ものづくり白書(2011年版) ~国際的な構造変化・震災危機に立ち向かう我が国ものづくり産業の事業戦略の再構築~

開催日 2011年10月31日
スピーカー 堺井 啓公 (経済産業省 製造産業局 政策企画官)
モデレータ 松田 尚子 (RIETI研究員(併)国際・広報 副ディレクター)
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国際的構造変化の中、東日本大震災を経た現在、我が国製造業を取り巻く環境は一段と悪化。我が国製造業は、競争力の源泉である国内拠点の維持・強化を図るとともに、成長する新興国の需要を獲得し、その果実を国内に還元して更なる競争力強化へとつなげられるよう取り組んでいるが、以下に関して分析したところを示す。
(1)産業構造・国際情勢の変化の中の我が国ものづくりの現状
(2)東日本大震災からの復興に向けた取り組み
(3)我が国ものづくり基盤の維持・強化のあり方
(4)グローバル市場の付加価値を獲得するための現状や今後の取組

議事録

東日本大震災の影響を踏まえて白書を作成

堺井 啓公写真「ものづくり白書(ものづくり基盤技術の振興施策)」は例年5月に出されていますが、2011年度版は震災の影響を織り込んだために10月末の公表となりました。ものづくり白書は経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同で作成していますが、本日は経済産業省による部分を中心にお話ししたいと思います。

日本の製造業の動向として、「鉱工業生産指数の推移(製造工業)」を見ると、2008年のリーマンショック後にほぼすべての業種が大きく落ち込み、そこからの回復が徐々に進む中で東日本大震災が発生しました。11年3~4月は特に輸送機械工業(船舶・鉄道車両を除く)が大きく落ち込んだ後、持ち直してきているのがわかります。やはり自動車製造において、サプライチェーンの寸断によって部品の供給が滞った影響が表れています。

利益構造の変容――グローバル化の現状

「我が国海外現地法人企業(製造業)の地域別経常利益の推移」によると、アジアはリーマンショック後の09年も減少せず、北米は回復してきています。海外進出による利益は、アジアなど新興国市場で獲得する傾向が強まっているといえます。

「我が国海外現地法人(製造業)の調達先・仕向地の推移」では、ASEAN現地法人の調達先として日本国内が減少し、現地国あるいは現地周辺国が増えています。ASEAN現地法人の仕向地としても、現地周辺国あるいはその他が大きく伸びてきており、グローバルサプライチェーンが複雑化していることが表れています。

所得収支はこの10年で大きく増加しています。貿易収支は年度によって上下しながらも低下傾向にあります。日本では輸出が減少し、海外からの送金による収益が増加しているという大きなトレンドが見えてきます。

また、「地域別対外直接投資(製造業)の推移」として、リーマンショック後に全世界計は落ち込んでいますが、その中でもアジアは09年から10年にかけて伸びを見せています。アジアに対する対外直接投資が依然として堅調なため、そこからの収益がますます増えてくることが予測されます。

「国内への還流状況」を見ると、現地法人1社あたりの経常利益が08年、09年と連続して減少しているにもかかわらず、国内への還流額(配当金・配分済支店収益(受取))は増加しています。

09年4月、外国子会社配当益金不算入制度が導入されました。「外国子会社配当益金不算入制度の導入前後における海外子会社利益の使途の推移」では、制度導入後に「本邦への配当還元」を志向する企業が大幅に増加しており、その効果が表れています。

設備投資の方向性ですが、製造業の海外/国内設備投資比率は51.4%に上昇し、自動車の伸びが顕著になっています。

円高の進展

07年以降の実効為替レートを見ると、円はドルやユーロ、ウォンとの差が大きく、急激な通貨高傾向にあります。現在も円高は続いていますので、その傾向はさらに顕著になっています。そして、為替は輸出企業の想定を上回る勢いで円高傾向に推移しています。

11年8月に行われた経済産業省による「現下の円高が産業に与える影響に関する調査(大企業・製造業編)」では、1ドル=76円程度の円高水準が半年以上継続した場合の影響として、32%の企業が「深刻な減益(営業利益対前年比20%以上)」、47%の企業が「多少の減益(同20%未満)」と回答しています。一方、8月現在の円高水準の影響について「深刻な減益」と回答した企業は15%に留まっていますが、この円高水準が半年続くと「深刻な減益」となる見込みの企業が2倍以上に増加することになります。

また、「円高が海外移転に与える影響」として、1ドル=76円程度の円高水準が8月から半年以上継続した場合の対応策として、「原材料等あるいは部品の調達方法・割合の変更(海外からの調達量の増加)」を50%以上の企業が回答し、「生産工場や研究開発施設の海外移転」を46%の企業が検討しているという調査結果が得られました。海外移転が一層促進される傾向が表れています。

国際的な構造変化に直面する日本の製造業

03年の水準を1とすると、米国・EU15のGDPはほぼ横ばいに推移していますが、中国・NIEs・ASEANのGDPは急激に増加してきています。そうした中で、韓国やドイツの輸出額が大きく伸びている一方、日本の輸出額は米国と連動する形で緩やかな伸びに留まっています。つまり、日本は十分に新興国市場の成長を取り込めていないといえます。また、資源獲得競争が激化し、資源環境の制約が一層高まっている状況にあります。

ここ数年、海外各国で製造業振興策が積極的に推進されています。韓国では中間財の比較優位が進展し、製造業の高度化が進んでいます。海外企業による日本の製造業へのM&Aも増加しています。そこで日本にとって重要となってくるのが、技術的優位を付加価値に結びつける「稼ぐものづくり」です。

東日本大震災の被害状況――深まる空洞化の懸念

震災以降の製造業の苦しみは、「電力の供給不安」が加わり「6重苦」という表現でクローズアップされていますが、そこへ更なる「円高」の進展が追い打ちをかけています。経済産業省による「東日本大震災後のサプライチェーンの復旧復興及び空洞化実態緊急アンケート」(11年5月)では、69%の企業が震災の影響でサプライチェーンの海外移転が加速する可能性があると答えています。電力制約・電力コストの上昇がサプライチェーンの海外移転に大きな影響を及ぼしているという結果も出ています。

企業の海外移転志向に合わせ、外国政府・地方自治体等による日本企業誘致が活発化する中、国内の事業活動を円滑化するための事業環境整備を進めることが重要になっています。そこで新成長戦略の実現に努め、省資源・省エネ化の技術支援を進めていくとともに、至近の円高を活用した資源権益の獲得、海外企業のM&A支援として「円高対応緊急パッケージ」が発表されています。

コア技術を伴う海外展開の進展

企業の海外展開状況として、「我が国海外現地法人企業 (製造業)数の推移」を見ると、アジアの中でも中国が急激に伸びています。「我が国海外現地法人企業(製造業)の拠点機能の推移(地域別)」では、「販売」拠点が大きく伸びてきており、「生産」拠点は引き続き高い水準で微増しています。現地法人に「調達」拠点や「メンテナンス・アフターサービス」拠点としての機能を持たせる動きも出てきており、新興国を市場としてとらえ始めている傾向が顕著に表れています。

「海外へ工場新設・増設を実施した理由」では、「低コスト生産への対応」も依然として多い一方で、現在計画中の案件については「グローバル市場の開拓」が主な理由となっています。そして衝撃的なことに、海外に新設・増設した工場における経営上重要な主力製品の生産が「ある」と答えた企業は全体の83.1%を占めています。さらに、コア技術を海外生産拠点へ「移管済」は49.8%に上り、「可能性あり」も21.5%ということで、7割を超える企業がコア技術まで海外へ移管することが想定されます。

海外への工場新設・増設に合わせ、国内生産拠点を「やや縮小」、あるいは「大幅縮小」したという割合が約40%を占める中、国内拠点で生産する品目を高付加価値品目へシフトしたという割合が約25%存在しています。国内生産拠点は規模を縮小しながらも、高付加価値品の生産拠点へと変化していく傾向にあることがわかります。

国内拠点において重視する役割をみると、「先端品の生産」や「開発」、「設計」、「研究」の比率が長期的に高まっています。また、国内の設備投資を積極的に行っている企業は相対的に好業績を上げている傾向にあります。

サプライチェーンの強みと弱み

韓国の輸出総額と同国の我が国からの輸入額は、実は強い相関関係にあります。特にリーマンショック後の傾向として、我が国では最終製品よりも素材・部品分野で業績が好調に回復しており、日系の素材・部品メーカーが世界シェアを獲得しています。高度部素材を中心としてサプライチェーンの中核を担う分野が存在しており、こうした産業が次世代産業の主導権を握り、日本の産業競争力を高めていくと考えられます。

一方、サプライチェーンの弱みとして、今回の震災は、製造業のサプライチェーンが二次取引先以下で部素材の供給が一部の事業者に集中する「ダイヤモンド構造」であったことを明らかにしました。レアアースに関しては、輸入の大部分を中国に依存しています。高い世界シェアを誇る製品を持つ企業は、自社が関わるサプライチェーンの把握も相対的に進んでいますが、そうした企業ほど供給途絶リスクの高い部素材やレアアース等希少資源を利用する割合が高いため、リスクを低減する取り組みが必要となっています。加えて、震災以降はリスク対策への企業の関心が高まる中で「海外での生産比率の拡大」を検討・実施するとの声もあり、リスク対応策が産業空洞化をさらに後押しする懸念があります。

新興国市場の獲得に向けて

付加価値を生み出す工程として、「企画・マーケティング」、「研究開発」、「アフターサービス」の付加価値が高まる傾向にある一方、「製造・生産」の付加価値は徐々に低下していくことが示されています。また、「リーマンショック後に営業力強化のために実施した項目」として、「提案力の強化」や「設計力の強化」といった前工程に積極的に取り組んだサプライヤーは、リーマンショック前に比べて受注量が10%以上増加した比率が高い傾向にあります。

「新興国市場で競合と比較して劣っている機能」では、「企画・マーケティング」や「販売」、「研究・開発」といった付加価値の高い機能が競争劣位になっています。今後は、それらを強化した「稼ぐものづくり」への転換が期待されています。

日本ブランドの重要性については、「高品質・高性能」などハード面に備わる品質では日本ブランドの効果を認識し、一定の価格プレミアムを得ている一方、「デザイン・スタイル」や「日本独自の文化性」といったソフト面の収益獲得は今後の課題となっています。また、最終製品分野に比べて部素材分野の価格プレミアムは相対的に低いため、訴求力を高めていく必要があると思います。

「日本企業同士の競合数と業績の関係」を見ると、利益増加企業が多いのは、日本企業同士の競合が0~3社の少ないところです。「マーケットシェア(マーケットリーダー比)と業績」の比較においても、利益増加企業が多いのは、自社がマーケットリーダーのところです。つまり、企業連携がグローバルマーケットでも重要な要素になってくるといえます。

国内拠点・海外拠点間の好循環創出

競争力の源泉である国内基盤を強化すべく、海外展開で得られたヒト・モノ・カネ・情報といった果実を国内に還元する動きが見られています。コラムでは、(株)デンソーの「ものづくり力の循環」、愛三工業(株)の「ものづくり資金の循環」、(株)牧野フライス製作所の「ものづくりブランドの循環」といった国内外の好循環の例を挙げています。

海外への技術供与・移管の状況として、今後、技術流出防止措置のめどが立たなくてもビジネスチャンスを優先してコア技術を海外移管するという声が多く、まだ技術流出防止策が徹底されていないことがわかります。実際に「海外展開企業の技術流出状況」では、コア技術を海外移転している企業の中で、「技術流出があった」あるいは「確認できないが、あったとみられる」と回答した企業は合わせて45%弱に上っています。また、利益増加企業は、海外コア技術移管先工場におけるブラックボックス化をより強く意識する傾向にあるといえますが、今後、さらにブラックボックス化を進めていく必要があると思います。

グローバル人材の重要性として、従業員の海外赴任姿勢が積極的な企業ほど業績が好調に推移しています。また、海外のスタッフに多くの権限を与える企業の方が、海外赴任姿勢は積極的といえます。外国人幹部の採用には、周囲の人材への好影響やネットワークの活用といった効果もあり、外国人幹部を採用している企業の方が好業績となっています。

おわりに、現在、タイの洪水によるサプライチェーンの混乱が懸念されています。東日本大震災後、半年あまりで日本の製造業は新たな課題に直面し、円高への対応を含めて非常に重要な局面にきています。

質疑応答

Q:

製造業の海外移転は、国内空洞化という面では問題かもしれませんが、日本企業のグローバル展開に伴って海外からの送金が増え、日本が強くなると考えることもできます。こうした見方の違いについて、どのようにお考えでしょうか。

A:

難しいご質問ですが、個人的な見解を含めてお話ししたいと思います。市場を獲りにいかない限りコスト競争力は高まりませんので、企業は海外に進出しながら最適なオペレーションでシェアをとり、利益を上げていく必要があります。それは後押しをすべきところです。一方、国内の空洞化という面では、立地補助金などの支援により国内での操業環境整備を進めていくことが大事。そのうえで、国内製造業で減少する雇用がでてくればそれをどこかで吸収する必要があります。1つは次世代産業でリードしていき、新しい取り組みを進めていくことになります。とにかく、企業が海外展開を志向する一番の要因は、やはり円高の問題であるとみられるところであります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。