中国の国民経済社会発展第12次5カ年計画(2011-2015年)について

講演内容引用禁止

開催日 2011年7月21日
スピーカー 孟 健軍 (中国清華大学シニアフェロー)
コメンテータ 関 志雄 (RIETIコンサルティングフェロー/(株)野村資本市場研究所シニアフェロー)
モデレータ 高木 誠司 (経済産業省 通商政策局 北東アジア課長)
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開催案内/講演概要

2010年、中国は世界第二位の経済大国になりました。一人当たりGDPも4000ドルに近いです。これは2001年(第10回目の5カ年計画)に制定された2020年まで4倍増、つまり3000ドルの目標が早くも達成しました。現在中国では、まもなく第12回目の5カ年(2011-2015年)経済社会発展指標の確定時期に入ります。これからの5年間は経済構造の転換を図りながら、新たな経済発展の段階に上ります。

今回のBBLセミナーでは、国内の立場から各地方の5カ年(2011-2015年)経済社会発展指標を合わせてそのポイントについて解読します。

議事録

※講師のご意向により、掲載されている内容の引用・転載を禁じます

史上最長の5カ年計画へ

孟 健軍写真本年3月15日に閉幕した全国人民代表大会において中国の第12次5カ年計画が採択されました。なお中国では近年「計画」という言葉はあまり使われず、ガイドラインを意味する「規劃(きかく)」と呼ばれます。

この第12次5カ年計画(2011-2015年)が終わると、中国は史上最長の5カ年計画を記録することになります。清華大学国情研究センターでは、2003年に5カ年計画の中間評価が導入されたことを契機に、中国経済における5カ年計画についての研究が続けられてきました。

中国の5カ年計画には、主に次の4つの特徴があります。第1に、旧ソ連型のような標準的計画経済の常識から乖離している部分があることです。

第2に、大部分の目標が実施され、実現されていることです。過去の5カ年計画を分析したところ、平均で全体の77~78%が達成されています。90%以上を達成したこともあります。

第3に、今日の中国経済におけるマクロコントロールの手段の1つとなっていることです。これによって他の国々に先駆けてさまざまな危機に対応することができました。

第4に、これが中国の過去30年間における経済発展の最大の要因だと思いますが、「実践-確認-再実践-再確認」を繰り返し、試行錯誤しながら取り組んできたということです。さらに2003年以降は、第三者評価、中間評価、実施後評価を随時導入しています。

5カ年計画の変容

市場は"見えざる手"である以上、標準的な市場経済はどこにも存在しないといえます。ならば中国は自らの発展の道をどのように進むか。特に2008年のリーマンショックは、中国がより独自の道を歩んでいく転換点になったといえるでしょう。

一方で、計画という"見える手"を使うこと、これは主に国家の発展目標やマクロコントロールを意味していますが、特に公共サービスや環境問題などにおいては「無計画」より「有計画」の方がよいという考え方は、中国で一般的なコンセンサスとなっています。

そして金融危機以降、「市場」と「計画」のどちらか一方の"片手"よりも"両手"の方がよいという認識にもとづき、中国は片手から片手へのどちらか一方だけを使うのではなく、「片手」から「両手」への転換を目指すようになりました。

2009年2月には、温家宝首相より「市場と政府の両手が同時に役割を発揮し、両手ともに強くなる」という発言がありました。それによって5カ年計画は廃止されることなく、「五年規劃」あるいは「社会経済発展指標」として、引き続き中国の経済発展戦略の青写真となるべく策定されることになりました。

第11次5カ年計画(2006-2010年)からは、「経済成長」、「経済構造」、「人口・資源・環境」、「公共サービス・国民生活」の4つの分野に分けられるようになりました。属性のうち、「予期性」は市場メカニズムに沿って達成するために努力する指標を、「約束性」は政府が責任を持って実現を確保すべき指標を意味します。そして第11次5カ年計画の実現状況を評価したところ、達成率は80%以上となりました。

第12次5カ年計画を策定するにあたり、その国内背景としては、次の7つのポイントを考えていると思われます。

(1)中国社会の工業化、情報化、都市化、市場化、国際化の進展
(2)経済成長への資源環境制約の高まり
(3)地域間の経済格差、収入分配の格差
(4)産業構造の転換の必要性
(5)都市と農村の不調和
(6)社会矛盾の顕在化
(7)体制そのものの制約

特に、都市と農村の不調和や社会矛盾の顕在化は重大な問題であり、5カ年計画にもそうした認識にもとづく内容が盛り込まれています。また、国際背景についてもさまざまな分析が行われました。特に共産党政府内部には、2001年から2015年を最大のチャンスとして捉えています。

第12次5カ年計画の位置づけ

第12次5カ年計画は、「改革」と「転換」の重大な時期として位置づけられています。中国は急速発展の経路依存期、改革疲労期にあるということで、政府高官の中には"制度疲労"または"制度老化"と呼ぶ人もいます。"中進国の罠"という議論も盛んです。また、開放の足踏み時期という考え方も出ています。

2010年の第6回全国人口統計によると、子どもの数は2000年に比べて6.7ポイント減少しており、急激に少子化が進んでいることがわかりました。また、65歳以上の人口は全体の8.85%を占めています。すなわち、約1億1855万人、日本の総人口に匹敵する数の高齢者がいるということです。労働人口についても、遅くとも2017年を境に人口ボーナスが減少していくことが予想されています。

大気、水、土壌といった資源環境問題の深刻化は、国内で大きな問題となっています。また、沿海部と内陸部、および都市部と農村部の発展は不均衡や不調和であり、格差によって持続可能な成長を妨げる問題もあります。しかし、これらの問題をすべてチャンスと捉えて解決していく姿勢をとるというのが、第12次5カ年計画の策定する際の政府をはじめとする私たちの方針です。他力ではなく自力で、自ら転換するという考え方が第12次5カ年計画のポイントとなっています。

また、「5つの経済構造の転換」として、需要構造の転換、産業構造の転換、雇用構造の転換、生産要素投入構造の転換、貿易構造の転換を図ることを目指しています。

第12次5カ年計画の策定には、2008年3月から2011年3月の約3年間をかけて取り組みました。そのプロセスとして、まず第11次5カ年計画の中間評価や重要課題の研究などを行いました。これには中央政府の各部門や地方政府からの委託をうけた大学によって全体で300から500のチームが参加し、多い場合は5チームが同じ課題について研究するというかたちで進められました。

そして、発展改革委員会が国務院の指導のもとに基本的な考え方をまとめ、主に地域ごとの会議を通じて地方の修正意見を求めます。その後、政治局常務委員会の指導のもとに「建議」の原案を起草し、専門家などの広範な意見を求めます。党内の先輩格や党外有識者、全人代代表にも意見を求めます。

このようにしてできた「建議」と「要綱」のフレームワークは、2010年11月から本年3月の全人代まで一般公開され、さらに広範囲の意見として少なくとも53万人の提言が中央政府に寄せられました。その後、国務院の指導のもとに専門家の検証等を経て要綱が正式に発表されました。

第12次5カ年計画は第11次と同じ4分野を設けていますが、主要指標は16項目に抑えられました。うち「経済成長」の指標は国内総生産の1項目のみ、「経済構造転換」の指標は2項目となっています。

主要指標のうち、都市化率などに関しては、指標よりもすでに現実の方が早く進んでいる状況です。一方、耕地保有面積1.212億haは何としても保障する必要があります。耕地が勝手に不動産などに転換されることを防ぎ、約13億4000万人の国民の食糧を確保するため、約束性指標として厳しく管理を行っていきます。

全16項目の指標うち「公共サービス・国民生活」の分野に、都市1人当たり可処分所得や農村1人当たり純収入などの8項目が掲げられているように、重点が置かれていることは第12次5カ年計画の重要な特徴といえます。

中央と地方の関係

中国という大きな国の中で、中央と地方がどのような関係にあるかということは皆さんの関心事の1つだと思います。私たちは特に2008年以降、5カ年計画を通して中央と地方の関係を分析してきました。

基本的な行政体制として、中国では縦(政治)と横(経済)の行政が共存しており、かつ横をメインとする流れが強まっているため、これからも経済的に分権的な構造は進んでいくものと考えられます。

一方で、情報の非対称性と権力の非対称性という現実があります。地方は情報を持ち、中央は権力を持つということから、情報コストと実施コストが発生しています。そこで現在、中央と地方の委託代理方式に転換する試みが行われています。

「中央指令型」は情報コストが高くなり、「中央制約型」は実施コストが高くなります。また、非互換性のインセンティブの場合、実施コストも情報コストも高くなります。そこで、いかに互換性のあるインセンティブとし、低実施コストかつ低情報コストとするかが、第12次5カ年計画の大きな焦点となっています。

5カ年計画を通じて中央と地方は徐々にカップリングを形成しつつあります。情報の非対称性の条件のもと、情報優位の代理人(地方政府)が委託人(中央政府)と動機をすり合わせて、その意思に沿って行動する。それによって、双方のWin-Win関係を構築することを目指しています。第12次5カ年計画の最大の特徴は、中央と地方の政策的な好循環をつくり出し、互いが実践によって学習するということです。

地方政府の関心が高いのは財務指標や投資指標ですが、他方で産業構造の調整については消極的といえます。中国では、東京あるいはパリ、ニューヨークに匹敵する都市は北京のみでしょう。サービス業比重は、北京が総生産の73%を占めているのに対し、上海は55~57%に留まっています。上海も金融には力を入れていますが、文化やITなどは北京が圧倒的に優位な状況にあります。

中国における5カ年計画の実施は、成功が失敗をはるかに上回ることがわかっています。第11次5カ年計画以降は日本でいうマニフェストに近いかもしれません。そして重要なのは、これが胡錦濤主席の提起する"科学的発展観"を実現するための具体策の1つとなっていることです。

5カ年計画は、中国の経済発展の根幹の1つであり、GDP第2位の大国となる原動力にもなっています。何よりも、政府と市場がこれまでの排他的な関係から補完的な関係を構築するようになったことが、その最大の成果といえます。

コメント

関 志雄写真コメンテータ:
"科学的発展観"は、今回の5カ年計画の主導的役割を果たすともいうべき方針であり、胡錦濤政権のマニフェストにあたるものです。具体的には、(1)都市と農村の発展の調和、(2)地域発展の調和、(3)経済と社会の発展の調和、(4)人と自然の調和のとれた発展、(5)国内の発展と対外開放の調和、という「5つの調和」が1つ目の柱となっています。

2つ目の柱は、発展パターンの転換、あるいは成長パターンの変換です。生産性を上げていくために、企業の自主イノベーション能力の向上を強調しています。それは従来のように単に技術を輸入するのではなく、中国企業が自前の研究開発能力を身に着けなければならないことを意味します。

私は、生産性の向上のためには、資源を生産性の低い部門から高い部門へ移していくことが重要と考えます。その方法は2つあります。1つは、国有企業の民営化を通じて、資源を生産性の低い旧計画経済体制から市場経済体制へ移していくということ。もう1つは、生産性の低い第1次産業から工業部門やサービス部門に労働力をはじめとする資源を移していくということです。

今回の5カ年計画では、重工業だけでなく、ハイテク産業からも7つの分野を政府が積極的に支援する戦略的新興産業として指定しています。その内容は、日本が成長戦略で掲げている項目と大差ありません。

しかし、中国経済がこれからも順調に成長していくとは限りません。中国の昨年の国民1人当たりGDPは4400ドルで、200カ国中100位程度、まさに中のレベルに来ています。2007年の世界銀行による報告書では、発展途上国はこのレベルになるとさまざまなひずみが表面化し、経済発展が停滞することが指摘されています。

中国は今まさに"中進国の罠"に陥るのか、それとも一気に先進国の仲間入りを果たすのか、その分かれ目に来ています。

質疑応答

Q:

5カ年計画の達成にあたっての懸念事項あるいはリスクとして、どのようなことをお考えでしょうか。

A:

リスクは常にあり、薄氷の上を歩くような状況ですが、世界情勢が大きく変わらない限り、第12次5カ年計画は順調に推移すると考えます。あえて言うならば、権力交代や地域の情勢などが懸念事項として挙げられると思います。特に重慶は最近さまざまな動きがあります。政治的な問題はありますが、合理的に判断するならば、中国共産党結党90周年記念の経済効果も約2兆円に上るという見方ができます。

Q:

輸出依存度や為替レートに関する考え方についてうかがいたいと思います。

A:

輸出を減らすというよりも、輸入を増やすことでバランスをとる。その手段の1つとして、為替調整の必要があると思います。ただし中国政府がコントロールできるのは、あくまでも名目為替レートであって、実質為替レートではありません。中国政府は、インフレを容認するか、さもなければ人民元の上昇を容認するという選択に直面しています。外から見れば、どちらの政策がとられても、中国発デフレの時代が終わり、中国発インフレの時代に変わっていくことは避けられません。それを反映して、10年後の100円ショップで売っている商品は、Made in Chinaではなくなり、ベトナムやインドネシア製に代わっているかもしれません。もしくは、同じMade in Chinaでも、100円ショップではなく200円ショップになっているかもしれない。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。