NPOは公共サービスを担えるか

開催日 2009年12月4日
スピーカー 後 房雄 (名古屋大学法学部・法学研究科 教授)
モデレータ 松井 滋樹 (経済産業省経済産業政策局 経済社会政策室長)
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議事録

NPO法人のこれまでと今後

後 房雄写真特定非営利活動促進法(NPO法) が施行された1998年からの10年の間に、主務官庁のないNPO法人の数は3万5000に増えました。しかしこうした非伝統的NPO法人の財政規模は、社団法人・財団法人などの伝統的NPO法人と比べ非常に小さいのが実態です。

今後5~10年の間に外郭団体がなくなっていく点ははっきりとしています。サードセクター(協同組合、共済組合、社会的企業を含む非営利型民間組織) の間では、伝統的NPO法人か非伝統的NPO法人かに関わりなく、競争で一番適切なところに公的資金・公的事業が流れる仕組みとなっていくことが予想されます。

英国では公的資金のアカウンタビリティを高める観点から、「補助から契約へ」の転換が行われています。日本でも今後は、NPOの財源で補助金が占める割合は少なくなり、公的事業の実施委託が増え、同時に、企業が公益的事業を採算ベースで行っていくようになると考えています。

過去10年のNPOバブルの時代を経て、NPOの社会的価値が問われる時期に来ています。NPOにはともすれば活動至上主義に陥り、成果に甘くなる側面があります。NPOやサードセクターが社会的成果を挙げているという評価を次の10年で得られるかどうかは重大な問題です。

NPO法人におけるボランティアと有給職員の関係は難しい問題です。英米の場合は、NPOの有給職員がボランティアマネジャーを務め、同マネジャーの指揮下で膨大な数のボランティアが活動をする仕組みになっています。その意味で、英米ではNPOとボランティアは不可分の関係になっています。一方、日本では、1人ひとりの小さな親切運動というボランティアイメージが広がっているので、個人のボランティア活動とNPOが明確に結びついていません。また、全員が給料をもらわずにボランティアでしていることが「善」であり、有給職員を雇うことは「悪」という意識が生まれやすい日本には、有給職員を団体の中できちんと位置付けにくいという風土もあります。

しかし、有給職員のいる本格的なNPOが一定数育たない限り、セクターとしての力はつきません。そうしたNPO(年間財政3000万円以上)の数は、2003年データによると、全体のわずか14.8%で、現在でもこの状況に大きな変わりはありません。抜本的な改革が求められる分野の1つです。

NPOを巡る3つの神話

米国のNPO研究の第一人者であるレスター・サラモンはNPOには3つの神話があると指摘しています。

(1) すべてのNPOは「純粋な美徳」を備えた組織、つまり柔軟性や信頼性の高い理想的な組織だという神話。

実際はNPO組織も官僚制化や組織病理、不適切なマネジメントといった問題を抱えています。

(2) 真のNPOはもっぱら寄付とボランティアに依拠しているべきだ(従って公的資金は受けるべきではない) と信じる「ボランタリズムの神話」。

英米のNPOの財源で寄付の占める割合は平均1割で、最大の財源(50~55%) は事業収入です。公的資金も財源の約4割を占めています。事業収入をこれ以上増やすことが難しい状況下で有給職員を雇うとなれば、公的資金は決定的に重要となります。「官から民へ」は国際的潮流ですが、NPOの財源で公的資金が占める割合は米国でも英国でも増えています。大切なのは、公的資金の中身が「補助から契約へ」と移行しているかです。

社会的にインパクトを与えるにはある程度の規模で活動する必要があります。そのためには公的資金は避けて通れません。問題は、NPO法人が公的資金を受け取りながら、どのように意思決定の自立性を維持するかです。

日本の主務官庁制は、NPOの自立性という点では優れたインフラではありません。「最大動員システム」で近代化を進める時代が終わったいま、NPOの自立性を担保する公的資金の出し方を制度インフラとして整備する必要があります。

その際には、契約の仕組みが重要となります。英国では契約のマネジメントや設計は「官から民へ」の重要な論点となっています。日本の場合はNPOと行政の間で結ばれる契約で成果目標が明確になっていません。その代わり、プロセス――たとえば「どこそこに3人を配置すること」――の縛りが強く、あとは予算を消化できれば問題なしという契約マネジメントが主流になっています。これでは成果を評価することもできませんし、何を達成すべきかが不明確である以上、民間も企画書の書きようがありません。

プロセス重視型の契約から、業績契約(期限内に成果目標を達成することを求めるが、目標達成の手段は可能な限り自由にすることを認める契約形態) へと移行すべきです。民間に任せる意味は、従来の公的手段とは違う手段や方法で目標を達成する点にあります。その手段や方法で自由度が欠けては民間に任せる意味がありませんし、民間の良さを発揮することもできません。

バウチャー制度もNPOの自立性を担保する上での重要な仕組みです。日本では公的介護保険や医療保険が前例としてあります。公的資金を事業者に契約で渡すのが委託であるとすれば、公的資金を利用者に権利として渡すのがバウチャーです。

公的介護保険にあてはめて考えると、公的資金を受け取った高齢者の購買力は増加し、選択権をもちます。業者は選んでもらうための努力をするようになるため、供給者間の競争が生まれます。このシステムには、利用者の側の発言力や選択権が強まるというメリットのほかに、事業者側にもメリットがあります。つまり、公的資金はあくまで利用者を通じて間接的にしか受け取らないので、行政からのコントロールは弱くなるのです。高齢者に支持されれば、その事業者は成長し、事業者の自立性は高くなります。

こうしたインフラを活かして成果・業績を上げる経営力がNPOで高まれば、公共サービスの担い手としてNPOが大きな役割を果たせるようになる可能性はあります。

(3) 世界のほとんどの地域においてNPOはまったく新たに出現したものであり、それ故、白紙の上で活動できると考える「無原罪懐胎の神話」。

NPO法人制度自体は1998年から始まったものですが、どの国でもそれに似た組織は以前から存在していました。日本の場合は、明治以降、各種公益法人が活動していました。こうした伝統的NPOと非伝統的NPOの関係をどうするのか、あるいは、伝統的NPOをどう自立化させるのかを考える必要があります。

また、日本では、町内会や自治会といった地縁団体をどうするのかが、自治体レベルで大きな問題になっています。しかし現在も方向性は定まっていません。現状、実質的に全戸強制加入となっている地縁団体が任意加入に転換すれば、地縁団体は純粋にNPOになります。しかしそうした転換をしないため、地縁団体は民間団体でも公的組織でもない、中途半端な状態のままで、若者も寄りつかず、高齢化して衰退しています。地縁団体はNPOとして任意加入で運営する方法へと切り替えていくべきです。

全国には、自治会・町内会だけで40万団体あるといわれています。婦人会や子ども会、老人会を含めれば100万団体を超えると思われます。地縁団体をどう考えるかは、外郭団体問題と並んで大きな問題です。

NPOの4つの失敗・弱点

サラモンはNPOの失敗・弱点を4つ指摘しています。

(1) 資源の不足。NPOは社会の要請に十分対応しうる財源を生み出す主体としては、重大な欠陥を孕んでいる。
(2) 偏向。特定の集団に関心を集中させる傾向のため、NPOはコミュニティの重要な構成要素を見過ごしてしまう危険がある。
(3) 父権主義。巨額の寄付によって財源を支配する立場の者と被支援者の間で上下関係が発生しやすくなる。
(4) アマチュアリズム。問題に素人的手法で対処する。

サラモンはさらに、NPOの弱点と政府・行政の長所は相互補完関係にあると指摘しています。

第1に、NPOが資源不足に陥るのに対し、政府・行政は議会の決定に基づき、税金という形で十分な資源を集めることができます。しかも、政府が公的資金を投入して実施しようとする事業と、NPOがやりたい事業は通常重なります。実際、採算がとれないため企業が手を出さない事業に政府・行政が資金を提供し、NPOが事業を実施するという役割分担は世界的に広がっています。

第2に、公的資金を投入する以上、一定の条件を満たす人にはすべてサービスを権利として保障する必要があるので、偏向の問題も解決できます。

第3に、公的資金を投入すれば、権利としてサービスを受けられるので、父権主義もなくなります。

第4に、公的資金を投入する以上はそれだけの水準が要求されることになるので、アマチュアリズムも解消できます。

こうした相互補完関係は「官から民へ」の流れの中で増えています。NPOにとっては絶好のチャンスです。絶好のチャンスがある中で、「公的資金は悪」という神話が残っていると致命的になりかねません。

サラモンが指摘するように、NPOが財政的に独立している(すべきだ)というのは誤解を招きかねない考えです。NPOは公的資源か民間財源のいずれかに依存する必要があります(また、非分配原則のゆえにそれができる組織でもあります)。公的資金の縛りにも、民間財源の縛りにも、危険のタイプこそ違いますが、同程度の危険があります。それを前提に、NPOの自立性を維持するインフラや、NPOの戦略・経営力をどう考えるかが、今後特に重要になると思います。

質疑応答

Q:

ソーシャルビジネスを活発にするためにNPOが民間の協力を得るとします。どういった制度的課題がありますか。事業性と社会性を両面から担保する法制度は日本に必要でしょうか。成果を重視した上でプロセスを自由にする契約モデルの実例はありますか。

A:

民間資金も含めたNPOの戦略ではビジネスモデルが重要になります。ビジネスモデルを考える際には「もらったお金」と「稼いだお金」を区別すべきです。「稼いだお金」であれば、契約相手が民間であろうと、行政であろうと、契約ベースの話なので、NPOの側に専門性がある限りNPOの持続性は高まります。そういうことも含め、資源を持続的に獲得するためのビジネスモデルをどう作るかがポイントです。

寄付・ボランティアを集めて、人をたくさん雇用できるくらいの財政規模にしているNPOにはビジネスモデルがあります(例:第三世界の子ども達に教育の機会を保証するために、寄付を受けて学校に行けるようになった個々の子どもの情報を寄付主に提供するフォスタープラン) 。純粋に市場ベースで活動しているNPOもあります(例:企業と提携して開発したリサイクル再生紙を売ることで1億円程度の収入を上げた「中部リサイクル運動市民の会」) 。公的資金の事業を核に、事業を多角化するビジネスモデルも可能です(例:公的介護保険の対象外のサービスも有償ボランティアで一括で引き受ける介護NPO「さわやか愛知」) 。

制度面については、非営利組織の範囲内で縦割りが複雑になっています。税制上優遇措置などをどんな法人格であろうと同等の基準で審査するようにすれば、一元化は進むと思いますし、一元化は進めるべきです。出資型の生産協同組合もあった方がいいですし、会社法改正により、非営利株式会社が認められるようになるなど、株式会社と非営利組織の世界は近づいています。

業績契約の成功例はまだ限られています。というのも、業績契約では、成果・業績を定義する必要があるからです。ところが、行政の側には、どういう社会的成果を事業で出すのかという考えが基本的にありません。国・地域に固有のどういった課題があるかを特定し、課題解決のために政治決定して、そこから事業を考える経験も蓄積されていません。事業はあくまで手段であり、成果が目標であるという意識がない限り、業績契約は難しいです。

政策マーケティングで国・地域の重要課題を洗い出し、課題解決に有効な事業なのかという観点から事業を選別する。新たな事業も課題解決に有効かという観点から企画・立案する。そんなプロセスがあれば、企業であれ、NPOであれ、参加しやすくなると思います。目標を設定されれば企画書も書きやすくなります。その意味でも、業績契約を普及させる上で一番欠けているのは、成果を定義し、測定可能な形で提示する技法であるといえます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。