機関投資家からみた日本のコーポレート・ガバナンス

開催日 2005年9月5日
スピーカー 矢野 朝水 (厚生年金基金連合会専務理事)
モデレータ 鶴 光太郎 (RIETI上席研究員)
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議事録

はじめに

本日は年金の立場から日本のコーポレート・ガバナンスについて感じていること、あるいは、私が属している厚生年金基金連合会の活動について、お話し申し上げたいと思います。

私が所属しております厚生年金基金連合会は、厚生年金基金の上部団体であり、個別の厚生年金基金を短期間(原則として10年以内)にやめられた方について連合会へ年金原資を移管し、連合会から受給権が発生した場合に年金をお支払いするという仕事を行っております。現在、延べで約2800万人の方の年金原資をお預かりし、240万人の方に年金をお支払いしており、年金の支払い額は年間2500億円程度です。このような年金支払いのために年金の積立金を運用しております。年金資産は現在約10兆3000億円で、基本ポートフォリオを定めて運用をしています。日本株式には資産の33%を割り当てており、金額では現在約3兆3000億円になっています。運用方法は委託運用が中心ですが、国内債券と国内株式の一部については、みずからファンドマネージャーを採用し運用しており、金額ベースでは国内債券が1.8兆円、日本株式が8500億円となっています。

日本の年金制度は、公的年金が1階と2階からなり、3階部分として企業年金があります。企業年金も、確定給付型、確定拠出型と、いろいろな制度があるのはご周知のとおりです。公的年金は、国民年金、厚生年金、共済年金とあり、積立金を合計すると約200兆円で、この一部は市場運用されています。企業年金には、いろいろな種類がありますが約80兆円の資金規模があり、トータルで見ると年金積立金としては280兆円ぐらいとなります。

株主構成の変化

日本の株式市場でそれぞれの投資主体がどのぐらいシェアを占めているかを見てみると、持ち合いが減少する一方で、外国人投資家、あるいは年金等の比率が高まっています。公的年金および企業年金は、日本市場の12%ぐらいを占めており、金額にすると40~50兆円の国内株投資を行っているということがいえます。そういう意味では株式市場がどうなるかが国民1人1人の老後に大きな影響を与えるということがお分かりになると思います。株式投資していない、あるいは株式投信を買っていないという方が圧倒的に多いのですが、7000万人の加入者の方が納めた年金の保険料は一部が株式で運用されており、国民1人1人が株式市場とは無縁ではないということがいえます。

企業年金の問題

なぜ私どもがコーポレート・ガバナンスに関心を持ち、いろんな活動をせざるを得なくなったのかということをご説明します。日本の株式は、89年がピークで大暴落し、長期低迷が続いています。90年以降国内株式はマイナスリターンが続いており、配当性向も海外企業に比べると低く、ROEも低い、不祥事はいつまでたってもなかなかなくならないという状況です。

バブル崩壊以降15年たちますが、日本企業はまだ本格的な回復には遠いのではないかという気がします。特に2000年度から3年連続で株価が年に約20%下がり、3年で6割下がりました。この影響を受け、企業年金は3年連続のマイナス運用に陥り、膨大な積み立て不足が発生しました。この積み立て不足を解消するためには掛け金の引き上げが必要ですが、企業には余力がないため、ここ3~4年ほど日本の企業年金は大変厳しい状況に追い込まれ、さまざまな制度改正が行われました。

そのような中で、給付を切り下げる、解散する、あるいは厚生年金基金については代行部分を国へ返すという代行返上が雪崩を打って起きました。かつて日本の企業年金は、厚生年金基金と税制適格年金の2本柱でしたが、基金数、あるいは加入員数が半減し、非常に厳しい状況に追い込まれました。解散した基金も、ここ5年ほどで約350基金に上ります。最近3年でみると、150万人ぐらいの方が企業年金を失いました。企業年金は、積立方式で運用しており、長い期間をかけて掛け金を納め、利子が利子を生んで年金が支給できます。給付費に占める運用収入の比率は7~8割で、掛け金は2~3割に過ぎません。このため、企業年金にとっては運用が最大の課題となっています。つまり、運用がおかしくなれば企業年金がおかしくなるわけです。そのため、なぜ運用がおかしくなったのか、なぜ日本の企業年金はこんなひどい目に陥ったのか、また、企業年金が生き残るためには何をしたらいいのかということを必死に考えざるを得なかったのです。このような運用悪化の背景には企業の業績低迷があり、突き詰めると、企業のコーポレート・ガバナンスの問題があるといわざるを得ないと思います。

厚生年金基金連合会のコーポレート・ガバナンス活動

日本の株式は、バブル以降十数年たっても回復しないため投資対象から除外すべきではないか、という考え方もあります。しかし、富を生み出すのは企業です。したがって企業に投資を行い、経済の発展を図り、年金はその果実の一部をいただくことによって実のある年金をお支払いする。このような関係が成立するのがもっとも望ましいと思います。したがって株式投資をやめることは適当ではなく、株式投資を続けた上で問題企業にはものを言う必要があるという判断をしました。また、年金の運営責任者には「受託者責任」が課せられていますから、株式投資する以上は、議決権行使等の活動をするのは当然ではないかと考えます。何よりも企業の永続的な繁栄が、企業年金存続の前提であり、企業年金が生き残るためには、企業にしっかりしてもらうということが大前提ではないかと考えたのです。

公的年金も同様です。大きな目で見ると年金は日本経済という親ガメの上に乗った子ガメですから、親ガメがおかしくなると子ガメもずっこけてしまうという関係にあります。そのためいくら立派な年金制度をつくったとしても、経済がおかしくなれば、たちまち年金がおかしくなるという関係にあります。

また、最近は年金の運用ではパッシブ運用が増えてきました。パッシブ運用は、マーケットにある株式をマーケットの組み入れ比率で全部買ってしまうという運用ですが、このような運用が増加すると、売却するという選択肢がなくなります。問題企業でも売却という選択肢がなくなるわけですから、株を持ったままものを言うということをやらざるを得なくなります。

以上のようなことから、連合会としては株式投資を続けた上で、ガバナンス活動としてまず議決権をしっかり行使しようという取り組みを始めました。

最初は、連合会の運用受託機関に対し議決権をしっかり行使してくださいという依頼をしました。各社にはそれなりに取り組んでいただきましたが、2003年度の実績を見ると運用受託機関の株主総会議案に対する反対比率は4%でした。当時、既に連合会では、みずから議決権行使を始めており、そのときの反対比率は40%でした。同じ連合会の資産でありながら議決権の行使結果が大幅に異なるというのはおかしなことです。このため、2004年度からは連合会の基準で行使していただくことにしました。その結果2004年度では運用受託機関の反対比率は25%と、連合会と同じ程度の比率になりました。もちろん反対が多ければ多いほどいいということではありません。なぜ反対が多いかというのは、議案自体が株主から見ておかしいというばかりでなく、議案の説明が不十分で、中身の是非を判断できないため、反対せざるを得ないということがあります。

次に、連合会みずからがファンドマネージャーを採用し、東証一部の全企業を対象としたパッシブ運用を2002年4月から始めました。そういう中で、連合会みずから議決権行使をするようになりました。連合会みずからの行使結果は、2003年度は40%に反対せざるを得ませんでしたが、2004年度、2005度は30%を若干切るような反対比率になっています。

連合会の議決権行使の基準を明確にし、統一的な行使を行うとともに、議決権行使の考え方を経営者にメッセージとして伝えたいということから、2003年2月に議決権の行使基準をつくりました。それが配布資料1の1ページです。

議決権行使基準は、「コーポレート・ガバナンス原則」と、「具体的な行使基準」の2部構成になっています。この中では、大きく2つのことを重視しています。1つは取締役会の監督機能の強化ということです。企業内部に株主利益の立場から企業経営をチェックする仕組みを築いてほしいということです。日本企業の問題は取締役会の機能が十分果たされてないと考えたからです。取締役会の機能は、企業の基本的な経営方針を決めることと、企業経営の監督の2つですが、日本企業の場合は監督機能が非常に弱いと考えました。監督機能の強化が重要であり、そのためには、経営の執行と監督の分離や独立した社外取締役の登用が必要だとしました。情報開示・説明責任も重要です。

もう1つは、経営責任を求める点です(配布資料1の4ページ)。3年連続赤字かつ無配といった業績の悪い企業については取締役の再任や退職慰労金に反対するというものです。 この行使基準については、形式的などの批判があるのは承知していますが、ただガバナンスの形だけみて適用しているのではありません。企業の業績といったものも十分加味しています。議案について不明な点は、個別に企業に照会をし、それも考慮して最終的な判断をしています。

「社外取締役の独立性に関する基準」(プレゼン資料5ページ)は、2004年3月に作成しました。日本の社外取締役についての会社法の基準は、社外についてだけの基準で、独立性の基準がありません。しかし、社外取締役は実質的な利害関係がない、つまり「独立性」が重要だと考え、基準をつくり、当面、委員会等設置会社について適用することにしたわけです。

私どもは、社外取締役は企業経営を監督するという観点から必要不可欠と考えていますが、日本では社外取締役は数が少なく、独立性に乏しく、監督するというよりもアドバイザーとしての役割が期待されています。それから社外取締役のサポート体制が弱い、社外取締役の独立性といった点での情報開示が乏しいということがいえると思います。経営者のご意見を伺っていると、社外取締役は日本ではまだまだ評判が悪く、人がいない、役立たないなどの議論が非常に多くありますが、私は人がいないのではなくて本気で探す気がないのではないかと思います。役立たないというのも、社外取締役の役割、機能についての誤解があるのではないでしょうか。トヨタ、キヤノンは業績がよく、社外取締役は1人もいません。トヨタ、キヤノン並みに業績を上げている会社の経営者がおっしゃるのであれば、非常に説得力はありますが、そうでないところの方もそうおっしゃっているので、説得力に欠けるのではないかと思っています。

「議決権行使に関するインフラ整備の要請」を2005年2月にしました。日本の株主総会というのは総会屋を撃退するために今のようなやり方が定着したのかなと思われます。総会屋を撃退するためには非常に工夫されていますが、投資家、株主がまともに議案をチェックし賛成か反対かを判断するには非常に制約が多く、困難を伴います。まず株主総会が集中して開催され、7割弱の会社が同じ日に総会を行っています。このような集中開催が議決権行使に大変な支障になっています。また議案の送付が2週間前というのが多く、実質私どもで審査する期間は、せいぜい2日か3日ぐらいしかありません。しかも議案の説明が非常に不十分です。そのため、このような問題について投資顧問業協会と一緒になり経団連や東証などいろいろなところにお願いに上がりました。このような問題については改善の兆しは見られますが、まだまだ大勢には変わりなく大きな課題を抱えているといわざるを得ないと思います。

企業買収防衛策への対応

ニッポン放送をめぐる事件以来、買収防衛をめぐる議論が盛んになり、防衛策の導入を図る企業も増えています。しかし、ねらわれる企業というのは、問題を抱えているからねらわれるわけです。そのため、最大の防衛策はガバナンスの充実、株主価値重視の経営の実践、あるいは情報開示・説明責任を果たすことだと思います。また敵対的買収といえども株主に対しては敵対的とは限りません。買収者と現経営者どちらが長期的に見て株主価値にプラスになるのか、中立的・客観的に判断する仕組みが必要だと思います。

最終的に買収の是非を判断するのは株主ですから、買収防衛策については投資家としても考えなければいけない問題だと思います。このため、投資家としてのメッセージを経営者に送る必要があると考え、連合会では今年の4月に買収防衛策についての議決権行使の判断基準をつくり、公表しました(配布資料1の13ページ参照)。

配布資料1の14ページは、今年の6月総会で連合会がどのような議決権行使をしたかの資料です。買収防衛策については、18ページに【別表2】「企業買収防衛策への対応状況」がございます。総会で提案された議案は、株式発行授権枠の拡大とか、株主としての権利確定日の柔軟化といったものが多く、連合会としてはほとんど反対せざるを得ませんでした。防衛策について必要性の説明がなく、どのような場合に、どのような条件で発動するのかといった説明がなかったためです。連合会で賛成をしたのは4社だけでした。防衛策については東証から4月に指導通知が出されました。また経済産業省と法務省から指針が出されましたが、指針とか指導通知があまり生かされていません。裁判になったら負けるような、使いものにならない防衛策の導入を図ろうとした企業も多く、非常に残念だといわざるを得ません。

コーポレート・ガバナンスファンド

コーポレート・ガバナンスファンドを、2004年の3月につくりました。ガバナンスファンドには2種類あり、ガバナンスがいい会社を集めて投資するファンドと、ガバナンスが悪い会社を集めて投資するファンドがあります。私どもが昨年つくったのは、前者です。ガバナンスがいい会社は、中長期的には企業業績がよく株価もいいというデータがあり、中長期的に見たらいいリターンを得られるだろうと考えたためです。もう1つの理由は、残念ながら日本では、コーポレート・ガバナンスがいいというのは具体的に何かという基準がありません。本来、これは東証あたりでつくられるのが一番よいのですが、具体的な基準が存在しないため、私どもで基準をつくりました。そして、それを経営者の方々にメッセージとして送り、また、企業名を公表して具体的なケーススタディを提供することで、日本企業全体のガバナンスの向上にプラスになるのではないかと考えたからです。

このガバナンスの基準というのが配布資料1の20ページです。「株主価値重視の経営」、「情報開示・説明責任」、「取締役会」、「役員報酬システム」、最後は「コンプライアンスとリスク管理」の5項目からなり、全体で100点です。それぞれの項目は20点ですが、「取締役会」は25点、「役員報酬システム」が15点です。まずアンケート調査を行い、ある程度企業を絞り込み、次に訪問調査行って最終的に対象企業を選別しました。当初43社を昨年選び、今年10社を追加し、53社、ファンド総額は150億円です。ガバナンスについての基準や、実際に選ばれた会社がどのような工夫をしているかというケーススタディを示すのが大きな目的ですから、報告書を作成し、一部上場企業に配りしました。この調査には東証一部上場企業の50%以上、株価の時価総額で見ると85%以上の企業から回答を得ました。このファンドは長期的なリターンをねらっていますが、今のところ短期的も非常に成績がよく、TOPIXを上回っている状況です。

日本企業のコーポレート・ガバナンスの課題

日本企業のコーポレート・ガバナンスの問題ということで、3つほど私が考えていることを申し上げたいと思います。1つは、経営者の方々に積極的に取り組んでいただきたいということです。

2つ目は、ガバナンスの具体的な基準を作る必要があるということです。企業の所有と経営が分離することで企業の所有者たる株主と経営者との間に利益相反行為が発生するようになりました。経営の不振、経営者の高額報酬、不祥事などの問題が起き、それに対して80年代以降アメリカなどで株主―――年金基金や機関投資家の怒りが爆発しました。その結果、企業の所有者(株主)の立場から経営者を規律づける、監督するための一連の仕組みが生まれてきました。これがコーポレート・ガバナンスとよばれるもので、証券取引所の上場基準などで具体的な基準が設けられてきたのです。

ところが日本のガバナンス論では、経営者が企業の支配、管理を徹底することがガバナンスといわれています。競争力の強化や不祥事の防止のための手段としてのコーポレート・ガバナンス論です。この背景には、企業は株主のものではないという日本の考え方があろうかと思います。あるいは、持ち合いなどにより、物言う株主がいなかったこともあると思います。日本でガバナンスを主張したのはむしろ経営者や学者でした。株主不在で、経営者主体というのが、日本のコーポレート・ガバナンス論の非常に大きな特徴ではないかと思います。

また、日本の制度では、監査役設置会社と委員会等設置会社の両方が選択制で認められています。これについて、選択の幅が広がっていいという意見と、ガバナンス強化のためには委員会等設置会社に一本化すべきとの意見があります。社外取締役の制度を設けながら、独立性の規定がないのも日本の特徴です。だから、親会社の取締役が子会社の社外取締役になるというケースも結構あります。監査役についても、有効に機能しているかどうか、疑問に思っています。任期の制限や社内出身監査役の禁止が必要だと考えています。

東証では2004年3月にガバナンス原則をつくりましたが、非常に抽象的で、もっと具体的なものをつくる必要があると思います。コーポレート・ガバナンスの充実には、東証に期待していますが、そのためにはまず東証自身のガバナンスをきっちりすることが必要ではないかという気がします。東証自身のガバナンスがしっかりしてないがために、ガバナンスについての取り組みが、おくれているのではないでしょうか。東証がほんとうにやる気がない、やれないのであれば、最後は行政にやってもらうしかないと思います。

コーポレート・ガバナンスについて基準を設けることは、その基準を強制するということではありません。ロンドン証券取引所では基準を設け、それに従わない場合には釈明を求める、「応諾か釈明」の原則でやっています。これは個別企業のガバナンスについて選択の余地を残し、非常に柔軟なやり方だと思います。このようなやり方を日本でも取り入れたらどうかと考えています。

3つ目が、株主・機関投資家のプレッシャーです。先ほど来申し上げているようにコーポレート・ガバナンスの充実は、経営者の自助努力が基本ですが、コーポレート・ガバナンスは、どこの国でも経営者にとって非常に嫌なことです。特に独立性のある社外取締役を入れるということはよそ者に権限を与えることになり、経営者はほとんどの方が嫌がると思います。だから外からプレッシャーを与えて導入を促進するしかありません。その場合、株主・機関投資家の圧力が一番重要ではないかと思います。日本の株価がこんなに下がったのはプレッシャーをかけてこなかった株主・機関投資家の責任も多いと思うのです。

昨今、運用機関の活動は充実、強化されつつあります。ただ運用機関によって非常に格差が大きいのが特徴です。これは日本の運用機関はまだまだ独立性に乏しいところが少なくなく、グループ企業やお客さんに対してノーと言えないというしがらみを抱えているからです。そういう点では公的年金などの対応に期待していますが、まだまだこれからだと思います。

今日は企業の方もいらっしゃるということなので、私の話を聞いて違和感を覚えた方、また面白くないと思っている方も多いのではないかと思います。ただ、年金と企業は先ほど申し上げたように運命共同体です。企業に、しっかりと業績を上げてほしい、株価を上げてほしいため、私どもは物を言っているのです。企業に勤める方、経営者の方も、みんな年金加入者であり、いずれ年金受給者になられる。年金受給者になって、ちゃんと年金をもらえるかどうかは、まさしく企業の活動、企業の業績、株価、こういったものに影響を受けるので、企業の皆様には経営の立場ばかりでなく、1人の年金加入者、受給者の立場に立って、この問題を考えていただきたいと思います。

質疑応答

モデレータ:

今年は敵対的買収がいろいろ問題になりましたが、議論をされる方は、学者、経営者、弁護士の方々であって、株主とか機関投資家の方々の考え方というのがあまり見えてきませんでした。その中で矢野さんが、孤軍奮闘されているイメージを持っております。やはりパッシブの運用が増えてきているため、売り抜くことができない。そうなってくると、やはりボイスで経営にいろいろ注文をつけていく、株主総会で議決権を行使していくことになるのだと思います。ただ、個々の企業に直接経営介入はなかなかできないと思うので、非常にイクスプリシットなルールをつくり、その後、公表していくのが、非常に重要な考え方ではないかと思いました。このルールを見させていただくと、政府がつくった指針よりも、やっぱり厳しいという印象を私は持ちました。多分、ポイズンピルなども、提案でご反対されたことがあるのではないのかという感じがしますが、もしあれば、お教えいただきたいと思います。
また、来年の株主総会に向けて、企業側はこういった敵対的買収防衛策を導入するのは難しいと考え正攻法で企業価値の最大化を高める方向に向かうのか、それとも、どういうものだったら反対されるのかということが大体わかったので、反対されないようなものを導入するという企業が相当増えてきて、なおかつ、それを認めるという流れができるのか、何かご示唆あればお教えいただければありがたいです。

A:

私どものいろいろな基準が厳しいというご指摘ですが、これは皆さんがどこかの企業の株主になり、それによって生活が影響されると考えたら、結論的には私どもがつくった基準よりももっと厳しくなるのではないでしょうか。私どもの基準は、株主としては当然のことではないかという気がします。
ポイズンピルの導入については、反対した数社というのは、買収提案があった場合に、それに対して防衛策を発動するのか、解除するのか、そういった判断をする際の仕組みとしての委員会に独立性というのがなかった、あるいは委員会はつくっても最終判断は取締役会で決めるといったケースです。つまり、独立性というのが、我々としては信頼できなかったということで反対したというケースです。
それから、来年以降どうなるかということですけれども、私自身、はっきり言えませんが、裁判になっても負けないようなしっかりしたライツプランの導入をされるといったところも出てくると思うのです。それから、ガバナンスをしっかりし、株主価値重視の経営を実践されるといったところももちろん出てくると思います。ただ、持ち合いに走るとか、後ろ向きの対応をされるところも結構あるのかなと思います。今や日本の企業だけに限らず役所でもどこの世界でも同じですけれども、時代の変わり目に来ていると思いますので、当面は後ろ向き、前向きの動きとかいろいろ出てきて混乱はするでしょうけど、3年、5年ぐらいで見ると、落ちつくところへ落ちつくのかなというのが、私が感じているところです。

Q:

最近、ワールドとか、ポッカとか、MBOを通じて非上場化するような動きがあるのですが、これはコーポレート・ガバナンスの点とか、継続性の点とかで、どういうふうにお考えですか。

A:

上場するメリットがなくなれば上場を廃止するというのも、1つの選択肢ですから、それはそれで結構ですが、株主としてはTOB価格が公正なのか疑問があります。マーケットで形成された価格であれば納得できますが、政策的な価格で疑問があっても、少数株主はTOBに応じざるを得ないからです。
また、上場していることで市場の規律にさらされ、経営に緊張感をもたらすというメリットもあります。上場のプラス面、マイナス面をしっかり判断して、上場廃止を決断されるということであれば、結構なことだと思います。

Q:

日本のコーポレート・ガバナンスで社外取締役がすごく重要な意味を持っているというのは、そのとおりだと思います。しかし、すべての企業が社外取締役を必要ではない、あるいは、社外取締役の効果がある企業と、効果があまりない企業があると思います。企業の特性として社外取締役を必要としないこともあるのではないでしょうか。そのため、ケース・バイ・ケースという議論があり得ると思うのですが、それに対して連合会としてはどういう考え方をしているのでしょうか。
もう1つ、連合会の議決権行使で、さらに一歩進めると、株主提案というアイデアがあり得ると思うのですが、その方向については今後どういう方針を考えられているのでしょうか。

A:

まず社外取締役ですが、これは、私どもは、すべての企業にとって必要、すべての企業に置いてほしいという考え方です。社外取締役をおかずに業績の良いトヨタ、キヤノンについても、社外取締役を置いてほしいとことについては、全く変わりありません。現在の経営者が非常にしっかりしており、業績もいいし非の打ちどころがないという会社でも、そのような経営者もいつかは引退されます。社外取締役を置くというのは、いざとなったときの保険としても大事な存在ではないでしょうか。いざとなって業績が悪くなったときに、できるだけ早くチェックをし、軌道修正する役割が社外取締役にあると思います。そのため、今、業績がいい会社であっても、社外取締役を置いてほしいと思います。
2つ目の株主提案ですが、将来の課題としては念頭に置いております。ただ、今はまだ私どもの体制も非常に弱体であり、体制整備をしっかり行い、人も育てていかなくてはいけない、そのような能力もつけていかなくてはいけません。現状はほど遠い状況のため、今直ちに株主提案をすることは考えていません。ただ、株主提案も昨今は非常にしっかりした株主提案も出てくるようになりましたし、株主提案については、中身次第で、私どもとしても賛成しているものもあります。

モデレータ:

年金基金の役割は、アメリカでは70年代後半から始まり、特に90年代に非常に強まりました。日本もアメリカと同じような形になっていくのかどうかが、これからの日本のコーポレート・ガバナンスの鍵を握るところだと思います。年金基金の役割が強くなるという大きな流れを考えると、高齢化という問題があり、高齢化が進めばリターンを要求する動きも非常に強くなると思います。そうなると年金基金自体も変わっていかなくてはいけないと思いますが、やはりそういう流れになっていくのでしょうか。新たなガバナンスの規律づけの主体がなかなか見つからない中で、こういうトランジションの期間がどのぐらい続いていくのかについて、日本のガバナンスについて相当危惧を持っている部分があります。高齢化という1つの大きな流れという中で、どのぐらい期待できるものなのかについて、何かお考えがあれば。

A:

アメリカでは年金基金の活動が非常に盛んですが、公的な色彩が強いところが中心で、個別の会社の年金基金はほとんどやっていません。個別の企業は、いろいろしがらみがありますから、お得意さんの企業に反対したりすることは現実問題としてはなかなかできないわけです。これは日本でも同様だと思います。だから日本で期待ができるのは、やはり公的な色彩が強い年金だと思いますし、もっと頑張ってほしいという気がします。
もう1つ、可能性として考えられるのは投資信託です。昨今は、若干増えつつありますが、日本の株式投信には、いろいろ問題があり、全体から見るとまだ微々たるものです。ただ、投信が大きくなれば、投信を運用している運用機関が投信の購入者の立場に立って議決権行使などをもっと活発に行う可能性はあるのかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。