日本製アニメとマンガの国際戦略

開催日 2004年11月16日
スピーカー 久保 雅一 (小学館キャラクター事業センター センター長)
モデレータ 戸矢 理衣奈 (RIETIリサーチアソシエート)

議事録

本日は、日本のアニメーションとマンガを巡る国内の問題と海外の事例、また、「コンテンツビジネス」の今後の課題をご紹介させていただきます。

国内外で高い人気の日本のテレビアニメ

『ポケットモンスター(ポケモン)』は67カ国と2地域で放映されています。特に米国で大ヒットするなど、米国色が強いため中東地域には進出していませんが、日本のキャラクターとしてはトップクラスの世界的展開力を持っています。また、韓国のコンテンツ振興院によると、世界で総額2兆円規模といわれるテレビ業界における日本のアニメのシェアは65%です。このことからも、日本のアニメが「クール・ジャパン」の牽引車になっていることが分かります。

日本のテレビアニメは、『鉄腕アトム』など4番組がスタートした1963年に夜明けを迎えたといわれています。日本のテレビアニメは、1991年にテレビ東京が作ったメガトンネットワークを契機にその数を増やし、現在放映されている番組の数は週87本にも及びます。

テレビアニメは、全体の87番組のうち半数を超える32番組がテレビ東京により制作されていますが、NHK、フジテレビ、テレビ朝日、日本テレビ、ANIMAX(ケーブルテレビ)など各局もアニメ番組を放送しています。番組変更期の4月には50番組が入れ替わったりタイトルを変えたりしていることからも、アニメ業界は競争の激しい業界であることが伺えます。

日本でこれだけの数の番組が作られ、さらに日本のテレビアニメが海外で受け入れられている背景には、一般的に、(1)ファンの心をつかむキャラクター、(2)意外性の高いストーリー、(3)魅力的な世界観、(4)玩具メーカーやゲームメーカーの商品との高い親和性、(5)海外展開のしやすさ、(6)幅広い層からの支持、(7)次々と誕生する新しい番組、の7つの要因があるといわれています。

アニメとコミック

日本のアニメがこのような特徴を持つ理由としては、87番組のうち50番組がそうであるように、原作がコミック(マンガ)であることが挙げられます。さらに、視聴率が最も高い15番組のうち14番組はコミックを原作にしたものです。このように、日本のテレビアニメは質・量ともにコミックにより支えられています。

日本のコミック文化は、『週刊少年サンデー』と『週刊少年マガジン』が創刊された1959年以降急激に拡大し始め、その4年後にテレビアニメの放送がスタートしています。現在は約7万タイトルのコミック作品があり、毎月1億2000万部ものコミック雑誌や単行本が発売されています。廉価版コミックはいまだ好調ですが、業界全体としてはやや右肩下がりになっています。特に雑誌単独では8年連続で売上減と、相当厳しい状況になってきています。部数の削減原因としては、携帯電話が普及したことや、駅のゴミ箱撤廃で雑誌が捨てられなくなり回し読みされるようになったこと、などが挙げられます。

マンガ雑誌に連載されているコミックは、たとえば次のような手順でテレビアニメとなります。
1)雑誌の連載がスタートする。
2)連載を2カ月経過し約8回掲載されたところで、それまでの内容をまとめて単行本のコミックスとして発売する。
3)このコミックが蓄積され、1年~1年半後にアニメ化する。
人気作品については、連載スタート時から、アニメ化の際にはキャラクターを玩具にしたいとの問い合わせを玩具メーカーから受けることもあります。

テレビアニメで人気が高いものには、次に映画化の話が持ち出されます。昨年の日本映画ベスト10でも、アニメが健闘しています。今年は、現時点では『世界の中心で、愛をさけぶ』が第1位、『ポケモン』が第2位となっていますが、最終的には『ハウルの動く城』が第1位の座を占めるのではないかと見られています。アニメ映画が好調であることに間違いはないでしょう。

アニメを作る際にコミックを原作にする理由には、下記の5点が挙げられます。
1)コミックを原作にすると、魅力のあるキャラクター、ストーリー、世界観が一度に入手できる。小説を原作にするとそのキャラクターや背景、世界観について逐一映像を作っていかなくてはならないため、映像が完成するまでの作業が多い。一方で、コミックを原作にすれば、それらが一度に入手でき、作業の省略化、ひいては経費削減も可能になる。
2)コミックは優れた絵コンテである。絵コンテだけでも芸術的な意味合いが強いが、コミックを原作にすれば絵コンテの代用になるので、制作側には非常に分かりやすい上、スタッフの意思統一も図りやすい。
3)コミックは数百万人の固定ファンを既に獲得しているため、高い視聴率が期待できる。
4)協力する玩具メーカー、ゲームメーカーの商品企画を立案するのも非常に簡単である。通常は番組がスタートしてから商品企画を練るが、コミックであれば放送前にコミックをベースにして商品の企画ができるので、番組放送期間中に商品を販売することができる。
5)コミックは長いものでは100巻を超えるため、複数年にわたり放送できる。

テレビアニメの問題

テレビアニメは下記のような課題を抱えています。
1)視聴率の全体的な低下。特に少子化を背景にテレビアニメの視聴率の低下が顕著である。子供たちはインターネットや携帯電話に熱中し、また、塾などで忙しく、テレビを見る機会が減っている。視聴率を改善する策は今のところ見出せていない。
2)インターネットによるテレビ番組の視聴がいまだ実現していない。その主な原因としては、(1)実演家との権利調整や原作者との権利調整が進まないこと、(2)パソコンのファイアーウォールが強固になってきたため、高画質の映像をストリーミングすることが困難であることが挙げられる。現状を打破するにはデジタル面での進化が求められる。

国内外のコンテンツ産業

現在の日本のコンテンツ産業全体の規模は14.7兆円といわれています。業界全体としては決して伸びているわけではありませんが、分野別に一番の伸びを見せているのは、2001年度に850億円レベルとなった「着メロ・着うた」で、2004年度には1000億を超える勢いです。一方、落ち込んでいるのはビデオセールスで、ビデオからDVDへの移行が進展するにつれて、VHSのビデオパッケージは2001年度の2500億円から2004年度には1127億円に大幅に減少しています。

世界規模で約124兆円のコンテンツビジネスで日本は10.3%のシェアを有しています。最大市場である北米の54.5兆円に比べれば日本の規模は小さいですが、アジアでは中国と韓国を抑え首位を維持しています。しかし、成長率については、中国と韓国は日本を大きく凌駕し、特に現在の中国の成長率は20%ともいわれています。この伸び率が続けば、10年も経たないうちに日本は中国に抜かれることになるでしょう。プライスウォーターハウスクーパースによれば、コンテンツ産業全体は右肩上がりで、中でもインターネットや携帯電話などの新メディアが最も高い伸び率を示しています。アジアの高い成長率を考慮すれば、今後コンテンツ産業はすさまじい勢いで伸びていくでしょう。

海外における日本のテレビアニメ放送

日本貿易振興機構(JETRO)の報告によれば、欧州で日本のアニメ放送が多い国は、1位がドイツ、2位はベルギーとなっています。放送局別には、ドイツのRTL2社が1位で、週換算で43本のアニメが放映され、世界第1位のアニメ放送局となっています。第2位はイタリアのメディアセットという放送局です。国別で第2位のベルギーは、2言語で別々に放送を行っているために統計上の放送時間は多くなっていますが、アニメ大国というわけではありません。

北米では、土曜の朝は子供番組のゴールデンタイムとなっています。土曜に放送されるアニメの視聴率は、『ポケモン』と『遊戯王』が群を抜いていますが、これに続く番組が出てこないことが問題となっています。また、カートゥーンネットワークは、土曜の朝は日本のアニメを放送していませんが、平日の夕方と夜には9~14歳を対象として『ドラゴンボール』、『ガンダム』などの番組を放送しています。また、殺人シーンがあるためセンサーシップに抵触する『犬夜叉』、『名探偵コナン(ケース・クローズド)』、『ルパン三世』などは深夜帯に放送されています。『犬夜叉』では神社の鳥居が映されるため韓国では宗教的に放送できなくなるなど、放送時間や放送の有無は各国のセンサーシップに大きく影響されます。

日本で作られた映画で、米国での公開作品のベスト10に入っているものには、『リング』、『呪怨』など日本で公開されたもののリメーク作品や『千と千尋の神隠し(スピリティッド・アウェイ)』がありますが、いずれも数字的には『ポケモン1、2』に追いつかず、興行的に大成功とは言えません。『ポケモン』は、ゲーム、カードゲーム、アニメの3本柱で展開しており、世界におけるゲーム販売数は1億3000万本、カードゲームの出荷枚数は140億枚と、アニメの放送と合わせて非常に好調な状況が続いています。

アニメ・コミックの海外展開のための課題

アニメやコミックを海外展開する上での今後の課題には、下記の2点が挙げられます。
1)日本では販売数の多いコミックをベースにアニメを制作するためコミックとアニメの親和性が非常に高いが、海外ではこのような連携がうまくできない。ドイツは日本アニメの最大の輸入国であるにも関わらず、コミック市場は最小である。フランスではコミック市場が既に形成されていたためアニメに対する親和性は高いが、クォータ制(自国産業保護政策)により日本アニメの輸入は少ない。アジアでは、コミックとテレビアニメの親和性を高めようとすると海賊版の問題が発生し、コントロールが難しい。
2)欧州では出版社とテレビ局の関係が悪い。キャラクターの名前を決めるだけでも論争が起きるなど、一筋縄ではいかない状況である。

センサーシップについては国により状況はさまざまですが、特に厳しい中国の場合、北京地域で日本のアニメを放送するには6人の承認が必要となっています。しかも、小泉首相の靖国参拝を理由として、今年秋に放送予定の番組はいまだに実現されていません。中国への参入は困難な状況が続いています。

エンターテイメントコンテンツに関する問題点

私は以前、日本経済団体連合会(経団連)に対して、エンターテイメントコンテンツに関する問題を5つ提起しました。経団連のエンターテイメント産業部会にはソフトウェア(コンテンツ制作企業)とハードウェア(家電メーカー)の各企業が参加していますが、両者の間には大きな溝があり、議論があまり進展しない状況にあります。たとえば、ソニーは11月に1TByteの映像録画が可能な新しいバイオを発売します。これにより、TVから派生するDVDが売れなくなってしまうためソフトウェア側からは不満が出ていますが、ハードウェア側はそれを聞き入れない、というような問題が発生しています。これに関連する問題点は下記の5つに整理できます。

1)ハイビジョン放送が始まると多チャンネルへの対応や精密な映像が必要となり、アニメの制作費は約130%上昇する。しかし、番組スポンサー側はハイビジョンだからといって提供金額を上げるわけではないので、制作費の面でプロダクションに大きな圧力が加わることになる。対策としては、海外企業との共同制作、ファンドを利用したビジネスモデルの検討が必要になる。ファンドについては現在衆議院で審議している信託業法が改正されれば、来年からは映画ファンドが実際に動き出すと思う。
2)台湾では日本番組の海賊版が明らかに減少し、代わりに『冬のソナタ』の人気が大きく高まっている。つまり、日本のテレビドラマのライセンス版は台湾や香港では流通していないので、日本番組の海賊版を駆逐すればするほど、韓国ドラマの販売を促進することになる。このままではアジア中が韓国ドラマ一色になってしまい、対策が必要である。
3)オリンピックを契機に、DVDやハードディスクレコーダーなどのデジタル録画機の普及が大きく進んだが、ユーザーのほとんどは再生時にコマーシャルをスキップしている。コマーシャルに依存したテレビのビジネスモデルが大きく揺らいでいる。さらに、デジタル録画機の販売数増によりテレビの視聴率が低下している。
4)上記のようなデジタル録画機に大量の録画が行われると、DVD販売などのビジネスが非常に難しくなるので、この点でも対策が必要である。既に、家庭用録画機やDVDの売上の一部を保証金として私的録画保証金管理協会がプールし、その金額を権利関係者に分配する仕組みが政令で定められている。しかし、この対策はまだ不十分なので改善が必要である。
5)クリエーターを尊敬するモラルがあれば、人々は海賊版ではなく正規版を買うだろう。法で縛るのみならず、このようなモラルを確立・向上させることが必要である。デジタルモラルを作って、協力を求めていきたい。

質疑応答

Q:

(1)小学館のマンガ雑誌のなかで、アニメになる割合はどれくらいなのでしょうか。
(2)昨今、コンテンツ企業がメディアを持つ企業に買収されたり、そのような企業から力を借りるケースが多く、一種の垂直統合が起きていると思います。経済産業省などではコンテンツ企業の経営改善のために対策を講じていると思いますが、結果的にはメディアによってコンテンツ企業が吸い取られているように思います。メディア側からは、どのようにお考えでしょうか。

A:

(1)小学館の100万部を超えるマンガ雑誌3誌から映像化されている作品は、派生的なものまで含めると8番組あります。マンガ雑誌に各20本、計60本あるうちの8本、つまりは10%強がアニメ化されているということですが、部数の少ない雑誌では映像化の可能性は低まります。映像化の割合は母体となる雑誌の部数に大きく影響されます。
(2)確かに、テレビ会社がプロダクション会社に出資し、資金がメディアからプロダクションに流れる傾向があります。また、プロダクション会社内にはテレビ会社出身の役員もいて、経営に関してもメディア側の力が大きく作用するのも事実です。私自身はプロダクションの役員も兼任しているのでメディア側、プロダクション側双方の立場を理解できます。第三者割り当てがテレビ局になりがちという状況になっていますが、メディア側に出資してもらえばプロダクション側の厳しい財務状況を理解してもらえるというメリットもあるので、私は、メディアによる株の保有が必ずしも問題であるとは考えていません。しかし、アニメプロダクションの従業員のなかには年収150万円というレベルの人たちもいるので、彼らが創作活動に見合った収入を得るためには現状のビジネスモデルだけでは不十分です。垂直統合をしながらも今後は横に市場を広げていくのではないでしょうか。そういう意味では、信託業法や下請法の改正など、法制面でのサポートが整いつつあるのではないかと思います。

Q:

年収150万の人たちが300万~400万の年収を得た場合には、アニメーションの制作は成り立たなくなるのでしょうか。従業員の年収が上がった場合、現状のアニメ制作の何割くらいが成り立ち、何割くらいは成り立たなくなるのでしょうか。

A:

成り立つ場合もあると思います。現在プロダクションに回っている資金が倍になれば、年収も事実上は倍になってもアニメーションの制作は成り立ちます。しかし日本では、中間的に抜かれるディストリビューションのコストが高すぎるというのが大きな問題となっており、それは変わっていく必要があります。日本には440社のアニメプロダクションがありますが、株式公開しているのは数社で、各社それぞれに状況が異なるので、何割くらいというご質問に答えるのは困難です。個人的には少なくとも日本動画協会に加盟している企業については、すべて改善できるようにしたいとは思います。しかし、協会の会費すら払えないというプロダクションもあるので、そのような企業が協会に入り、協会としてのプレッシャーグループになって、全体の8割くらいを改善していきたいと思います。

Q:

(1)『週刊少年サンデー』などのマンガ雑誌では、マンガの連載の当初からアニメ化を考えて連載を企画しているのでしょうか。
(2)アニメ化において、著作権者と衝突する可能性があります。アニメの質に関する不満や行き違いが生じた場合、どういう対策をしているのでしょうか。最初から衝突しないよう態勢を組んでおられるのでしょうか。

A:

(1)『週刊少年サンデー』に限らず、小学館全体にいえることですが、作家によっては、マンガ連載当初からアニメ化を意識して作る場合もあります。フジテレビで放送している『金色のガッシュベル!!』は、明らかに当初からアニメ化を意識して作られたものでしょう。しかし、そうではない作品も多くあります。
(2)ケースバイケースです。たとえば、『MONSTER』という深夜のアニメでは、ニーナという女の子の歩き方について、原作には「カツカツ」と書いてあるのに、映像では「ちゃらちゃら」と歩いていたので、原作者の浦沢直樹先生からお叱りを受けました。このようなケースが多いと思いますが、作家からクレームがあっても説得して納得していただく場合もあります。従って、作業量は非常に多くなりますが、小学館では日常的に対応しています。また、原作者の間で権利意識が高まっているので、漫画家と打ち合わせを行う前に漫画家の顧問弁護士と打ち合わせをするケースもできています。

Q(モデレータ):

実際に大きなトラブルになった例はあるのでしょうか。

A:

米国でアニメ化するときに吹き替えをしますが、その際、声優の声のイメージが合っているかどうかのチェックを行うなどしてトラブルを防ごうとしています。しかし、米国で作った玩具がイメージとは違うというケースもあり、実際にトラブルになった例も多くあります。

コメント:

日本では原作者まで戻って権利の調整をしますが、ハリウッドでは映画会社が大きな権利を持つことがあります。『リング』や『呪怨』などのリメーク作品もありますが、日本側が興行成績に見合った報酬を得ているかどうかは疑問です。私が抱えている映画制作の契約でも、ハリウッドでは、ネットパーティシペーションのような成功報酬が発生しないケースが多いです。私がしている仕事においては、なるべく共同制作になるように話を持っていき、ハリウッドのスタジオとの契約ではグロスパーティシペーションをもらうという目標をたてています。日本の市場を利用して映画を公開する際には、日本での興行成績の少なくとも10%の利益を主張しています。

Q:

現在は消費のワンクールが非常に早く、作ってすぐに消えてしまい記憶に残らないアニメも多いと思います。せめて金銭的にまたは名誉で報われれば良いのですが、現状、この業界は年収150万円のアニメーターにより支えられています。アニメ業界ではまだ明るい要素はごく一部で、全体的に考えたときには決して明るい業界ではないと考えますが、これについてどう思われますか。

A:

年収150万の人たちは、毎週オンエアされる作品に自分の名前がクレジットされることにこだわりを持っているから続けられるようです。監督たちによれば、ただ報酬を上げればよいということだけではなく、良いものを作るというモチベーションが一番重要だとのことです。日本のアニメの世界的なシェアが65%である背景には、このようなモチベーションがあるのだと思います。現在アニメに色を塗る作業のほとんどをアウトソーシングしていますが、日本国内でそのような仕事をしている人たちには在宅勤務者が多く、車椅子の方も多くいらっしゃいます。彼らの仕事をなくしてはならないと思います。明るい要素ばかりがあるとは言えませんが、ハリウッドから直接オーダーが来たり、制作費が山のようにあるような仕事は増えつつあるので、それによって資金が回る時代にはなっていくのではないでしょうか。法律も改正されつつあり、すべてをクリエーターに還元しようという方向に向かって政府が動いているので、私は未来がそこまで暗いとは考えていません。

Q:

ディストリビューションのシステムが高価なのが日本の問題だとおっしゃいましたが、それを改善する方法は何でしょうか。

A:

日本の映画業界は2030億円くらいの規模ですが、これはハリウッドの5分の1から10分の1です。日本では映画会社が配給手数料を40%前後とっています。しかも、使った宣伝費に興行成績が見合わないと、宣伝費すらも追徴されることがあります。日本の映画会社はノンリスクで仕事をしている面もあり、その分、ディストリビューションコストは他国に比べて間違いなく大きいでしょう。映画業界は寡占状態ともいえるので公正取引委員会も目を光らせており、今後問題が改善されていくのではないかと思います。1800円という世界的に高いレベルの入場料も、改善されるべきです。本来は外資企業が参入してきたときに改善されるべきでしたが、日本ではいまだに改善されていません。抜本的に改善しないと効果はないと思います。テレビに関しても、日本で一番給料が高いのは認下事業の民放という実態に問題があると思います。また、ファイアーウォールの問題などが解決されれば、インターネットの普及に伴って、通信がひとつのメディアになるという時代が来るでしょう。そうすれば、コンテンツを作る側にとっては選択肢が増えて収入の増加につながるのではないかと思います。

Q:

テレビでアニメを放送するときには広告代理店が関わっていると思いますが、それについて何かお考えがあれば伺いたいと思います。

A:

広告代理店の関わりは、放送局によってそれぞれ異なります。代理店がほとんど関与しないケースや、代理店が全部資金を集めるケースなどさまざまですが、アニメ番組の過半数を放送しているテレビ東京は代理店がほぼすべての資金を集めているため、ゴールデン番組以外は代理店サイドが番組に対し大きな発言力を持つという状況が長らく続いています。放送局から出る制作費は実際に必要な制作費の3分の1から4分の1の額なので、残りの制作費を埋めるためにはプロダクションにとっても代理店が重要な要素となります。代理店が利益を要求するのも理解できなくはありません。アニメに関しては、原作者である漫画家を代表する出版社、プロダクション、および放送局などのメディアの3者が利益をそれぞれ3等分する方法が続いていることもあり、プロダクションに回る金が少なくなっているのだと思います。

Q:

ハリウッドと契約するときに日本の著作権との絡みで見過ごしていたことや、後から気づいた問題点はありましたか。

A:

ハリウッドと契約するときに注意しなくてはいけないのは、下記の3点だと思います。
1)打ち合わせ内容を記録したディールメモ(議事録)のやりとりに注意すること。米国では訴訟問題になった場合にこれが契約書の代わりとなる。また、打ち合わせ時には通訳を介し、時間をとって内容を理解し、言葉の違いによるミスコミュニケーションを防ぐ。
2)海外でキャラクターを展開するとさまざまなコストがかかるため、日本への送金に当たってはそのコストが差し引かれている。米国のスタジオはヒットの兆しが見られると急激に宣伝費を増やし、契約上の金額を超える明細が来ることもある。また、出張費やコピー費などの明細が本当に正しいのかをチェックする必要があるため、監査をしたこともある。コストのチェックは重要である。
3)米国では裁判で負けると、その後仕事ができなくなるが、弁護料は尋常ではない。世界規模で仕事をするためにはニューヨークの弁護士を雇わなくてはならないが、ニューヨークの弁護料は非常に高く、あるキャラクターの場合、年間5億円のリーガルコストを支払っていた。これが適正な価格かどうかは不明だが、裁判で負けないようにすることは重要である。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。