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BBL議事録 (2006年4月6日)

新経済成長戦略

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スピーカー 齋藤 圭介 (経済産業省経済産業政策局産業再生課長)
森川 正之 (RIETI前コンサルティングフェロー/経済産業省経済産業政策局産業構造課長)
コメンテータ 鶴 光太郎 (RIETI上席研究員)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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プレゼンテーション資料(齋藤氏)[PDF:1.0MB]
プレゼンテーション資料(森川氏)[PDF:192KB]
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「新経済成長戦略」が目指すもの

齋藤圭介氏:
日本の人口は今後10年の間、微減が続き、10年目以降は急減すると予測されています。現在の出生率では労働人口の増加も見込めません。新経済成長戦略では人口減少を1つの前提として2015年を目標年に定めました。

1960年代以来日本は「世界第2位の経済大国」といわれてきました。しかし将来的には規模の面で中国に抜かれるでしょう。インドの台頭も考えなければなりません。つまりいつの日か日本が第2位の地位から退く時代がくるということです。そうした時代が到来する前に人口減少社会で強い経済を確立するというのが新経済成長戦略の背景にある考えです。日本の20〜34歳人口は2020年までに約30%減少すると見通されています。そうした状況下で、新経済成長戦略は人材の有効活用を大きく目指しています。

具体的には新経済成長戦略ではイノベーションと需要の好循環を目指しています。キーワードは「アジア」と「地域」です。投資先であり、大きな消費の見込まれるアジアとどのように付き合うか、新経済成長戦略ではこの点を整理しました。「地域におけるイノベーションと需要の好循環」の検討も進めています。

サービス業については、「双発エンジン」という言葉を盛り込みました。たとえば輸出という観点から国内総生産(GDP)の7割を占めるサービス業を今後どのように伸ばし、その生産性を高めていくか検討しています。

新経済成長戦略には国際産業戦略と地域活性化戦略という2つの切り口があります。

国際産業戦略と地域活性化戦略

国際産業戦略では2つの柱を打ち立てました。1つはグローバル戦略、すなわち21世紀のアジアとの付き合い方です。キーワードは「アジアの発展に貢献し、共に成長する」です。ヒト・モノ・カネの流通のフラット化を目指しています。ここで、日本に魅力がなければアジアからの流入は期待できません。もう1つの柱として「世界のイノベーションセンターとして世界をリードする新産業群を育成」することも目指しています。また、ITの重要性も強調しています。

地域活性化戦略に関しては、複数市町村圏単位で特色ある地域産業をどう振興するかを検討しています。新たな政策目標としての就業達成度の設定も進めます。地方活性化総合プランの実行も目指します。この点で、中小企業を中心に地域資源を活用したブランドや人材育成を包括的に支援する仕組みを検討しています。法人事業税への依存が大きくなると偏在性や景気変動性に影響を受けやすくなります。新経済成長戦略では、より安定的でフラットな地域の資金需要を視野に地方財政を取り上げました。サービス産業の革新についても整理し、医療・福祉、育児サービス、ビジネス支援といった個別のサービス産業についての検討も行いました。

この2つの戦略を実施するにあたっての横断的政策課題として、ヒト(人材力)・モノ(生産手段・インフラ)・カネ(金融)・ワザ(技術)・チエ(経営力)を整理しました。ヒトに関しては、たとえば工業高校から専門大学院に進学できるルートを複線化する案や教育の世界で産学連携を進める案などが挙がっています。アジアから優秀な人材を誘致するための留学・研究資金の拠出なども検討材料となっています。モノに関しては、生産設備の回転率向上を目指し、減価償却制度の抜本的見直しを図ることとしています。カネに関しては、大規模な家計金融資産を重要資源と位置付け、これをどう回していくかを考えています。こうした資産をアジア各国に進出している日系企業の支援に回せないのか、アジア諸国が日本で資金を調達しやすくなるような仕組みはないのかといった点も勉強中です。ワザはイノベーションの中心的部分です。個別分野の縦割り政策等を融合する仕組みや総合科学技術会議との連携の可能性なども考えています。知財戦略や標準化政策(基準認証)を時系列的に追う政策体系も検討しています。チエに関しては、ヒト・モノ・カネ・ワザを上手く組み合わせるための経営力という観点を打ち出しています。

試算(モデル)の考え方

森川正之氏:
新経済成長戦略と日本経済の展望について私見も交えながら紹介したいと思います。 まず試算(モデル)の考え方についてです。試算は長期展望であり、基本的に供給側から実質成長率が決定される構造となっており、分野別に政策効果を示しています。物価は金融政策、輸入原材料・原油価格、為替レートといった不確実要素が多いので外生となっています。長期金利と名目成長率の関係に関しては、両者が等しい場合を標準ケースとしています。ただし、金利の方が1%高い(低い)場合にどのような違いがでるかセンシティビティ分析を行いました。政府債務残高のGDP比が高くなると長期金利が引き上げられる効果がある点をモデルには織り込んでいます。

プライマリーバランス黒字化を達成する方法は2つあります。1つは歳入増と歳出減の組み合わせです。もう1つは、歳入増は行わず、すべて歳出減で対応する方法です。公共投資や研究開発投資、高等教育を中心に歳出削減を行えば当然、成長率にマイナスの影響が出るでしょう。他方、所得分配的政策を中心に削減すればマイナスの影響はあまりないと考えています。しかしモデルではこの点には立ち入っていません。

新経済成長戦略が実現した際の試算

新経済成長戦略が実現した場合の経済成長の姿を暫定試算すると(資料3P)、実質GDPで2.2%程度、実質国民総所得(GNI)で2.4%程度の成長が見込まれます(2015年度までの年率)。GNIには海外での投資活動での収益、為替レートの変動に伴う交易利得も含まれます。海外純資産が今後ますます大きくなると見込まれる中で、投資収益のリターンが経済全体の成長の伸びを上回ると想定しています。1人当たり実質GNIは2.5%程度になると見込んでおり、これは所得の大幅増を意味します。

次に物価・金利の違いによる影響(インパクト分析)を示しました(資料4P)。ここで、物価上昇率が標準ケースより高くなったとします。その場合でも実質GDP成長率は標準ケースの実質GDP成長率と同じ数値になると分析しています。金利が標準ケースより1%高い(低い)場合は僅かな違いがでてきます。新経済成長戦略の施策が講じられない場合の実質GDP成長率は0.8%と見込まれ、政策努力が重要となります。

また、1人当たり実質GNI2.5%の伸びが実現すると今後10年間で1人当たり実質GNIが130万円程度増加することになります。これは「所得倍増計画」期間の10年間の実質額の増加分よりも大きな数字です。他方、1994〜2004年の労働生産性(人ベース)の伸び率は1.3〜1.4%でした。2.2%の実質GDP成長が今後10年続くとして、労働生産性はマクロで2.3%伸びる必要があります。

主要政策分野毎の成長寄与

この試算は施策分野(サービス、IT、技術、人材、国際産業戦略、安定的な金融・財政政策)別に積み上げで行いました(資料6P)。各施策の効果には重複部分があるので各分野の数字を単純に足し上げることはできません。たとえばITはサービスセクターの効率化の大きな手段になります。従って、サービスの効率化とITの効果には半分くらいの重なりがあります。そのような重複を排除した上で積み上げ、マクロモデルに織り込み計算しました。

この中で、サービスに対しては問題意識を持っています(資料7P)。1960年代に「所得倍増計画」が掲げられた当時、通商産業省(現経済産業省)は所得弾力性基準と生産性上昇率基準の2つを満たす産業を振興すべきとの考えを示し、重化学工業がそのような産業として特定されました。現在この2つの基準を満たすセクターはありません。これが問題です。そこで、非製造業・サービス業の生産性を引き上げられるか否かがマクロを大きく左右するという考え方に基づきサービス産業に着目しました。試算ではCRD(Credit Risk Database)を使いサービスセクターに効率化の余地がどの程度あるかを計算し、それを全要素生産性(TFP)への効果として積み上げました。

IT、研究開発、人材等の効果

IT政策により企業のIT利用形態がステージアップし、TFPの上昇率が変化するという分析を企業レベルで行い、分析結果に基づき積み上げを行いました。その結果、1990年代後半の米国で起きたIT革命によるTFPの加速に近い効果が計算結果に現れました。

研究開発については、とりわけ知的財産制度の強化、研究開発税制や産学連携の拡充を目指しています。推計によると、こうした施策には民間部門の研究開発集約度を高める効果があります。

人材については、人材投資促進税制や教育訓練による人的資本の質向上を前提に、学歴賃金プレミアムの推計値や訓練投資と賃金生産性の関係についての諸研究を参考にしながら、TFPへの寄与の積み上げを行いました。

労働投入については、高齢者、女性、若年者の各層の労働力率の上昇を積み上げました。

国際産業戦略については、広域アジア経済連携協定(EPA)、世界貿易機関(WTO)ドーハラウンドの効果を応用一般均衡モデル(CGEモデル)を用いた試算に基づき積み上げ、対日直接投資倍増の効果も加味しました。

マクロ経済の安定と経済成長

マクロ経済の安定化が経済成長については、0.2%程度のプラスの寄与をすると想定しています(資料9P)。日本経済が正常化すればある程度ボラティリティは下がると見込んでいます。経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象としたボラティリティと経済成長の関係についての分析では、ボラティリティが1%下がれば成長率が0.4%上がるという係数が示されています。そういった分析も参考に、金融政策、あるいは財政再建・健全化に対するメッセージを考慮しながらマクロ経済の安定化効果も盛り込みました。

2016年以降の姿

今後の財政の健全化を考える上では2016年度以降の姿が重要となります。2015年度まで歳出・歳入両面で対応すると、その後、債務残高は減少することになります。歳出削減のみで対応する場合、2016年以降歳出が増加する効果が大きくなります。追加的税収増は見込めないため、債務残高が収斂する姿にはなりません。つまり、2011年という断面だけで財政健全化を議論するのは問題があるということです。

世代間の公平性という観点からも政府債務残高をどの程度縮小するのかは大いに議論の余地があります。経済成長率が0.5%程度違うだけで世代間の公平性の絵は大きく異なります。給付負担倍率を世代別に見た場合、ベースケースでは将来世代ほど受益と負担の倍率は下がります。成長率が0.5%高く(低く)なると生涯所得に大きな違いが生まれます。新経済成長戦略でいう成長率はわずかな違いに見えるかもしれませんが、世代間の公平性という観点から見るとこれは大きな違いになります。

コメント

コメンテータ:
現在の日本が抱える問題はヒト(人材)にあると考えています。企業組織・経営力も過去15年で疲弊したようです。企業の意思決定の仕方や組織形態、雇用システムの問題を立て直すことが重要な課題となります。また、ITと組織の関係は重要なテーマです。

経済財政諮問会議は成長力強化と財政健全化を両輪として捉えています。私もこれら2つは補完的関係にあるべきだと考えています。新経済成長戦略では金利と成長率の関係は長期的に等しいとするとありましたが、経済財政諮問会議では金利の方が高くなると見ています。しかし新経済成長戦略の試算はこれで良いと思います。というのも、財政再建を論じる際には通常経済のあり得るべき姿を見るよりも一段慎重に前提を立てるのが主流になっているからです。

財政政策が成功すれば経済の生産性も高まります。構造改革を並行して行い、潜在成長率が強化されている国は財政改革に成功しています。スウェーデンがその典型例です。日本でも、たとえば消費税は段階的に引き上げ、同時に生産性も毎年向上させていく。そうした中でデフレ効果を吸収するような官民パートナーシップを構築すると、歳出・歳入改革と新経済成長戦略の双方がうまくかみ合い日本経済の回復に寄与するのではないかと考えています。

質疑応答

Q:

森川氏の発表では供給側から実質成長率が決定される構造となっているとありました。これはケインズ否定で、需要はマクロ経済の運用に大きく影響しないという考えに基づいているようです。どのような背景がありそうした考えを日本経済に適用されたのですか。いわばレーガン/サッチャーのサプライ・サイド・エコノミーを日本で実現するという含みがあるのですか。

A:

必ずしも政策的に供給サイドに力点を置いたわけではありません。モデルがそういう構造になっているという意味です。長期のモデルを考える場合には資本・労働・TFPからアプローチし、需要は後からついてくる構造のモデルにした方が適当だと考えました。

Q:

労働がマイナス0.3%というのは若干悲観的に感じます。

A:

稼働率の調整は行いましたが、労働・資本の質の変化はすべてTFPに含まれています。労働の寄与がマイナス0.3%というのは純粋なマンアワーです。労働力の質の変化は施策効果としてはTFPを押し上げプラスに働きます。しかし労働力ストックの教育水準の伸びは鈍化傾向にあります。経済成長への寄与度の変化は自然体だとマイナスになると思います。その部分を政策で若干押し上げるということです。

Q:

サービスセクターに関しては役所間の争いなどがあるため規制改革が行われない限り新経済成長戦略の実現は難しいと思います。

A:

ご指摘の通り難しい問題です。政府一体となって新経済成長戦略を推進できるよう5月にかけて各省と意見交換・調整を行います。

Q:

今後5年以内に新型鳥インフルエンザが大流行するというのは学者の間では常識になっています。世界銀行などはGDPが2%以上減少するという試算を出しています。日本はこういった面での対策が遅れているように思います。新経済成長に対する落とし穴を除去するリスクシナリオを盛り込む必要があると思います。

A:

日本経済を長期的視点で捉えて何がリスクになるかは調査しました。調査の際には大地震と鳥インフルエンザは必ず設問に含めるようにしています。日本経済のリスク要因としては、米国経済の腰折れや中国経済が挙げられますが、こういった予測可能な要因は実はあまり大きなリスクにはなりません。むしろ経済外的ショックの方がはるかに大きなインパクトがあります。ただそうしたリスク要因が定量的に成長にどう寄与するかを特定するのは難しいです。
財政には地震・災害等のリスクを想定して対応できる余力を持たせておく必要があると考えます。

Q:

日本経済の中心は製造業で、輸出が大きな部分を占めるというのが一般的な見方です。サービスが新経済成長戦略に新しく盛り込まれましたが内需主導のモデルに転換するイメージですか。金融にGNIを入れる考え方に関しては、外国への投資によるリターンに注目するということですか。そのバランスは今後どう変わると考えていますか。

A:

私は必ずしも日本経済が製造業・輸出主導ではないと考えています。確かにここ数年の景気を短期的に見るならば、日本経済は米国経済や中国経済の動向から非常に大きな影響を受けました。しかし経済学者の間でも日本経済が外需主導というのは通説とはなっていません。サービスに関しては、内需主導への転換というイメージではありません。日本経済全体を豊かにするには、マクロの生産性がどれだけ向上するかが重要となります。この点で、高齢化や所得水準上昇により今後需要が伸びる医療・福祉・介護等のサービスの生産性をどれだけ引き上げられるかが重要になります。生産性引き上げのための具体的措置としては規制緩和やIT利用などが考えられます。介護でいえばロボットなどの導入を真剣に考慮しなくてはならないと思います。
GNIはGDPより0.2%程度高い成長率になっています。海外資産へのリターンは4〜5%で回るイメージになっています。バランスに関しては経常収支のGDP比は足元で3%と4%の間くらいだと思います。所得収支が1.5%から2%の間くらいで、約半分が投資リターンの受け取り分です。この比率が続き、なおかついまより若干大きくなる姿をイメージしています。輸出と所得収支が等しく増加するというイメージです。

Q:

財政を健全化しようとすると国内の貯蓄超過が増え、海外経常余剰も増えます。経常収支ベースでいくと対GDP比で3〜4%となります。財政が健全化されれば国内消費が増加するということですか。

A:

そうではありません。海外部門の黒字が増えると想定しています。3〜4%の経常収支黒字がさらに大きくなってもおかしくないというイメージです。財政再建を行った場合、民間の設備投資や消費がどの程度伸びるかという非ケインズ効果の議論がありますが、これについては諸説あり、確たる数字を織り込むことができません。従って、海外余剰分が若干膨れている可能性はあります。新経済成長戦略で想定しているような歳出削減が実施された場合、跳ね返りで国内需要が高まる部分はあるかもしれません。

Q:

為替レートはどのような前提になっていますか。

A:

為替はこのモデルには含めていません。製造業の競争力強化を前提にしているので実質実効レートで横ばいと考えています。経常収支の黒字と為替レートはリンクする必要はないと考えています。むしろここ数年、実質でかなり円安が進んでおり、これは今後も続くという見方もあります。GNIには交易利得の部分があるので、為替の前提が変化すると実際のGNIも変化します。

Q:

資本の蓄積の寄与が1.1%というのはかなり楽観的な感じがします。私はTFPをもう少し高く見積もっても良いと考えています。経常収支の黒字が増加するという仮定と試算は整合的ですか。

A:

資本係数は一定ではありません。実質で見たときに右肩上がりになる資本係数ですが、名目で見ると動きは若干異なり、資本収益率はほとんど落ちません。設備投資がGDPに占める割合は十数パーセントです。これくらいの設備投資の伸びでも、強力な財政健全化を行うと経常海外余剰はかなりの黒字になります。

Q:

新経済成長戦略は戦略としてはあいまいだと思います。政府の具体的な役割や施策が示されていません。新産業創造戦略に関して新産業はどういう基準で選ばれたのですか。

A:

政府と民間の役割の明確化は今後行います。予算、税要求、規制緩和など政府がどういう形で助成や環境整備を行えるか、分解作業を現在進めています。
新産業創造戦略では供給サイド4分野と需要サイド3分野の7分野を定めました。需要サイドには医療・福祉・環境が、供給サイドには燃料電池やロボットなどが含まれます。新産業は「波及効果が大きい」「産業を支えている中小・中堅企業の技術分野が広い」等3〜4つの評価項目に基づき選択されました。

Q:

新経済成長戦略に「地域」という新しい視点が盛り込まれた印象を受けました。歳出・歳入改革でも国と地方の関係見直しは最大のポイントだと思います。地域活性化戦略のキーポイントを教えてください。

A:

アジアと地域にスポットライトを当てたこと自体が新しい点です。地方財政の考え方を取り入れたのもポイントだと思います。農・工業の連携、観光業の活性化、アジアとの関連ではクラスターの強化等、従来の政策と財政を1つに括り出しました。この点は5月の取りまとめに向け整理を行う予定です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。

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