気候変動問題における技術政策の役割

開催日 2014年3月18日
スピーカー アダム・ジャッフィー (Motu Economic and Public Policy Research 所長/ブランダイス大学教授/NBER研究員)
コメンテータ 安永 裕幸 (経済産業省 産業技術環境局 大臣官房審議官(産業技術・基準認証担当))
モデレータ 長岡 貞男 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー/一橋大学イノベーション研究センター教授)
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開催言語 英語
開催案内/講演概要

気候変動を緩和するためには2050年までに世界経済の炭素使用量を大幅に減らす必要性があることが明確になっています。この問題に対処するには、現在利用されていない新たな技術の開発と利用が必要であり、単に炭素の価格を高めるだけでは必要な技術的な革新は起きず、技術政策の積極的な転換が必要だと考えられます。ジャッフィー教授は、マンハッタン計画、アポロ計画、NIHの癌研究など、大きな技術的な転換の経験とイノベーションの経済研究の成果から、気候変動問題に効果的に対処するためにどのような技術政策が必要となっているかを議論します。同氏は"Intergovernmental Panel on Climate Change"のメンバーです。

議事録

議事概要

1. 講演の趣旨

気候変動を緩和するために必要な炭素使用比率の大きさは、2050年までに最低限で約5割の削減であり、これは石油の価格が6倍になって石油消費/GDP比率が4割下がっただけであることを想起すると、非常に大きな変革が必要とされている。

このような変革を実現するには、炭素税、排出権取引などによって炭素の価格を妥当な価格とするだけでは不十分で、積極的な技術政策が必要である。炭素消費による外部不経済と、新技術体系に移行するに当たっての知識創出における正の外部性の2つの別な外部性があり、それぞれに対処する2つの政策手段が必要である。

技術体系の大幅な変革の経験からも技術政策の重要性が浮き彫りとなる。(1)マンハッタン計画やアポロ計画:政府が野心的な研究プロジェクトを遂行できることを示している。ただ、気候変動を緩和する技術開発は格段に多面的な技術体系の変革が必要で、これに直接適用できない。(2)癌への戦い(NIH、1998-2007):癌治療の進展に大きな成果をあげた。競争的な研究資金の拡大と若手研究者の育成(奨学金の交付)が同時に行われたことが効果を高め、また、研究成果としての新薬への購買力を民間補完や公的支出が支えてきたことも成功の要因であった。(3)ICT革命と半導体:DARPAなどからの研究支出と新製品への初期需要を国防省がコストではなく技術を重視した調達で支えてきたことが重要な役割を果たした。(4)合成燃料:商業的な可能性を実証する目的で政府プロジェクトとして行われたが、民間投資を喚起する結果にはならなかった。

従来の研究から今後の指針として以下が得られる。

(1) 長期的な視野が重要である。
(2) 政府の研究開発支出の社会的な効果は大きいが、その支出拡大は徐々に行われるべきである。
(3) 新しい領域での人的資本の構築が補完的に行われる必要がある。
(4) 公的な調達や調達義務が重要である。
(5) 政府の研究開発投資は民間の投資と補完的に行われる必要がある。
(6) 成功には現時点では予見されていない研究成果に依存することになろう。
(7) どのような可能性も最初から排除すべきではない。

2. 質疑のポイント

(1) 研究開発プログラムの目的の設定 より直接的な成果の目標と気候変動緩和への貢献という最終目標への貢献とを組み合わせるべき。

(2) 研究開発のポートフォリオのあり方 大幅な技術変革が必要であり、"Disruptive"な技術の開発を支援すべきではないか。技術間の競争が重要。

(3) 既存技術へのロックインの克服 標準の設定や初期需要の創出が重要。

(4) 価格メカニズムの活用 炭素税や排出権取引などによる炭素放出価格の適正化は非常に重要だが、それだけでは不十分。

(5) 原子力の役割 原子力の活用も最初から排除すべきではない。

(文責 長岡)

議事録(英語:2014年4月17日掲載)を読む

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。