IoT社会における製造業の方向性

開催日 2016年6月22日
スピーカー 正田 聡 (経済産業省前製造産業局ものづくり政策審議室長)
モデレータ 岩本 晃一 (RIETI上席研究員)
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IoTを巡る内外の現状を踏まえた上で、2016年版ものづくり白書における分析なども交えつつ、今後のIoT社会における製造業の課題や政府の取組状況などをご説明いたします。

議事録

IoT活用の現状

正田聡写真Internet of Things(IoT)やビッグデータによって、これまで実現不可能と思われていた社会が実現しようとしています。とくに製造業では、技術のブレークスルーにより大量生産から個々の消費者のニーズをつかんだ生産に移り、サービス化や生産性の飛躍的向上が見込まれています。

他方、事業者の意識はそこまで進んでいません。IoTの活用でビジネスモデルに大きな変化が起こるかどうかを聞くと、グローバル企業は68%が「起こる」と答えましたが、日本企業は16%にとどまっています。また、市場を一変させるような新製品・サービスが投入されるかどうかについても、グローバル企業は62%が「そう思う」と答えたのに対し、日本企業は16%にとどまっています。

IoTがもたらす期待効果に関しても、グローバル企業の57%が新たな収益源の創出やビジネスモデルの変革につながると認識している一方、日本企業の68%は、IoTを使っても効果はオペレーションの効率化や生産性向上にとどまると考えています。

ものづくり政策審議室では、日本の製造業の方々にアンケート調査を行い、設計・開発から生産、販売、運用・保守まで、プロセスごとのIoT活用状況を示したレーダーチャートを作りました。それにより、予知保全をしたり、顧客に対してソリューションサービスを行ったりする運用・保守の分野で活用が進んでいないことが分かりました。

また、日本企業と米独企業のスマイルカーブの比較により、日本企業は生産技術など付加価値の低いところに強みがあり、米独企業は設計開発やアフターサービスなど付加価値の高いところに事業の重点を置いていること。また、IoT活用の業績への影響をクラスター分析により、企業規模にかかわらず、IoTを積極的に活用している企業ほど意思決定が速く、製品開発のリードタイムが短くなっていることが明らかになりました。

IoT活用の具体例

米国の製造業では、IT企業が中心になって市場のニーズを把握し、製造業にどのような製品を作るかを指示しています。つまり、製造業がIoTの下請けになりかねない状況なのです。また、ドイツでは製造業が非常に強いので、製造業に軸足を置きつつIoTの活用を探っています。

データの活用やソフトウエア開発の能力にものづくりの競争力の源泉が移行する中、欧米の製造業ではデータ解析サービスやソフトウエア提供に軸足を移す動きがあります。たとえば、電機・機械装置の製造で知られるドイツのシーメンス社は、2007年に米国のソフトウエア企業UGSなど、生産工程のデジタルプラットフォームづくりに必要な企業を次々と買収し、ソフトウエア企業に転換しています。

また、GEはインダストリアル・インターネットという構想を掲げ、エンジンなどの製品にセンサーを付けて、予知保全や機器制御の効率化をソリューションサービスとして提供するなど、製造業のサービス化を進めています。

こうした取り組みは、日本でも少しずつ見られています。オムロンは、生産機器にセンサーを取り付けることでデータを収集し、生産ラインの無駄を見える化しています。LIXILは、ベテラン設計士に暗黙知として蓄積されたノウハウを見える化することで、非熟練の設計士にも簡易に設計作業ができる仕組みをつくっています。

飲料水自動販売機の製造販売を行うオー・ド・ヴィも、販売機にセンサーを付けることで、メンテナンスの省力化や予知保全などを行っています。ねじ専門問屋のサンコーインダストリーは、顧客の発注パターンを分析することで、発送・配送を効率化しています。

ダイキン工業では、販売した業務用空調機器にセンサーを付けてリアルタイム監視を行い、予知保全だけでなく、省エネ運転支援もソリューションサービスとして提供しています。セーレンは、顧客が店頭で好みの生地やデザインを選ぶと、データが工場に送られて自動的に生産を開始するパーソナルオーダーに対応したシステムを構築しています。

米国のハーレー・ダビッドソン社は、企業内だけでなく企業間でもサプライチェーンを効率化し、生産リードタイムを短縮しました。圧縮空気のコンプレッサーを製造販売するドイツのケーザー・コンプレッサー社は、顧客に代わって機械を運用し、供給した空気の容量に応じて課金するビジネスモデルに転換しました。コマツはKomtraxというシステムを構築してアフターサービスを強化し、モノの販売から予知保全、ソリューションサービスまでの分野に事業範囲を拡大しつつあります。

インダストリー4.0とは

ドイツでは、労働人口の減少、製造業の存在感低下、米国企業に対する脅威などを背景に、産学官が連携してインダストリー4.0と呼ばれる生産システムを構築しようとしています。

そのポイントの1つは、マス・カスタマイゼーションです。大量生産からカスタムメイド品へという市場の変化に対応するため、一品一品カスタマイズされた製品を投入します。

もう1つは、サイバーフィジカルシステム(CPS)の構築です。多くの企業ではPLMの流れがぶつ切れになっていて、手戻りが発生したり、リードタイムが長くなったりしているので、デジタル上で最適化されたラインと現実のラインを同期させることで、工場内の部分最適のみならず、製品設計、生産設計、生産、販売・保守という開発・生産工程管理(PLM)の全体最適を目指します。他方で、受発注から生産管理、生産、物流というサプライチェーン管理においても、FA系とIT系をつなげ、市場のニーズに応じて柔軟に生産ラインを組み替えることで、変種変量生産を実現させようとしています。

ドイツでは既に5〜10年、あるいはそれ以上の長いタームで、こうしたスマート化された工場・企業間を水平統合し、ソフトウエアでつなぐことによって、全体として効率的な生産を自律的、自動的に行うことを目指しています。

各国における取り組み

ドイツでは、まずインダストリー4.0オンラインマップをつくり、200件以上のユースケースをホームページ上に提示して、中小企業などの各企業が自分たちにどのように適用できるかを示唆する仕組みを提供しています。

同時に、中小企業の意識喚起、技術実証試験、専門家による助言等を行うコンピテンスセンターを昨年9月に5カ所設置し、今年中には16カ所の整備を目指しています。

また、ドイツ規格協会(DIN)やドイツ電気技術委員会(DKE)が中心となって、彼らが提示したRAMI4.0をベースとして国内での標準化、ヨーロッパ内での標準化、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)における標準化に取り組んでいます。

さらに、諸外国との連携も進めています。中国、米国、フランスに加え、4月には日本とも共同声明を出し、二国間IoT連携を進めています。今後もドイツが流れを牽引していくと見られますが、日本も米国などと十分に連携していくことが必要です。

米国では、2014年3月にインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)が、GEやIBMを含む5社によって設立されました。米国のみならず日本企業やドイツ企業など200社以上が参加するコンソーシアムとなっています。

IICでは、ユースケースの取り組み、アーキテクチャ/フレームワークの策定を行っているほか、テストベッドを最も重要視して、その中で実装・実行環境を具体化しようとしています。理論から入った国際標準化(デジュール化)よりも現実に起こったデファクトの方が力を持つので、ドイツに対抗する形でテストベッドを重ね、デファクトを積み上げている状況です。

中国は、2015年3月に策定された「中国製造2025」で、2025年までの10カ年で「製造大国」から「製造強国」となり、量から質への転換を図ろうとしています。その中で工業化と情報化の融合を進めており、直近3カ年の行動計画として「インターネットプラス」を定め、スマート製造に関する200件のモデル事業を推進しています。また、ドイツとの緊密な連携も模索しています。韓国も同様に、スマート生産方式の導入などを積極的に進めています。

IoTによる経営革新

IoT社会において製造業が取り組むべきポイントの1つは、つながるメリットの実現です。工程間の最適化(PLMをつなげて設計開発工程と製造工程を連携させる)、工場内の最適化(工場内にある機器の通信プロトコルに互換性を持たせる)、企業内の最適化(サプライチェーンのFA系・IT系を連携させる)、企業間の最適化(各企業の個別最適を超えて、協調領域での協業を進める)を進めていく必要があります。

ポイントの2つ目は、データ活用による付加価値の創出です。企業内でのデータ活用、企業間でのデータ共有、解析モデルの高度化(AI、ビッグデータの活用)などが挙げられます。

ただし、こうしたことに取り組む際には、企業間の協調領域と競争領域の峻別、セキュリティの確保、国際的な方向性との整合性(国際標準の動きへの対応)に留意が必要です。

現状、とくに中小企業を含めた各企業には、IoTでつながることで何ができるのか分からない、人材がなかなかいない、データを共有するのが怖い、データの所有権が分からないといった悩みがあります。国ではこれを政策課題と認識し、それに対応すべくユースケースの創出、データ所有権などの規制・制度改革、セキュリティの問題、IECやISOなどの国際標準化への貢献、中小企業への導入支援、人材育成、国際連携などを進めていこうとしています。

IoTはあくまでツールであり、IoTを導入することが目的ではありません。企業でIoTを活用する場合、設計・開発に利用して高付加価値化したいのか、製造に利用して生産性を向上したいのか、保守に利用してコストを削減したいのか、最適利用をする提案など新たなサービスを提供したいのかなど、どう経営革新したいのかを明確にする必要があります。

付加価値がモノからサービス、ソリューションへと移る中、ものづくりの技術や機能性は引き続き重要ですが、単にモノをつくるだけでは生き残れない時代に入り、ものづくりを通じて価値づくりを進める「ものづくり+(プラス)企業」になることが必要となっています。しかし、日本企業はいまだに技術に偏っていて、最先端テクノロジーへの投資を優先させ、マーケティングやビジネスモデルの変革への投資意識はまだ低い状況です。

経営革新を始めた製造企業

ただ、新規事業分野の開拓、部門をまたぐ人材流動性、異業種との業務連携、グローバル化(国籍を問わない高度人材の獲得)、オープンイノベーションの推進、ベンチャー企業との業務提携など、経営革新に取り組む企業も見られるようになってきています。

また、顧客や市場のニーズの変化や技術革新のスピードが速まっていることから、全業種において製品ライフサイクルが短縮傾向にあります。われわれが分析した結果では、ブランド戦略や差異化戦略、知的財産の保護などにきちんと取り組んでいる企業は非常に業績が良くなっています。

自らの強みを把握し、それを生かしている企業は非常に強いということです。グローバルニッチトップ(GNT)企業とその他の企業を比較すると、GNT企業の方が主要事業のライフサイクルは長く、営業利益が向上する見通しの企業が多くなっています。

また、ものづくりベンチャーは試作段階までは非常に発達していますが、量産化するときの資金調達が大きな壁となっています。ものづくりベンチャーと中堅・大企業が連携することで量産化を試みたり、産業振興センターが地場企業とベンチャー企業をマッチングしたりする取り組みが進めば、中小企業における生産・売り上げの増大とベンチャー企業の「量産化の壁」の打破という両方の課題を相互補完的に解消できます。

最近は、強みの領域に特化したビジネスモデルが見られます。今まで多くの製造業は、設計、生産設計、生産、販売・保守・サービスを一貫して垂直統合型で行ってきましたが、それぞれの生産プロセスに強い企業がそれに特化したビジネスモデルも存在しており、そうした企業へのアウトソーシングも増えてきています。

開発リードタイムを短縮するための取り組みとして、標準化・モジュール化とオープンイノベーションを積極的に活用している企業もあります。協業を成功させている企業の方が、平均収益成長率が高いという結果も出ており、協業・オープンイノベーションの活用に期待が高まっています。

日本政府の取り組み

日本政府は昨年5月、「ロボット革命イニシアティブ協議会」を立ち上げ、官民合同の取り組みを始めました。その中で、製造業におけるIoTの活用やビジネス変革を議論する場として、「IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループ(WG1)」を立ち上げました。WGでは今年1月に中間取りまとめを行い、2030年の製造業のあるべき姿と課題を示しました。

そして、あるべき姿として、IoTと日本の強み(人、技術力、現場力、カイゼン力、規律)を融合させていくこと、中堅・中小企業へITやIoTを浸透させること、革新的な生産効率の向上と高品質化プロセスを維持すること、よりマーケットに根差した製造、製造業のサービス化、産業間の垣根を越えた新たなビジネスの創出と競争の激化を挙げています。

今後検討すべき課題としては、製造プロセスの標準化と企業内外の連携、標準化・セキュリティ、中小企業がIoTを活用するための基礎インフラの整備、実証とモデルケースの共有などを挙げ、現在はロードマップの策定作業を進めているところです。また、事業者の自律的な活動として、現場情報の見える化と標準化、食品産業における技術伝承、システムインテグレーター(Sier)の養成、製造業の強みの維持・強化、IT-FA連携の5分野について議論しています。

この中間取りまとめを受け、国ではユースケースをつくることが重要であるとして、FA-IT連携やPLM連携、中小企業がIoTを活用しやすい環境づくりを進めるために、平成28年度は約5億円の予算を確保し、スマート工場実証事業を行っています。

また、製造業を支えているのは中堅・中小企業であり、そこでのIoTの活用が進まなければ、日本の製造業の底上げにはつながりません。そこで今年1月、中堅・中小サブ幹事会を「IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループ(WG1)」の下に設置し、議論を重ね、本年4月に中間取りまとめを行いました。ITすらなかなか浸透していない中小企業も多いため、まずはできることからということで対処方針をまとめました。

地方主導でつくるものとして、まず事例集を策定し、他社の取り組みから気付きを得て各企業で生かします。また、IoTコンサルタントの育成を図り、「スマートものづくり応援隊」と銘打って中小企業がIT・IoTの活用について相談できるプロの人材を配置します。さらに、小さな困りごとを解決していくための簡易なツールを開発し、中小企業によるIoTの活用を一歩ずつ進めることにしています。中央では、費用対効果モデル、中堅・中小企業のためのツールと、コンサルタントも参照できるツール一覧をつくります。

国際協力の推進も重要です。ドイツとの関係では、国レベルで今年4月28日、「日独IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明」に署名し、局長級対話を毎年実施することになりました。産業サイバーセキュリティ、国際標準化、規制改革、中小企業、人材育成、研究開発の6分野における協力に向け、具体化の作業を早急に進めています。

同時に、ロボット革命イニシアティブ協議会(日本側)とプラットフォームインダストリー4.0(ドイツ側)の民間プラットフォーム間でも協力文書が締結されました。研究開発機関間の協力も日独間で進められています。

安倍晋三首相は4月12日の第5回官民対話で、ユースケースを全国で50カ所つくり、ドイツと協力して国際標準化を進めると発言しました。また、林幹雄経済産業大臣はスマートものづくり応援隊の拠点整備を進めると述べており、これらがアベノミクスの第2ステージを実現する枠組みとして「日本再興戦略2016」にも盛り込まれています。

さらに、約1650社が参加するIoT推進コンソーシアムでもIoT推進ラボを組織し、成長性・先導性、波及性、社会性を持った企業を企業連携・資金・規制の面から総合的に支援するとともに、大規模社会実装に向けた規制改革・制度形成などの環境整備を行っています。

このように、日本国内での取り組みも少しずつ始まったところですが、欧米企業の足はとても速いので、日本企業が取り残されないよう、これからも官民一体となって着実に取り組みを進めていきたいと考えています。

質疑応答

Q:

日本の中堅企業は、ドイツのインダストリー4.0のような形を目指していくべきなのでしょうか。

A:

ドイツもまだ暗中模索の段階だと思います。ただ、インダストリー4.0で目標としているものに、重要な示唆はあるだろうと思います。IoTを介した製造業の在り方は全て整理し切れているわけではありませんが、マス・カスタマイゼーションやCPSを企業に取り込むなどの要素は今後考えていく必要があると思います。

Q:

AIがIoTに与える影響をどう見ていらっしゃいますか。

A:

企業には膨大なデータがありますし、IoTを用いることでさらにデータ量が増すため、データを取ることよりも、それをどうやってAIなどで処理するかが、とくに大企業にとっては大きな課題になると思います。

Q:

日本が東南アジアなどの周辺国においてビジネス展開していく上では、IoTをどのように活用していけばいいでしょうか。

A:

ドイツ企業の場合、国際標準化などを進めることで、生産方式などを中国をはじめ新興国に輸出しています。日本も新興国でのユースケースはいずれ考えられると思いますが、現時点では国内でさえまだユースケースが十分にはできていない状況ですので、まずは国内のユースケースをしっかりつくっていくことを目指しています。

Q:

IoT、AIの産業活用で重要なのはデータを競争力につなげることだと思うのですが、このまま放っておくとデータは全て米国のGoogleなどのサーバーに蓄積されて、重要な競争力の源泉は日本からほとんど出ていってしまいます。そのとき日本政府としてどのような取り組みが必要になりますか。

A:

そうしたことのないよう日本の企業も取り組みを進めていくことが必要だと考えています。そうした取り組みを後押しするものとして、先ほど申し上げた「ロボット革命イニシアティブ協議会」の活動がありますし、経済産業省では「新産業構造ビジョン」を取りまとめました。この中で、IoT社会における課題と方向性を整理したところであり、これを具体化する作業を足元で始めています。これから取り組みが進むという状況なので、進みが遅いという叱咤はあるかもしれないですが、取り組みを着実に進めていきたいと思います。

Q:

インダストリー4.0を日本の中小企業も目指すべきだといえるかどうかは分かりませんが、IoTやAIなどいろいろなものが入ってきて、日本の中小企業はみんな消滅してしまうという話になるのでしょうか。それとも、ドイツをまねれば中小企業も良くなるという話になるのでしょうか。インダストリー4.0がそれほどいいのであれば、何かいいところがあると思うので教えてください。

A:

マス・カスタマイゼーションやCPSによる効率化は簡単なことではありませんが、それによって生産性は向上するものと考えられます。あるいは、今までは1社にだけ対応していたものが共通化されることで顧客の範囲が増えるなど、長期的にはいろいろなメリットは考えられます。ですから、むやみに恐怖感を持つのではなく、中小企業の方々に、理解を深めて活用してもらうことが重要だと思います。

とくにIT系企業の方に聞くと、中小企業を回っていると、どんなメリットがあるか分からないというところから話が始まるそうです。その点はご指摘のとおりだと思うので、丁寧な説明や具体的なビジョン、メリットを示していくことは大切だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。