COP21の結果と我が国のエネルギー温暖化対策の課題

開催日 2016年6月24日
スピーカー 有馬 純 (RIETIコンサルティングフェロー/東京大学公共政策大学院教授)
モデレータ 奈須野 太 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省産業技術環境局環境政策課長)
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昨年12月に合意されたパリ協定は温暖化交渉の歴史の中でどのような意義を持っており、将来に向けていかなる問題点を内包しているのか。今後、世界は低炭素化に向かうのか。その中で日本はどのように対応すべきか。日本にとってのチャンスとリスクは何か等を考察する。

議事録

パリ協定の評価

有馬純写真COP21でパリ協定が採択されたことは、先進国も途上国も目標を提出し、その実現に努力する全員参加型の枠組みができた点で、歴史的重要性は非常に大きいと思います。しかも、それがサステイナブルになるように、プレッジ&レビュー(誓約と検証)には拘束力を持たせつつ、目標自体には拘束力を持たせていないのは非常に知恵のある解決です。

ただ、プレッジ&レビューがコアになる以上、ある程度の実効性が必要なので、決定的に重要なのはこれから作られるルールです。中国やインドのような大排出国のレビューが通り一遍のもので、先進国のレビューが極めて厳しくなれば、実効性は大きくそがれます。

ただ、火種は残っていて、トップダウンの1.5〜2℃という温度目標と、現実的なボトムアップのプレッジ&レビューが並存しています。各国が出してきた約束草案(INDC)の目標排出量の総和は、世界全体の排出量の伸びを若干低めるにとどまっており、2℃目標と整合的とされる排出削減パスと比べると大きな差があります。1.5℃目標となると、世界全体で2050年前にネットマイナスになっていなければならず、実現可能性はありません。このギャップを各国のボトムアップの目標引き上げと国連における交渉で埋めるのは無理があり、技術開発によって埋めるしかないと思います。

世界は低炭素化に向かうのか

私の見通しは、中長期的には低炭素化に向かうことは間違いないけれども、各国がボトムアップで目標を持ち寄ったパリ合意によって、状況が劇的に変化するとは考えにくいというものです。なぜなら、2010年のカンクン合意でも2℃安定化目標が入っていたにもかかわらず、その後も世界全体の排出量は増加したからです。1.5〜2℃目標に合意できたのは、皮肉な見方をすれば、誰も責任を負わないものだからともいえます。

たとえば、2℃目標と整合的な温室効果ガス濃度450ppmの目標を達成するには、グローバルな排出削減量を2010年比で6割ほど削減する必要があります。仮に先進国が野心的にゼロエミッション(排出量100%削減)を達成したとしても、途上国に許容される排出量を将来予想される人口で割り戻すと、1人当たり排出量は今より50%以上低くならなければなりません。

今後、生活レベルを引き上げようとしている途上国には、それは受け入れられません。しかも、途上国は他にも、エネルギーアクセスの確保、経済成長、エネルギー安全保障といった課題を抱えています。そこで、より抽象的な1.5〜2℃目標を受け入れたという経緯があります。

先進国も同様の面があり、欧州の環境関係者は、「経済成長とグリーン政策を他律概念で捉えるのは間違いで、厳しい温暖化目標や高い炭素価格を設定することで新しい技術・産業・雇用が生まれる。われわれはWin-Winでグリーン成長を目指している」と言っていました。しかし、現実はその逆で、ユーロ危機の際、ヨーロッパが気にしていたのは、シェールガス革命によってエネルギーコストの低減と温室効果ガス削減が同時にできているアメリカとの競争力格差であり、このためにコスト高のグリーン政策の見直しが進んでいました。

雇用・経済状況が厳しいときに経済全体のコストを引き上げるのは、政治的に難しい面があることは先進国も同じです。今後の動向についてはアメリカの影響力はいまだに大きいと思います。大統領選でクリントン氏とトランプ氏が温暖化について真逆のことを言っているので、今後のアメリカの方向性には相当注意しなければなりません。

日本の取るべき対応

日本は1990年代からプレッジ&レビューを主張していましたが、一度は京都議定書という極めて拘束性の強いレジームを作りました。しかし、それが全員参加型の枠組みにはならなかった教訓から、長い回り道を経てようやくプレッジ&レビューに戻ってきたといえます。日本が国内で積み上げてきたプレッジ&レビューの経験や知見を基に、実効的・建設的なプレッジ&レビューの制度設計を発信していくべきだと思います。

また、日本の排出量は世界全体の3%以下であり、日本国内だけで何%削減したかを強調しても、あまり意味がありません。日本が持つ優れたエネルギー環境技術を海外展開することで、費用対効果の高い形で地球全体の温室効果ガス削減に貢献していかなければいけません。

そのために、二国間クレジット(JCM)を活用すると共に、国連の下では技術メカニズムと資金メカニズムの連係をはかり、日本の優れた技術が途上国に移転される仕組みを考えるべきです。日本の技術はクリーンではありますが、どうしても初期コストが高くなるので、そのような技術が途上国で選ばれやすくするよう、公的融資制度の強化も検討すべきです。

長期的に温暖化問題を考えると、より革新的な技術開発が必要です。これは日本が最も強みを発揮できる分野であり、安倍首相もCOP21で「エネルギー環境イノベーション戦略」を策定する方針を鮮明にしました。国際連携や国際共同開発の形で進めていく手も当然あると思いますし、日本がリーダーシップを取って、なかなか市場に乗らない技術のパフォーマンスを劇的に上げることで長期の温暖化問題解決につなげることは、極めて日本らしい貢献の仕方だと思います。

要注意なのは米大統領選です。クリントン氏は、恐らくオバマ路線を継承すると思います。すでに太陽光パネル5億個の設置、石油消費の3分の1削減などを主張しており、2020年に出すとみられる2030年目標は、2025年目標の26〜28%削減から深掘りして30%台の目標を設定する可能性が結構高いと思います。

また、最高裁によって差し止められている排出規制計画クリーン・パワー・プランは、最高裁で最も保守的な判事が亡くなったため、現在4:4で拮抗している状態です。クリントンが新大統領になれば非常にリベラルな判事を任命することが予想され、クリーン・パワー・プランはまた動き出すでしょう。米欧がカーボンプライシング連合を作る可能性もあります。

片やトランプ氏は気候変動懐疑論者で、パリ協定脱退や気候変動関係の国連への拠出金を止めると主張しています。日本の立場からすると、どちらが大統領になっても頭の痛い問題です。

それから、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が常に1つの権威として語られていることにも注意が必要です。今回のパリ協定の結果、IPCCに対して1.5℃シナリオを2018年までに作れという指示が下りています。IPCCでは、野心的な目標に対して、可能であるというレポートを出せば出すほど研究資金が集まるという不思議な構図があり、そういったものがIPCCのデファクト・スタンダードになっていくリスクはゼロではないと思います。

2℃目標も、IPCCが2℃を推奨するとは一言も言っていないにもかかわらず、デファクト・スタンダードになった経緯があります。1.5℃目標や350ppmも同じ道をたどると、世界はますます出口を失う状況になります。

産業革命以降の温室効果ガス濃度が倍になった場合の温度上昇を気候感度といいますが、専門家の見解には1.5〜4.5℃の幅があり、コンセンサスは得られていません。そのような不確実性がある中で1.5℃シナリオを作るには複数のパスがあることを、日本のアカデミアからはもちろん、諸外国からも発信していかなければいけません。そうすることで、IPCCが政治利用されることがない環境整備を行う必要があります。

日本にとってのリスク

これらの状況を加味し、WEOでは以下の政策提言をしています。

日本のエネルギーミックスは、自給率を震災前以上の水準(おおむね25%程度)に戻す、電力コストを現状よりも引き下げる、欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げて世界をリードするという3つの基本方針の下、非常に難しい多元連立方程式を解いた結果、導き出されたものです。

2030年までの実質経済成長率1.7%/年を前提として電力需要を17%引き下げ、再生可能エネルギーを22〜24%、原子力を20〜22%とすることで化石燃料の輸入コストを節約し、その分を使って再エネに掛かるFIT買取費用を吸収し、全体として燃料コストを引き下げるという綱渡りのような設定になっています。

諸外国と比べても非常に野心的である理由は、コストの高さです。日本の約束草案である26%目標の限界削減費用は欧米などと比べて非常に高く、しかも原子力20〜22%が確保されることが前提となっているので、仮に原発再稼動が予定通り進まずに再エネや省エネを積み上げることで達成するとなれば、限界削減費用はさらに膨らむことになります。

原子力20〜22%を確保するには原発の再稼動と運転期間延長が最も望ましいわけですが、足元では前途多難と思わざるを得ません。その中で想定されるシナリオは4つです。

「シナリオ1:再稼動・運転期間延長が回り道をしながらも最終的に実現し、エネルギーミックスを実現する」。これは理想的ですが、実現できるかどうかは疑問です。

「シナリオ2:再稼動が進まない中、電力料金の上昇を避けられる範囲内で化石燃料、再エネなどを併用し、何とかエネルギーの需給安定を目指す。ただし、想定されていたエネルギーミックスにはならないので、26%目標の達成は極めて厳しくなる」。目標達成は義務ではありませんが、26%目標の取り下げが外交的に可能かどうかという問題があります。

「シナリオ3:再稼動が進まないとしても26%目標を達成するため、省エネ・再エネを大幅に積み増す」。26%目標がエネルギーミックスの積み上げによるボトムアップで作ったものであるにもかかわらず、トップダウン化して前提条件が変わっても達成を目指すというのは、26%目標の性格を変えることになります。さらに、それを省エネ・再エネで埋めようとすると、コストが大幅に上昇し、経済・産業競争力に影響が出ます。

「シナリオ4:再稼動が進まないとしても26%目標を達成するため、排出量取引などの管理経済的な手法を導入し、不足分は海外のクレジットを購入する」。これもシナリオ3と同じく目標のトップダウン化ですし、確かにシナリオ3よりは安く済むかもしれませんが、化石燃料を輸入するためにコストを払い、その結果増えるCO₂分を補うために海外から空気を買うのでは、京都議定書の二の舞になってしまいます。

パリ協定は、京都議定書のように各国の目標を国際交渉で決めるものではなく、各国が自国の国情に応じて目標を設定し、それを国際的に約束するものです。日本はどうしても他国の目を気にして野心的な目標を設定し、自縄自縛に陥ってしまうリスクが一番高い国ではないかと懸念します。

今年5月に閣議決定された「地球温暖化対策推進計画案」には、2030年度において2013年度比26%減達成という中期目標が掲げられていますが、もう1つ、公平で実効性ある枠組み、中国を含めた主要排出国の能力に応じた排出削減、温暖化対策と経済成長の両立などを前提として、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとしています。

また、環境省の「温室効果ガス削減中長期ビジョン検討会」がとりまとめたシナリオでは、2050年までに最終エネルギー消費量を40%削減し、電化を相当広く進めて電力構成の90%を非化石化すれば、温室効果ガスを80%削減できるという絵を描いています。

これは実現可能性を考えたボトムアップの目標というよりも、80%削減を前提として描いたシナリオで、2050年80%減を達成するためには2030〜2050年に年率7%の削減が必要です。これは2030年26%減達成に必要な削減年率1.6%の4倍以上であり、GDPへの影響は必至です。

私が非常に懸念しているのは、2050年80%減という目標が実現可能なのかということです。2050年までに80%減という先進国の目標は、もともと私が交渉官をしていた頃に、世界全体で2050年までに温室効果ガスを半減するという目標をシェアできるのであればという話とパッケージで出てきたものです。ところが、地球全体の排出削減のビジョンは相変わらず共有されておらず、80%減だけが残っているのです。

加えて、気候感度にもコンセンサスがなく、2050年までに半減、80%減という削減パスはあくまでも気候感度3℃を前提としたもので、根拠としては必ずしも強くありません。原発の再稼動、運転期間延長ができたとしても今ある原子力が運転期間を終えたときにどうするのか、新・増設の方向性も見えない中で長期目標だけが先行するのは不合理です。

このように、非現実的ともいえる2050年80%減からバックキャストして、同じく非現実的な中期目標(2030年26%減のさらなる引き上げ)を掲げれば、それを達成するためにエネルギーコストが上昇し、国際競争力の低下は免れませんし、原発の再稼動や運転期間延長、新設などの議論が全くない中で削減量だけを規制しようとすれば、管理経済的な手法につながりやすくなります。

確かに、長期的な温室効果ガスの大幅削減は、われわれもシェアしなければならない目標ですが、2050年80%減という目標さえあればイノベーションが進むと考えるのは間違いです。私は、重要なのは総量としての削減目標を設定することよりも、長期的な温室効果ガス削減を可能にする原発のリプレース、新・増設の方針を明確にして、革新的技術開発に向けてコスト削減目標やパフォーマンス目標などを設定することだと考えています。

長期目標については、先般の伊勢志摩サミットのコミュニケでも、「2020年の期限に十分に先立って、今世紀半ばの炭素低排出型発展のための長期戦略を策定・通報する」とされたので、これから国内でいろいろな議論が出てくると思います。

環境省では、社会構造の低炭素化は高度成長以来の大変革であり、国としてのビジョンが必要だとして「長期低炭素ビジョン(仮称)」の策定に向けて動きはじめています。その中で80%削減を所与のものとして税や排出量取引等のカーボンプライシングに強い関心を示しています。

経済産業省も、長期地球温暖化対策プラットフォームを立ち上げ、数値目標ありきではなく、長期低排出発展戦略を考えるための材料を産官学から広く集めていこうとしています。このような動きを、私も外から強い関心を持って見ていきたいと思っているところです。

質疑応答

モデレータ:

パリ協定では80%削減という量的な話こそ決まっていませんが、今世紀後半には排出吸収バランスを実現することが重要だとされています。どちらにせよ、80%削減から逃れられないような感じがしますが、われわれはどうすればいいのでしょうか。

A:

どのような前提条件の下での80%かという位置付けを明確にすることと、痛みをできるだけ少なくすることです。それをせずに目標数値だけが踊ると、量にキャップをはめようとするアプローチになる可能性が高くなります。原子力の新・増設の話から逃げず、きちんと位置付けながら長期戦略を作っていかなければなりません。

Q:

京都議定書の日本の反省点の1つは、目標達成のための限界削減コストの高さです。この点はどのように評価されますか。なぜ自虐的ともとれる高い目標を掲げたのでしょうか。

A:

エネルギーミックスの3つの基本方針のうち、「欧米に遜色のない温室効果ガス削減目標を掲げ、世界をリードする」というものが、極めて京都的なマインドを引きずっているように思います。要するに、数字にとらわれた発想だったということです。各国の事情によってそれぞれ削減コストは違うのに、数字の面で公平さを求めた結果、日本ではコストが非常に高くついてしまったのだと思います。

モデレータ:

26%目標を決めた当事者は私ですが、もともと約束草案を出すときに、2℃目標との整合性を説明せよという宿題もあったのです。2050年までに世界半減、あるいは先進国80%減というストーリーとの整合性が求められて、ヨーロッパやアメリカが整合的な数字を出してきた中で、日本が整合性のない数字を出すわけにはいかなかったのです。

Q:

2050年までに80%減となると、中長期的に石炭などをかなり絞っていかないと整合性が取れないと思いますが、日本のエネルギー政策についての見解を教えてください。

A:

石炭火力の必要性を減じるには、安定的なベースロード電源を用意する必要があります。原発再稼動の見通しがはっきりしない中、現在は安価で安定的な石炭火力をセカンドベストとしているわけで、石炭火力への依存度を長期的に減らさなければならないのであれば、原子力の再稼動や新設についても議論すべきというのが私の考えです。

日本のエネルギー政策の議論がゆがんでいる理由の1つは、石炭火力の再稼動に反対する温暖化マインドの強い人たちが、原発再稼動にも反対していることです。それでは出口がありませんし、再エネと省エネで補うといっても、恐らく技術的、コスト的に非常に難しいと思います。温暖化を真面目に考えるのであれば、原子力の議論を避けたままで野心的な温暖化目標を議論するのはおかしいと思います。

Q:

クリントン氏が大統領になるとカーボンプライシング連合ができるという話がありましたが、炭素税は管理経済的手法に含まれるのでしょうか。また、そのような価格メカニズムを使う手法について、どのように感じておられますか。

A:

炭素税自体は、必ずしも管理経済的手法ではありません。私が管理経済的手法といっているのは企業の活動量にキャップをはめる排出量取引を主に念頭においています。

モデレータ:

炭素税は、所定の排出量を達成するため石油や石炭の価格を上げることで消費を減らす、結果から逆算して税率を決める発想であることから、管理経済的という言い方をしています。

Q:

エネルギーミックスは、自動車産業にどのような影響を及ぼしますか。

A:

自動車産業は、生産面では直接的なCO₂排出はほとんどなく、電気を使っているだけなので、電気を原子力や再エネに置き換えることで生産プロセスをゼロ・エミッション化できます。問題は製品の方で、ガソリン車やディーゼル車を全面的に禁止し、EVやFCVに置換する規制的手法が導入される可能性があります。

モデレータ:

トップダウンの目標とボトムアップの目標のギャップを埋めるには、世界的な革新的技術開発が必要だというお話でした。この点は世界が横一線で、2030年を目指して自分たちの今の技術でできることをするしかないということでしょうか。

A:

当面は2030年に向けて最大限の努力をすることですが、2050年に大幅削減をするならば、並行して技術開発も始めなければなりません。中期目標を目指して進む一方で2050年の大幅削減を目指して技術開発を進め、原発新・増設などの議論も俎上に乗せていろいろな政策環境も整備しなければならないので、時間はないと思います。来年予定されているエネルギー基本計画の見直しは、その点で非常に大きな契機になると考えています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。