日米協力で持続可能な原子力技術開発を

開催日 2016年11月21日
スピーカー 田中 伸男 (公益財団法人笹川平和財団理事長/元国際エネルギー機関(IEA)事務局長)
モデレータ 池内 健太 (RIETI研究員)
開催案内

福島第一原子力発電所事故以来国民の関心は原発の安全性に集中し再稼働は遅々として進んでいない。石油価格の低迷はアベノミクスには追い風だが、原発の停止はエネルギーの九割を中東に依存させる結果となっている。万が一シリアやイエメンにおけるサウジアラビアとイランの間の代理戦争が拡大しホルムズ海峡が通航停止になれば日本経済は大打撃を受ける。地球環境問題もこれから厳しいピアレビューが始まり日本も自主目標以上の二酸化炭素排出削減を迫られることは間違いない。原子力は切り札と分かっていてもどうやって国民の信頼をもう一度回復するのか。 六ヶ所村やもんじゅに代表される核燃料サイクルの将来像もはっきりしない。そんな中で日米原子力協定の改訂期が2018年に迫っている。 福島原発のデブリ処理にも使える統合型高速炉と乾式再処理技術を原子力への信頼回復に向けた日米協力トモダチ作戦の旗として掲げたらどうか。

議事録

現在の課題

田中伸男写真国際エネルギー機関(IEA)や米国大使館にいた経験から、私はエネルギー安全保障のためには原子力が必要であると考えています。しかし、福島の原発事故以降、それに対する国民の理解がなかなか得られません。また、地球環境の点からも原子力は必要であることも国民になかなか届いていないことを考えると、どうも原子力は単に環境技術や安全保障の技術というだけでは受け入れられないのではないかと思います。

原子力が持続可能なエネルギーであると言うには、安全の問題や使用済み燃料から生じる高レベル放射性廃棄物の処理、核不拡散性がはっきり保証されなければいけません。今の状態のまま、とにかく再稼働が必要と言っていても国民は理解してくれません。現在、米国アイダホのアルゴンヌ国立研究所にある統合型高速炉と乾式再処理システムが、私が言っている条件に最も近いことが分かり、この2年間、笹川平和財団で研究を進めてきました。

パリ協定で目標に掲げられている、2100年までに産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保つというシナリオの達成には、完全にゼロエミッション電源にしなければなりません。そして、そのためには二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)を多用し、原子力のエネルギーシェアを大きくし、再生可能エネルギーにいたっては現在の22%のシェアを70%程度まで増やすことで、電源の大幅な脱炭素化が必要です。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2℃シナリオの場合、毎年20基(約20ギガワット)の原子力への新規投資が必要です。歴史的には1970年代から1980年代初めにかけて、20基以上造っていた時代はありますが、スリーマイル島やチェルノブイリの事故が起こって一気に減ってしまいました。最近また、中国を中心に伸び始めたところへ福島の事故が起きたので、今後20基の軽水炉を毎年建設していくことは非常に難しいかもしれません。

また、2030年代には大量に廃炉が生じるので、新しいシステムを構築していかなければなりません。原発は今後とくに中国やインドなどの途上国で建設されるので、これらの国で安全に建ててもらわなければ当然困ります。IEAが安全、廃炉、不拡散、使用済み燃料といった問題を解決しなければ大変だと言っているのは全くそのとおりで、持続可能な原子力はこれらの条件を満たす必要があります。

したがって私は、現在の第3世代、3.5世代の原子炉よりも、2030年代以降に必要とされる第4世代炉に早く移った方がいいし、その旗を日本が一所懸命振るべきだと考えています。残念ながら、第4世代の先頭を走っていたはずの高速増殖炉「もんじゅ」がなかなかうまくいっていないので、もんじゅがもし駄目なら一体どうするのかという議論が起こっているのもタイムリーな話ではないかと思っています。

統合型高速炉と電解型乾式再処理施設

私が統合型高速炉(IFR)を知ったきっかけの1つは、「パンドラの約束」という映画です。その中で、受動的安全性(固有安全性)を持つ高速炉が紹介されています。映画では、1986年に福島の事故とほぼ同じような全電源喪失実験が行われ、人の手を介さずに無事に炉を停止することができたことで受動的安全性が実証されました。

IFRは1960年代に試験的増殖炉の第2タイプとして、アイダホのアルゴンヌ国立研究所に建てられました。高速炉で、ナトリウムを冷却に使う点はもんじゅと同じですが、IFRは炉心が金属燃料である点が大きく異なります。米国は、金属燃料の方が冷却材とナトリウムの熱伝導がいいなど、使い勝手の良さからフランスなどとは異なり金属燃料を選択しました。

すぐ隣に小型再処理システムがあるので統合型なのですが、このシステムは日本の六ヶ所村とは違い、電気分解を使った乾式再処理システムです。炉と再処理施設が同じ敷地内にあり、プルトニウムを敷地外に出して輸送する手間がかからないため、テロの標的になりにくく、安全の問題や核不拡散の点では非常に強いと考えられました。

統合型高速炉であるIFRは、ほぼ無限なエネルギー源と固有安全性、非常に優れた長期廃棄物処理技術を持っています。また、電解型乾式再処理システムの大きな特徴は、六ヶ所型の湿式に比べて施設がとてもコンパクトで、コストが安い点です。湿式のように水素を使った再処理では、水素が減速材になるため中性子の動きが遅くなり、ぶつかって臨界を起こす可能性が高まります。臨界管理がとても面倒で大きなコストが掛かる湿式と比べて、コストが5分の1で済むと米国は試算しました。

また、高放射性廃棄物を管理しやすい点も特徴です。使用済み燃料を直接処分するには30万年かかりますが、プルトニウムを取り出すと9000年ほどで済み、さらにマイナーアクチニド(超ウラン元素)を全部一緒に燃やしてしまうと300年で天然ウラン並みに放射能が落ちるので、廃棄物処理が楽になります。

このアイデアを日本の核燃料サイクルに適用すると、いろいろなメリットがあります。使用済み燃料を再処理して取り出したMOX燃料を再び燃やすと燃えにくいプルトニウム240が出てしまうため、使用済みMOX燃料は別途再処理する必要がありますが、電解型乾式再処理システムはそれに使えます。また、高レベル廃液の中からマイナーアクチニドを取り出して燃やすと、残った高レベル廃棄物の放射能レベルは300年で天然ウラン並みに減少するので、日本が考えてきた核燃料軽水炉サイクルを補完する可能性があるのではないかと、電力中央研究所は考えました。そこで、1990年代には日本は電力中央研究所を中心にIFRに対して資金を出していたのですが、クリントン政権が1994年に研究を中止したため開発が停止してしまいました。

実証実験を福島で

IFRは優れたシステムなのに米国が採用しなかったのは、パラダイムシフトがかなり難しかったからだと思います。これまで軽水炉サイクルに全て費やしてきた資金や知識、技術、人材を新しいサイクルのために使おうしても、そう簡単ではありません。

米国でIFRがうまくいかなかった理由はもう1つあって、軽水炉があまりにもうまくいったことです。軽水炉が高速炉をクラウディングアウトしたといえます。もともと軽水炉は潜水艦の動力源なので、水を冷却材にするには最適です。万一の場合も沈めれば自動的に止まるので、軽水炉は水中では受動的安全性がありますが、福島事故が示すように陸に揚げると事故が起こるリスクがあります。

現在、IFRに非常に熱心なのは韓国です。しかし、韓国は自国で再処理ができず、使用済み燃料プールが満杯になりつつあるため、何とか再処理して燃やすためのナトリウム冷却高速炉(SFR)を、米国と協力しながら国内に造りたいと考えています。しかし、米国はプルトニウム工場を朝鮮半島に造ることには非常にネガティブなので、韓国は日本に対しても秋波を送ってきています。

フィンランドのオルキオルオト原発は、すぐそばにオンカロという使用済み燃料の貯蔵施設があります。これからの原子力は、高レベル廃棄物の貯蔵施設も再処理施設も、できるだけ同じ場所に造る地産地消型のモデルの方が、安全面やごみ処理の面でも楽なのではないかと思います。

もう1つのメリットとして、IFRを福島第一原子力発電所のデブリ(ごみ)処理に使えるのではないかという話があります。福島第一原発の炉心デブリは県外に持ち出すことが極めて難しいし、石棺方式はとらないので、いずれ取り出して処理しなければなりません。乾式再処理は、デブリ処理に非常に向いています。そこで私は、福島第二原発を廃炉にする位なら、デブリを燃やす施設を実験的に造ってみてはどうかと提案しています。

日米原子力協定は2018年に期限切れを迎えます。黙っていれば自動延長になりますが、黙っていない人がたくさんいるわけです。幸いにもトランプ政権になって議会・政権のねじれ現象は解消されるので、米国は比較的環境が良くなると考えていますが、日本国内の反原発の方々は、2018年のチャンスを逃せば協定を解消する機会は二度とないと考えて、徹底的に反対してくることは火を見るより明らかです。

もし原子力協定がなくなれば、原子力の将来もないし、日米安保の将来も危うくなると思うので、協定の延長を保証する方法として、日米で協力して福島でデブリ処理システムの実証実験を行ってはどうかと考えています。

技術可能性の研究

笹川平和財団では、将来の高速炉サイクルオプションの1つとして、ナトリウム冷却小型金属燃料高速炉と乾式サイクル施設を併設したIFRという概念を考え、その技術的可能性について探るため、福島第一原発で発生した燃料デブリを例に、その処理の時間とコスト、安全性について、東芝、日立GEニュークリア・エナジー、三菱重工業の協力を得て、1年半にわたって研究してきました。

発生した炉心領域のデブリは、超ウラン元素重量(高放射性プルトニウムとマイナーアクチニド)で1.94t、重金属ベースでは251tあると推定しました。これは公知の事実とされています。これを15年で全て燃やして燃料集合体にしたい。そこから考えて、ナトリウム冷却小型金属燃料高速炉の熱出力を19万kWtと設定しました。

すると、まずデブリから金属転換をして燃えるものを取り出し、初装荷燃料をつくるまでに4年かかります。そこから炉の運転を開始してそれを燃やし始めると使用済み燃料になっていくわけですが、さらに残ったデブリもどんどん燃料にしていくと、燃やし始めてから6年ほどでデブリは全て処理されます。そして、さらにそれを燃やし続けると、約25年でマイナーアクチニドが約3分の2まで減少し、燃料集合体中の管理状態へ移行できるという結果が得られました。

また、デブリの再処理には、リチウム還元+電解精製、カルシウム還元+電解精製、塩素化溶解+電解精製、酸化物電解、フッ化物揮発法や湿式法など、いろいろな方法があります。それら全てを検討した結果、コンクリートなど複雑なものが混ざっているとすれば、湿式よりも乾式にした方がいいのではないかという結論に至りました。

そこで、アルゴンヌ国立研究所の大量の知見に基づき、できるだけリチウム塩による還元方法をとってみて、それで駄目ならカルシウムを使う方法をとることにしました。マイナーアクチニドとプルトニウムを一緒に取り出す点がポイントで、それが核不拡散性につながります。つまり、プルトニウムを純粋に取り出す六ヶ所方式のピュレックス法と違い、マイナーアクチニドも一緒に取り出されることで爆弾に転用しにくくなります。

また、両方とも非常に放射能が高いので、一緒に取り出して燃やしてしまえば、本来なら高レベル廃棄物として捨てられるはずのマイナーアクチニドが燃やされるため、処理期間が10万年ではなく300年になります。

それから、湿式との大きな違いは、バッチ処理といって1回ごとに必要な量を処理して燃料に変えられるので、連続的ではない点です。湿式方式だと常に動かしていなければなりませんが、乾式はその必要がないので、デブリ処理には非常に向いていると考えられます。

さらに、射出成型の方法によって金属燃料を遠隔操作で非常に簡単につくることができるため、金属燃料が乾式再処理と非常にうまく合っているというのが、アルゴンヌ国立研究所の経験からわれわれが知り得たことです。

並行して、炉心をどういう並べ方にすれば最も受動的安全性を発揮し得るかという炉心設計の研究もしています。GEMというガス膨張式モジュールを入れているのは、万一のことを考えて、炉心を冷やすために入れておけば安全だからです。

アルゴンヌ国立研究所の全電源喪失実験では、2次系の流量が停止したときに、小型金属燃料炉の炉心が溶けるのではなく、人の手を介さずに自動的に停止したことが実証されました。なぜなら、炉心の温度が上がると、いろいろなプロセスの結果として原子炉の出力が低下し、自然に止まるからです。これが受動的安全性であり、小型金属燃料炉は全体としてみると受動的安全性が保証されていることの証明になります。

それから、炉心が万一溶けたらどうなるかという研究もされています。炉心は上方で溶けやすく、上から多孔性のデブリが出てくるとナトリウムがその中を通過しやすいので、下に固まってデブリになりません。つまり、臨界管理が非常に重要な高速炉において、金属燃料とナトリウムを使うと非常に大きな炉心損傷時でも挙動をコントロールできるはずだということです。ですから、万一の事故でもそれほどひどい状況にはならないはずです。

コストとしては、電気出力7万kWeの炉を造るのに約1100億円が掛かると試算されています。軽水炉は1基5000億円ですから、それに比べると非常に安いです。サイクル施設を合わせても、六ヶ所と比べて安く建設することができ、福島の廃炉のために使っている予算と比べても決して高い支出ではないことが分かると思います。

実現に向けた課題

今後の課題は多く、炉心設計やシステム設計と物量評価、安全性評価などやるべきことはまだたくさんありますが、米エネルギー省もアルゴンヌ国立研究所も、ぜひ日本と一緒に研究したいと言ってきています。決して日本の片思いではなくて、米国にも自分たちの技術を日本で実際に使ってもらえるなら、ぜひ使ってほしいという強い希望を持っているのです。

乾式再処理システムの課題は、まずデブリ処理のための還元プロセスです。本当にリチウムでできるのか、カルシウムを使わなければならないのかは、まだまだ研究の途上です。

また、福島第一原発の1〜4号炉には使用済み燃料が大量にありますが、それを六ヶ所に持っていって再処理することは容易ではないので、その場で処理するシステムが必要になります。それに乾式再処理システムを使うというのも、十分あり得るオプションだと思います。そうすれば、いずれデブリが出てきたときに、それを処理するシステムは既にできていることになります。そういう形で使用済み燃料処理のために炉を造ることは、日米協力の大きな方向性としてあり得るという議論もあるので、加えて考えていかなければならないと思います。

長崎で被爆された長崎医科大学の永井隆教授は、「原子爆弾は確かに悲劇だったが、これを使うことはやはり必要なのではないか。世界の文明は原子エネルギーで変わる。それで新しい幸福な世界がつくられるなら、多くの犠牲者の霊もまた慰められるであろう」と言われたそうです。福島の事故で、日本の原子力技術に対する世界の信用は失われました。私は、それを取り返すためには福島で新しい技術の実績を上げるしかないと思っています。

質疑応答

Q:

米国の原子力政策は今後どのような見通しにあり、IFRは米国のオプションとして可能性はあるのでしょうか。また、日本においてもIFRがオプションの1つなのであれば、日米双方のオプションがコンバインして1つのシナリオができると思うのですが、その辺の見通しを教えてください。

A:
米国のエネルギー政策は、トランプ氏が大統領になってみないと分かりません。ただ、共和党は従来から原子力に前向きなので、原子力を推進する政策をとることは間違いないと思います。

IFRは米エネルギー省の下で開発された技術なので、彼らがもしプルトニウムの商業利用の道を開くなら、彼らのオプションになることは大いに考えられます。米国ではいろいろなベンチャーが新しい炉の技術を開発しており、米政府はそれらがビジネスの規制を受けながら新しいモデルをつくるのを見て政策を進めているので、勝者を決めることはしたくないという思いはあるでしょう。

こうした中で、世耕弘成経済産業相に先日、「フランスのASTRID(高速炉)を取り上げると聞いているが、米国のIFRも取り上げた方がいいのではないか」と申し上げたところ、「検討する」とおっしゃっていました。アルゴンヌ国立研究所は、福島のためにこの技術を使ってもらえるなら協力したいと非常に前向きです。日本の現実からすれば、どうしてもIFRでなければならないわけではありませんが、デブリ処理、核不拡散、安全などいろいろな問題を考えると、非常に有力だと思います。

Q:

直感的にフランスとの協力と米国との協力がパラレルに進むとは考えにくいと思います。仮にIFRに移行した場合、日本はフランスとも協力しながら、今まで培ってきた知見やノウハウをある程度生かせるでしょうか。

A:

私は生かせると思っています。アレヴァ(フランスの原子力企業)も金属燃料で燃やすことはできますが、彼らがMOX燃料と言っているのはMOX燃料を再処理するプラントで利益を得たいからで、アレヴァの都合で言っているのです。もし日本が米国型を採用しても、フランスと協力はできるはずです。

それから、金属燃料を燃やしていろいろな試験結果を得るためにもんじゅを使うことは十分可能です。日本は金属燃料を使ったことがないので、データが足りません。そういうことでも高速炉は使えるので、すぐ捨ててしまうのはもったいないと思います。

高速炉は乾式再処理と金属燃料の相性が非常によく、コストも安いので、今まではフランス型しかオプションがなかったため仕方ありませんが、もし米国型のオプションがあるなら、そういう方向に進んでいくでしょう。韓国もそうしたいと言っているわけですから、より核不拡散性があって安全な炉のモデルを、日米韓にフランスが入って構築することは構わないし、そうしないと将来は中国、ロシアの炉になってしまうと考えられるので、西側の国々が将来の原子力をつくることは極めて重要だと思います。

Q:

田中先生は、福島第二原発には廃炉ではない別の活用の道があると提案されていますが、それは減容炉であるIFRの基地にするというようなアイデアなのでしょうか。

A:

まさにそうです。福島第二原発はそのまま再稼働するわけにはいかないとすると、そのサイトをうまく使って、IFRの実証実験をしてみてはどうかということです。そこでまず使用済み燃料を処理して、いずれデブリ処理に乾式再処理を使う道もあるので、福島第二原発はそういう使い方をすればいいのではないかと思います。

その副産物として電気が生まれます。もちろん使用済み燃料の処理、デブリ処理が目的ですが、発電もできるので、福島第二原発で行えば、いろいろな施設が整っているので便利ではないかと思い提案しました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。