『新日本様式(Japanesque*Modern)』協議会の活動概要について

開催日 2006年4月18日
スピーカー 樫葉 浩嗣 (「新日本様式」協議会事務局長)
コメンテータ 芳川 恒志 (経済産業省商務情報政策局サービス政策課長)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)

議事録

※講師のご意向により、掲載されている内容の引用・転載を禁じます

「新日本様式」協議会設立の背景

「新日本様式」協議会は平成17年7月に経済産業省の「新日本様式ブランド推進懇談会」報告書の提言を受け、平成18年1月28日に設立されました。理事長は松下電器産業株式会社の中村邦夫社長で、理事会社には10社が名を連ねています。50企業・19団体、個人23名が会員として活動しています。民間主体の任意団体ですが、経済産業省、外務省、国土交通省、文化庁がオブザーバーとして参加しています。「新日本様式」協議会では、最先端の技術製品と伝統的な技法を組み合わせた製品による新規市場開拓を目指し、総漆仕上げされたIH調理器組み込みキッチンや50インチのプラズマディスプレイ(PDP)屏風などを提案します。

アジア諸国の追い上げを受ける中で、日本としての新たなブランド、すなわち「新日本様式」を確立する必要が生まれました。グローバリゼーションに伴う峻烈な市場競争もあります。こうした環境下で、国際的に活躍する日本人ファッションデザイナーは、自分の持つ内なる日本をいかに表現するかに重点を置いています。グローバリゼーションが進めば進むほど、日本独自のDNAがますます重要となります。グローバルな環境下にあるが故に人々の関心は日本に回帰すると言えるでしょう。

本協議会設立の背景には「価格から質へ、そして品位へ」という考え方もあります。以前は高付加価値が売り物とされていたのに対し昨今では100円均一ショップが流行するなど、価格競争が激化しています。日本企業の製品は従来、品質面で高い評価を受けてきましたが、今や日本の工業生産の技術は海外に流出しつつあります。日本の大企業でリストラが行われた結果、優秀な技術者が韓国や中国の企業に流れるケースも見られます。さらに、日本企業が米国の評価主義を導入したことにより、優秀な人材がより高い給与を求めて海外に流出するようになりました。以前は日本の特権だった質の面で韓国や中国が凌駕してくる時代は必ず来るでしょう。しかし日本企業には品位があります。「新日本様式」協議会ではこれを世界に発信すべく、自らの「品(しな)」に「品(ひん)」を込めることを目指しています。

「新日本様式」とは

「新日本様式」とは、「我が国の伝統的な技術・デザインや機能、コンテンツを現代の生活にふさわしいように再提言すること」です。日本がこれまで培ってきた工業技術や文化的産物は、まさにわれわれが現在、拠り所とするにふさわしいものです。しかし、こうした技術や産物は現在の生活においては必ずしも活かされていません。そこで「新日本様式」協議会では、日本の高度な技術力や商品力と伝統文化を融合させ、現代生活に潤いと輝きを与える「日本らしさ」を追求し、新しい日本様式を確立させるという試みを行っています。

また、「新日本様式」は、「伝統文化が有する価値の再提言」を体現します。「日本らしさ」の根拠を求め日本の伝統文化に着目する試みです。「新日本様式」の目標は、「これぞ日本」というものを生み出し、世界の人々が日本人の感性と技術力に共感する状況をつくり出すことです。日本のトイレの消音装置に感心する外国人は多いようですが、これも日本人独特の感性が生み出す「これぞ日本」の価値といえるでしょう。

「日本らしさ」には多くの要素が含まれますが、その中核には日本人の自然観があると考えられます。温暖な気候と四季を持つ日本は、国土の8割以上が緑に包まれています。日本人は自然に対する畏怖を持ちつつも自然と共存し、自然に応じて着替え、しつらえ、住み分けを行うといった柔軟なスタンスをとっています。こうした自然観は「ふるまいのこころ」、「たくみのこころ」、「もてなしのこころ」に大別できます。日本人には外部の要素をうまく自分のなかに取り込むしなやかなしたたかさと柔軟性があります。同時に、武士道にもつながる凛とした態度や、すべてをそぎ落としてものごとに意味を持たせる精神、細部へのつくりこみなど、独特の感性も持ち合わせています。

「日本人らしさ」の歴史は白鳳・天平時代にまで遡りますが、最も日本らしい時代は鎖国を行っていた江戸時代といえるでしょう。中国や朝鮮から伝来した文化が取り込まれ昇華された時代です。とはいうものの、「新日本様式」は特定の時代を対象とするものではありません。むしろ公家文化、武家文化、町人文化など、各時代の良いところを取り入れます。日本的な特別性と日本的な普遍性を組み合せるのです。

「新日本様式」の取り組みには、文化と産業の距離が大きくなりすぎたことに対する反省の意味も含まれています。江戸時代近辺までは、「文化=産業」が成り立っていました。たとえば、茶の湯の文化は陶芸や建築様式に影響をもたらし、産業にカネが回る仕組みをつくり出しました。歌舞伎文化は、歌舞伎役者、絵画、出版、瓦版、浮世絵などの産業を生み出しました。しかしその後、殖産興業や富国強兵の政策により文化と産業が断ち切られ、産業が肥大化しました。さらに、第二次世界大戦後、米国化された現代的な生活が日本に持ち込まれ、それに対する日本人の憧れが強まりました。こうして日本は普遍性の面で勝負できるようになったのです。

今や、三種の神器など、世界で最も優れているといわれる日本製品は多く見られます。これらは一見して「日本らしさ」をかもし出さない製品です。これに対し、明らかに「日本らしさ」が伝わる、日本の文化を体現した製品は、今後その市場が縮小する可能性があります。「新日本様式」協議会は、「新日本様式」という範疇でこういった2種類の製品を結びつける試みを進めています。双方の製品を互いに近づけることで新たな競争力の源泉をつくり出そうとしているのです。日本には先端技術の国というイメージがあるようですが、「新日本様式」の展開においては、日本を「伝統文化に立脚する先端技術の国」として再提案し、イメージのギャップを埋めていくことが必要です。

現代の日本の若者は、伝統ある日本文化に関する知識が欠如しているため、外国製品を見るのと同じ観点から伝統ある日本製品を観賞し肯定的な感想を述べることがあります。「新日本様式」協議会は若者のこうした傾向も認識しています。

韓国メディアでは「新日本様式」が「仮想敵国・韓国」をつくり上げるための国の施策として取り上げられることがあります。しかしそれは「新日本様式」協議会が意図するところではありません。日本には日本のModernがあるように、韓国、中国にもそれぞれのModernがあり、アジア全体としてもModernがある。そのような構図をつくりたいと考えているのです。

「新日本様式」協議会の活動

「新日本様式」協議会には3カ年の行動計画が命題として示されています。そこで以下の6つのキャンペーンを打ち出しました。

(1)「ネットワークづくりキャンペーン」
推進団体として協議会を設立しホームページを作成しました。人材発掘とデータベース整備、交流の場の提供なども推進します。京都や金沢の地方自治体などと密に連携し協力を進めます。

(2)「具体的な商品、コンテンツづくりキャンペーン」
「新日本様式」の製品づくりが急務です。「新日本様式」の商品コンテンツの面で中小企業を支援します。先端技術を活用した映像作品やコンテンツの制作を行う中小企業に対する助成も行う予定です。

(3)「ブランド評価キャンペーン」
ブランド管理のための評価システムをつくります。「新日本様式」の100製品を選出し営業を行うとともに、ロゴマーク(Jマーク)を設定し、知的財産権保護の徹底を目指します。

(4)「日本を感じる(フィール・ジャパン)キャンペーン」
フェスティバルの開催やバーチャルアーカイブの構築を行います。広報活動やメディア展開も強化します。日本のデザインや表現様式に関するイメージ調査などを海外の知日家を対象に実施する予定です。調査結果は学校教育や研究にも応用したいと考えています。

(5)「ブランド・リーダー育成キャンペーン」
伝統と最先端をつなげる「ニューリーダー」を20人選出します。学生によるコンペティションの開催や、大学・大学院での講座開設の推進も目指します。「クラフト・マイスター1000」の選出にはまだ課題が残ります。

(6)「海外プロモーションキャンペーン」
在外公館や日本貿易振興機構(JETRO)、国際観光振興機構(JNTO)による海外イベントでの商品やコンテンツなどの活用を進めます。

3カ年計画の1年目に当たる2005年には、ネットワークづくりの一環として協議会を立ち上げ、Jマーク選定の手順を定めました。1年目に情報発信を行い、2年目に各国からの理解を推進し、3年目に大きな社会的ムーブメントとする。こうした段階を経て日本のブランドイメージを高めます。

「新日本様式」協議会では、総会の下に理事会、その下に運営部会を置き、前述の6つのキャンペーンにほぼ適合する5つの委員会を設けています。理事会の下には「100選」などの各種選定事業を行う評議会があります。この評議会は公平性や透明性の観点から外部の学識経験者で構成されています。評議会を支援する評価支援委員会はハード面、ソフト面の評価軸を提示し、選出方法を決定します。ものづくり委員会は企業の技術や知恵を整理した目録やガイドラインを作成し、情報発信フォーラムを開催します。実際のものづくりの試みとして、伝統的な製品を新しい技術と融合させる取り組みも目指しています。調査・研究委員会は知日家を対象としたヒアリング調査を行ったり、京都や金沢と連携しながら「新日本様式」を模索する活動を行ったりします。セミナーや教育機関でのテーマ実習なども行います。プロモーション委員会は国内外の百貨店などで展示を行い、プロモーション効果の向上を図ります。広報委員会はニュースリリースや取材対応を行います。ホームページ更新やパンフレット作成も広報委員会が担当します。評議会は4月にJマークを決定し、6月には評価軸を定めます。その後、「100選」を選定し、10月の東京デザイナーズウィークに合わせ「100選」を発表する予定です。これらの動きは随時ニュースリリースで発表し、雑誌とタイアップしながらアピールしていきます。来年1月から3月にかけて海外イベントの展開も考えています。

「新日本様式」協議会はしばしばJAPANブランド育成支援事業と混同されます。JAPANブランド育成支援事業は、平成16年度から平成17年度にかけて中小企業庁が行った施策で、商工会議所がマーケットリサーチや専門家招聘などを行い、地域起こしに重点的に取り組みました。「新日本様式」協議会の取り組みは、経済産業省商務情報政策局サービス政策課が担当する施策で、伝統的な技術と新しい製品の出会いの場を提供し、双方のwin-winな関係の構築を支援するものです。

JマークはG(グッドデザイン)マークや伝統マークとどう違うのでしょうか。Gマーク制度は日本のデザイン力向上を目指す認定制度で、50年の歴史を持ちます。ビジネスモデルも確立しており、対象領域も毎年拡大されています。ハイセンスでモダンなデザインの代名詞となっています。Gマークは公募方式で1次・2次審査がありますが、「新日本様式」協議会では伝統的な視点での公募・審査は行いません。信頼できる伝統的工芸品であることを証明する伝統マークは法律で規定されています。伝統的手法をそのまま用いている場合にのみ認定を受けます。Jマークは厳密な定義を超えてModernの領域に歩み寄ってほしいという趣旨を持つため、伝統マークとは明確な棲み分けができます。伝統産業の従事者に対してはその枠を破る取り組みを、ハイテク企業に対しては日本のDNA(和のこころ)に回帰したデザインや設計をそれぞれ奨励するためのマークです。Jマークは品位や品格を備えた競争力ある商品・サービスに与えられます。

「100選」の対象となるのは日本企業が国内で生産した商品・サービスです。技術や素材などについては必須条件を設けません。「新日本様式」の評価軸にはさまざまな観点が含まれますが、最終的には評議会委員の感性に委ねられます。そこでは生活者の視点に重点が置かれることになるでしょう。「新日本様式」のさまざまな要素を示すレーダーチャートを作成し、各候補を詳細に比較した上で絞込むという案もあります。

コメンテータ:
経済産業省はこの「新日本様式」の取り組みは大きな運動に発展する可能性があると考えています。今のところ非常に順調に進んでいます。経済産業省では国内外に対する広報活動を重視しています。

質疑応答

Q:

「新日本様式」として開発された商品はまだないとのお話でしたが、松下電器の薄型テレビなど好評を博している製品は多くあるのではないでしょうか。「ジャパニーズクール」として形容されるアニメやゲームなどのコンテンツについてはどうお考えですか。国民がブログで「新日本様式」の情報を交換するといった展開についてはどうお考えですか。

A:

「100選」は森羅万象からの選出を目指していますが、最初はハード寄りの製品が多くなると思います。実際に手に触れて見ることができるからです。「購入したい人が誰でも購入できる製品」という条件を設けようと考えています。建築物をどう考えるかなどの課題を整理しながらさまざまな範疇のものを選出していく予定です。
経済産業省の報告書ではアニメや漫画、ゲームは「新日本様式」とは異なる範疇として捉えるとされています。アニメは「新日本様式」の対象となり得ますが、今後判断基準を整理し、指標を作成したいと考えています。無国籍アニメや無国籍ゲームは「新日本様式」の範疇とはなりません。
ブログで製品が取り上げられることはもちろん歓迎します。現在も、「新日本様式」を取り上げている個人のホームページやブログはありますが、まだ大きなうねりにはなっていません。

Q:

まずは「新日本様式」のコンセプトをつくることが重要だと思います。評価軸の作成については若干懸念を覚えます。レーダーチャート上で抽象的な概念で切り分けて、果たして「新日本様式」が浮き彫りとなるのでしょうか。総漆仕上げされたキッチンが一例として紹介されていましたが、これが本当に「新日本様式」なのか疑問です。
「新日本様式」協議会は、伝統工芸品や伝統的手法と自然科学的な先端技術との融合を目指しているのですか。それとも、伝統物品や伝統産業にあるようなDNAを明らかにすることを目指しているのですか。とりあえず売れるものをつくるのであれば前者の取り組みとなるでしょうが、究極的には後者を目指すべきだと思います。こうした戦略についてはどうお考えですか。
また、「新日本様式」をどう研究していくのか、大学などでどう発展させていくかという観点は非常に重要だと思います。日本の大学にはIT産業を専門にする学者は多くいますが、それと同様のレベルで「新日本様式」の学者または匠を生み出さない限り、大きな影響力は得られないと思います。棲み分け論に基づいた一過性の取り組みで終わらせないためにどうすればよいのか、戦略が重要になると思います。

A:

「新日本様式」は「日本らしさ」を源泉とした日本製品に付加価値をつけることで国際競争力を高めるという発想を基本としています。「新日本様式」とはナショナルブランドとしての価値の源泉を歴史に見出す運動でもあります。
「新日本様式」協議会は伝統工芸を販売するビジネスモデルの構築と定着を目指しています。協議会には商社や地域ブランド興しの経験がある代理店も参加しており、従来とは異なるビジネスモデルをつくることを命題としています。
表層的に「新日本様式」の要素を取り込むことで日本企業が競争力を高められるとは思いません。パナソニックやトヨタは既に世界的なブランドであり、いまさら「ジャパンクール」の要素を付け加える必要はありません。「強みを持つブランドをよく見てみると、実は『新日本様式』が取り入れられていた」というのが望ましいあり方だと思います。日本人が1000万円の自動車を購入する場合、国産車ではなくドイツ製やイタリア製の自動車を購入することが多いのではないでしょうか。日本らしさが欧州で評価されれば日本人も改めて日本製品に目を向けることになる。そういう考え方に基づいた戦略は可能だと思います。市場が成熟している製品、現在普及しつつある製品、今後市場に出てくる製品、これ以上技術革新は盛り込めない製品などさまざまな製品がありますが、競争力を発揮できる分野はそれぞれ異なります。最先端製品については、たとえばPDPの配線を隠す工夫など日本の小さな知恵を取り入れることでさらに磨きをかけることができます。
日本研究は国内外で盛んに行われています。「新日本様式」協議会としては2年間で何らかの気づきを得ることが活動の限度だと考えています。本キャンペーンを3年間かけて実施した後、その成果を研究につなげることは可能だと思います。「新日本様式」のマークが付いた製品が3年間でどれだけ売れるかも試金石になると思います。製品が普及した後で新たな日本のスタイルを突き詰めていけるでしょう。

Q:

取り組み期間が3年というのに疑問を覚えます。競争力の源泉や差別化の模索は、文化運動として継続すべきです。3年間という期間を設定することは逆に、3年で終わると捉えられてしまうのではないか懸念しています。「100選」を選出することは良いことだと思いますが、それらに内在する、世界に通用する日本的要素を解き明かすことの方が重要なのではないでしょうか。レーダーチャートは該当する要素が多いほど優れた製品だという印象を与えるので適切ではないと思います。「100選」を選出すると同時に、各製品の強みを研究することが重要だと思います。対象はモノに限定しない方が良いと考えます。

A:

3年という期限は「新日本様式」協議会の活動期間を受けたものです。ただし、これは3年後に活動が中止になるということではありません。その後の飛躍を考える意図はあります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。