地方創生に何が必要か?

開催日 2015年10月9日
スピーカー 増田 寛也 (野村総合研究所顧問/東京大学公共政策大学院客員教授)
モデレータ 高橋 淳 (経済産業省経済産業政策局地域経済産業グループ地域経済産業政策課長)
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開催案内/講演概要

昨年来、人口減少問題について警鐘をならしてきたが、日本の人口減少の背景には、婚姻数の減少、晩婚化・晩産化と、子育てには不向きな東京に若者が集中していることが挙げられる。一方、勝ち組と見える東京にも、高齢化の問題が存在する。東京圏の急激な高齢化によって、地方の医療・介護分野に従事する若者が大量に東京に移動することになれば、地方の人口減少が一気に加速する。こうした問題の分析とどのように対処すべきかを考えてみたい。

議事録

2014年、過去最低の出生数を更新

増田 寛也写真日本の人口は、2008年の1億2808万人をピークとして減少に転じ、2100年には中位推計で4959万人となる見通しです。人口が減れば、狭い日本でゆったり暮らせていいではないかという人がいますが、人口ボーナス期の5000万人と人口オーナス期の5000万人では、まったく意味が違うことを理解していただく必要があります。

明治時代終盤の人口は約5000万人でしたが、当時の高齢化率は5%程度に過ぎませんでした。一方、今から85年後の2100年に約5000万人となったときの高齢化率は41.1%と推計されています。つまり明治の人口構成は、ごく一握りの高齢者を若い年代がしっかり支えているピラミッド型であったのに対し、これからは、逆ピラミッド型といえるほど若い人が少なくなっていくわけです。ですから、同じ5000万人でも状況は全然違います。

2014年の出生数は、過去最低の100万3532人まで減少しました。合計特殊出生率は、2005年に過去最低の1.26まで減少した後、上昇傾向を続け、2014年は9年ぶりに低下しています。ただし、出生率が上がっても出生数は減り続けています。それは、団塊ジュニア世代(今年41歳)の出産が落ち着きつつあるためです。

2015年は前年の水準を維持できるかもしれませんが、2016年の出生数は100万人を切ることでしょう。今後、政府の1億総活躍本部などから効果的な政策がなされない限り、2020年よりも前に90万人を切る可能性は十分あるという深刻な状況です。まずは、これを全国すべての地域に理解してもらわなければなりません。

少子化対策

フランスでは今、生まれてくる子供の52%が婚外子となっています。結婚の平均年齢は30歳程度で日本と変わりませんが、第1子出産の平均年齢は28歳です。つまり先に出産してから結婚するか、あるいはオランド大統領のように事実婚の関係でいくかを考えるという国柄であるわけです。現在、英国では43%、米国は40%、ドイツは若干低めでも34%が婚外子だということです。さらには、移民を受け入れることで、労働人口が増えると同時に、結果として出生率も高まります。

日本は、結婚しなければ出産に結びつきにくい国柄です。しかし、出会う場がなかなかなく、出生動向基本調査やリクルートのブライダル総研によると700万人(未婚女性の89%、未婚男性の87%)の男女が相手を見つけて結婚したがっているということです。では、なぜ結婚に至らないかというと、1つには経済的な余裕がないという深刻な問題がありますので、若い人たちの給料をもっと上げる必要があると考えています。

もう1つは、長時間労働の上、企業内で運動会などのイベントが開催されなくなり、出会いの場がなくなっています。かつては地域に世話焼きのような人がたくさんいて、どんどん相手を紹介してくれたものです。今はそれがなく、本人は出会いのチャンスを求め、親も信用できる紹介サービスならば利用したいと考える人が増えています。こうした時代背景のもと、各自治体が婚活への取り組みを求められていますので、行政は地域を見回して出来ることを探し、精一杯やるべきでしょう。

私は、ちょうど20年前に岩手県知事となり、その後12年間務めました。その頃は、婚活ではなく合コンといっていましたが、税金を使って合コンをしている自治体があるとマスコミにも盛んに取り上げられ、世論は冷ややかでした。しかし現在は、婚活の必要性が大きく高まり、地方創生の交付金をどんどん婚活に使う流れがみられます。

ただし、少子化対策の30億円の交付金に関しては、まだ婚活には使わないという線引きがされているようです。婚活のように、本来は当事者がやるべきことに税金を使うのはためらいがあるのかもしれませんが、地域における出会いの場づくりは、工夫してやっていく必要があると思います。少子化対策は、出生よりもずっと前の段階から丁寧に考えていくべきでしょう。

そして、本質的な問題は働き方にあります。第1子は、夫の協力がなくても妻が頑張って何とかなるという人は多いのですが、第2子、第3子を持つ家庭をみると、夫の家事や育児への参画時間が大きく増えています。それがない限り、なかなか第2子、第3子にたどり着かないということをデータが示しています。

2006年に国際比較したデータによると、日本で夫が家事や育児に参画する時間は1日平均1時間であるのに対し、北欧などでは3.5時間に及んでいます。ですから日本は、やはり働き方の改革が必要だと思います。

合計特殊出生率の地域差(平成26年)をみると、最低が東京都の1.15、最高は沖縄県の1.86です。東京は通勤時間が長く、保育所数も少なく、住宅は狭い傾向があるため、子育てが難しいといえます。2人以上の子供を持つ人も多い反面、そもそも晩婚で非婚者も多いのが東京の特徴です。

その中で深刻なのは、年収300万円に満たない低所得者が多いことです。年収二百数十万円、非正規で不安定雇用の場合、なかなか結婚にはたどり着きません。ですから300万円ラインには、ぜひ到達したいと思っているわけです。また、年収500万円以下では、結婚したとしても出産を控える状況です。そこで強い地域経済を作ることが目標となります。自立した地域経済に変わっていくことが重要であり、その上で、30代半ばで世帯収入500万円を稼ぐことができ、子供2人を安心して育てられる経済圏にならなければなりません。

そして安心して出産できるためには、産休や育休、保育園や幼稚園といった環境整備が求められます。そこが従来の地域経済活性化策と今回との大きな違いで、望むのであれば、必ず2人は育てられるというところまで構造を変える必要があるということです。

東京一極集中の是正

同時に、資源の配置として、東京一極集中の問題があります。転入超過数の推移をみると、高度経済成長期の1960年代には、地方から東京、大阪、名古屋の3大圏に多くの人が移っていますが、バブル経済期と最近は東京だけに人が移っていることがわかります。どんな地域にも人口の出入りはあるわけですが、東京圏では必ず転入超過となっています。それは大企業に採用されやすいなど、東京へ行くことに経済合理性があるためですが、中高年層はさておき、若年層の東京一極集中をこれ以上続けていくのは問題でしょう。

とくに若年層は、東京の中心部に住むことができず、埼玉県、千葉県、神奈川県といった周辺都市を含む東京大都市圏として、世界でも稀にみるような巨大都市が形成されています。その周辺部から東京へ通うため、どうしても通勤時間は60分を超えて70分、80分に及びます。往復で2時間を優に超え、さらに長時間労働では、なかなか出産には目が向きません。ですから、単に経済の効率性だけで東京一極集中構造をよしとすべきではないでしょう。

すでに、東京一極集中の是正は地方創生に関する国の総合戦略の中で閣議決定されていますが、それを前提に行動する際は、東京の機能を阻害してはなりませんので、そこをどう両立させていくかという点で、国も地方自治体も知恵を絞っていく必要があります。たとえば若い人たちが東京に憧れる気持ちは無視できませんので、東京の大学で学んだ後で、故郷を支えるために戻ってきてもらえるかどうかという話になりますが、ただし、東京や大都市圏に行きたいという気持ちは本能的なものなのか、あるいは刷り込まれたものなのかは、よく考えるべきです。

地方では、優秀な高校生ほど東京大学などへ送り出す傾向があります。それは、いわゆる一流企業に就職しやすく、よりよい人生を築きやすいと認識されているためです。ですから、若い人に東京へ行けと後押しするような政策を、各自治体が相当やってきたという事実もあると思います。しかし今後は、それと同等の熱意を持って、地元の大学へ進学して地元の企業に就職することを進める施策を用意しなければ、バランスを欠いたものになってしまいます。その両方の中で、学生が選択できるようにすべきです。優秀な人には返済免除の奨学金を支給するなど、有利なものをどんどん用意し、地元で進学することにもっとエールを送ることが必要でしょう。これは、今回の地方創生の中でも強く問われることです。

都市計画に関しては、都道府県知事により大きな権限が委ねられるようになっていますが、東京の都心3区については国家的な考え方が必要だと思います。一方で、国家管理のように思われても困るので、なかなか悩ましいところです。民間企業の力を損なうことなく、経済の自主性は重んじなければなりませんが、地方で年収500万円を稼げる発想がどれだけできているかが重要です。従来の仕組みに、ちょっとした手当てと行政の支援で何とか息をつこうと考えるのではなく、今一番必要なこととして、基本的な生産性を上げられるような企業に変わっていけるかが問われています。

たとえば地方では1次産業はのびしろが大きく、農業分野をはじめTPPで大化けする可能性を秘めています。国内に残っている製造業は今、徹底的に生産性を追求しており、それほど心配はしていません。問題は3次産業です。医療介護や観光など、多くのサービス業で非正規雇用が増えています。しかし、地方でも驚くほど人材が不足していますので、失業率が上がることはまずないと思います。

今、必要なことは、地方で強い経済圏を作っていくことですが、数だけ作っても意味がなく、若い人たちが出産に向かうような質の高い働く場を作ることが目指すべき姿といえます。それに答えられるだけの経済にしていくことが必要なのだと思います。

深刻な人手不足

人手不足によって、若い人たちの奪い合いの時代が来ています。産業間でもそうですが、同じ産業の中でも、企業同士で奪い合う状況です。私が聞いている限り、切実なのは運輸業でしょう。ドライバーが徹底的に足りないため、とくに運転の自動化が望まれています。夜間の長距離貨物などをどんどん自動運転に切り替えることで、生産性はぐっと高まることが予想されます。

また、介護現場の人手不足も深刻で、介護人材は東京だけでなく全国どこでも足りない状況です。厚生労働省の発表によると、介護人材は10年後に253万人の需要が見込まれるのに対し、最大215万人しか養成できず、38万人不足するということです。そもそも介護現場で働く人々の報酬は低く、平均月収わずか22万円に留まります。他産業の平均月収33万円に対し低賃金で、なおかつ重労働のため、腰痛に苦しむ若い人たちも多いわけです。しかし、介助器具や介護ロボットを使えば、高齢者の入浴介助などは驚くほど楽になります。ですから、どんどん普及させ、元気な高齢の方にも参加してもらうことで、人手不足をカバーすることが可能でしょう。実際、何らかの形でボランティアとして活動したいという高齢者は、たくさんいらっしゃいます。

先日、福島県の内堀知事と話す機会がありましたが、介助器具や介護ロボットのようなものは県内の製作所でどんどん工夫することができ、福島の産業構造を切り替えていく上でもいい材料になるということでした。そういう取り組みを全国で推進し、これからの大労働力不足時代に備えるべきだと思います。

福島では、震災後2年は転出が多かったものの今では完全に止まっており、今もっとも深刻なのは山形や秋田などの東北です。因果関係はよく突き止める必要がありますが、福島では18歳までの医療費無償化などを積極的に導入しており、その影響は大きいと思います。出生率は、昨年、東北でもダントツの1.58まで伸び、全国的に相当高い水準となっています。ですから出生という非常にデリケートな問題ではありますが、多少お金がかかっても、行政で環境を整えれば出生率は伸びると思います。

ただ、やはり出生率をすぐに伸ばすのは難しいことですから、当面、大労働力不足になることは間違いありません。労働力人口は、2013年に6577万人でしたが、今後17年のうちに900万人減少し、2030年には5683万人となってしまいます。そして、2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇し、かつ女性がスウェーデン並みに働き、高齢者が現在よりも5年長く働いたとしても、2060年には5522万人程度まで減少すると推計されています。こうしたことを考えると、企業経営者は、従業員の働く環境を整えることに気をつけるべきでしょう。

既存の制度・法体系にとらわれない

これからは、支えられる高齢者ではなく、支え合う高齢者、活躍する高齢者を、それぞれの地域で増やす環境づくりをしていくことが大切です。少子化対策は、「出産後」よりも前の「婚活後」に向けた工夫を考える必要があります。まちづくりに関しては、これまで人口増加に伴って無秩序な開発とならないよう「機能純化」に力を入れてきましたが、それはもう必要ありません。むしろ「多機能混在」で、たとえば丸の内でオフィスに純化するのではなく、多くの店舗も立地させ、賑わいを取り戻すような取り組みが求められます。

地方創生のポイントとして、1)雇用(生産性の向上・稼ぐ力)、2)結婚・出産・子育て、3)コンパクト化、4)財源、5)合意形成(産学官金労言:産学官・金融・労働・マスコミ)、6)東京一極集中の是正、7)「出さない」「戻す」「ひきつける」とその意味、という7つが挙げられます。

雇用については、生産性の向上や稼ぐ力を重視し、企業の再編や新陳代謝を促すことも必要でしょう。やはり合意形成は大事ですし、東京一極集中の是正に関しても、ただ東京の活力をはぐだけでなく、東京は東京で伸ばし、地方は地方で生産性を向上させるべきです。ローカルとグローバルでは経済の考え方が違いますから、峻別していかなければなりません。

「出さない」「戻す」「ひきつける」については、地方はこれまで若い人を東京へ出すことに知恵を絞って懸命に取り組んできたわけですから、それと同じぐらいのエネルギーで外へ出さない、出た人を戻す、ひきつけるための対策を考えた上で、全体のバランスをみて1人1人に選択してもらうことが必要だと思います。

質疑応答

Q:

資料の年齢別転入超過数の状況をみると、60~64歳では逆に地方圏への転入が超過していることがわかります。その背景は、どういったことでしょうか。また政府でも現在、日本版CCRC(継続的なケア付きリタイアメントコミュニティ)構想の有識者会議などが進められていますが、どのように評価されていますか。

A:

地方圏への転入超過は、定年時に出身地へ戻るUターン現象によるものです。もう少し時代が過ぎれば、東京で生まれて故郷のない世代となりますので、状況は変わると思います。CCRC構想については、ある年齢層だけで構成しようとすると危険なため、多年代にわたることが大切です。先日、「シェア金沢」という金沢市の代表的な例を見てきましたが、移住した人たちは、金沢が出身地でなくとも、かつて勤務していたとか、子の勤務地であるとか、何らかのつながりを持つ人が多いようです。また高齢者だけでなく、障害者施設や児童福祉施設などを複合させ、それぞれの補助金を得ながら統一的に運営しています。

自分とまったくつながりのない地域へ移住する人は、ごく限られているものです。また日本では移動自体が難しく、集団就職で上京した人は、すでに東京に資産があるため、その処分の問題に突き当たります。ですからCCRC構想を成功させるためには、多年代にわたることと、お試し移住(その間は二地域居住)期間などを用意して、冷静に判断してもらうことが必要だと思います。

Q:

地方でコンソーシアムなどを作ろうとすると、核となる人材が不足していると感じます。そういったキー人材のアサインについて、助言をいただきたいと思います。

A:

多くの地域で、人材の問題は深刻な状況にあります。よく「若者、バカ者、よそ者」といいますが、よそからバカ者を連れくるのは絶対にやめたほうがいいわけです。他方で、いろいろな知恵を持ち、全体のプランニングに有益な意見を言える能力のある人は、どんどんよそから連れてくるべきでしょう。そこへ地元の情熱家がうまく交わり、エネルギーを増やしていくことで、東京へ出て行こうとした若者が残るようになります。

キーとなる人は、1人ではだいたい潰れてしまうと思いますので、バカヂカラのある地元の人と、バランスよく知恵を出していく人を組み合わせる必要があると思います。外から来る人たちが自由に地域へ入っていくためには、国や自治体で環境を整えなければなりません。

Q:

人口減少社会において既存の制度・法体系にとらわれないということで、「中央官僚、地方の行政官→地方政治」という資料の記述について、ご説明いただけますか。

A:

既存の制度・法体系にとらわれないということが、今回の地方創生において大事なところです。まちづくりなどはまさにそうですが、都市計画法、農地法といった法体系は、従来の人口膨張時代を前提に考えていますので、中央との整合性を求めるのはもう難しい状況です。ですから産学官金労言で地域の問題を解決し、他では通用しなくても、その地域で通用するものを当てはめていけばいいわけです。そういう考え方が大切だと思います。

Q:

移民政策については、どのようにお考えでしょうか。

A:

移民について、私自身はハードルの高い問題だと感じています。外国人の労働力をどう活用するかという意味では、介護の現場をみると、日本人だけでは慢性的な人手不足です。その対応として、まずは人材依存度を下げるようなロボットや器具の導入が望まれますが、もう1つは、移民というよりも、インドネシアやフィリピンなどから能力を持つ人たちに来てもらうべきでしょう。その際、制度には工夫が必要だと思います。

すでに東北の農業や水産の現場には、多くの外国人が入って来ており、もう外国人抜きではやっていけません。おもに1~2年程度の技能実習生として入ってくるわけですが、そもそも日本人ならば応募しないような厳しい現場で、安い賃金で使う労働力として始まっているため、どうしてもブラックな職場になりやすく、実態が外から見えない面があります。また農村部では、若い女性が皆東京へ出てしまうため、極端な嫁不足に陥っています。そこで、中国の女性が結婚相手として入って来るケースも多くみられます。こうした状況の中で、移民とは別に労働力を確保する政策を日本として進めていくべきでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。