ソーシャルゲーム産業の現状と課題

開催日 2012年11月28日
スピーカー 春田 真 ((株)ディー・エヌ・エー 取締役会長)
モデレータ 伊吹 英明 (経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課長)
開催案内

ソーシャルゲームは、近年急激に成長しており国内外の注目を集めているが、ソーシャルゲームについては、これまでのゲームとの違い、何がソーシャルなのかについて十分な認識がなされていない。また、ソーシャルゲームが生まれ、発展していく背景には、携帯電話、ネット技術の発達、ビジネスモデルにおけるイノベーションがあった。こうした状況を明らかにした上で、現在のソーシャルゲーム産業の現状、世界市場における可能性を敷衍したい。また、ソーシャルゲーム産業は、新たな産業であり、従来型産業と異なるビジネスモデルをとっており、その課題、振興策も、これまでの産業とは異なっている。

このBBLセミナーでは、このようなソーシャルゲーム産業の現状及び課題について触れたうえで、産業政策的な観点からについても議論をしてみたい。

議事録

ソーシャルゲームとは

春田 真写真ソーシャルゲームとは主に携帯上で提供されているゲームです。他のプレイヤーとのコミュニケーションが可能な「ソーシャル性」を持ち、競争・協調しながらプレイするという特徴を有しています。ソーシャルゲームは、プラットフォーム事業者、利用者、ゲームソフト会社で成り立っています。以前はソニーのPSや任天堂のWiiなど、機械そのものをプラットフォームとして、そこにゲーム会社がゲームを提供するという構造でした。ソーシャルゲームの場合は個別の機械に頼ることなく、携帯電話の上にソフトとしてのプラットフォームがあります。当社のプラットフォームであるmobageには約4500万人の登録者がおり、このうち毎月使っていただいている方は約1100万人です。男女比は6:4で、20歳以上の人たちが中心となっています。また、ユーザーの約9割は無料で参加しています。

ソーシャルゲームの生まれた背景

ソーシャルゲームが急に出てきた背景には、クラウド、高速な無線通信、高性能なモバイル端末の普及などの技術の発達があります。欧米では、スマートフォンの登場によって携帯でのゲームが始まったばかりですが、日本ではフィーチャー・フォンの段階で既にかなりのゲームができていました。その分、我々には経験値があり、海外で戦える土壌があると考えています。ビジネスモデルとしては、旧来型のゲーム端末のような「お金を最初に払わないとゲームができない」というものではなく、「無料でも遊べるが、お金を払えば更に楽しみ方が増える」という、アイテム毎の課金システムになっています。

ソーシャルゲームが急激に伸びた理由の1つに可処分時間があります。私たちの生活には24時間という制限があり、新しいことを始めるときには時間のバーターが発生していると思います。ところが、当社のサービスをよく使って下さる方のデータによれば、1回のセッションは約5-7分で、それを1日に5回、6回というように使っていただいているのです。よって、7分×5回=1日当り約35-40分という形になります。1日に30-40分のかたまった時間を取れといわれるとなかなか難しいのですが、1回が5-7分という短いセッションであるため、何かをしているときについでにプレイしていることが多いのです。このように時間のバーターを発生させないサービスであったがゆえに、一気に大きくなったのだろうと考えています。

国内市場動向

ソーシャルゲームとパッケージゲーム市場の推移をみてみますと、近年は後者が減少し、前者が増加しています。理由の1つは、ゲームのために一定の時間を確保することが、社会生活の環境変化や年齢構成の変化等によって難しくなってきているからだと思います。また現在では、あるタイトルが出たときに、それについての評判がすぐにネットで得られます。人々はそれらの情報を前提に購入を決めます。そのため、売り上げ実績のある過去の人気タイトル等ではなく、数十万本程度のタイトルを作っていたゲームメーカーの情勢は厳しくなり、ソーシャルゲームに参入してきています。

全体としては、ゲームに落とされているお金は以前よりも増えています。当社のプラットフォーム・mobageでは第2四半期(2012年3月)に560億円が使われました。これは当社が自ら提供しているゲームとサードパーティーのゲームを足し合わせたものです。海外と比較すると、たとえばアメリカの企業に比べ、日本のmobageやGREEなどは着実に利益を出しています。付加価値も、他のIT企業との比較では、1人当りの売り上げや利益率でむしろ高いレベルにあります。

海外市場動向

海外においては、スマートフォンが出てきたことで、今後爆発的な成長が見込まれています。また、世界の家庭用ゲームソフト市場の規模は、2001年から2010年の間に約8000億円から約2兆円に成長しています。2001年時点の日本のシェアは約40%でしたが、2010年には15%になっています。つまり、伸びているのは海外市場なのです。海外のゲーム市場の大きさは、パッケージゲームによって証明されていますし、ソーシャルゲーム市場も何兆円かの規模になる可能性はあると思っています。

米国の有料ゲームのグロスランキングを示したAndroidのゲームランキングでは、1位、3位、8位、9位、14位を日本のゲームが占めています。日本で培ってきたノウハウが受け入れられるということは、これらの数字が証明しています。米国アップルのアプリ・ストアにおいても同ゲームがずっと1位になっています。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙でも、日本のゲームへの注目が紹介されました。また、投資家などと話しをしていても理解されるようになったことは、大きな進歩だと思います。

ビジネスモデル

ビジネスとして見た場合の特徴を整理します。まず、パッケージ化が不要なのでサーバーでユーザーに直接提供ができ、在庫や流通コストを考える必要がありません。一般には海外の市場に流通チャンネルを開けるとことは非常に難易度が高く、しかしそれができなければ成果は出ません。一方、我々のサービスではチャンネルを自分たちで開拓でき、直接消費者に売ることができます。つまり日本のサービスもいきなり出すことができるのです。開発自体は、試行錯誤しながら進めることが可能なマーケットであるということが大きいと思います。ただ、やりながら変えていくというところにかなりのノウハウと細かいチューニングが必要であり、経験値を積まなければ成果が出てきませんので、今日本でこの業界にいる人たちは有利だと思います。

ソーシャルゲームとパッケージゲームの違いですが、後者の場合は企画から始まり、ときには開発に1年以上かけた後にリリースとなります。つまりその間、ゲーム会社はリスクを背負ったままなのです。大作のゲームであれば、最初から100万本単位で売れないと回収できないという構造になっています。その点ソーシャルゲームでは、企画と開発がほぼ平行して走り、始めた後に運用・改善していきます。リリースはあくまでもそのゲームのスタート時点でしかなく、その後をどうできるかで売り上げも変わってくるのです。

海外展開

海外展開については、今がチャンスだと思って取り組んでいます。ソーシャルゲームが大きく伸びた理由は、先に述べた時間のバーターとともに、お金のバーターがあると見ています。たとえば、1万円のゲームを買ってくれと言われれば大抵の人はひるむと思います。しかしソーシャルゲームでは100円からできますので、1万円はその蓄積でしかありません。ユーザーが使いたいときに使うという構造になっているので、意識させない形でお金のバーターを発生させているのだと思います。そしてここで生まれたキャッシュフローを海外事業に投入し、急成長させたいと考えています。現在、当社の海外の開発拠点はパキスタン、オランダ、韓国、スウェーデン、シンガポール、ベトナム、チリの各国に置いています。

産業としてのソーシャルゲーム

ソーシャルゲームの市場規模は既に4000億円以上になっています。これだけの規模を持つ産業の国への貢献度を見る1つの指標として、税金があります。2009-2011年度にかけて大手ITサービス企業5社が納めた税金は約1000億円です。実際には税金対策などは特になく、普通に利益を出して法定税率に近い税率で納税を続けているというのがITサービス企業です。金融機関やメーカー、商社等は色々な形で国の税制的な優遇を受けています。ITサービス企業はなかなか国との接点も薄かったわけですが、産業として認めていただく中で、こういう後押しがあっても良いのではないかと感じます。雇用という観点からは、ソーシャルゲーム産業が生み出す雇用は2万人くらいにはなってきていると思われます。

産業政策的インプリケーション

我々のサービスには、グローバルの成長が求められる日本における数少ない成長産業の1つであるという意義があります。市場規模も成長しており、売り上げだけでなく利益や付加価値も出せる構造になっていることに加え、それを海外にも展開できるのです。海外展開において当社や我々の業界の若者たちは、我々の世代よりもはるかに、海外で商売するということを厭いません。今年入った約100人の新卒の約半分は優秀な理系のメンバーです。彼らがなぜ我々のような会社に来たかというと、1つは自分の持っているスキルを生かせるからです。また、若手でも最初から活躍できるというところに魅力を感じているようです。そういった若者たちが積極的に海外にも事業展開していけば、もっと元気のよい国にできるのではないかと思っています。

2つ目は、制度、商習慣、法規制がITにおけるビジネスモデルについてきていない点です。グローバル展開の障害という点では、たとえば各国によって多少なりとも法律や規制が違ったりしますが、こういうことをベンチャー企業が理解してやるというのは、とても大変なことなのです。また、特にモバイル分野においては日本のほうが圧倒的に進んでいるので、日本発でルールを作った方が得なのではないかと感じます。

政策支援としては、IP等の開発補助やノウハウの支援策があります。一方、最近起こっているのが、税金を安くするためにIPを海外で作り、海外の帰属としてからそれを日本で配信するというものです。こうなると、どんどんIPが外に出て行ってしまい、結果的には日本に残らなくなっていく可能性があります。そうならないためにも、国内に踏みとどまっている人たちの競争条件が不利にならないようにしていただきたいと思います。

健全化の取り組み

国に求めるだけではなく、自社努力も行い、批判を受け止めた上で健全なものにしていくという業界全体の取り組みを行っています。まずは、青少年を有害コンテンツから守るため、2007年末から2008年にかけて進めた「フィルタリングサービス」があります。当社の提供するmobageには毎日1000万件以上の投稿があり、それに対しシステム的な観点からの処理と、目視によるチェックを行っています。新潟のセンターでは400-500人の体制でサポートを行っています。投稿は全て見ておりますので、ユーザーにはその上で投稿してくださいとお伝えしています。不適切な投稿があった場合には削除もしますし、あまりにも酷い人には退会を促します。これによって、今は犯罪に巻き込まれる被害者は一桁程度の数になりました。

加えて、春先に言われたコンプガチャといわれている問題や、RMT換金目的のような問題にも対応していくため、業界の6社が中心となり連絡協議会を設立し対策を進めてきました。ソーシャルゲーム協会という形で一般社団法人も設立し、こちらで決めたことをしっかりチェックしていく、あるいは、そのときの状況に合わせてルールを見直していくということを始めました。このような取り組みは作ることではなく、運用して行くことが大事ですので、しっかりと運用していきたいと思っています。

質疑応答

Q:

ゲームに限らず、広い意味でのソーシャルネットワーキング/ソフト産業の雇用創出力というのは潜在的にどれくらいのものがあるのでしょうか。

A:

この産業の良いところは、色々なサービスをどんどん生み出せることです。たとえば銀行がネットバンキングを始めたように、既存の業界を振り返る形での、ネットに関る就業者数はどんどん増えていく可能性はあると思っています。ただ、そのときに役割として、現実に行われている場面を全てネットに変えるということにはならないでしょうから、形は変わると思います。それが今の産業や就業構造をどういうふうに変えていくのかという点については、我々に現時点で何かアイデアがあるわけではないです。ただソーシャルゲームがこの3年以内でこれだけの数になったというのは事実ですから、他の色々な産業でも新しい領域はまだ作れるのではないかと思います。

Q:

産業として、また、御社の収益性として、将来においてリスクシナリオとして何か想定されていることはありますか。

A:

まだ既存の業界で充分に理解されていない部分もあるので、規制のリスクは常にあります。コンプガチャ騒動は、業界全体が危機感を持って臨むようになったという点において、結果的によかったと思います。足下の国内事業については、1-2年で無くなるというようなことは全くないと思っています。プラットフォームの場合に大事なのは、mobageというプラットフォームにどれだけのお金が落ちるのかということですから、そこが機能している限り、そしてユーザーがいる限りは心配していません。将来の成長に関るリスクとしては、やはり海外展開がどうなるかということだと思います。しかし国内事業ではキャッシュを生んでいるので、会社がどうかなるというリスクではないでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。