出してトラブルが起きたときに、どの国の法律で解決するか、消費者との間で日本の法律を適用できるのかといった点にも留意が必要ですし、海外でトラブルが起きるとその国の裁判所で裁かれるということで海外進出に二の足を踏むことがあり、裁判管轄は海外展開する上で意外とネックになっています。

たとえば、2つ目のコンテンツの利用規制についてですが、検索サービスは、一般的に公表された大量の表現物(著作物)を無断で利用(複製)し、それが表示されるというスキームになっています。米国にはFair Useという著作権法の規定を根拠に合法とされていますが、日本ではかつては曖昧で、2009年の著作権法改正によって検索エンジンサービスが合法になりました。

しかし、ヨーロッパのように権利意識の強い国では、日本で行っているサービスと同じものを展開しようとすると問題が生じ得ます。いちいち許諾を取ることに時間とコストをかけるのもどうかということで、結局、海外には展開しないという判断がなされる。検索サービス1つをとっても、こういう問題があるのが現状です。

そこで、TPP(環太平洋経済連携協定)とCETA(カナダEU包括的経済貿易協定)の電子商取引章を比較してみました。TPPは非常に拡充した規定が盛り込まれているといわれ、私もCETAに比べればそうだと思うのですが、日本企業が海外に進出して電子商取引を行う上でネックとなっている部分が今もなお全て解決されているわけではないという問題意識を持っています。

たとえば14.7条の「オンラインの消費者の保護」では、加盟国において重要性は認識されているけれども、必ずしも全てが義務になっているわけではありません。しかし、法的拘束力や制裁がなければ、遵守されないのではないかという素朴な疑問があるわけです。義務とされているものでも、14.8条の「個人情報の保護」のように意外と例外規定が多いものもあります。例外規定が一切ないと、それはそれで大変だという気もしますが、例外規定を盾に独自の国内ルールを作られてしまうと、TPPが意味のないものになってしまうという点が気になっています。やはり重要なところについては、これから細部を詰めていく必要があると思います。

電子商取引のサービスが拡充されて次のステージへ入っている中で、今のTPPの内容は守備範囲として十分なのかという懸念があります。トラブルを解決するルールや、そのルールに従ってもめ事を解決するような機関がないと、実効性のあるグローバルなビジネス展開はなかなか難しいのではないかと思います。

ですから私は、まずは努力義務を極力減らして例外規定を定める場合を限定し、さらに電子商取引を一定の類型に分けた上で、どの類型でも問題となる点は何か、類型ごとに問題になる点は何かを考察し、より具体的かつ広範なルールを作成するよう提言しています。

加えて、ルールの実効性を担保する制度の創設が必要です。法務省でグローバルな紛争解決機関のようなものを作ると聞いていますが、今後インターネット関連の技術革新にまつわる国家間あるいは企業間の紛争を解決するような機関が日本国内にできれば非常に面白いと、個人的に期待しています。

シンガポールには、裁判所に代わる国際紛争解決のための仲裁機関であるマックスウエル・チェンバーズという施設があって、日本の契約書の多くに、何かあればシンガポールの国際仲裁で解決しましょうと書いてあります。海外企業は日本の裁判所が嫌なので、いきおいシンガポールの国際仲裁機関を使うことになるわけです。多くの国際契約がそういう形になっていて、それでシンガポールは成功したのだと思います。床面積が3倍に拡大されるとも報道されており、それだけ裁く事件も多くなっているということだと思います。

日本にも国際仲裁機関を作って、国をまたぐ企業間の紛争解決ができるということを海外に打ち出していけるといいと思います。そのためにはいろいろな問題を克服する必要がありますが、重要なことだと思っています。

質疑応答

Q:

電子商取引には、国内在住者に限るという条項が付いていないものもたくさんあります。それで企業が国をまたぐ取引をして問題になったら、単純に泣き寝入りなのか、それとも何らかのルールがある程度見えているのでしょうか。

A:

権利意識の高いところでは、何割くらいの企業がそういう対応をしているかは分かりませんが、たとえば日本では合法だけれども他国では違法だというときに、日本で合法として無断で使っている情報が海外に出ないような仕組みを構築していると思います。

また、日本ではカジノは禁止されているので、海外に住んでいる日本人向けに日本語で書いたカジノサイトを開設してはどうかという話がありますが、それももちろん違法です。その意味で、きちんと整理されているところと未整理なところがあるのだと思います。

Q:

いろいろなものが効率的に移動して、それが人々の生活を豊かにすることを目指してやってきた結果、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)がプラットフォームを独占する状態になっていることについて、どのような印象をお持ちですか。

A:

プラットフォーマーの立場が強くなり過ぎてデータが偏在化し、データを全部取られてしまうのではないかという危惧は確かにあります。ですから、独占禁止法のようなものでくさびを打って、日本に進出するときには気を付けるようにというメッセージを出すのは、一般論としては正しいやり方だと思います。他方で、日本企業のビジネスの足かせになってはいけないので、ちょうどいいところを探っていく必要はあると思います。

Q:

プライバシーに関する議論は今後大きくなっていくのか、それとも多少プライバシーを犠牲にしてもサービスを得ることを望むようになるのか、どちらに動くと思われますか。

A:

現状、プライバシーに対する意識は日本でも非常に高まっています。ただ、同時に最近の技術を使った利便性は享受しなければならないとも思っているので、5年後か10年後かにどこかでクロスする部分が出てくると思います。

Q:

不正競争防止法を改正してデータを保護しようという動きについて、お考えがあれば教えてください。

A:

データの権利を明確に認めてもらった方が交渉しやすいとは思いますが、不正競争防止法だけで足りないかと言われると、そうでもないような気がしています。不正競争防止法は、誰かが類型に当たる不正競争行為をしたときに文句が言えるという受け身の法律ですが、交渉の中でそういうことを勝手にされたら不正競争防止法に触れるということが言えればいいわけで、新たな権利を認めるとその内容次第では逆に柔軟性がなくなってしまうというおそれもあるのではないか思います。

Q:

日本にはFair Use規定がないので、何か出てくるたびにいちいち改正しないと著作権法違反になってしまいます。たとえばAIでいろいろな文献を読み込んだときのアウトプットが著作権法違反になるという指摘もありますが、これではいけないのではないでしょうか。

A:

日本でも文化庁が新法に向けた取り組みをしていて、第1層・第2層・第3層に分けて個別規定を設けようとしているところです。既にテキストマイニングやデータマイニングを想定して作られた47条の7という規定があるのですが、AIを想定していないがゆえに、その規定でどこまで行けるのかという相談が来ています。あの規定を変えるとビジネス上無断利用をしたい者にとっては有利になると思うのですが、いろいろな権利者団体の声もあるので、議論が必要だと思います。

Q:

AIを使った法律相談など、今後、法律の分野でもAIが使われる可能性があるような気がするのですが、弁護士の方々はAIの発展をどのように受け止められているのでしょうか。関連して、国際的な電子的法務に関する電子商取引のようなものが発展したときに、弁護士法などの法律上、厄介な問題があれば教えてください。

A:

脅威というよりも、それを使ってどう楽しむか、どう楽をするかに頭が行くと思うので、共存共栄できると思います。

2つ目の質問は業規制の話だと思います。たとえば医師法を例にとると医者がAIを使えば医者が診断していることになりますが、医者ではない企業がAIを使って診断サービスをすると業規制に引っかかります。弁護士法の場合も規制に引っかからないようにすれば、できることもあると思います。

モデレータ:

日本のようなきちんとした国では企業がいろいろな法律の執行を受けるので、どんどんやれと言っている他の国と競争条件が不平等になってしまうという話をよく聞きますが、いかがでしょうか。

A:

そういう問題があるのでルールの統一化は必要だと思いますし、制裁が難しい中で、サービスが提供できないようにシャットダウンしてしまうような措置は、対抗策としてあり得ると思います。

Q:

IoTのマネタイズとなると、ブロックチェーンなどが出てきて、暗号化の問題があると思います。今後の商取引はそれらをどうコントロールしていくのでしょうか。

A:

難しい問題だと思います。現に個人を特定できないという問題は今のネットビジネスでも存在するので、特定できない前提でビジネスを構築していかないと、お金の取りっぱぐれになることもあると思います。

モデレータ:
日本では第三者認証や電子署名といったものがありますし、エストニアはEパスポートというものを発行して、本人であることを電子的に確認するシステムを提供しています。ただ、万人について確実に本人であることを確認するシステムというのは、なかなか難しいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。